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Ocean's Blue

005:幻影現る

 泉水の国アマツに俺が探している妖かし侍はいなかった。

 結果が出ない事には慣れている。

 あての無い旅、旅、旅。そんな旅の中、

 隣にいてくれる彼女のおかげで少しだけ気が楽になったような、

 そんな気がした。

 ◆

 レイとフィリは泉水の国アマツを離れ、ルーンミッドガッツの首都プロンテラ
へと向かう事にした。いったん、首都プロンテラで情報収集から始めようとい
うことになったのである。プロンテラに行くためには、まず船で衛星都市イズ
ルードへと行き、そこから徒歩で行くのである。現在、レイとフィリはアマツか
らイズルードへと向かう船の上にいた。
 船の甲板にあるベンチに座ったフィリは膝の上に乗せていた鷹のガイスト
の頭を撫でながら呟いた。
「ガイスト〜、レイまだかなぁ」
 ガイストは別段何も反応を示さず撫でられるままにしている。レイは先ほど
何か甘い物を調達してくると言い、船の食堂に行ったきりなのである。

 ピク

 ガイストが反応を示した。ガイストが振り向いた先には一人の男が立って
いた。服装からバード、つまり吟遊詩人である、とわかる。その男はササと
フィリの前までやってくると髪をかきあげた。
「ああ…美しい人なんだ。これを歌に託そう…君の瞳はマンドラゴラに喰わ
れる前の少女の哀しい瞳〜エロティシズムを追及した追憶の光〜」
「…」
 フィリの顔が引きつった。絶対、こいつ、やばい、確実に、変態。しかも、
バードのくせに歌が絶望的なほどにへたくそである。

 ばさば…がしぃ!

 厄介事を察知したガイストが飛び立って逃げようとするがフィリがガイスト
の脚をつかんだ。ガイストが凄まじく嫌がり暴れまくるが、フィリに脳天に
チョップを叩き込まれると沈黙した。(気絶したともいう)
「エタ〜ナルな欲望が〜心に響く鍾乳洞〜」
 男の意味不明な、というか果てしなくに卑猥に聞こえる歌は終わる気配が
見えない。フィリは真剣に船員を呼んでこの男を連行してもらおうかと考え
始めた時、その変態男の後ろから女の叫び声が聞こえた。
「あ゙ー!また見ず知らずの女の子にセクハラしてますね!」
 男は歌を止めると、つかつかと歩み寄ってくるその女、クルセイダーのよう
だ、に言い訳がましく主張した。
「僕は!このとめどなく溢れるこの想いを歌にしただけだ!」
「セクハラ的想いは歌にしなくていいです!」

 ごぎん!

 その女は変態男を剣の柄でどつき倒すと、フィリに対して頭を下げた。
「ごめんなさいね、この人ちょっと変態なの」
 床でぴくぴくしている変態男がうめいた。
「エ…エリカ…フォローになってないよ…」
「フォローする必要はありませんから」
 エリカと呼ばれたその女は変態男の主張を切って捨てた。その時、レイが
食堂から大量のイチゴが無造作に積まれた皿を持ってきた後、驚いたように
呟いた。
「ジュニアにエリカじゃないか、お前らもアマツに来てたのか」

 ◆

 4人でテーブルを囲んでイチゴをパクつきながらレイが説明した。
「そっちの男の名前がジュニア、ジュニア=サイドライク。へったくそなバ
ードで変態だ。でもって、ジュニアのお守りで女の方がエリカ、エリカ=フ
レームガードだ。この2人は俺がオヤジから独立してすぐの時にパーティを組
んだ事があるんだ」
 高速嘴つつきでイチゴを食べまくるガイストに負けじと、皿に手をだしてい
たフィリが聞いた。
「その時はどんな冒険をしたの?」
 レイが激しく嫌そうな表情をしながら、頭を抱えた。
「頼む、聞かないでくれ…もう俺は牢屋はイヤなんだ…」
 トラウマができるほど凄まじい体験だったようだ。その様子を見たジュニア
がはっはっはと笑った。
「いや〜あの時は楽しかったよ〜」
 間髪いれず、エリカがジュニアの頭をどつく。
「冗談じゃないですよ!街の中を魔物だらけにして!」
 やっぱり凄まじい体験のようだ。どつかれ慣れているのかジュニアは瞬間
的に復活するとレイに尋ねた。
「ところでこの子はレイの奥さん?」

 ぶば

 レイが噴出したイチゴがガイストにふりかかった。ガイストは抗議のごとく
羽根をばたつかせた。レイはガイストを無視すると動揺した口調でジュニア
の胸倉をつかんだ。
「おおおおお前なぁ!質問が色々超越しとるわ!」
「なんだ、まだ違うのかぁ」
「違うっつーの!しかも『まだ』って何だ!おい!」
 すでにフィリは顔を赤面させ小さくなっている。その様子を見たエリカが
にっこりと笑った。
「でも以前、レイさんが言っていた女の子ってフィリさんの事なんですよ
ね?」
「う…」
 ジュニアと言い合いをしていたレイの言葉が止まった。エリカは手を自分の
頬に当てるとうっとりとした。
「確かあの時のレイさん、寝言でフィリさんの名前…」
「どわー!うわー!のわー!言うなー!」
 レイが慌てて大声でエリカの発言をかき消す。レイの血の叫びが終わった
のを見計らってジュニアが意地の悪い笑みを浮かべた。
「それでは質問、2択問題。レイはフィリの事どう思っているでしょう。
 1、愛している
 2、顔も見たくない

「極端すぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ずがし!

 レイはテーブルを立つと躊躇なくジュニアに延髄蹴りを叩き込んだ。さすが
に効いたのかジュニアは白目をむいて昏倒してテーブルに突っ伏した。
「この話題はこれで終わりだ!いいな!」
「きゃっ、レイさん恥ずかしがっちゃって♪」
「エリカ…お前にも延髄蹴り入れるぞ…」
「冗談ですよ」
 目がマジなのに気がついたエリカがすました表情でそう言った後、ジュニ
アがムクリと起き上がった。完全にキマった延髄蹴りなど物ともしてないよう
な様子である。
「そーいえばつい最近父上の所に、レイのオヤジが来てたよ」
「…なぬ」
 レイがさすがに聞き逃せなかったのか、ジュニアの方を向いた。
「で、俺のオヤジとお前のオヤジはその後、どうなった?」
「怪獣大決戦の後、酒を酌み交わしてた。なんつーか大人の友情というか」
 レイが自分を納得させようと頭を抱えた。
「ま、まぁ俺のオヤジは常識外にいるからな、そういうこともあるだろ…って
おぃぃぃぃ!いいのか!?それで!お前のオヤジはそれでOKなのか!」
「いいんじゃない?父上は満足してたよ。つーか今度は翁も呼んで3人で酒
を飲みたいとか言ってたなぁ」
「ぐ…ぁ……あ…ありえねぇ…」
 レイが世界の終わりがきたかのような表情を浮かべるのを見て、フィリが
不思議そうな表情を浮かべた。
「そんなに凄いことなの?」
 こちらも事情を知っているのか、エリカも引きつった笑みを浮かべている。
「えぇ…まぁ…」

 ゴゥン!!

 その時、突如船が揺れた。嵐がやってきたのか、天候も荒れ狂ったものへ
と変わっていく。
「何だ!?」
 レイが立ち上がると、周囲を見回した。他の乗客も突然のことにパニック寸
前になっている。
「あそこに誰かいます!」
 エリカは船の舳先を指差した。そこには黒フードをかぶった男が立ってい
た。それを見たジュニアが目を鋭くした。
「『幻影』…ウェルガ=サタニック」
「知ってる奴か」
 レイの問いかけにジュニアがコクリと頷いた後、ジュニアが不敵な笑みを
浮かべた。
「というか、レイのお母さんの『手がかり』かもね」
 レイの表情がその一言で鋭いものへと変わった。
「で、ジュニアはどっちにつくつもりだ?」
「そりゃ船が沈められたらたまらないし、レイの『味方』だよ」
「そうか。ならフィリを頼む」
「ほいほい」
 レイはそう言うや否な、アーバレストを手に取り、ガイストとともにウェルガ
の元へと駆け出していった。

 ◆

 ウェルガはレイが近くまでやってきた後、静かに口を開いた。
「ラクール=フレジッドの息子だな」
 レイがアーバレストに矢をつがえ、ウェルガへと向けた。
「そうだ」
「ククク…運命に翻弄されし、ラクールとあの忌々しい女の息子がここまでたく
ましく育っていたとはな」
「オフクロの事を知ってるのか」
 ウェルガは口元をニヤリと歪ませた。それはまぎれもない肯定の証である。
「洗いざらい吐いてもらうぜ、力づくでもな!」
「ほぅ、闇の王の眷属である私に挑むか。いいだろう。どのみち貴様の両親に
は私も借りがあるのでな!」
 ウェルガは右手を一振りさせると7枚のトランプを出現させた。それは全て
ジョーカーであった。
「貴様の力、見てやろう」
 7枚のトランプはその言葉と同時にレイの身長並みに巨大化し、ジョーカー
それぞれから人の姿を模した化け物が這い出してきた。だが完全には這い
出さず、その状態で襲い掛かってきた。ジョーカー達は一斉に巨大な電磁
球を出現させるとレイにそれを放った。
「くっ!」
 レイは電磁球を横に跳んで避けつつ、ジョーカー7体に矢を撃ち込んだが、
仕留められたのは4匹のみだった。しかも残りの3匹は後ろに抜けられてし
まった。
「いいのかな?後ろに抜けてしまったジョーカー3匹を放っておいても?」

「追いかけようとして後ろ向いてブスっとやられたらたまらないしな。それに
別に抜けられても問題ない」
「クク…では第2ラウンドといこうか」
 ウェルガはさらにトランプのジョーカーを取り出した。

 ◆

 ジョーカー3匹がこちらに向かってくるのを見たフィリが慌てた声をあげた。
「下がってて」
 フィリの前にジュニアが進み出た。その時、フィリはジュニアの目が紅く変
化していたのに気がついた。
 最初にジュニアの前にやってきたジョーカーは電磁球を出現させると、恍
惚とした笑みを浮かべながら、それをジュニアに叩きつけた。

 次の瞬間、ジョーカーはばらばらに斬り裂かれていた。

「え…」
 フィリは何が起こったか全く見えなかった。ジョーカーの電磁球すら消滅し
ている。次にやってきたジョーカーも同様にジュニアの近くに来た瞬間、ばら
ばらに斬り裂かれ消滅した。だが今度は少しだけ見えた。ジョーカーが近づ
いた瞬間、ジュニアの手に何か武器のようなものが出現し、目にも止まらぬ
速さでジュニアがジョーカーを斬り裂き、再度それを手の中から消したよう
だ。

「URYYYYYYYYYYYYY!!」

 最後のジョーカーが奇声をあげながら、ジュニアに襲い掛かった。次の瞬
間、フィリは見た。ジュニアが一瞬だけ巨大な大鎌を手に持ったのを。クレ
セントサイダーと呼ばれる魔族の帝王とその眷属しか持っているはずがない
その大鎌でジョーカーを斬り裂いたのを。
「…ジュ…ジュニアってもしかして…」
 動揺に声を震わすフィリにエリカがそっと近寄って耳打ちした。
「これは秘密ですよ」
 となると、先ほどの会話の凄まじさが理解できてくる。レイの父親が酒を酌
み交わした相手はジュニアの父親であって、それはどう考えても魔族の帝王と
呼ばれる最強の魔族の…。
「どーやら向こうも決着がついたっぽいよ」
 フィリとエリカの元に戻ってきたジュニアがレイがいる方を指差した。
「えーと、えーとっ」
 フィリがしどろもどろになっていることで、ジュニアが自分の正体に気づか
れたことに気づいた。
「あー、僕は多分フィリが考えてる通りの存在だけど、普通に接してくれたら
嬉しいな。エリカやレイと同じく友達として」
 フィリはジュニアのその言葉を聞いたあと、エリカの方を振り返った。エリカ
が苦笑を浮かべるのを見て、多分、エリカ達も最初は驚いたのだろう、というこ
とに気がついた。だが、別に相手が人間でなかろうが友人になることは出来る。
「うん、こちらこそよろしくね。ジュニア」
 ジュニアとエリカはその言葉を聞いてほっとしたように笑った。

 ◆

「クッ…ラクールの息子、これ程とはな。いや…あの女の力を継いでいるという
ことかな?」
 ウェルガは手持ちのジョーカーをレイによって全て破壊されていたにも関わら
ず余裕の姿勢を崩してはいなかった。
「言え!俺のオフクロはどこにいる!俺のオフクロをさらった奴はどこにい
る!」
 ウェルガは観念したのか、殺気が消え失せていた。
「クク…お前の母をさらった『彷徨う者』は魔族ではあるが私の仲間ではな
い。私は闇の眷属、奴は死の眷属だ」
「死の眷属だと…?」
「そしてお前の母親は今も生きている」
「!!」
 レイの表情にあからさまな動揺が浮かんだ。その隙を見逃さず、ウェルガ
が船の舳先から海へと飛び込んだ。
「待て!待ってくれ!」
 レイが慌てて叫ぶが、ウェルガは捨て台詞を残しながら海へと消えていっ
た。ガイストが追ったがそれも間に合わなかった。
「フハハハハ!!また会おう!美徳と大罪に翻弄されしユミルの子らよ!」
 ウェルガは嵐の海に消えていったのを成すすべもなく見つめるしかなかっ
たレイは悔しさの余り唇を噛んだ。
「…っ!!」
 手がかりを逃してしまったが、旅を始めてからの初めて目的へ一歩進んだ
のもまた事実であった。

 ◆

 この後近くを通りかかった漁船が、海で溺れていた黒フードをかぶってい
る怪しげな男を保護したらしいが、それはまた別の話。

 [続]


〜あとがき〜
いきなりですがじっさいにはアマツからイズルードには船で行けません。
でもって話を変えますと、「Ocean`s Blue」は3部構成となってます。
さらに話を変えますけど、魔王ですが「Ocean`s Blue」では魔物の王という
意味合いで使っております。魔王というとどーもイメージがダメですね。
「よく来たな勇者よ。どうだ?私の仲間になれば世界の半分をやろう」
とか
「フハハハ!世界を滅ぼす前に貴様達を血祭りにあげるとしよう!」
とか
そんなイメージが強すぎてつかいにくぃ…_| ̄|●lllダメポ
なんつーか自分の想像力が貧困なだけかもしれませんが…。
RagnarokOnlineをやってる人はMVPボスが魔王と思ってくれたらOKです。


〜登場人物紹介〜
●ジュニア=サイドライク
性別:男
年齢:18(魔族年齢)
JOB:バード(吟遊詩人)は仮の姿。実は最強の魔王と言われる
大魔族の息子。何故か人間に化けて旅をしている。
人間への擬態は完璧で見抜かれることは可能性はないに等しい。
普段はおちゃらけているが、実力は魔王の息子らしく異常に高い。
何も無い空間からクレセントサイダーと呼ばれる大鎌を取り出し、
瞬間的に敵をばらばらに斬り刻む。

●エリカ=フレームガード
性別:女
年齢:17
JOB:クルセイダー(聖騎士)
ジュニアとともに旅をしているクルセイダー。こちらはちゃんとした人間。
少なからずジュニアの事を想っているが、
実は鈍感なジュニアには全く気づかれていない不遇の人。
実力は結構高い。


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