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Ocean's Blue

008:結びつく因縁

 人と人の縁は偶然結びつく。

 例えそれが互いに激しく対立する因縁だとしても。

 フィリと2人で街を歩いている時、俺と奴は出会った。

 思い返せばここから始まったのだ。

 俺と奴の戦いが。

 ◆

「お2人さん?占いなどいかかですか?」
 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラでの露店めぐり…と名の付いた
デート(?)の最中、レイとフィリはいかにも胡散臭い占い師の男に呼び止め
られた。
「あー悪ぃ、俺占いなんて信じないから」
 レイがそう言うと占い師の男は残念そうに呟いた。
「そうですか…あなた方2人の旅の助けになれば…と思いましたが。そちらの
男性の方は人探し、女性の方は自分の出生を知りたいのでしょう?」
「!!」
 レイとフィリは目を驚愕で見開いた。フィリが恐る恐る口を開いた。
「わ…わかるの?」
「えぇ、といっても漠然なものですが。ですが、これからのあなた方の旅の指
針になればと思うのですが。無論、料金は頂きませんし、騙されたと思って
やっていきませんか?」
 レイとフィリは顔を見合わせると、レイは渋々、フィリは嬉々として、占い
師の前に座った。占い師はニコリと笑うと、レイとフィリの手をそれぞれ右手
と左手でとった。
「はい、結構です」
「え?もういいんだ?」
 フィリが驚いて聞き返すと、占い師は微笑んだ。
「はい、では結果をお知らせしますね」
 占い師は静かに口を開いた。
「伝える事は3つです。
 1つ、十字架を得んとすれば砂漠を越えよ。
 2つ、今日この日、因果なる縁結びつく。
 3つ、2人の間は急速接近♪
どうでしょう?私には何の事かはわかりませんが、ヒントくらいにはなりまし
たか?」
「十字架…!?」
 十字架という単語が出た瞬間、フィリの顔が強張っていた。レイはフィリが
驚いていた十字架というフレーズよりも2つ目のフレーズが気になっていた。
「今日何か騒動に巻き込まれるってことか…?」

「って!!」
 その瞬間、レイとフィリの声がハモった。占い師は2人のその反応が楽しい
のか朗らかに笑った。
「あっはっは、お2人とも似た者カップルですねぇ〜」
「あのな〜っ!!」
 レイが顔を真っ赤にしてつかみかかるのを、ひょいひょいと避けた占い師
は、はっはっは〜と笑いながら逃亡していった。さらに逃げる間際に占い師
は自分の事を言い置いていった。
「私のことは『道化師』とでも呼んでください〜♪またのご利用よろしくお願
いしま〜す♪」
「2度とするかぁぁぁぁぁぁ!!」
 レイの叫びが届いたかどうかは全く持って謎である。

 ◆

「ったく…何だったんだ、あいつは…」
 ぶつくさ言いながら歩くレイの隣で、頬を染めてうつむいたままのフィリが
ぼそっと呟いた。
「だったら…いいな…」
「ん?何か言ったか?」
 フィリは慌てて顔を上げるとぱたぱた手を振った。
「ううん、何でもない何でも!あ、そーいえば後は精錬所に行くだけだよ
ね?」
 レイは肩にかついでいた大型の『ハンターボウ』を手に取った。
「ああ、良質の弓が手に入ったからな。精錬所で鍛えないと」

 しばらくして、2人は首都プロンテラの中央にある噴水の近くにある建物へ
とたどり着いた。プロンテラ唯一の武具精錬所である。ここではホルグレンと
いう鍛冶屋が日夜、冒険者達の武具を鍛えるため槌を振るっていた。
 ホルグレンの凄い所は限界ギリギリまで鍛えられた武具をさらに精錬する
ことができることにある。それにより武具はさらに強化され、冒険者達の旅を
さらに豊かにするのである。だが、それにはリスクも伴う。最初から限界ギリ
ギリまで鍛えられている武具である。それをさらに強化しようというのだか
ら、無理が生じて武具が壊れることがある。だが、精錬料はしっかり取るの
で、一部の冒険者からは「この詐欺師!」とか「クソグレンが!」などと陰口
を叩かれている。

「あーうー人多いね」
 人で溢れ返っている精錬所に入ってすぐフィリが正直な感想をもらした。
「順番待ちか…ここが最後尾ですか?」
 レイは最後尾と思われる銀髪の騎士に声をかけた。
「ああ」
 銀髪の騎士は短く答えると、ブツブツとぼやいていた。
「っくそ…あいつら俺を置いて帰りやがって…」
 銀髪の騎士の風体ははたから見ると異様だった。頭には俗に言う紳士が
かぶる黒いつばを持つ高級品の帽子『スィートジェントル』をかぶっているの
だが、目にはサングラス、口元には草の葉をくわえている。凄く異様である。
 レイは何が不満なのかブツブツと文句を呟いているその騎士の後ろに座り
こんだ。フィリがその隣に座る。順番待ちの時間が長いため、待っている客
は皆、精錬所の中で座り込んでいるのだ。
「フィリ、ヒマだったら先に宿に戻っていてもいいぞ」
「ううん、私はレイと一緒にいたいから…」
「う、そうか」
 その会話を聞いた銀髪の騎士がニヤニヤと笑みを浮かべた。
「健気だね〜、彼女?」
 その言葉にフィリが慌てて首をブンブン振りながら否定した。
「ちっ…!まだ違います!」
「ふ〜ん、まだ…ね。お互いに脈はありそうだな、羨ましいこった」
 銀髪の騎士はそのままどよ〜んと落ち込んでしまった。
「ホント羨ましいぜ…俺のまわりにいる女は…性格優しそうに見えて実は凶
暴か、たおやかな乙女に見えて実は凶悪か、女の鏡のような仕草で人を虫
けらのように踏み潰すような連中ばっかりなんだ…」
「それは…ご愁傷様としか言いようが…」
 レイが引きつった笑みでそう答えると銀髪の騎士はさらにどよ〜んと落ち
込みながらボソボソ呟いた。
「まわりにいる男も男で…笑いの神の権化みたいな奴とか…存在そのもの
が岩みたいな奴とか…そんなんしかいねぇし…何なんだ、この落差は!!」
 がばり!と突然、銀髪の男が立ち上がった。
「普通の奴はいねぇのか!普通の奴はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるせぇぞ!黙ってろ!」
 凶暴そうな他の客から怒鳴られ銀髪の騎士が再び座り込んだ。
「ちっ…心の狭いクソ虫だぜ…」
 その呟き声を聞いた今怒鳴った凶暴そうな客が凄んだ。
「何か言ったかァァ!?」
「いえ何も言ってません。生まれてきてごめんなさい」
「次はねぇからな!」
 平然と卑屈になりつつ銀髪の騎士はその凶暴そうな客をやり過ごした。
何というかこの銀髪の騎士は変な奴である。レイとフィリは心の底から
そう思った。
「俺と比べると君たちはめぐまれてるよ…っと俺の順番がきたみたいだ」
「あ、ああ」
 レイはもう頷くことしかできなくなっていた。


 そして銀髪の騎士とプロンテラの名工ホルグレンが対峙する。ホルグレン
が静かに口を開いた。
「さて…精錬するものを出してもらおうか…」
 銀髪の騎士は不敵な笑みを浮かべると静かに頭に手をのばした。紳士の
象徴とも言える『スィートジェントル』と精錬に伴う料金を静かにホルグレ
ンへと差し出した。
「こいつを…頼む」
「こいつは既に鍛える所まで鍛えてあるな…精錬が失敗するかもしれない
ぜ?それでも…いいのか?」
 ホルグレンの問いかけに銀髪の騎士は真摯なる眼差しで持って頷いた。
「やってくれ」
「お前の魂…受けとった。任せておけ」
 ホルグレンが槌を手に取った。あらゆる物を強化すると言われる伝説の槌
である。ホルグレンが『スィートジェントル』に槌を静かに振るった。

 ベキョ

 即殺。
「…」
 ホルグレンと銀髪の騎士が揃って沈黙する。そしてホルグレンが静かに口
を開いた。

「くほほほほ」

 精錬に失敗した者の神経を逆撫でするかのような笑いだった。銀髪の騎士
はよろよろと数歩下がりうつむきながらブツブツ呟き始めた。
「やるんじゃなかった、やるんじゃなかった、何で俺は挑戦したんだ、やっち
まったんだ、一張羅しかない帽子なのに、やっちまった、時よ戻れ、時間よさ
かのぼれ、ハッハッハッハッハ……ハ…ハ…」
 銀髪の騎士の動きがピタリと止まった。

 スラリ

 そんな音をさせながら銀髪の騎士は腰にさしてあった剣を引き抜いた。
「ふ…フ…へ…は…くくくくクく…」
 その異様な雰囲気にレイ達はおろか他の客も後ずさった。そして銀髪の騎
士はホルグレンに向かって跳躍した。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おい!待て!店の物を壊すな!お前の足りない脳みそを精錬するぞ!」
 ホルグレンの血の絶叫をあげながら銀髪の騎士から逃げ回った。

 ズガ!ドガ!ドガドガドガ!!バキメシャズガァァァァァ!!

 血の叫びとともに大暴れを開始した銀髪の騎士はさながらバーサーカー
のような暴れっぷりであった。レイがフィリをかばいつつ叫んだ。
「って!さっきの女ブラックスミスが言ってたのってこれのことか!?」
 バステトと名乗っていた女ブラックスミスがうちのギルドマスターが暴れ
たら殴り倒せとか何とか言っていた気がする。
「って…さっきの『道化師』さんが言っていた因果なる縁ってコレとか!?」
 フィリがレイに問い返す。2人は顔を見合すと確信した。

 多分コイツのことだ。

「だからってコレは止めるのは無理があるだろ!」
 レイの視線の先には暴風のごとく暴れる銀髪の騎士の姿があった。ちなみ
にホルグレンの姿はもうない。客より先に逃げ出したようだ。

 ギロリ

 銀髪の騎士とレイの目が合う。銀髪の騎士がニッコリ笑みを浮かべると跳
躍した。それはもう殺す気満々で飛び掛ってきた。
「って!見境なしかよ!」

 ドガン!!

 レイはツッコミつつ、フィリを抱いて横っ飛びでその攻撃を避けた。
「うあ…床がめちゃくちゃえぐれてる…」
 銀髪の騎士の攻撃の無茶苦茶な破壊力にフィリが顔を引きつらせた。そ
の時、レイとフィリは気が付いた。銀髪の騎士は泣いている。瞳からただ、
ただ涙をこぼしていた。銀髪の騎士が静かに口を開いた。
「うぐっ…何でだよ…えぐ…+4から…+5なのに…確率…通り…ならねぇよ…
ひっく…ひっく…」
 理解不能な嘆き方をしている。だが何故か納得できるのは気のせいだろうか。


 その時、精錬所に2人の冒険者が入ってきた。
「やっぱり…暴れてますね…」
「さっさと止めましょう」
どちらも女で職業はクルセイダーとプリーストのようだ。その片割れである
女クルセイダーがおもむろに銀髪の騎士へと近寄った。

 げめしっ!

「ぐぇっ!!」
 女クルセイダーから延髄蹴りを喰らった銀髪の騎士が悶絶して床を転げ
回った。その様子を見ていた女プリーストがにこやかにたしなめる。
「だめですよ、アルヴィンさん。苦しませずに黙らせるにはコレが一番です」

 どげしっ!どげしっ!どげしっ!どげしっ!

「ちょ…待…て……ご…は…」
 女プリーストが悶絶している銀髪の騎士を思いっきり蹴飛ばすと(ちなみに
全部首)銀髪の騎士は断末魔の声をあげつつ沈黙した。その様子を見た女クル
セイダー、アルヴィンが半眼で反論した。
「奈留さん、それも問題あると思いますけど。めっちゃめちゃ苦しんでいま
せんでしたか?」
 今度は奈留と呼ばれたプリーストが反論した。
「いえいえ、私は大切なギルドマスターを思って、一番楽に気を失える方法
を選んだだけです」
「…まぁ、別に構いませんけど」
 アルヴィンが納得する。気を失っている銀髪の騎士は納得できないだろう
が。アルヴィンは銀髪の騎士の足首をつかむとずるずると引きずりながら歩
き始めた。
「私は先にこのバカ…じゃなくてギルドマスターをその辺に捨ててきます」
 奈留が頷いた。
「じゃあ私は精錬所でこのバカ…じゃなくてうちのギルドマスターが暴れた
せいで、怪我した人に回復魔法をかけてから戻ります」
「了解〜じゃあ私はお先に」
 アルヴィンの姿(と、引きずられている銀髪の騎士)が精錬所の外へ、
消えた後、奈留が献身的に怪我人に回復魔法をかけている。
「なんか…あの銀髪の騎士の人の扱いって…どん底だね…」
 フィリがそう感想をもらした後、レイがぐったりとうなだれた。
「ていうか何なんだ…もう騒動は勘弁してくれ…」
 心底疲れきった表情でレイが呟いた。

 ◆

 ずるずるずるずる…

 背中の痛みで銀髪の騎士は目を覚ました。
「なぁアルヴィン…何で俺はお前に引きずられてるんだ?」
 アルヴィンが引きずりながら、事も無げに答えた。
「最近、引きずられるのが趣味って言ってたじゃないですか」
「ああ、そうだったな。俺は引きずられるのが趣味だった……ハァァァン…」
 ブンブン!ガバリ!!
「なわけあるかぁ!!」
 足首をつかんでいたアルヴィンの手を無理やり振りほどいて、銀髪の騎士
が立ち上がった。
「しかもお前!俺をどこに捨てようとしてた!」
「えっと、奴隷市場ですが」
「奴隷かよ!ていうか奴隷市場ってどこだよ!」
 アルヴィンが半眼で銀髪の騎士を見た。
「ていうか毎度精錬所で暴れるのはやめてくれません?」
「…うっ」
 そこである事を思い出したのか、銀髪の騎士が突然、口元に笑みを浮か
べた。それを訝しく思ったアルヴィンが銀髪の騎士に聞いた。
「どうしたんです?急に笑い出して、激しくキモいですよ」
「お前、さらりとヒドいこと言うのな。いや…ちょっと気になる奴に出会ってな。
あいつが『上』を目指すなら…いずれ合間見えることもあると思ってさ」
「なるほど」
 銀髪の騎士とアルヴィンは謎の会話をかわしつつ、プロンテラの街中へと消
えていった。

 ◆
 
 『ハンターボウ』の精錬を無事(?)終えた後、夕食を済ませ、レイとフィリ
は宿へと戻った。エリカはまだ戻っていないようだ。同じく、ジュニアとガイス
トも出かけているのか、宿には姿がなかった。レイはジュニアと共用の部屋に
入ると扉を閉めた。
「ふぅ…ったく…今日は散々だったな…」
 と、その時、部屋の外から物音がした。
「ん…?フィリか?」
 扉の向こうから慌てたようなフィリの声が聞こえた。
「ま、待って!扉は開けないで!」
「…どうした?」
 レイが扉越しにフィリに聞くと、フィリが扉に額を押し付けて呟いた。
「今日…レイと街をまわれて楽しかったよ…それと、指輪買ってくれてありが
と…」
「ああ…」
 扉越しの会話。互いの顔は見なくとも気持ちはしっかりと伝わっていた。レ
イは照れくさくなったのか、ぶっきらぼうに告げた。
「ていうか明日はオヤジが来るから、今日はもう寝ろよ」
「うん…」
 その言葉を聞いた後、レイが扉から離れた、刹那。

「……き…だよ」
「っ!」
 レイが慌てて扉の方を振り返ると、フィリの足音が逃げるように遠ざかって
いった。
「…」
 そのままレイは無言でベッドにぼふんと音を立てながら横になった。レイも
またフィリに惹かれているということを自覚しつつあった。気持ちを正直に伝
えればフィリはおそらく受け入れてくれるだろう。

 だが

「俺は『ラグナロク』を継いでいるんだ…そんな奴と一緒になって幸せになれ
るわけないさ…」
 レイは部屋の中で一人、そう呟いた。

 ◆

 レイ達が泊まっている宿を見上げながら『道化師』が詠った。

 『其は十字架なる愛情』

 『美徳に彩られし磔』

 『原初こそ尊し』

 『狭間に眠りし、我等が祖』

 『今はただ眠りにつく』

 [続]


〜あとがき〜
こんにちは、最近GMがガンホーマスターに見えて仕方ないです。
いや関係ないですね(;´Д`)
なんか今回は話が随分長引きましたorz
しかも展開が気に食わなくて半分くらい書き直してたりします。
ちなみに銀髪の騎士の正体、わかる人にはバレバレです。
ていうか実話混じってます、こん畜生orz
次回はついに最強オヤジ光臨です。


〜登場人物紹介〜
○『道化師』
謎の占い師。占いが当たるかどうかは不明。
今後の重要人物になる、かもしれない。

○ホルグレン
プロンテラの名工にしてクラッシャー。
武具を鍛える者にして、クラッシャー。
今日も今日とてプロンテラで槌を振るっている。

○銀髪の騎士(名前不明)
レイ達がプロンテラの精錬所で出会った謎の男。
変な奴。あるギルドのギルドマスターらしい。
ギルドマスターなのに何故か敬われていないように見える。

○アルヴィン
銀髪の騎士のギルドに所属している女クルセイダー。
マスターに対しては意味もなくバイオレンス。
前回登場した女ブラックスミスのバステトも同じギルドらしい。

○奈留
銀髪の騎士のギルドに所属している女プリースト。
やっぱりこっちもマスターに対してはバイオレンス。



〜Web拍手の返答〜
>ラブコーメ
初拍手ありがt…ラブコメ言うな!

>がんばってくださいな
うぃっさ〜、気力の続く限り!

>隔日ペースくらいで頑張ってください
過労死します(ノД`)

>身悶えするほどのラブコメで!!
作者が精神破壊を引き起こす危険性がありますよ?よ?



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