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Ocean's Blue

006:ザ・低レベル

 ルーンミッドガッツ王国の北の国境にある都市、国境都市アルデバラン。
その街を悠々と歩く一人のおっさんの姿があった。そのおっさんは服装こそ
軽装ではあるものの、身体のあちこちに刻まれた傷跡と手にもっている重厚
な刃を持つハルバードが歴戦の戦士の風格をかもしだしていた。
 ルーンミッドガッツ王国にとどまらず、多くの国の街の随所にはカプラ職員
と呼ばれる女性が立っている。冒険者達の案内などを一括して手がけてい
る彼女達は冒険者達にとってなくてはならない存在だった。そのカプラ職員
の女性がおっさんに声をかけた。
「ラクール=フレジッドさんですよね?」
「ん?ねーちゃん、ナンパか?」
「違います」
 ラクールと呼ばれたおっさんが尻を触ろうとするのを手ではたき落とした
後、カプラ職員は手紙を差し出した。
「息子さんから手紙が届いてますよ」
 ラクールは手紙を受け取るとすぐに内容を確かめた。それには息子の母
親…つまりラクールの妻をさらった『彷徨う者』に関する情報が記されてい
た。
「ほぉ…ウェルガか、こりゃまた懐かしい名前がでてきたな」
「手紙には何と?」
 愉快気に笑うラクールを不審に思ったのかカプラ職員が聞くとラクールは
こう答えた。
「息子が当たりを引いたかもしれないってことさ」
 ラクールの息子、レイ=フレジッドからの手紙にはいったんルーンミッド
ガッツ王国の首都プロンテラで落ち合おうと記されていた。

 ◆

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラから南東に位置する街、衛星都
市イズルード。港町アルベルタと並んで交易が盛んで、かつ首都がそばに
あるため海上交通の中枢ともいうべき街である。
 レイ達はイズルードに到着したその夜、適当に宿を取り、そこの食堂で
テーブルを囲んで今後のことを話していた。
「ジュニア達はどうするんだ?」
「う〜ん…僕は取り立てて旅の目的がないんだよね。ぶらぶらしながら人間
界を見て回りたいだけだし」
 レイの質問にジュニアがそう答えた後、エリカが続けた。
「私はコレのお目付け役ですから、こんな危険人物は放っておけません」
「ひどぃなぁエリカ〜、僕のどこが危険人物なんだよぅ」
「全部ですね」
「全部だな」
 エリカとレイが言葉を揃えて言ったため、ジュニアががっくしと肩を落とし
た。ガイストの前にさくらんぼをぶら下げて遊んでいたフィリが慌ててフォ
ローを入れる。
「いや、でも、ほら!人物じゃなくて魔物だし!」
「いやそれフォローになってないから」
 レイがツッコミを入れた後、腕組みをした。
「俺の方はオヤジに首都に来るよう手紙を出しておいたから、その後はオヤ
ジと話合ってから決めるつもりだ」
「!!」
 その言葉を聞いてバッ!とフィリがレイの方を振り返った。

 父親に挨拶!!

「私!お風呂入ってくる!」
 どたどたどたどた、疾風怒濤のごとくフィリが(ガイストを抱えたまま)消え
ていった。
「…色々勘違いしてるね」
「…」
 ジュニアのツッコミにレイが頭を抱えた。その様子を見て苦笑したエリカも
席を立った。
「ついでですし私もお風呂に行ってきますね」
 そう言うと、エリカはフィリの後を追って歩き始めた。

 2人がいなくなった後、ジュニアもまた席を立った。レイが半眼になってジュ
ニアに尋ねる。
「どこに行くつもりだ」
 ジュニアはふわさっ…と髪をかき上げ、口元に柔らかな笑みを浮かべた。
「桃源郷覗き」
「ダブルストレイフィング!!」

 ズドガァン!!

 レイは瞬間的にアーバレストに2本の矢をつがえると、ジュニアにぶち込ん
だ。衝撃波は食堂の一角を破壊し、崩れた瓦礫の中にジュニアは消えて
いった。
「悪は滅びた…」
 瓦礫の中から半死状態になったジュニアが這い出してくると言葉切れ切れ
に主張した。
「…君は男の浪漫が…理解でき…ないのかっ…!」
「どうやらもう一度ぶち込まれたいらしいな…」
 その言葉を聞きジュニアがゆらり…と立ち上がった。
「フッフッフ…僕もこうなったら後には退けないよ…」
「ていうか魔族の帝王の息子が全力で風呂覗こうとすんなよ!」
「フッフッフ…魔族だって発情するんだよ…」
「ごめん…お前『迷宮の森』に帰れ…」
 仮にも魔族を統率する魔王の息子の下品な発言に心底嫌そうな表情を浮
かべつつレイがそう言うと、ジュニアの眼に殺気が宿った。
「レイ…男の尊厳をかけた勝負だ!!」
 そうジュニアが咆哮した瞬間、ジュニアとレイの肩を何故かアロハシャツを
着ている宿の店員の男がぽむと掴んだ。
「ヘィ!お客さん、修理費込みでお値段はこーなります、ドゥ〜ユ〜アンダス
タンッ?」
 金額を見たレイとジュニアの顔が一瞬で蒼白になった。
「ちょっ…この値段はあんまりだろ!」
「そうだよ…僕は破壊に巻き込まれただけだしっ!」
「待て!元凶はお前だろーが!」
「ははは、そういうことを言うのはこの口かな?かな?」
「ひぇめぇ!口をひゅかむな!」
 ケンカを再発させた2人の肩に手を置いた店員はにっこりスマイルを浮か
べた。
「金払えボケ^^」

 ◆

「ふ〜いいお湯だった。ねっ、ガイスト」
 フィリは宿に備え付けて合ったバスローブを羽織るとガイストを連れて部屋
に戻った。ちなみにレイとジュニアで一部屋、フィリとエリカで一部屋とってあ
る。ちなみにエリカは長風呂が好きらしく、フィリが先にあがってきたのだ。
「ていうかさっきから食堂の方が騒がしいけど何かあったのかな…」
 フィリはそう言いながら、普段来ているセイントローブを水で洗い始めた。

 じゃばじゃば

 数十分後、洗い終わったセイントローブをハンガーにかけて干した後、フィ
リはエリカの荷物の近くに一枚の紙が落ちている事に気がついた。
「何だろ」
 フィリはその紙を拾い上げた。その紙にはこう記されていた。

『 私は転校生のエリカっ!転校初日で遅刻だなんて皆に笑われちゃう!私
 は一生懸命学校まで走って走って!角で曲がったときあの人にぶつかった
 の!「ごめんね、大丈夫かい?」あの人は優しい声で私に声をかけてくれ
 た!あの人の名前はジュニアさん!ああ、私の恋の物語はここからスター
 トするのね!…(以下略) 』

 フィリの手が震えた。しまった、とんでもない物を見てしまった。何とい
うかこれは見なかったことにして、永遠に封印するのがいいのでわ。
「フィリさん」
 びくぅ!首をギギギとまわしながらフィリは声のした方向を振り返った。そこ
にはフィリが今一番会いたくない人物が立っていた。
「あ、あは、あははは!エリカさんお風呂あがったんだー!」
 フィリと同様バスローブを羽織ったエリカはとびきりの笑顔を浮かべた。と
いうか何故かエリカの手には剣がすでに抜き身の状態で存在していた。
「見ましたね」
 笑顔とは裏腹の地獄の底から聞こえてくるかのような怨嗟の声。
「あ、あは…」
 フィリの顔が恐怖に引きつる。ベッドの方をちらりと見るとガイストはすでに
いない。毎度毎度逃げ足の早い鷹である。
「ガ…ガイストの薄情者ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 フィリが半泣きになりながら一歩だけ後退りした。エリカは笑顔だったが、
またあの地獄の底からのまるで鬼神のような声で発言した。
「アッハッハ死ね死ね逝けアヒャヒャヒャ!!」
「うっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 フィリが全力疾走で跳躍して襲い掛かってきた鬼神から逃げ始めた。

 ◆

 どだだだだだだだだ!!

 瓦礫の後片付けをさせられていたレイはフィリが宿の階段を物凄い勢いで
降りてくるのに気づいた。ちなみにジュニアは宿の外で片付けをしている。
「レイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ん?どうしたん…おわぁ!!」
 フィリはそのままレイに抱きついた。
「おいおい、一体どうしたんだ……ぅ」
 フィリは下着にバスローブを羽織っただけである。しかも全力疾走してきた
のでかなり服装が乱れている。目のやり場に困って、そっぽを向いたレイが
聞いた。
「一体どうしたんだよ…っていうか服直せ」
「私!殺される!埋められる!」
 フィリが追い詰められた獣と同じ目でレイに訴えた。あまりにも必死なので
レイもただ事でないと察知したのか、表情を硬くした。
「と、とにかく、落ち着け。一体何に殺されるんだ」
 半泣きのフィリが指差した。
「う…アレ」
 レイはフィリがアレといったものに視線をうつした。レイの視線の先には般
若の形相のごとき、エリカが剣を振り上げていた。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 レイはフィリを抱きかかえると、その剣閃をかろうじて横に跳んで避けた。

 ズブォン!!ドガ!!

 鈍い斬撃音とともに、エリカの剣が床に突き刺さった。エリカは剣をゆっくり
ずぶずぶと床から引き抜きながら微笑んだ。
「うふふふ、避けないでくださいよぅ…血が、血が見たいんですよぉぉぉ!」
 レイが蒼白な表情でフィリに詰め寄った。
「おおおおおお前何した!何をしたぁぁぁぁ!エリカのキャラが完全に13日の
金曜日にでてくる怪人も真っ青な状態に変わってるぞ!!」
「うわーん!ちょっとエリカさんの荷物の近くに落ちてた紙を読…」
 フィリの言葉がそこで止まった。無言の圧力、とてつもない恐怖。エリカか
ら発せられる鬼神のごとき鬼気。それを肌でひしひしと感じたためである。
 フィリは目を潤ませながらレイにしがみ付いた。
「レイと死ねるなら…私は本望だよ」
「俺が死ぬのは確定かよ!!」
 じりじりとにじり寄ってくるエリカから、後ずさりして逃げる2人。レイは頭をフ
ル回転させて作戦を練り上げた。ガイストで足止めしてその隙に逃げるしか
ない、レイはそう考えた瞬間、叫んだ。
「ガイスト!来い!」

 し〜ん

 レイの額から一筋の汗が流れる。
「おい、フィリ…まさか」
「ガイストなら最初に逃げたよ…」
 レイは頭をかきむしって叫んだ。
「うがぁぁぁ!あのクソ鷹ぁぁぁぁぁ!絶対焼き鳥にして食ってやる!」
「あはははははっ♪」
 その瞬間、エリカが笑顔で剣を振り回しながら襲い掛かってきた。
「どぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
 レイは今までの経験、戦いでつちかってきた全能力を駆使して、その攻
撃を避けまわった。(フィリをかついだまま)
「くそ!大体何で俺がこんな目に!フィリ!一体何したんだよ!」
 フィリが目の幅涙をるーっと流した。
「うう、私、レイに会えて…嬉しかった…」
「諦めるな!力尽きるな!原因を言えぇぇぇぇぇぇ!!」

 エリカが笑顔に笑みを浮かべながら跳躍した。
「アッハッハッハッハヒャヒャヒャ!!」

 ブゥォン!!

「ぬぉぁぁああああ!!」
 エリカの剣から生まれでた炎の衝撃波がレイを吹き飛ばした。ちなみに
フィリは炎がぶつかる瞬間、レイから離れてその攻撃を避けた。

 ガラガラ…パラパラ…

 フィリは瓦礫へと消えていったレイに祈りを捧げた。
「あー…ご、ごめ」
 全く持って説得力のない聖職者の祈りである。
「ウフフフ、次は貴女の番ですよぉぉぉぉ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」
 フィリは脱兎のごとく鬼神から逃げ出した。宿の中を逃げ回り、最後に
は風呂場で追い詰められてしまった。風呂場の入口、要するに退路を塞い
だエリカが優しい一言をフィリにかけた。
「ご先祖様にいっぱい会えますよ♪」
「言葉の裏に秘められた殺意がイヤぁぁぁぁぁ!!」
 その言葉と同時にエリカが跳躍した…瞬間、エリカは風呂場に落ちてい
た石鹸を踏んで思いっきりこけてしまった。

 がづ!!

 エリカは風呂場の床に頭を思いっきりぶつけて気絶してしまった。今ま
で暴れたせいでエリカのバスローブの背中がはだけてしまっている。
「う……も…もうイヤ…」
 フィリもそのままぐったりと風呂場の床に顔を突っ伏して力尽きてし
まった。

 フィリは気づかなかった。

 はだけたエリカの背中に十字架が浮かび上がっていた事を。

 ◆

 イズルードからプロンテラへと続く街道を歩きながらレイがぼやいた。ちな
みにフィリは昨日の恐怖が祟ったのか完全に放心状態である。
「だからこいつらとかかわるのはイヤだったんだ…」
 ジュニアは楽しそうに笑いながら、エリカは申し訳なさそうに答えた。
「はっはっは、僕らも旅に同行することになったから、こ〜ゆ〜ことは慣れて
もらわないとね〜」
「あの、すみません。昨日の記憶が全く無いんです、何か不都合があったん
でしょうか?」
 不都合大ありだ、と心の中で毒づきながらレイがガイストの首を絞めた。
「ていうかテメェ、ご主人様の危機に逃げるたぁど〜ゆ〜了見だ、コラ」
 ガイストがばっさばっさと羽根をばたつかせながら大暴れしたので、レイは
手を離すと、ガイストは慌ててレイから離れて、鳴いた。
「ケッ」
「おおおおおお前ぇぇぇ!何だそのクソ生意気な鳴き方は!ご主人様を嘲っ
たのか!嘲ったのか!?」
「ペッ!」
「焼き鳥にしてやる!」
 猛ダッシュでガイストを追いかけ始めたレイを見たジュニアが楽しそうに
笑った。
「また、楽しい旅になりそうだね」
 その言葉にエリカが微笑んだ。

 ◆
 
 街道を歩いていく4人を丘から見下ろしていたウェルガが口元をニヤリと歪
め、嘲笑した。
「なるほどな、十字架同士が引き合っているということか…クックック…」
 ウェルガのその言葉は誰にも届かず風にまぎれて消えていった。

 [続]


〜あとがき〜
RagnarokOnlineでの上位2次職、「Ocean`s Blue」では世界に10〜20人くら
いしかいないっていう設定になってます。そのうちの一人が主人公のおやぢ
ですね。今回の話はいわゆるバカ話なので、特に書くこともなくあとがきもこ
れにて終了しま〜す(´∀`)


〜登場人物紹介〜
●ラクール=フレジッド
性別:男
年齢:40
JOB:ロードナイト
レイの父親。魔王と互角に戦ったり、交流があったりと謎な人。
20年前『トリスタンの悪夢』で闇の王ダークロードを討ったパーティの一人。
『彷徨う者』にさらわれた妻の行方をずっと捜している。


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