前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

004:アマツ地下神社

 泉水の国アマツの北東に位置する神社、そこに住む狐の仮面をかぶった
男は日傘をさしながら森林の中を散歩していた。
「おや」
 狐仮面はふと気配を感じ取り足を止めた。狐仮面が感じた通り、狐仮面の
背後に黒のフードで全身を覆った人物が立っていた。狐仮面はクスリと笑う
と、背後に立つ人物に声をかけた。
「これは珍しいお客さんだ」
 黒フードの男がその言葉には答えず、手を狐仮面にかざした。

 ゴゥ!!

「おっと」
 黒フードの男の放った炎をひょいと避け、日傘を閉じた。
「いきなりとはひどいなぁ、『幻影』ウェルガ=サタニック」
 ウェルガと呼ばれた男が口を開いた。
「ふん…腕は落ちていないか。まぁいい、私の用件は一つだ」
「ヤです」
 狐仮面がにこにこと笑みを浮かべながら即答したのを聞いてウェルガが額
に青筋を浮かべた。
「話を聞け」
「どーせ『私に協力しろ』とかでしょ?僕はここのの〜んびりした生活が気に
入ってるんです。もうほっといてください」
 狐仮面が淡々とそう言ったのを受けて、ウェルガが声を荒げた。
「貴様…誇りを捨てたか!」
「そんなもの20年前にとっくになくなってますよ」
「…っ!!」
 狐仮面が怒りのあまり顔を紅潮させているウェルガを見て、やれやれとた
め息をついた。
「まぁ…協力はしませんけど、面白い話ならできます」
「何だと?」
「昨日、おもしろい人間に会いましてね」
 ウェルガが嘲るような笑みを浮かべながら、言葉を吐き捨てた。
「人間との馴れ合いの話など聞きたくもないな」
「それがラクール=フレジッドの息子でもですか?」
「何!?」
 その名を出した途端、ウェルガが驚愕の表情を浮かべたのに満足した狐仮
面はおどけるような仕草をした。
「今日、彼はアマツの地下遺跡に潜るそうですよ。興味があったら行ってみ
てはどうです?」
 狐仮面はそう言うと、さも面白そうに笑った。

 ◆

 石田吉長から通行手形をもらったレイとフィリは東湖城の天守閣にある地
下遺跡へと続く梯子へと案内してもらっていた。レイがその梯子を見て感嘆
の声をもらした。
「へぇ、地下遺跡に行くのに城のてっぺんから、大柱の中に設置してある梯
子で一気に降りないといけないなんてな」
 ここまで2人を案内した石田吉長が頷いた。
「うむ、この仕掛けのおかげで我々の先祖の魂を鎮めるために造られた地
下遺跡はここ150年程、人が立ち入ったことはない」
 石田吉長の説明を聞いたレイの視線が少し鋭いものへと変化した。
「それなら魔物の巣窟になっててもおかしくないな」
「うむ、心してかかれよ。では余は政務に戻る」
「ああ、案内ありがとさん」
 レイとフィリが頭を下げると石田吉長は満足したように、そこから立ち去っ
ていった。石田吉長がいなくなった後、フィリが唇をきゅっと引き締めた。
「レイとの初めての冒険だし、気合ーっ!」
 緊張しているフィリの肩に手を置くとレイが力強い口調で言った。
「じゃあ行くか!というわけでフィリが先に梯子な」
「ぇ」
 フィリが間の抜けた声をあげた。
「ぇぇぇぇえええええ!?何で私から!?普通、パーティの熟練者とかから
じゃないの!?」
 レイがちょいちょいとフィリの服を指差した。
「見えるぞ」
「…あ」
 フィリが赤面した。そうだった、ルーンミッドガッツ王国の女プリーストの
ローブは何故かチャイナドレスのように脚の部分に切れ目が入っているの
だ。先にレイが梯子を降りるという事は自分が上になるわけで…。
「…先に降りる」
「ま、心配すんなって、何かいたら助けてやるから。それと…ガイスト、お前
フィリより先に降りて偵察してこい」
 レイの肩にとまって毛づくろいをしていた鷹のガイストはその言葉を聞くと、
羽根をはばたかせ大柱の中にある梯子にそって飛んでいった。
 フィリは梯子に足をかけると恐る恐る梯子を降りはじめた。レイはフィリに注
意を促す。
「足を滑らせるなよ。一歩一歩しっかりと降りていくんだ。梯子が腐ってない
かにも気をつけるんだ」
「う、うん」
 的確に飛んでくるアドバイスにフィリは頷くばかりであった。

 ◆

 数十分は梯子を降りただろうか、ようやく梯子の終着点に到着したときには
フィリの足はもう悲鳴をあげていた。ちなみにガイストは偵察が終わるや否
やレイ達の元に戻ってきたのだが、フィリが驚いて落ちそうになるというハプ
ニングがあったりした。
「うあ…これを帰りに登るかと思うと、結構気分がどんよりしてくるかも…」
 レイがガイストの頭を撫でながら笑った。
「よくあることだからすぐに慣れるさ。それにフィリも冒険はしたことあるん
だろ?」
「さすがにこんな梯子を降りたのは初めてかな」
「まーな、それにしても…」
 レイは周囲に視線を向けると頭を抑えた。
「何なんだ、ここは」
 レイがそう言ったのも無理はない。レイ達がいる階層は一面に畳が敷き詰
められ、ある程度の間隔で格子状の小部屋になるよう襖が設置してある。
「とにかく行ってみないことには何一つわからんな」
 レイは近くの襖が開いている部屋に入ろうと歩き始めた。

 ごづ!!

「痛ってぇ!!」
 レイが額を押さえてうずくまった。フィリが慌てて駆け寄る。
「ど、どーしたの!?物凄い音がしたけど!?」
「…見えない壁があった」
 レイが歯を食いしばりながら言葉を搾り出した。冗談抜きで痛かったらし
い。
「わ…ほんとだ」
 フィリがぺたぺたとレイが頭をぶつけた見えない壁を触った。レイはまだ
額を押さえている。フィリがさすがに心配になったのかレイの顔を覗き込ん
だ。
「回復魔法かけようか?」
「…頼む」
 やっぱり本気で痛いらしくレイは大人しく座り込んだ。フィリは両膝を床につ
けると手をレイの額に添え、回復魔法であるヒールの詠唱を開始した。
「くそ…さすがにこの仕掛けには気づかなかった」
「あ、動かないで」
 フィリにヒールをかけてもらっているレイは自分の後ろにある襖に寄りか
かった。今度は襖があると見せかけて、実は襖がないという場所だった。
「うぉわ!」
「きゃあ!」
 レイと襖の奥へと倒れこむのと同時にフィリの手を掴んでしまったのでフィ
リはレイの上に倒れこむような状態になってしまった。
「…」
「あ…」
 思いのほかレイの顔が近くにあることに気づいたフィリが赤面した。だが、
レイが次にとったのはフィリにとって全くの予想外の行動だった。
「ガイスト!!」
 レイは相棒の鷹の名を叫ぶとともにフィリを抱きしめて横に跳んだ。

 ダダダダン!!

 その瞬間、銃声とともに今しがたレイとフィリがいた場所が銃弾で抉れた。
レイは跳んだ後すぐにフィリを離し、アーバレストに矢をつがえると、銃を
放った何者かを撃ち抜いた。トドメにガイストが空中体当たりを仕掛けると、
その何者かは完全に沈黙した。
「な、何だったの…?」
 フィリが恐る恐る尋ねると、レイが矢で撃ち抜いた何者かに近寄った。それ
は火縄銃と呼ばれる旧式の銃を持った骸骨の魔物、銃奇兵の死骸であっ
た。レイの表情が鋭く変化した。
「ど、どうやら魔物の巣窟って線は間違いなさそうだな」
「う、うん…」
「じゃ、じゃあ先に進むか」
 2人が微妙に動揺しているように見えるのは、ここが魔物の巣窟だと判明し
たせいでなく、先ほどのハプニングのせいだったりするのだが。

 ◆

 何度も魔物と交戦しながら先へと進んだ2人は、畳がしきつめられたその
階層の奥に扉があるのを発見した。レイは扉に罠がないことを確認した後、
それを開いた。そこに広がっていたのは昔の合戦場跡であった。
「地下にこんなところがあるなんて…」
 フィリはまわりを見回しながらそう呟いた。
「向こうに社が見える。多分あそこが遺跡の中心部分だろう」
 もしかしたらあそこに母をさらった『奴』が潜んでいるかもしれない。レイは
自然と弓を握り締めた。
「行くぞ」
「うん」
 2人が歩き始めるのと同時に扉をくぐると同時に偵察にでていたガイストが
戻ってきた。

 ◆

 社の中は全て漆塗りの板張りで、荘厳な雰囲気をかもしだしていた。フィリ
と手分けして注意深く辺りを散策していたレイがある物を発見した。
「な…」
 それは板に刻まれた凄まじい斬撃の傷跡、そしてそれによって死した者の
ものと思われる血痕。レイの直感がここは危険だということを告げていた。
「フィリ!嫌な予感がする!いったん引き上げよう!」
 すぐ傍で柱などを調べていたフィリが振り向いた。
「うん、わかっ……」
 フィリの言葉が止まった。

 突然、着物をきた小さな少年がそこにいた。

 その着物をきた小さな少年はレイとフィリと正三角形の点を成す様な位置
にいた。
「こ…この子誰…?」
 フィリがあまりの不気味さに一歩後ずさりした。レイはフィリの元に駆け寄
るとアーバレストに矢をつがえ、少年に向けた。すると少年は静かに口を開
いた。

『我等ガ域ヲ侵ス者、死シテ己ノ業ヲ贖エ』

 あまりにも耳障りなしわがれた声、フィリが顔をしかめた。レイはその声を
聞いて口元を歪めた。今までにもこれに似た恐怖を感じた事があった。圧倒
的な威圧感、恐怖、絶望、認めたく無い。だが認めざるを得ないだろう。
「フィリ…油断するな!こいつは魔王だ!」
「!!」

『フハハハハハハハハ!!!』

 耳障りな哄笑とともに少年の背後に黒い瘴気が立ち上り形を成した、とて
つもなく邪悪で巨大な武者、両の手にそれぞれ血塗られた大刀を持った鎧
武者へと。その少年は魔物の王の一人にして封印されしアマツ地下神社の
主、怨霊武者へと姿を変えた。

「ど、どうするの…?」
 フィリが青ざめた表情でレイに尋ねた。レイはフィリの方には振り向かずに
答えた。
「大丈夫だ、他にも魔王と呼ばれた奴と戦った事はある」
「結果は?」
「半殺しにされた」
「一方的にやられてるじゃないのーっ!!」
 フィリが涙をどばばーと流した。だがレイは不敵な表情を浮かべながら、
フィリに近寄り耳打ちした。
「段取りは以上。質問は?」
「わ、わかった!でも大丈夫なの!?」
「心配すんなって」
 レイは怨霊武者の前に進み出た後、獣の咆哮がごとく叫んだ。
「お前の相手は…俺だ!!」
 それが戦闘開始の合図となった。

 ◆

 ドゴゥン!!ゴガォン!!

 レイは神社の中を猛然と走り始めた。それを怨霊武者が逃がすまいと両
の手にある大刀を振りかざしながら襲い掛かってきた。怨霊武者は重戦車
のごとく神社の壁を、柱を突き破りながら、突進してきている。
「くそったれ!!」
 レイはアーバレストに矢をつがえると天井に向けて放った。矢に撃ち抜か
れた衝撃で天井が崩れ、怨霊武者に降りかかった。

『小賢シイ!!』

 怨霊武者は大刀を一閃させると、崩れた天井を吹き飛ばした。レイはその
隙にさらに距離を広げた。レイの先には大きな段差が見えた。20メートルは
あろうかという段差である。飛び降りるにはさすがに無理があった。
「ガイスト!!来い!!」
 呼ばれたガイストはレイと並走して飛んだ。そしてレイはガイストの脚を掴
むと、先ほどの段差に飛び込んだ。ガイストのおかげで落下スピードが落ち
る。レイは着地の前にガイストから手を離し、解放されたガイストはすぐに高
く舞い上がった。
「これでも…くらえ!」
 同様にやってきた怨霊武者の足元にレイが矢を撃ち込んだ。床が壊れ、
怨霊武者は成すすべもなく20メートルの高さから落下した。

 ズガシャァァァァ!!

 レイはさらに猛然と駆け始めた。この程度で魔王が死ぬわけが無い。それ
は正しく、瓦礫を押しのけ立ち上がった怨霊武者がレイの追撃を再開する。
「ったく!全然効いちゃいねぇ!」
 レイが毒づくのと同時にフィリとフィリの元へすでに到着していたガイストの
姿が視界に入った。レイとフィリの目が合い、フィリが力強く頷いた。
「よし!」
 レイは勝利を確信すると、フィリの方へと猛然とダッシュした。レイはフィリ
に仕掛けさせていた『罠』を飛び越えると、怨霊武者の方を振り返った。怨霊
武者は罠に気づいていないのか、レイに対して嘲りの声をあげた。

『トウトウ観念シタカ!!人間!!』

 怨霊武者は自分の間合いにレイが入った瞬間、大刀を振り上げた。だが
次の瞬間、レイはニヤリと口元を歪めた。
「くたばりやがれ」

 ゴッ!!

 刹那、怨霊武者の足元で爆発が連鎖して起こった。レイは先ほどフィリに
狩人が使用する罠の一つである『ランドマイン』と呼ばれる地雷を何重にも重
ねて、つまり魔王を仕留めれるだけの威力がだせるほどに重ねて設置する
ように指示していたのだ。

『グァァァァァァァァァァ!!!』

 凄まじい連鎖爆発の中、レイがアーバレストに2本の矢をつがえ全力で弓を
引き絞った。そしてレイはもだえ苦しむ怨霊武者に向けて矢を放った。
「ダブルストレイフィング!!」
 レイの放った2本の矢が強力な衝撃波となり、怨霊武者を撃ち抜いた。
さらにレイは手を休めず無数の矢を容赦なく怨霊武者に撃ち込んだ。その威
力は怨霊武者ごと神社の一角を破壊するほどで、怨霊武者はその瓦礫の中へ
と消えていった。

 ◆

「はっ!ぜは!ぜは!はーっ!!」
 怨霊武者の姿が見えなくなるや否や、レイが床に膝をつき、肩で荒い息を
した。極度の緊張と疲労のせいである。
「や、やったの?」
 フィリが恐る恐る聞くと、息がまだ整わないレイが答えるかわりにニヤリと
笑いながら親指を立てた。
「やったぁ!!」
 フィリが喜びのあまりレイに抱きつくと、戦いのおかげでボロボロのレイは
支えきれずに床へと倒れこんだ。そのままレイが疲れた声をだした。
「さすがに死ぬかと思った…」
 フィリはレイから少し離れると、回復魔法のヒールをレイにかけた。
「でも魔王に勝ったんだから凄いよ」
「そうか?」
「うん…凄く格好よくなった」
 頬を赤く染めながらそう言うフィリにレイがつられて赤面する。

 ガラ

 レイとフィリは瓦礫の方向から聞こえたその音を聞いた瞬間、顔を引きつら
せた。その瞬間、ガイストがばっさばっさと羽音を立てながら飛び去っていっ
た。
「…」
「…」

 ガラガラ

 音が聞こえてくるのは怨霊武者が消えた瓦礫の方、なんかその瓦礫が動
いている。レイがフィリの両肩を掴むと、フィリに真剣な眼差しを向けた。
「フィリ」
「う、うん」
「逃げるぞ」

 ドガシャァァァァァァァ!!

 レイとフィリが猛然と逃げ出すのと同時に全く『無傷』の怨霊武者が瓦礫か
ら飛び出してきた。
「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!全く俺の攻撃が効いてねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「もうイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 2人の叫びがアマツの地下遺跡に響き渡った。その後2人は無事、怨霊武
者から逃げ切り、アマツの地下遺跡から脱出する事に成功した。

 ◆

 逃げ出したレイ達の様子を物陰から見ていたウェルガが面白そうに笑った。
「ほぅ、確かにラクール=フレジッドの息子のようだな。まとっているものが
『正反対』とは皮肉だな。クックック…」

 ぴた。

 引き上げようとしたウェルガが足を止めた。何故か目の前に怨霊武者がい
たからである。ウェルガは引きつった笑みを浮かべた。
「えーと、何か用かね?」
 怨霊武者はしわがれた声でこう答えた。

 『皆殺ス』

「ちょ…!タンマ!タンマ!タン…ぬうぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 ウェルガの悲鳴もアマツ地下遺跡に響き渡った。

 [続]


〜あとがき〜
 キャラクターの名前ですが、=の後ろの名前は全部RagnarokOnlineに出
てくるカードから取ってます。上の名前は本気で適当っぽいです。強いて言
うなら全体の名前の語呂をある程度よくしてるくらいでしょーか。
 今回でアマツ編は終了です(早  次回は船の上のお話です。


〜登場人物紹介〜
○ウェルガ=サタニック
黒フードをかぶった怪しげな人物。『幻影』と呼ばれている。
多少間が抜けているが、相当な実力者。


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット