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Ocean's Blue

007:首都プロンテラ

 8年前、レイがアルベルタに滞在した時には色々あった。

 泣いたこともあるし、それ以上にたくさん笑った。

 あれが自分にとっての初恋なんだろうと思う。

 そしてそれは今も続いている。そしてこれからもずっと続くのだろう。

 レイと2人で海を、蒼い大洋を、

 「Ocean's Blue」を見たあの日から始まったこの恋は。

 ◆

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラと衛星都市イズルードはそう大し
た距離はひらいてはいない。徒歩で数時間ほどの行程である。というわけで
レイの一行は昼からイズルードを出たが、その日の夜にはプロンテラに入っ
ていた。

 プロンテラにある宿屋の食堂でレイは街の入口でカプラ職員から受け取っ
ていた手紙を開いた。
「う〜ん、少し早く着きすぎたか…」
「レイのお父さん、何って?」
 フィリがそうレイに聞くと、レイがやれやれとため息をついた。
「オヤジの奴がプロンテラに来るのは、早くて明後日ってとこか」
 フィリは少し考えた後、少し頬を染めつつ口を開いた。
「レ、レイ。それなら明日は私と『2人』で露店みまわろうよ」
「お、おお、別にいいけど」
 やたらと『2人』の部分を強調しているフィリにたじろぎながら、レイはそう答
えた。その様子を見ていたジュニアとエリカが人の悪い笑みを浮かべた。
「おんやぁ〜明日はデートかなぁ〜?」
「若いっていいですねぇ〜」
「バッ!バカ!何言ってんだ!普通に買い物だ!買い物!」
「そ、そうよ!買い物!っていうかエリカもジュニアも私たちとそ〜歳は変わ
らないでしょ!」
「それはそうと」
 その反論をさらりと流しつつ、ジュニアが口を開いた。
「明日はエリカも忙しいんだよね?」
「はい、聖騎士団の詰め所に寄って、姉さんに挨拶してきます」
「僕だけヒマ人だなぁ、家族水入らずの所に乱入するのは悪いだろうし、アツ
アツの2人の間に割り込むのは論外だしなぁ」
「だから、おい」
 レイの反論を無視してジュニアがガイストをがしぃ!と抱きしめた。
「僕の友達は君だけだ!愛してるよ!」
 ばっさばさささばさばさ!!真剣に嫌がっているガイストが何とか逃れよう
とジュニアの腕の中でもがいていた。
「あ〜ガイスト」
 そんなガイストにレイが助け舟を出した。ガイストが助けを懇願するかのよ
な瞳で自分の主人の眼を見つめている。
「明日ジュニアに付き合ってやれ」
 全然助け舟ではなかった。
「クァーっ!!」
 ばさ!ばさばさばさ!ばっさばっさ!主人に見捨てられた鷹が本気で暴れ
だしているがジュニアはそれを難なく押さえこみつつ、レイに視線を向けた。
「あれ、いいんだ?ガイストってアレなんだろ?」
 エリカとフィリが何のことかわからずにキョトンとした表情を浮かべた。レイ
はどうでもよさげな視線でジュニアを見返した。
「まぁそうなんだが。それがわかってるなら逆に安全とは思うんだが」
 ジュニアはその答えに満足したのか口元に笑みを浮かべた。
「まぁね。僕も圏内かもしれないし」
 ジュニアはそう言うと椅子から立ち上がった。
「さてと、僕は先に休ませてもらうよ。ガイストは借りてくよ」
「ああ」
「グ〜ァ〜!!」
 ジュニアの姿とともにガイストの断末魔が宿の寝室の方へと消えていっ
た。

「先ほどの話は一体…?」
 エリカがさっきの2人の会話をレイに問いただした。フィリもまた興味がある
のか黙ってレイに視線を向けている。
「ほら、ガイストって普通の鷹じゃないだろ、芸ができるとか、ちょっと頭がい
いとか。そう言う話」
 嘘だ。フィリとエリカはそう感じた。
「普通の鷹よりは頭がよさそうですよね」
「っていうか人語が理解できてるっぽいしなぁ」
 エリカとフィリがそう相槌をうつ。だが先ほどの会話にはこんなことではな
い何かが潜んでいた。2人の間にあったものは殺気にも近い雰囲気だった
のだから。
「さてと、俺も寝るかな」
 レイは強引に話を打ち切ると椅子から立ち上がった。
「あ、レイ。明日のことだけど」
「朝の9時に噴水前、んじゃお休み」
「あ…お、お休み」
 レイはひょいひょいと寝室がある方へと歩いていってしまった。
「…」
 少し不安げな表情を浮かべていたフィリにエリカがそっと耳打ちした。
「明日のデート頑張ってくださいね」
「…っ!」
 途端に赤面したフィリが慌てて反論する。
「だ〜か〜ら〜っ!」
 2人はその後、疲れ果てて力尽きるまで騒いでいたらしい。

 ◆

 次の日、フィリは8時に宿屋をでた。噴水前まで10分程度で行けるので異
様に早く宿屋をでたことになる。
「…」
 要するに舞い上がっていたわけだが。

 噴水前にもっと舞い上がっている奴が立っていた。
「レ…レイ?」
「お、おう。早く着きすぎてな」
「いつからいたの?」
「企業秘密だ」
 フィリはクスリと笑うとおもむろにレイの手を取った。
「ちょっと早いけど行こっか?」
「ああ」

 ルーンミッドガッツ王国では商人ギルドに登録している者は『どこでも』店を
開くことが許されている。それを露店という。街道に開く者もいれば、人の店
の中に陣取る者もいる。危険な洞窟の入口で露店を開く者など、人の数だ
け多種多様な露店が存在している。売っている物も様々で露店ごとに売り物
が違う上に、凄まじい掘り出し物が売られている場合があるので、露店を
チェックするのは冒険者にとって必須事項となっている。
 ではその露店がもっとも集まるのはどこか。それは当然、街である。安全
が確保されているし、何より人の集まる場所には物も集まる。つまり露店の
数を言うならルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラは最も露店が多い街と
いうことになる。

 露店の一つで足を止めたレイは店主の女ブラックスミスに声をかけた。
「なぁ、最近のオリデオコンの相場ってどの程度なんだ?」
 女ブラックスミスは少し考え込みつつ答えた。
「最近は変動が激しいんですけど、それでも以前よりは安くなってる方です
よ。ああ、それとうちで扱ってるオリデオコンは他より安めに値段設定してま
すけど」
「それは自分の目で確認した。純度とかは大丈夫なんだろうな」
「そこは心配いりませんよ。純度は自信あります」
 レイは財布を取り出した。
「オリデオコンの結晶を5つほどもらえるか」
「は〜い、毎度あり〜」
 支払いの様子を見ていたフィリがレイに尋ねた。
「武器でも鍛えるの?」
「最近、アーバレストの強度がやばくてな。買い替えの時期みたいだ」
 ちなみにオリデオコンとは武器を鍛えるために必要な鉱石である。逆に防
具を鍛えるにはエルニウムという鉱石が必要となる。
「弓の方は?」
「さっきまで見てた分だと良さそうな弓はいくつかあったんだけどな、ちょっと
品の割りには高すぎな気がした」
「ふ〜ん」
 その2人の会話を聞いていた女ブラックスミスがにたりと笑みを浮かべた。
「ところで彼女には何か買ってあげないんですか〜?彼氏〜?」
「っ!」
 レイが慌てて振り向くと、女ブラックスミスは商業スマイルを浮かべてアク
セサリを数点取り出した。
「ブローチとかネックレスは他の店よりは安めですよ〜?」
 レイは赤面しているフィリの顔と女ブラックスミスの顔を交互に見た後、観
念したように言葉をしぼり出した。
「フィリ、好きなの選べ」
 フィリが驚いた表情を浮かべてレイの顔を見た。
「いいの?」
「これはデートなんだろ、なら別にいいだろ」
 レイが顔をそらしながら言うと、フィリが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん。ちょっと待っててね」
「よかったですね、彼氏に物を買ってもらえるなんて羨ましいですよ」
「うーあー!だからまだそういう関係じゃ!」
「これなんかどうです?」
 女ブラックスミスは一対のイヤリングを箱から取り出した。
「綺麗…」
 女ブラックスミスはにこりと笑った。
「このイヤリングの持ち主、全員変死してますけどね〜」
「いりません」
 フィリは即座にイヤリングを女ブラックスミスに突き返した。
「あらら、残念」
 フィリはイヤリングが入っていた箱の向こう側にある箱に視線を向けた。
「あっちの箱には何が入ってるんですか?」
 女ブラックスミスはキョトンとした後、人の悪い笑みを浮かべた。
「あ〜これなんかいいかもしれませんね」
 女ブラックスミスがその箱のふたを開けた。中には綺麗な指輪が入ってい
た。
「ゆ…びわ?」
「これとかいいと思いますよ?」
「う、う〜ん」
 フィリは恥ずかし気にレイの顔と指輪を交互に見た。視線を感じたレイが女
ブラックスミスに声をかけた。
「じゃあ、それで」
「レ、レイ!?」
「イヤなのか?」
 顔をブンブンと振りながらフィリが慌てて答えた。
「う、うううううん!そんなことない!」
「毎度あり〜ところでこれは彼氏にはめてもらいますか?」
「あ〜!あ〜う〜!自分ではめます!」
 女ブラックスミスから指輪を受け取ったフィリは自分で指に指輪をはめた。


「ところで」
 その様子を微笑ましげに見ていた女ブラックスミスはレイに声をかけた。
「彼氏〜、これから弓を買って、精錬所ですか?」
「そうだな、弓を鍛えないといけないし、最終的には精錬所かな」
「ああ、私のギルドのマスターが精錬所にいるかもしれないので、暴れだした
らぶっ飛ばしておいてください」
「は…?」
 その言葉にレイとフィリの目が点になる。2人の困惑をよそに女ブラックスミ
スはフィリに声をかけた。
「彼氏とお幸せに〜、彼女〜」
「あの!だから!」
 レイが頭をおさえながら言葉をしぼりだした。
「つーかさっきから彼氏彼氏って…俺にはレイっていう名前が」
「私はフィリです!」
 女ブラックスミスはにっこりと笑った。
「私の名前はバステトです。もし私のギルドのマスターに出会ったらしっかり
ぶっ飛ばしておいてくださいね」
 その女ブラックスミス…バステトはそう2人に告げた。

 ◆

  エリカはプロンテラ聖騎士団の詰め所にやってきた。だがそこで違和感を
感じた。全体的に生気がないというか、なんというか地獄を見てきた後という
か、そんな感じなのである。エリカが近くにいた屈強なおっさんクルセイダー
に尋ねた。
「お久しぶりです、何かあったんですか?」
「おお、エリカか。久しぶりだな。何…地獄を垣間見てきただけさ…ぐふ」
 そのままそのおっさんクルセイダーは白目を剥いて気絶した。
「…こ…これは…」
 と、その時、ばたん!という音ともに詰め所の扉が開いた。ずかずかと一
人の女パラディンが詰め所に入ってきた。プロンテラ聖騎士団の副長補佐、
セレス=ドラウジーである。ちなみにエリカの言っていた姉とはこの女性であ
り、セレスとエリカは従姉妹である。
「ね…姉さん?お、お久しぶりです」
 セレスが鬼気迫る表情でギロリとエリカを見た。
「ひ…ね…姉さん?」
 エリカの顔を見たセレスが突然にっこりと笑った。
「あら、エリカ〜そうか〜私たちの危機に駆けつけてくれたのね」
「…へ?」
「実は大変なことが起きてるのよ」
「えっと聖騎士団の人たちが死にかけてるのもそれが原因だったりします
か?」
 セレスはそれに答えずにこにこ笑みを浮かべた。
「あなたは栄えあるプロンテラ聖騎士団の一員よね?」
「あ…え?」
「 一 員 よ ね ? 」
 ぐわしぃ!セレスはエリカの首を無造作に掴みながら微笑んだ。逆らうと
首をへし折られる。絶対にへし折られると思ったエリカが頷いた。
「は、はい。私はプロンテラ聖騎士団エリカ=フレームガードです!」
「ではエリカに新たな任を与えます!私とともに魔物退治に来なさい!」
「…は?私は挨拶に来ただけ…ぎゅぶる!」
 ミシミシミシミシ!首を締め上げながらセレスが微笑んだ。
「答えは〜?『yes』か『はい』のどちらかで答えなさい♪」
「は、はぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!」
「では状況を説明します。敵の場所はプロンテラ西方にある地下水路です。
敵は盗蟲です」
「…ぇ?」
 ちなみに盗蟲とは人類の敵、台所とかにいて奥様にスリッパで倒されてい
る黒光りのアレの事である。
「そ、それくらいなら私たちがでなくても」
「デカいのよ」
「え…」
「デカくて、飛ぶのよ」
「は…」
「デカくて、飛んで、突進してくるのよ」
「う…」
「軽く300匹はいる、3メートルぐらいの大きさの盗蟲が飛んで突進してくるのよ
hlんcsふぁsふぃおhfsぢおcfそだああああああああ!」
 セレスが壊れた。
「うう…来るんじゃなかった…」
「逃〜が〜さ〜な〜い〜わ〜よ〜ほ〜っほっほ!エリカも一緒に地獄へレッ
ツゴ〜!!」
 ゾンビのごとく歩いてきてエリカにしがみついたセレスが狂乱した哄笑をあ
げまくった。
「助けてくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 エリカの断末魔がプロンテラ聖騎士団詰め所に響きわたった。

 [続]


〜あとがき〜
前後編としてますが、プロンテラ編は数話に及ぶ予定だったりします。
次回!ついにあの男が現れる!?予定かもしれないです。
よく考えたらROでプロンテラ騎士団には詰め所があるのに、
聖騎士団には詰め所がないですね…
城の中になん変なおっさんが立ってるだけですし。


〜登場人物紹介〜
○バステト
プロンテラで露店を開いていた女ブラックスミス。
あるギルドに所属しているらしい。

●セレス=ドラウジー
性別:女
年齢:19
JOB:パラディン
若輩ながらプロンテラ聖騎士団副長補佐についている凄腕の聖騎士。
隊長のラティ、副長のヴェルクを影ながら支えている。


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