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Ocean's Blue

003:泉水の国アマツ

 禍々しき妖刀を携えた顔面髑髏の妖かし侍。

 母をさらった悪魔の特徴を父はそう言った。

 その悪魔を捜し出す事こそ母を救う第一歩になるはずだと。

 母は生きている。

 そう、信じて今日も旅を続けている。

 ◆

 泉水の国アマツ。数年前よりルーンミッドガッツ王国と交易を開始したこの
国はルーンミッドガッツ王国とは全く違う、いわば和風の国である。道行く住
人は着物や袴などを着付け、住宅には訪れた人々が金と見間違った『畳』と
いうものが使われている。
 レイとフィリは数日前にアマツに着き、しばらく根城にするための宿を決
め、アマツで手分けして情報を集めていた。現在、2人は小さな甘味処(要す
るにアマツの喫茶店のようなもの)に入り、団子をぱくつきつつ集めた情報を
交換していた。
「やっぱ城のことは城にいる人間に聞くしかないな」
「うん、それしかないっぽい。ここの一番偉い人は石田吉長って人で、あの
城の、え〜と東湖城にいるんだって」
 フィリが視線を向けた先には大きな城があった。レイは団子をひょいひょい
と口に放り込んだ。鷹のガイストも負けじと団子を嘴でついばんでいる。
「つーか国の元首にいきなり行って会えるか?」
 フィリはきなこという粉がついた餅をつまようじという道具でつついた。
「あ〜その点は大丈夫みたい。石田吉長は旅人には寛容らしくて、行けば会
えるみたい。…だけど」
「だけど?」
 何となくひっかかる物言いにレイが聞き返した。
「最近、石田吉長って人のお母さんの具合が悪くて、色々仕事が手について
ないみたい」
 レイが少し黙考した。ちなみに黙考しつつも団子を口に放り込むのは忘れ
ない。ついでに鷹のガイストはフィリからきなこがついた餅を食べさせても
らっている。
「つーことは会えても適当に追い返されるかもしれないってことか」
「かも」
「ま、ダメ元行ってみるか。ってガイストお前食いすぎ」
 レイがガイストの頭をぐわしとつかむと、ガイストが反論するかのごとく羽を
ばさばさと動かし暴れた。
「ったく、こいつは甘い物食わすと際限なく食うからな」
「そ〜いえば随分食べると思ったけど…」
 フィリは今頃になってガイストが食べた団子の量が半端な量でないことに
気づいた。レイが無理矢理ガイストと団子をひっぺはがすと、ガイスト的に薄
情な主人に恨みがましく鳴いた。
「だーうるせー!また食わせてやるから我慢しとけ!つーか鷹の分際で俺
の3倍食うな!」

 ◆

 東湖城の最上階に石田吉長はいた。アマツの伝統なのか城の男の大半
が頭頂部をそりあげて、頭頂部のさらに一番上の部分の髪のみをソーセー
ジのように結っていた。凄まじく変である。
 髪型が変とはいえ、石田吉長はとてもいい人物だった。どこぞの旅人であ
るレイ達の話をしっかり聞き、受け答えをしてくれたのだ。
「ふむ、つまりはそちはこの東湖城の地下にある遺跡に行きたいと申すか」
「はい、もしよろしければお願いします」
 レイとフィリが揃って頭を下げた。ガイストも頭を下げている辺り、その辺の
鷹とは一味違う。だが石田吉長の反応はあまりよくなかった。
「う〜む、ぶしつけで悪いのだが…交換条件というのはどうかね?」
「交換条件ですか?」
 フィリが聞き返した。石田吉長は頷き、口を開いた。
「余の母君の具合が悪い事は聞いておるかな?」
 レイとフィリは揃って頷いた。ガイストも頷いている、やはり一味違う。
「それでな、余の母君の様子を見てきてほしいのだよ。医者などを向かわせ
ると追い返されるらしくてな。様子を見に行った者達は妙だと言うしの」
「石田様の母君の様子を見てくればいいんですか?」
 フィリが問い返すと石田吉長が頷いた。
「どうも臣下達の言う事はちぐはぐでの、ありのままを余に伝えてほしい」
 と、こういうことになった。

 ◆

 石田吉長の母は東湖城のそばの小さな家に住んでいるらしく、レイとフィリ
はすぐにそこへと向かった。その家は扉は開けっ放しで中から異様な空気
がどろどろと漂いでてきていた。
「…なんつ〜か急に嫌な予感がしたんだが…」
「うん…急に寒気がしてきたね…」
 レイがその時ハッと気がついた。
「うお!ガイストがいねぇ!あの薄情鷹逃げやがったな!」
「うわ〜ん…絶対嫌な予感がするよぉ〜…」
 フィリが半泣きになりながらそうぼやいた。レイは気を取り直すと家の中に
足を踏み入れた。どろどろと生ぬるい嫌な空気が足元に流れている。少し進
むとその家の一室に老婆が向こうをむいて座っていた。
「あ…あの〜石田吉長様の母君様ですか〜?」
 レイが内心ビビリつつそっと声をかけた。老婆がゆっくりとゆっくりとゆ〜っ
くりと振り向きにやらぁ〜と邪悪な笑みを浮かべながら言葉を発した。
「キヒヒヒ…愚カナ人間ナドニハ用ハナイ!キヒャッハヒャハ!!」
「うっきゃあああああああぁぁ〜きゅー」
 どう考えても人間の発したと思えない言語を聞いたフィリが耐え切れず気
絶した。
「おいっ!俺を一人にするな!俺も怖いっつーの!マジで!」
 さすがにレイもこれにはビビッたのでフィリを抱えて、老婆の家を飛び出し
た。レイはその足で東湖城の石田吉長の元へと走った。ちなみにその途中
でガイストが戻ってきたが毒づく余裕もなかった。

 ◆

「絶対変です!」
「そんなに変なのか」
 大真面目にいうレイにたじろぎながら石田吉長が答えた。レイは身振り手
振りもまじえて必死に主張した。レイの後ろでは畳の上でフィリが力尽きて
いる。それをガイストが心配そうに見つめていたが、真っ先に逃げたのはガ
イストなので全くもって献身的に見えない。
「もうホント絶対確実に変です!キヒャッハヒャハ!とか叫んでましたし!失
礼ですけど俺はアレを人間とは認めませんよ!」
「ぬぅ…」
 恐怖を顔に張り付かせて主張するレイに石田吉長もさすがにタダ事ではな
いと思ったのか、レイに一つ提案をした。
「アマツの北東にある神社にな、困ったときの狐仮面さんというのが住んで
いるのだが」
「ちょっと待ったああああ!」
 レイがストップと手を前にだして叫んだ。
「もしかして俺をさらにあの妖怪老婆に関わらせるつもりですか!俺イヤで
すよ!」
「君は男だろう」
「そーゆー問題でなく!最初と話が違うし!確か様子を見てくるだけじゃな
かったんですか!?」
 石田吉長は哀しそうに首を横に振った。
「母君を妖怪老婆などと呼ぶとは…これは打ち首にするしかないな…いや、
だが余は寛容だ。そちが余の要求をのむならこれは不問にしよう」
「鬼かぁぁぁぁ!ていうか自分で見た方が早いっつーの!絶対妖怪老婆だか
ら!マジで!」
「ふむ…仕方ない。しばし待っておれ」
 石田吉長は自らの母の元へと歩いていった。


 数十分後

 戻ってきた石田吉長は頭を抱えてうずくまった。
「おおおおおおお!余の母君が妖怪老婆と化してしまったぁぁぁぁぁぁ!」
「だから何度もそう言ったろうがぁぁぁぁぁ!」
 取り乱す石田吉長にレイがツッコミを入れた。
「頼む!余を助けてくれ!狐仮面さんに何とかしてくれるように頼んでくれ!」
 すがりつくようにレイに懇願する石田吉長を押しのけながら、レイがヤケク
ソ気味に言った。
「報酬は期待してますからね!とにかくその狐仮面とやらに会ってきます!」
 レイはバッと後ろを振り向いた。フィリは未だに気絶しているのだが、何とし
ても道連れが欲しかった。
「ガイスト〜♪」
 レイは相棒の鷹をぐわしとつかんだ。ガイストが必死に抵抗するが効果を
成さず、その間にレイは素早く自分の肩とガイストの脚をヒモでくくりつけてし
まった。
「俺達は相棒!一連托生だ!」
 ガイストが断末魔の叫びのごとく鳴いた。

 ◆

 アマツでは魔物の事を妖怪と呼ぶらしい。河童やからカラ傘などがその例
である。狐仮面の元に向かう途中の森林でレイはこれらに遭遇したが、本物
の妖怪よりも遥かに恐ろしい妖怪老婆を見たレイにとっては恐ろしくも何とも
なかった。襲い来る河童の頭にある皿を蹴りで叩き割り、カラ傘の足を掴ん
でブン投げたりしながら進む事2時間、レイはようやく狐仮面が住んでいると
思われる神社までやってきた。
 神社の中にある建物の中に入ると、そこには狐の仮面をかぶった男が椅
子に腰掛けていた。狐仮面はレイに一言こう言った。
「やぁ、待っていたよ」
「…俺の事知ってるのか?」
 レイが思わず身構えると、狐仮面が笑い出した。
「はっはっは。と、初対面の人に言うと皆警戒するんだなこれが」
「当たり前だ!」
 レイが思わず叫んだ。狐仮面はレイの怒りも意に介さず言葉を続けた。
「それで君は何をしにきたのかな?」
「それは…」
 レイが先ほどの出来事をありのままに話すと、狐仮面が頷いた。
「なるほど、老婆が妖怪でキヒャッハヒャハ!というわけか」
「原因とか解決法とかわかるのか?」
「これは狐憑きだね」
 狐仮面がいうには術を覚えた妖狐が面白半分に人間に悪戯をすることが
あるらしい。多分今回は老婆に取り付いて遊んでいるのだろうと。
「祓い落とす方法が2つあるけどどうする?獣の力を借りて狐を祓う術ともう
一つあるんだけど、こっちは乱暴だからオススメできないよ」
「乱暴な方で」
 狐仮面の選択肢にレイは怒り任せに即答した。
「ふっふっふ…狐風情が人様をバカにしやがって…覚悟しやがれよ…」
 レイの瞳が復讐に燃えていた。

 ◆

 レイは狐仮面から祓い落としの方法を伝授された後、例の妖怪老婆の家
の前にやってきた。
「レイ!」
 フィリがレイの元に駆け寄ってきた。どうやら目が覚めて城から降りてきた
らしい。
「大丈夫なの?また怖い目に合わされるんじゃ…」
 フィリは完全に腰が引けていたが、レイは朗らかに笑いつつ火がついた松
明を取り出した。
「へ、松明?」
 フィリが間の抜けた声を出した。レイは笑みを絶やさず、その松明を老婆
の家に投げ込んだ。
「って何してんのよぉぉぉぉぉぉ!」
 フィリがツッコミを入れたときにはすでに遅し、老婆宅が物凄い勢いで燃え
始めた。中から悲鳴とともに例の老婆が逃げ出してきた。レイは老婆をつか
まえた。
「オルァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
 どがす!という音とともにレイの渾身のボディーブローが老婆に炸裂した。
「〜〜〜〜〜っ!!」
 老婆が悶絶するとともに、老婆の中からスゥっと子狐が出現した。レイはす
ぐにその子狐を掴みあげると、慌てた子狐が焦ったような声をだした。
「あはは、えーと何だろ、ごめんちゃい、許して♪」
 レイは肩のヒモを外してガイストを解放すると、子狐をガイストに渡した。
「海に捨ててこい」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜っ!!」
 子狐の悲鳴とともにガイストは海の方へと飛び立っていった。それを見届
けたレイが一言。
「よし、一件落着だな」
「そ、そ〜かなぁ…」
 フィリは悶絶して泡を吹いている老婆と、まだ炎上している老婆の家を交互
に見ながら、そう呟いた。

 ◆

 こうして石田吉長よりアマツの地下遺跡に行くための通行手形を配布され
たレイとフィリは宿に戻って、無意味にでたらめに疲れさせられた今日の疲
れを癒すのであった。

 [続]


〜あとがき〜
何かRO小説のくせに全然登場人物がスキルとか使ってない気がするとか
思わないでもないです。あと、石田吉長、さっさと自分で見に行けよって自分
でツッコミ入れたくなりました(ぉぃ ちなみにトレントは石田吉長の事をずっ
と「いしだきっちょー」って呼んでました。書いてて気づいたけど、もしかして
普通に「よしなが」でよかったりしますか(;´Д`)


〜登場人物紹介〜
○石田吉長
アマツを治めている偉い人、というか殿様。

○老婆(石田吉長の母)
狐に憑かれてた婆さん。本当は人の良いお婆さんらしい。

○狐仮面
アマツの北東の神社に住んでいる変な人。
狐の祓い方を唯一知っている人。


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