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Ocean's Blue

002:旅立ち[後編]

 超絶激烈な青汁をフィリと2人で何とか片付けたその夜、レイはグロリアス
家で自分が住まわせてもらう部屋のベッドに寝そべり物思いに沈んでいた。
「レイ。次に旅に出るとき…私も連れてって」
「私もね、頑張ったんだ。いつか一緒にレイと旅が出来たらって。冒険者に
なって、修道士になって、聖職者…プリーストになった」
「冒険に憧れてた。でも実際に旅に出て何か違ったの。やっぱり私はレイと
冒険がしたいって事に気づくのに時間はかからなかった…」
 昼間のフィリの言葉が次々と思い出される。フィリが自分に好意を抱いてく
れているのはさすがにわかるし、旅をしたいというなら連れて行っても構わな
い。だが、考えてしまうのだ。レイの旅に同行するということは普通の冒険者
とは全く違う危険がつきまとう。レイとレイの父は人が踏み入れてはならない
領域に踏み込む必要があるかもしれないのだ。
 フィリは大切な友達、危険な目には合わせたくないし、傷ついてほしくな
い。だが心のどこかで共に旅をしたいという気持ちも捨てきれないでいた。
「はぁ…堂々巡りだな…」
 レイはため息をついた。フィリには次に旅立つ1週間以内までに答えを出す
からと言っている。フィリもまた無理に連れて行ってとは言わず、レイの答え
を待っている。

 コンコン

 不意に扉がノックされた。レイはベッドから起き上がると扉の方に声をかけ
た。
「どうぞ」
 ガチャリという音とともに入ってきたのはフィリの姉のミリアだった。
「レイ君、ちょっと付き合ってもらえないかしら?」
「付き合うって…外ですか?こんな夜更けに?」
「だーいじょうぶよ、お姉さん襲ったりしないから」
「いやそれはわかりますけど、仕方ないですね」
 レイはベッドから立ち上がると、ミリアとともに屋敷の外へと出て行った。

 そしてそれを屋敷の窓から目撃している2人の姿があった。当然、フィリと
ティアである。フィリがティアの部屋に来ていたときに偶然窓から見てしまっ
たのだ。フィリが蒼白な顔でふらりとよろめいた。
「レ、レイがお姉ちゃんにく…喰われる」
「フィリお姉ちゃん…ミリアお姉ちゃんの事、色魔か何かと勘違いしてない?」
「だってレイが〜!レイがぁぁぁ〜!」
 フィリが動揺のあまり、ティアの首を締め上げる。かなりきっついチョークス
リーパーが決まっていた。
「ぐ…ぐるぢい、お゙、お゙ね゙ーぢゃんギ…ギブ」
 フィリはパッと腕を放しティアを解放すると、ティアの両肩を掴み鬼気迫る
表情で言った。
「レイを助けにいく!ティア手伝って!」
「う〜げほ、フィリお姉ちゃん…それはつまりミリアお姉ちゃんを敵にまわすと
いうことだったり?」
「う…」
 フィリがティアの言葉に躊躇した。グロリアス家でミリアに逆らうことは死を
意味するからだ。モンゴリアンスペシャルとかよくわからない技で半殺しにさ
れるのだ。だが恋する乙女は強かった。
「私は愛のために死ぬ!ティアも私のために死んで!」
「えぇぇぇぇ〜〜〜!私関係ないし、いやぁぁぁぁ!」
「大丈夫!ティアには強力な仲間がいるでしょ!」
 ずびし!とフィリが指差した先にはベッドの上でくつろいでいた(?)鷹のガ
イストがいた。ガイストはビクリとした後、べしょという音とともにベッドに横倒
しに倒れた。
「うあ゙、死んだふりとか中々小粋な鷹ね…」
「いやお姉ちゃん…ガイストも巻き込まれたくないだけじゃない…?」
「うわ〜〜ん!レイ〜〜!!」
 ティアはがっくりとうなだれた。この家で一番の苦労人なのは絶対自分だと
いうことを自覚させられたからだ。

 ◆

 屋敷をでてから数分、アルベルタの夜の海が一望できるところまで歩いて
きたレイは前を歩くミリアに声をかけた。
「っていうかどこまで行くんですか」
「う〜ん、この辺りでいいわよ。適当にその辺に腰掛けて」
「はい」
 レイは言われるままにその場に放置されていた積荷を入れるための木箱
に腰かけた。現在は空のようだ。ミリアも適当な木箱に腰かけると話を切り
出した。
「悩んでるでしょ」
 単刀直入。ミリアが何を言わんとしているか気づいたレイは即答した。
「悩んでます」
 その答えにミリアは苦笑した。
「あの子を旅に連れて行きたい自分の気持ちと、危険な目に合わせたくない
気持ちで葛藤してるのね」
「はい、正直ずっと堂々巡りで」
 ミリアは少し黙考した後、レイの目を真剣な眼差しで見つめた。
「レイ君、貴方をここまで連れ出したのには理由があるわ。貴方に聞いてほ
しい重要な話があるからよ」
「フィリやティアには聞かせたくない話…ですか?」
「そうね。というか、うちじゃタブーな話だからね」
 レイはミリアがあまりにも真剣な表情をしているのに少し驚きながら答え
た。
「続けてください」
「単刀直入にいうとあの子は私とティアの本当の姉妹じゃない。血がつな
がってないの」
 ミリアが言うにはフィリはある日、この屋敷の前に捨てられていた捨て子ら
しい。父であるオールド=グロリアスと母であるハルカ=グロリアスはその子
を捨て置くこともできず深い愛情をもって実の子供として育てた。といっても
ティアが生まれた直後に母であるハルカが他界してしまい、母代わりとして
育てたのはミリアであるが。
「血がつながってなくてもあの子は私の大切な妹、でもあの子には他の人に
はないものを持っている」
 浮かび上がるのだ、魔力を使用した時に背中に薄く白い十字架が。さすが
に服を着ているために他の人は知らないが、オールドやミリア、ティアはそ
の事を知っている。無論、フィリ自身も。
「そして十字架のせいかはわからないけど、あの子は潜在的に凄まじい魔
力を秘めているの」
 何故十字架を背負っているのかはわからない。何故捨てられたのかも。何
故あれほどの潜在魔力を有しているのかも。
「それで…俺にどうしろって言うんですか」
 答えはわかっている。だがレイはあえてミリアに聞き返した。
「あの子が旅に出たいと言っているのは貴方についていきたいってのが半
分、出生の秘密を知りたいのが半分だと思うの」
「…」
「危険な目に合わせたくないってのはあるけどね。あの子がそう望むなら、そ
の後押しをしてあげるのも…家族の役割」
 レイが苦笑した。
「ミリアさんずるいですよ、そんな話聞かされたら連れてくしかないじゃないで
すか」
「ふっふっふ、妹の恋路を手助けするのも姉のつとめよ」
「お姉ちゃん!レイに手を出したらダメ〜〜〜〜〜!!」
 突然、そんな叫び声とともに何か飛んできた。

 どが!

「〜〜〜っ!!」
 ミリアがその何かにぶっ飛ばされて宙を舞った。ずざさーとミリアが横滑り
して、ぱた…と倒れる。
「…は?」
 レイはぽかんと口を開けたまま硬直した。レイの元にフィリが駆け寄った。
「レイ助けにきたよ!色魔に何かされなかった!?」
「えーと話が見えないんだが」
 さらに、ミリアをぶっ飛ばした何かがムクリと起き上がった。
「うぅ…フィリお姉ちゃんひどい…ブン投げてぶつけるなんて…」
 ティアが涙目でぶつけた頭をおさえながら立ち上がった。
「とにかく可及的速やかに撤退よ!ミリアお姉ちゃんが復活す…」

 がし。

 フィリの言葉が途中で止まった。フィリがぎぎぎぎと壊れたロボットのように
首を後ろに向けると、これ以上はないのではないかと思えるほどの笑顔を浮
かべているミリアがいた。
「あ、あ、あははは、あはははははは…」 
 恐怖に顔を引きつらせたフィリが逃げ出そうとするが、肩をがっちりとつか
まれて逃げられない。ミリアが一言だけ呟いた。
「死〜ね♪」
「うあ!お姉ちゃんごめ!うっきゃああああああああああ!!」

ぐぎばぎべぎぼき!!

 複雑怪奇な関節技とともにフィリの絶叫がアルベルタに響き渡った。しばら
くした後、完全に巻き添えのティアの叫び声も響き渡った。

 ◆

「オネエチャンゴメンナサイオネエチャンゴメンナサイオネエチャンゴメンナサイ…」
 ミリアがティアの足を掴んで引きずって去って言った後、まだ悶絶している
フィリをおぶったレイが呆れたように言った。
「お前…アホだろ」
 さすがに聞き逃せなかったのかフィリが反論した。
「う…だってレイが襲われるかと思ったんだもん…」
「んなわけねーだろ、それよりも…」
 レイは慎重に言葉を選んだ。
「お前のこと聞いた。出生の事と十字架の事」
「っ!!」
 フィリの目が驚愕に見開かれた。フィリはそのままうつむいた。
「…背中に十字架だなんて…気持ち悪いと思った?」
「何言ってんだ。フィリはフィリだろーが、そんな事どうでもいい」
「レイ…」
 気遣いではなく本心からの言葉にフィリは少しだけほっとした。
「1週間以内に答え出すって言ったよな?」
「…うん」
「でももう決めた、俺はフィリを旅の仲間として連れて行く。言っとくが同情と
かじゃないからな、俺はフィリと一緒に旅がしたいから言ってるんだ」
 フィリの瞳が少しだけ潤んだ。
「うん…私行く。レイの旅についてく」
 フィリがレイにおぶわれたまま、レイの肩に顔をうずめた。

 ◆
 
 次の日、レイはフィリを旅に同行させる意向をミリアとティアに伝え、さらに
オールド=グロリアス宛の手紙に同様の内容を記した。その後、レイはフィリ
とともに街で定期船のチケットを購入した。行き先はアマツ、ルーンミッドガッ
ツ王国と数年前交易を開始した東洋の国である。
「でも何で急にアマツに?」
「アルベルタに寄ったのも、アマツに行くつもりだったってのもあったしな」
 フィリに会いたかったとはさすがに言えず、レイが話を続けた。
「オヤジの手紙にな、アマツにある城の地下にど〜も遺跡があるって情報を
入手したって書いてあった」
「へぇ〜」
「それでオヤジよりかはアルベルタ近い所にいた俺がいくことになったってわ
け」
 フィリが後ろ手を組みながらぼやいた。
「でも不便だよね、ワープ系使えないのって。20年前は使えたんでしょ?」
「らしいな」
 昔、修道士や聖職者のスキルに『テレポート』、『ワープポータル』などの空
間移動に使えるものが存在していた。だがそれは20年前から使用できなく
なっている。原因は20年前の大戦に端を発する。


 ミッドガルド大陸の中で最も大きな国家ルーンミッドガッツ王国。その国の
国王、トリスタン三世が即位して間もない頃それは起こった。魔物の大量発
生、そして人の住まう地への大襲来。

 『トリスタンの悪夢』

 魔物の王たる魔王達が手を組み、人間族を滅ぼそうと攻め入ってきたので
ある。迷宮の森に住まうと言われる魔族の帝王バフォメット、砂漠の都市モ
ロクの北西に存在するピラミッドの支配者オシリス、魔物の中で最強クラス
の強さを誇る亀族が住まうタートルアイランドの支配者にして亀族の大将軍
タートルジェネラルなどの存在が未だ確認されていなかった伝説級の魔王
ですら姿を現していた。
 若き国王の名のもとに多くの人々が戦い、傷つき、そして倒れていった。次
第に戦局は悪化の一途を辿り、近隣の都市は次々と陥落していった。そして
ついに魔王軍はルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラに攻め入ってきた
のである。そしてそれは唐突に姿を現した。

 闇の王ダークロード

 魔王軍の首魁にしてこの戦いを起こした魔王である。ダークロードは天より
隕石をも降らす魔力をもって、次々と抵抗する人々を虐殺し、首都プロンテ
ラを蹂躙していった。人々が敗北を悟った時、新たなる軍勢がプロンテラに
出現した。だがそれは魔物ではなく人間、賢者の都市ジュノーをはじめとす
るルーンミッドガッツ王国の同盟軍と、プロンテラ騎士団員レオ・フォン・フ
リッシュが作り上げた、各地へと散っていた冒険者達を結集した義勇軍だっ
たのである。この大援軍で勢いを取り戻した人々は魔王軍を撃退、闇の王
ダークロードを討ち取ったのである。首魁であるダークロードを討たれたバ
フォメットをはじめとする魔王達は己が住まう地へと退いていき、人々は奇
跡的な勝利をおさめたのである。

 だがダークロードは死の間際にいらぬ置き土産をしていった。世界中の空
間を歪ませていったのである。これにより転移系の魔法は使用不可となって
しまったのである。さらにダークロードは一つの予言を残した。

 闇滅びるとも死在り
 七つの美徳
 七つの大罪が喰らいし刻
 死出の門は開く

 ルーンミッドガッツ王国だけでなく、世界中の学者達がこれについて議論を
かわしているが、何の事かは現在も全くわかっていない。というか何の事か
はわからなさすぎて、ダークロードが死ぬ寸前で頭がボケたのではないかと
まで言う学者まで出てきている。浮かばれない魔王である。


「ま、使えないものは使えないと諦めて、船でのんびり行くしかないさ」
「のんびりかぁ〜それもいいかも」
「おぅ、焦っても仕方ないしな。こういうときは腰をどっかりと据えるに限る」
 まったり思考ではあるが力強いレイの言葉にフィリが微笑んだ。

 ◆

 レイがアルベルタにやってきてから1週間が過ぎた。レイとフィリがアマツに
向けて旅立つ日である。2人を見送るためにミリアとティアが港まで見送りに
きていた。
「ゔ〜お姉ぢゃん゙元気でね゙〜〜〜〜!」
 瞳から涙をぽろぽろこぼしながらティアがフィリに抱きついた。
「ティアも元気でね。ちゃんとミリアお姉ちゃんの言う事聞きなさいよ」
「フィリお姉ちゃんよりはちゃんと聞いてるよぅぅぅうううぎゃああああ」
 フィリはほがらかな笑みを浮かべながら、めきめきミシミシミシミシィ!!と
いう音を立てつつティアにサバ折り(別名:ベアハッグ)をかけていた。その様
子に苦笑したミリアがレイに右手を差し出した。レイはミリアの手をしっかりと
握り返した。
「フィリの事、頼んだわよ」
「はい」
「押し倒していいから」
「待たんかい」
 レイは思わずツッコミを入れた。ミリアがレイが頭を抱えているのを見て
笑った。
「や〜ね〜半分は冗談よ」
「あ〜あ〜そうですか〜」
 レイは疲れた表情を浮かべながら答えた。と、めきめきミシミシという音が
ようやくやんだ。ティアが完全に白目をむいて気絶している。
「ティア…別れる時ぐらい目を覚ましていてほしかった…」
「…」
 フィリの言葉にレイは突っ込む気も起きずにうなだれた。と、そこで船員か
らレイとフィリに声がかかった。
「おい、そこの兄ちゃんと姉ちゃん!そろそろ出航だぜ!」
「ああ、わかった。それじゃ行ってきます」
「お姉ちゃん、それにティア。またね」
 2人の言葉に泡を吹いて気絶しているティアを肩にかついだミリアが笑顔で
答えた。
「いってらっしゃい」

 出航、船の上から見えるアルベルタが水平線の向こうに消えるまでにさほ
ど時間はかからなかった。その間ずっとミリアとティアが港で手を振ってい
た。手を振り返しているフィリの目には涙が浮かんでいた。
「ほら」
 レイはフィリにハンカチを手渡した。それを受け取ったフィリはそのハンカチ
で涙をぬぐうと微笑んだ。
「頑張らないとね」
「ああ」
 レイがその言葉とともに右腕を曲げたまま前にだすと、ばさっばさっという
羽音とともに鷹のガイストがレイの右腕にとまった。
「んじゃあ!俺達の新しい冒険の幕開けだ!」
 レイがそう言った後右腕を少し動かすと、ガイストが再び空高く舞い上がっ
た。空では2人と1匹の旅立ちを祝福するかのように太陽が輝いていた。

 [続]


〜あとがき〜
 今度は5時間かかりました(;´Д`)
 でもまぁ、話的にわりかしまともに書けてると自己満足にひたってます(アホ 
実は「Ocean`s Blue」は最初の構想を全部ぶっ壊して作り直しました。実は
最初の構想で5話ほど書いて、謎が全部解けてしまうという最悪の結末に
なったので消しました。練りこみが甘かったかあああああ!と作り直して今
の作品になったのです。旧「Ocean`s Blue」は素手で戦うブラックスミス男が
主人公で拳で敵討ちに生きる、という凄まじく面白くなさげな作品でした。書
き続けなくてよかった…いやマジで。現在の「Ocean`s Blue」がおもしろいか
どうかは全く持って謎ですが_| ̄|●lll 旧ヨリハオモシロイヨ…


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