前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

001:旅立ち[前編]

 港町アルベルタ。ルーンミッドガッツ王国の最南端に位置するその街は
様々な交易品が揃う交易の街である。ルーンミッドガッツ王国の首都プロン
テラの南東に位置する衛星都市イズルードとの定期船も出ており、まさに他
国と王国を繋ぐ中継地として機能していた。
 そのアルベルタの中央に大きな屋敷が立っていた。アルベルタの豪商の
一人であり、アルベルタにある商人ギルドの評議員をつとめるオールド=グ
ロリアスの屋敷である。といっても彼は現場好きな性格で、今日もまた交易
船に乗って船の上であるため不在である。その屋敷の2階の廊下を歩いて
いた女がある部屋の前で立ち止まり、扉をノックした。
「こら〜!フィリ〜!今日は彼が来る日でしょ!港に迎えに行くわよ!」
 反応無し。女は額に青筋を浮かべると扉のノブに手をかけ、勢いよく開い
た。そこで女が見たのはベッドの上で毛布にくるまっている少女の姿だった。
「何やってんのよ…あんたは」
 毛布にくるまっているフィリと呼ばれた少女が一言。
「私行かない」
「はぁ?彼が来るのよ?会いたくないの?」
「ミリアお姉ちゃん…だって恥ずかしいし…」
 頬を赤く染めて毛布の中でもじもじする妹を見た女…ミリアがにこりと笑み
を浮かべながら、手刀を降りあげた。

 ずめし

 ◆

 オールド=グロリアスの3人の娘の末っ子であるティアは2階から物凄い音
がしたのを耳にした後、1番上の姉のミリアが2番目の姉のフィリを肩にかつ
いで降りてきたのを見て冷や汗を流した。
「えーと…フィリお姉ちゃん?」
 フィリは白目をむいて完全に気絶している。完全にビビッたティアが恐る恐
るミリアの方を見た。
「ミ…ミリアお姉ちゃん…?」
「大丈夫よ。ちょっと拳で一方的に語り合っただけ」
 ミリアは気絶したフィリを床に転がすと、朝のコーヒーを優雅に飲みながら
そう答えた。
「そ、そうなんだ。あは、あはははは…」
 ティアは内心「ひぃぃぃぃ」という凄まじい恐怖と戦いながら朝食をテーブル
に並べていった。
 グロリアス家には母はいない。ティアが生まれた直後に他界したらしく、
ティアは母親というものを知らない。代わりに母親代わりになったのが長女
のミリアである。だからフィリもティアも頭が上がらないのだ。しかもタチの悪
い(?)にミリアは素手でその辺のクマを吹き飛ばすぐらい強い。以前、フィリ
とティアが結託してミリアに対抗したことがあったが、それはもう凄い目に
あった。
「ぬああああああああ!」
 ティアがそんな事を考えているとフィリが復活した。
「お姉ちゃん!寝てる人間に部屋の壁を巧みに縦横無尽に使ったフライング
クロスチョップはないんじゃない!?」
 ミリアがちょいちょいと時計を指差した。
「早く準備しなさい。彼が港に着いちゃうわよ」
「う…」
 彼、その一言でフィリの頬が赤く染まった。フィリは大人しくテーブルにつく
と朝食のトーストに手をつけた。

 ◆

 レイ=フレジッドは船の手すりに寄りかかりながら昔のことを思い出してい
た。交易船で出会った少女のこと、その少女の家で一ヶ月滞在したこと、そ
して…。たまに手紙のやり取りはしているが、顔を合わせたのは8年前から1
度もない。
「あいつ元気にしてっかな〜…」
 随分長いこと旅をしているが、旅の成果はほとんど出てないに等しい。オ
ヤジとは2年前に別行動をとるようになった。手分けしたほうが効率はいいだ
ろうし、一応一人前として認められたということだろう。

 ズゥン!!

「うぉ!何だ!?」
 物思いにふけっていたレイは突然、船が大揺れしたためバランスを崩して
こけそうになった。甲板の方で船員達の声が響いている。レイは耳をすませ
てその声を聞き取った。
「海賊だぁぁぁぁぁぁ!」
「うああああああ!乗り込んできたぞ!ぎゃあああああ」
「乗客だけは絶対守れー!!」
 レイはがっくしとうなだれた。
「まじかよ…」
 レイの前にばたばたという足音を鳴らしながら2人の海賊がやってきた。
「おい!兄ちゃん!金目の物だしな!そしたら海に投げ捨てるだけで許して
やるぜwwwww」
「うはwwwwwwおkwwwwwwっうぇ」
 レイはやれやれと首を振った後、傍に立てかけてあった大型の弓、アーバ
レストを手にとった。
「ま、船上生活には飽き飽きしてたんだ。暇潰しには持ってこいだな」
「てめぇ!やる気かwwww」
「WWWWWWWWWWWWWW」
 海賊2人がそれぞれ手に持っている曲刀、シミターを構えた。
「死ねやああああwwwwwww」
 一人目の海賊がシミターを振り回しながら襲いかかってきた。
「遅ぇよ」

 ガキィ!

 レイはアーバレストでシミターを受け止めるとそのまま跳びあがり、海賊の
横顔を蹴り飛ばした。その勢いで一人目の海賊が海へと落ちていった。
「兄貴海に落ちてるしwwwww」
 もう一人の海賊がシミターを振り回しながらレイに襲いかかった。すると突
然、上空から弾丸のように何かが落ちてきて海賊の脳天に炸裂した。
「ぐあwwwwwwwww」
 もう一人の海賊はそのまま昏倒した。レイはその海賊の身体を無造作に
掴み上げるとポイッと海へ投げ捨てた。
「よし、ガイストよくやったな。こんな連中に矢を撃つのは矢が勿体無いしな」
 バサバサっという羽音とともにレイの肩に鷹がとまった。先ほど海賊の脳
天に落ちたのはこの鷹のようだ。レイはガイストというの頭をなでながら、
アーバレストを握り締めた。
「んじゃぁ、海賊掃除に向かうとするか!」

 ◆

 フィリ達が港に到着すると、港は騒然とした騒ぎになっていた。フィリは知り
合いの船員に話しかけた。
「ねぇ、何があったの?」
「おお、フィリちゃんか。何でも今日着く定期船が海賊に襲われたらしいぜ」
「えっ!」
 フィリの顔がさっと青ざめた。はたから見ても可哀想なほど動揺している妹
を見たミリアが険しい表情をして船員に詰め寄った。
「ちょっと、救援とかは出せないの!?」
「無茶言うなよ、相手は武装してる海賊だぜ。冒険者とかならいざ知らず俺
達じゃ殺されにいくようなもんだ」
「じゃあ私たちが行くわよ!船出して!」
「だ…だめだ!あんた達に何かあったらオールドさんにあわす顔がねぇ!」
「ね…ねぇ」
 言い合いをするミリアと船員の間に割って入り、ティアが恐る恐る口を開い
た。
「船ってアレじゃ…」
 ティアは海の方を指差した。皆がそちらを向くと海賊船に押されるような形
で定期船がこちらへと通常では考えられないスピードで向かってきていた。

 ◆

「お前で最後だな」
「くっ…この若造が…っ!!」
 海賊船の舳先でレイはアーバレストに矢をつがえ、サーベルを構えた海賊
の船長風の男にそう言い放った。
「俺が乗り合わせたのが運が悪かったと思って大人しく縄につくか、俺にぼ
てくり倒されるか選ぶこった」
 海賊船長はチラリとレイの背後を見た。死屍累々といった状況で海賊達が
倒されているが、死者は一人もでていない。というか矢をくらっているのは数
人でほとんど蹴り倒されるなり殴り倒されるなりしている。これだけでもレイ
の実力が生半可ではないとわかる。
「くそったれが!これでも海賊の端くれだ!大人しく縄になんぞつけるか
よ!」
「じゃあ覚悟しやが…」

 ドガォン!!

 突然の衝撃とともにレイの矢はあさっての方向へと飛んでいった。
「あ゙ー!」
 矢の無駄消費にレイが嘆いた瞬間、海賊船長が船を飛び降りた。
「おいっ!」
 レイが海に飛び込んだと思った海賊船長はアルベルタの港を走っていた。
先ほどの衝撃は港に船がぶつかったためなのだろう。
「くそが!逃がすかよ!」
 レイはアーバレストを握り締めると船を飛び降り、海賊船長を追いかけ港
を走り始めた。

 ◆

 定期船が港にぶつかったのを見たフィリはいてもたってもいられなくなり、
姉や妹の制止もふりきって船の方へと走り始めた。
「…レイ!」
 船の方から走ってくる人影を見つけたフィリは思わずその名を呟いた。だ
がよく見ると全然違う凄まじい形相のオッサンがこちらに走ってきていた。
「って全然違っ!」
 その男はフィリにサーベルを突きつけると咳き込みながら叫んだ。
「ぐぇっほげるぼふごっはは!お!おい!貴様!人質だ!ごほぐはっぐっ
ほ!」
 なにやら必死なようだがどうも内容がシャレになっていない。
「えーと人質とか興味ないので、あはは…」
 そう言って逃げようとするフィリの腕を男ががしっと掴んだ。
「げほぐっは!逃 が さ ん!ごぼっほ!」
 目がマジなのでフィリの顔が引きつった。そこにもう一人男が現れた。その
男は大型の弓を抱えている。
「おいこら!お前!そんなメチャメチャ咳き込むほど必死に逃げんなっつー
の!」
 フィリの腕を掴んでいた男が左腕でフィリの首を絞め、右手でもったサー
ベルをフィリにつきつけた。
「ぐほ…これが目に入らねぇか!それ以上近づいたらこいつを殺す!」
 目の前につきつけられたサーベルにフィリが青ざめた。ちなみにオッサン
の方は息が整ってきたらしい。
「ちょっと…マジなの!?」
 弓を持った男が素っ頓狂な声をあげた。
「ってお前フィリか!?」
「俺はフィリなんて名前じゃねぇ!」
「オッサンの方じゃねぇ!そっちのつかまってる女!」
 ずびし!と弓を持った男から指差されたフィリが目を驚愕に見開いた。
「もしかして…レイ!?」
 そう答えたフィリにレイが懐かしそうな声をあげた。
「おー久しぶりだな!元気してたか!」
「ていうか助けて〜〜〜〜!!」
「うるせぇ!やかましいこのガキども!いいか若造!お前がそこから一歩で
も近づいたらこの女の…」
 オッサン(忘れられてるかもしれないが一応海賊船長)がそこまで言ったと
ころでレイがオッサンの右腕を矢で撃ち抜いた。
「ぐああっ!」
 激痛に思わずフィリを手放したオッサンがうずくまった。そこに鷹のガイスト
がオッサンの脳天に空中体当たりが炸裂し、オッサンは完全に倒れ付した。
それを見たレイが呆れた声をあげた。
「約束通り一歩も動かなかったけどこれでいいのか?」
「えーと…どうなんだろ」
 フィリはガイストに頭をつつかれてるオッサン(海賊船長)を哀れんだ目つ
きで見た。

 ◆

「レイ君大きくなったわね」
「ミリアさんも随分綺麗になったんじゃないですか?」
「やだもー!大人をからかっちゃダメだからね〜」
 港での騒ぎが一段落した後、アルベルタの港沿いにある喫茶店に入ったレ
イ、フィリ、ミリア、ティアの4人は8年ぶりに挨拶をかわした。ティアは鷹のガ
イストが気に入ったのか自分の膝にガイストを乗せて頭を撫でており、フィリ
は何故か機嫌悪そうに店の窓の外を見ながらブツブツ呟いていた。
「でもビックリしたわ、海賊に船が襲われたって聞いたときにはさすがの私も
動揺したわ」
「矢を8本も使わさせられましたよ…」
 ガイストを撫でていたティアが驚愕の表情でレイを見た。
「8本って、海賊は60人以上いたって聞きましたけど!?」
「大体蹴り倒して海に落としたりしたさ」
「蹴り倒したって…すご〜」
 ミリアが感心したように言った。
「8年前と比べて随分強くなったのね」
「ええ、オヤジと一緒に世界中を旅すれば嫌でも強くなりますよ。というか強
くならないと死にます」
 レイの父は一振りの剣だけで魔物の王たる魔王にケンカを売るような人物
なのだ。別行動をする3ヶ月前など魔王の一人と言われる巨大虎と死闘を繰
り広げていた。こんな旅に付き合っていたら嫌でも強くなる。
 と、そこでミリアが機嫌悪そうに店の窓の外を見ていたフィリの声をかけ
た。
「あんたねぇ、機嫌悪くなるのはわかるけど、何か話しなさいよ」
「って何で機嫌悪いんだよ」
 レイの突っ込みにフィリがうつむいた。
「だって…」
 フィリは2週間前にレイがアルベルタに滞在するという手紙を送ってきたと
きには飛び上がらんばかりに喜んだのだ。2週間もの間、あんな感じやこん
な感じの感動の再会シーンとかを思い浮かべていたのだが。
「再会した状況がアレじゃなんか悲しすぎ…」
 フィリはテーブルにがっくりとつっぷした。自分が淡い恋心を抱いている相
手との再会が見知らぬオッサンに人質にされた状況というのははっきりいっ
て最悪である。
「お、お姉ちゃん!ある意味レアな再会だったってことで!」
 ティアがそうフォローを入れるが全くフォローになっていない。拗ねている
妹の様子に嘆息したミリアが席を立った。
「それじゃ私とティアは先に帰ってるから、フィリは後からレイ君連れて家に
来るのよ」
「え、私も帰るの?」
 喫茶店に入って何も食べてないのに、というティアの意見は即座に却下さ
れた。ミリアはフィリに耳打ちした。
「それじゃ後はお若い2人でごゆっくり」
「〜〜〜!!」
 フィリがその言葉に赤面した。
「お、お姉ちゃん!」
 ミリアはフィリが何か言い返す前にティアの首根っこを掴んで店の外へと
飛び出していった。去り際に「クレ〜プ〜〜〜っ」というティアの断末魔の叫
びが聞こえたような気がした。(ちなみにガイストもティアとともに連れて行か
れた)

 2人になった後、フィリが口を開いた。
「私もだけど、レイも随分と変わったね。なんていうかたくましくなった」
「まーな、8年もたったしな。オヤジについて旅した6年と一人立ちして旅した2
年、未だにオフクロの手がかりはゼロだけどな」
「そっか…レイのお父さんは今どこにいるの?」
「オヤジの奴はルーンミッドガッツ王国の北の国境を越えて、今は賢者の都
市ジュノーにいるって手紙がこの前届いた」
 賢者の都市ジュノーはルーンミッドガッツ王国と同盟を結んでいる都市の
一つで魔法都市ゲフェンに並ぶ魔術の都市である。
「そんな所まで行ってるんだ…」
「ま、気長にやるしかないさ。それに神話クラスの所まで頼らないと、俺とオ
ヤジの旅は終わらないと思ってる」
「…」
 フィリは少し思案した後、レイの目を真っ直ぐとした瞳で見た。
「レイ。次に旅に出るとき…私も連れてって」
 レイの表情が驚きに変わった。
「おい、いくらなんでもそりゃ無理だろ。お前は商家の娘で…」
 フィリがレイの手をそっとつかみ、もう一方の手をその上に重ねた。柔らか
な光とともにレイの手にあった先ほどの戦闘のかすり傷が癒えていった。
「…お前」
 呆然とした表情を浮かべるレイにフィリがニコリと微笑んだ。
「私もね、頑張ったんだ。いつか一緒にレイと旅が出来たらって。冒険者に
なって、修道士になって、聖職者…プリーストになった」
 フィリは両手をレイの手に重ねたまま言葉を続けた。
「冒険に憧れてた。でも実際に旅に出て何か違ったの。やっぱり私はレイと
冒険がしたいって事に気づくのに時間はかからなかった…」
「フィリ…」
 しばし見つめ合う2人に遠慮がちな声がかかった。
「えーっと、あの、お、お客さま、注文はいかがしましょうか?」
『〜〜っ!!』
 2人は赤面しながら慌てて手を離した。動揺しまくっているレイは注文をとり
にきた店員に適当に答えた。
「えっとな!店一番の料理をくれ!それでいいから!」
「かしこまりました」
 10分後、この喫茶店の名物料理『キングダム青汁デラックス』が2人の元
に運ばれてきた。

 [続]


〜あとがき〜
 「Ocean`s Blue」第1話いかがでしたでしょうか。つーか書き上げるのに4時
間近くかかりましたよ、ええ_| ̄|●lll でもって全体の構想を考えているう
ちに結構大きな話になっちまいやがりました。
 気長に書いていくのでよろしくお願いしますm(_ _)m


〜登場人物紹介〜
●フィリ=グロリアス
性別:女
年齢:16
JOB:プリースト(聖職者)
グロリアス家3人娘の次女。レイと冒険がしたい一心でプリーストになった。
プリーストとして使える魔法は支援系全般。退魔術は使用できない。
レイに昔からずっと淡い恋心を抱いていた。

●レイ=フレジッド
性別:男
年齢:17
JOB:ハンター(狩人)
昔事件に巻き込まれ消えた母親の手がかりを探して情報を集めている。
化け物クラスの実力を持つ父の影響でレイ自身もかなりの実力者。
フィリの事が何気に気になってはいるらしい。
実はかなりの節約家。相棒は鷹のガイスト。

●ガイスト
性別:オス
年齢:3
JOB:鷹(?)
ある事件がきっかけでレイと行動をともにすることになった鷹。
その辺の鳩頭な鷹とは一味違う。というか人の言っている事が
理解できているとしか思えない。好物は甘い物全般。

●ミリア=グロリアス
性別:女
年齢:22
グロリアス家3人娘の長女。冒険者でもないのに素手で熊が殺せる。
アルベルタの豪商、オールド=グロリアスの跡取りとして修行中。
むやみにパワフルで人情に厚い。

●ティア=グロリアス
性別:女
年齢:13
グロリアス家3人娘の末娘。姉2人が商家の跡取り、冒険者と違う道に
進んだため自分はどうすればいいか悩んでいる。
彼氏(勝手に認定)がいるフィリを羨ましがるお年頃。


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット