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Ocean's Blue

011:砂漠の出会い

 砂漠の都市モロクはその通り名の通り、砂漠のど真ん中にある。転移系
の魔法が使えた20年前と比べて、はるかに「行きにくい」街であると言えよ
う。だがそれでも冒険者達は砂漠の都市モロクへとやってくる。それは何故
かというと、モロクの近郊は古代遺跡の宝庫だからだ。

 「古の黄金王」オシリスが眠ると言われているピラミッド。

 そのピラミッドを守るがごとく鎮座するスフィンクス、そのスフィンクスの内
部から地下へと続くスフィンクスダンジョン。

 古代の戦場であったサンダルマン要塞跡。

 冒険者達はこれらを筆頭とした遺跡を求めてモロクへと集まるのである。
ある者は名声のために、ある者は富を得るため、そしてある者は夢を求め
て。

 ◆

 イアル=ブラストはモロク近郊の砂漠を歩き回っていた。
「ったく…しくったなぁ…商売道具を落とすなんて」
 イアルはローグである。彼は先日の冒険で自分の武器であるダガーを砂
漠に落としてしまったのだ。そのため現在は心当たりのありそうな所を探し
回っているわけだが見つかるわけがない。第一砂に埋もれてしまっているだ
ろうし、こんな広い砂漠の中で落し物を見つけるのはダガーだろうが細い針
だろうが難易度はそう変わらないだろう。
「くそ…兄貴になんて言われるか」
 イアルは自分の兄の顔を頭に思い浮かべた。何というかお前はバカだなぁ
という朗らかな笑い声が聞こえそうだ。
「…ん」
 その時イアルは向こうの方で何かが光ったように感じた。イアルはそちらに
走っていくと…女の子が倒れていた。その女の子は商人風の格好をしてい
る。どうやらまだ死んでいないようだが極度の脱水症状になっているようだ。
「おい!しっかりしろ!」
 イアルはその女の子を片手で抱き起こしながら、もう片方の手で自分の荷
物の中に携帯してあった水筒の水をその女の子の頭からかけた。
「う…」
 その女の子は薄く目を開けると再び目をつぶってしまった。
「ったく!厄介事は次々起きやがる!」
 イアルはその女の子を肩にかつぐとモロクへと向かって走り始めた。ここ
からなら走ればモロクまで10分もかからないだろう。

 ◆

 イアルはモロクに着くと、門近くの民家の扉を叩いた。
「おい!行き倒れだ!助けてやってくれ!」
 中から人のよさそうな老婆が出てきた。
「おやまぁ…任しておきなさい…」
 老婆は慣れているのか少女をひょいとかつぐと家の中へと運び込んだ。
「はぁ…ダガーの代わりに女の子見つけたとか言ったらまた兄貴に笑われる
よな…最悪だ…」
 イアルは女の子が介護を受けている部屋の外で頭を抱えた。


 数十分後

「もう大丈夫ですよ…」
 老婆が女の子の手当てを終えたのか、部屋からでてきた。
「悪いけど水を買ってきてくれないかね…?」
「ああ、わかった」
 脱水症状に一番効くのは水だ。老婆の買い置きだけでは足りないのだろ
う。イアルはそう判断し、水を買いに出た。

 イアルは水を売っている商人から水を手に持てるだけ買うと老婆の家に
戻った。すると玄関で待っていた老婆がにっこり笑った。
「あの子が目を覚ましましたよ…」
「そうか、よかった」
 イアルはホッとした表情を浮かべた。意外に症状は重くなかったようだ。レ
イルは老婆に水を渡すと女の子がいる部屋にやってきた。

 女の子が部屋に入ってきたイアルに気がついた。
「あ…おばあさんから聞きました。助けてくれてありがとうございます」
「いや、当然のことをしただけさ。助かってよかったよ」
 女の子はベッドの上で微笑んだ。
「優しいんですね」
 少女の微笑みにドキリとしながらイアルが慌てて答えた。
「いや、たまたまだし!ところで何で君はあんな所で倒れてたんだ?」
「行き倒れ…」
「…質問が悪かった。もしかして砂漠越えを一人でしてきたのか?」
 イアルは疑問に思っていたことを口に出した。砂漠越えは1人でやるにはあ
まりに無謀な行為だからだ。
「はい、道に迷っちゃって…森の中にいたんだけど…」
「森て…」
 少なくとも森は近くにはない。一番近くにあるものでもモロク南西部のサン
ダルマン要塞跡を抜けた位置にあるジナイ沼の大森林である。さすがにそち
らから来たとは思えないが。
「えっと…君……っと、名前を名乗るなら自分からだな。俺の名前はイアル、
イアル=ブラスト。君の名前は?」
「あ、私はティア、ティア=グロリアスです」
 レイとともに旅をしているフィリの妹、ティア=グロリアスはモロクで行き倒
れになっていた。

 ◆

 ティアとイアルは老婆に礼を言うと、モロクの街を歩き始めた。

 ティアが言うにはアルベルタ近郊の森から出たら砂漠にいたので、自分の
持ちうる能力全てでサバイバルしてたら、いつのまにか倒れていたそうだ。
「いや…一人で砂漠をここまで来たのは凄いというか…」
「あはは、昔からサバイバルには慣れてるから」
「は?慣れてるって?」
「サバイバルが出来ないと、生き抜けない家に住んでたから…」
 ティアが遠い目をする。絶対なる支配者の一番上の姉のミリアと、愛のた
めなら何でもやる一つ上の姉のフィリに囲まれた生活はティアを芯から強く
していたのだ。哀しいことに。
「そうか…頑張ってたんだな…」
 イアルは事情をよく知らないのでそのままの意味で受け取ったらしい。
「ところでティア…ちゃんは」
「ティアでいいよ〜」
「あ、すまん。ティアはこれからどうするつもりだ?遠出するつもりじゃなかっ
たんだから、お金の持ち合わせが厳しいんじゃないか?」
「うん…」
 イアルは少し思案すると、話を切り出した。
「じゃあ俺が世話になっている宿に話をつけてみるよ。もしかしたら、安値で
滞在させてもらえるかもしれない」
「えっ!本当!?」
「ああ、もしかしたらだけどな」
「ありがとう!イアルお兄ちゃん!」

















 お兄ちゃん



「ぐはぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
 イアルは胸を押さえてその場にうずくまった。
「な…何だ!こ…この…」
 胸の高鳴りはっ!!まずい、俺はノーマルのはずだっ!
優しい系のお姉さんが好みな、ちょっとシャイなローグが俺だろう!
「どうしたの?イアルお兄ちゃん…?」
 イアルは渾身の力で、平常心を保ち立ち上がった。
「な…何でお兄ちゃん?」
「え?年上の女の人がお姉ちゃんで、年上の男の人がお兄ちゃんじゃないい
の?」
「…そういうのは家族で使ってくれ…。俺のことはイアルでいい」
 ティアはイアルの動揺を疑問に思いながら頷いた。
「はーい」
 イアルはティアに聞こえないように呟いた。
「あ…あぶなかった…今違う世界が垣間見えたぜ…」
 2人の歩く先に目的の宿の看板が見えてきていた。

 ◆

 その宿に足を踏み入れると、イアルが一番会いたくない人物がテーブルに
座っていた。宿の一階は食堂になっているのだ。そこにイアルの兄が見たこ
ともない騎士と2人で座っていた。
 イアルとイアルの兄の視線が合った。
「イアル、幼女を捕獲してきたのか?」
 その言葉にカチンときたティアが反論した。
「私は13才!幼女じゃないよ!」
「兄貴…出会い頭に随分な言い草じゃねぇか…」
 イアルの兄は上位暗殺者、つまりアサシンクロスのようだ。その兄が弟に
向かって朗らかに笑った。
「はっはっは、ダガーの代わりに幼女をゲットだな!」
「ゔっ!知っていやがったのか…」
「俺を誰だと思っている?だてに「雷獣の咆哮」を束ねてはいないさ」
 ティアはその言葉に驚いた。
「もしかしてイアルのお兄さんって…ロウガ=ブラストさんだったり?」
 イアルは嫌そうに返事をした。
「ああ…そうだよ」

 ギルド「雷獣の咆哮」

 『ギルド攻城戦』における反「皇帝の十字架」勢力の筆頭ギルドの一つであ
る。その勢力は「皇帝の十字架」、「絆の旋律」、「光の翼」に続いて、世界で
ナンバー4の力を持っていると言われている。
 そのギルドマスターにして全ての暗殺者達の憧れでもある上位暗殺者、ア
サシンクロスのロウガ=ブラストは、「皇帝の十字架」に対する対抗勢力の
旗頭の一人として活躍している。

 というわけでロウガは情報収集能力も高いのである。

「お前が行き倒れのその子を助けたのも知っているさ。宿の人間に話は通し
てある。好きな部屋を使うといい」
 ロウガはイアル達にそう言うと、先ほどまでの騎士との会話に戻った。
「ったく…余計な世話焼きやがって…」
 ロウガは口が悪い。だがこうやって細かな気配りが出来る人物なのだ。だ
からこそ彼のいるギルドは大きくなったのだ。ロウガが人を集めたのではな
い。ロウガに惹かれて勝手に集まった人々を、ロウガが文句の一つも言わ
ずに受け入れ続けて大きくなったギルド、それが「雷獣の咆哮」である。

 ティアが宿の一部屋に荷物一式を置くとイアルに言った。
「でも凄いなぁ。あんな人が兄弟にいるなんて。イアルも「雷獣の咆哮」に
入ってるの?」
 イアルは首を横に振った。
「いや俺は入ってない。何か雰囲気が肌に合わなくてさ」
「そうなんだ」
「入るからには居心地のいいギルドに入りたいしな」
「うん」
 今度はイアルがティアに質問した。
「ティアは何で冒険者になろうと思ったんだ?」
 ティアは少し考え込んだ後、口を開いた。
「私に何ができるのかなって…思ったからかな…」
 ティアは一息ついた後、話を続けた。
「私のお姉ちゃんは2人いるんだけど、一番上のお姉ちゃんは、あ、家は商
家で一番上のお姉ちゃんはその跡取りになるために頑張ってる。一つ上の
お姉ちゃんは昔からずっと好きだった人と一緒に冒険をするために冒険者
になって、この前その好きだった人と一緒に冒険の旅にでていったの」
「なるほどね、自分が何をしたいか探している最中ってわけか」
「…うん、あやふやだよね」
「いいんじゃないか?」
 イアルは口元に笑みを浮かべながら言った。
「俺も似たようなものさ。兄貴は俺のはるか前をズバズバと進んで、「皇帝の
十字架」と戦ってる。正直凄ぇと思ったさ。だけど俺は…冒険者になったはい
いものの、自分が何をしたいのか、それすらもあやふやでだらだらと過ごし
てる」
 ティアがにっこり笑った。
「私たち似たもの同士だね」
「だな」
 イアルもニヤリと笑った。

「おい、イアル」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いきなり壁から沸いて出るように出現したロウガにティアが悲鳴を上げなが
ら尻餅をついた。イアルは慣れているのか驚きもせずにロウガに怒鳴った。
「いきなり!沸いてでるなっつっただろ!」
「悪い悪い。アサシンの性でな、壁があると隠れたくなる。すまんすまん、
ティア、驚かせてしまったな」
 ロウガはティアを助け起こしつつ、謝罪した。ちなみにアサシンには壁沿い
に歩くと光の反射を利用して姿を消せるクローキングというスキルがあるらし
い。
「この前、どっかのじーさんの前にいきなり現れて、そのじーさんの入れ歯
が飛んだだろうが!」
「ああ、入れ歯飛ばし大会に出れば世界記録寸前くらいの飛びっぷりだった
な」
「んな大会はない!つーか反省しろよ!」
「それでだ」
 イアルの文句を聞き流しつつ、ロウガが無理矢理話題を変えた。
「イアル、お前、明日ピラミッドに行け」
「…唐突すぎてどこから反論すればいいか思いつかないんだが…」
「さっき俺が話していた騎士と組んでピラミッドに行け。なんならティアも連れ
て行っていいぞ」
「兄貴…何で俺なんだよ」
「俺が行きたくないからだ」
 事も無げにそう言い放つロウガにイアルがこめかみをひくつかせた。
「あ…あのな…」
「報酬は出す。頼むからお前が行ってくれ。ピラミッドの地下に出現したミノタ
ウロス退治に」
 イアルはアゴが外れるほど仰天した。ミノタウロスといえば巨大な鉄槌を振
り回す牛の悪魔だからだ。
「おいっ!俺に死ねっていうのか!?」
「心配はない。一緒に行く騎士は凄腕だ、多分」
「多分かよ!」
「あ…あの…」
 ティアがおそるおそる手を上げた。
「私が行っていいの?足手まといにならないかな」
 ロウガは優しい笑みを浮かべた。
「心配ない。というかいい経験と思って行くといい」
「ていうか引き受けると一言も言ってないんだが」
 イアルがそうツッコミを入れると、ロウガが一言呟いた。
「イアルの初恋は、確かな…」
「うわぁぁぁあああぁああああっ!!行く!行かせてもらいます!いや!行か
せてください!」
「素直なのはいいことだ」
 このクソ兄貴いつか殺してやる。イアルはそう心に誓った。

 ◆

 イアル達に集合場所等を伝えた後、ロウガは宿の階段を降りると、そこに
は一人の女ローグが立っていた。
「久しいな、ルアーナ」
 ルアーナと呼ばれた女ローグがにっこり笑った。
「こちらこそお久しぶり、ロウガ」
 ロウガはルアーナと対峙すると強者のみが持ちうる張り詰めた空気が2人
の間に満ちた。ロウガはそんな空気を物ともせずルアーナに対して吐き捨て
るように言った。
「お前のギルドのマスターに伝えておけ。俺の実力が知りたくば、自分で来
いとな」
「へぇ〜バレバレかぁ、さすがロウガ=ブラストってところかな?」
「こちらからは足枷を用意させてもらった。せいぜい苦戦するといい」
 ルアーナが呆れたような表情を浮かべた。
「結構冷たいんだね、実の弟と初対面の女の子が足枷なんて」
「お前たちのような人間と付き合うにはそれなりの対応が必要なだけだ」
「そう…ああそれと、うちのマスターからの伝言があるんだけど、聞きたい?」
 ロウガがルアーナのギルドのマスターである銀髪の騎士の軽薄そうな顔を
思い浮かべた。だがそれは表の顔であることをロウガは知っていた。あの銀
髪の騎士は策士なのだ、しかもとびきり最悪な部類に入る。
「言ってみろ」
「えーと、『( ゚,_ゝ゚)プケラッチョ南無』、だそうで」
「…」
 ロウガがこめかみに青筋を浮かべた。相変わらずふざけた男だ。
「いずれ殴りまくるとだけ伝えておいてくれ」
「りょ〜かい〜」
 ルアーナは笑いを噛み締めながらロウガの伝言をしかと受け取った。

 [続]


〜あとがき〜
「Ocean's Blue」の第1部はいわゆる序章編という奴です。
第2部『ギルド攻城戦』と第3部『ユミルの十字架』につながる
伏線を大量に張りまくってる段階です。
第1部の話としては大体1/4くらいは消化したくらいです。
といっても話の流れを決めてるだけなので、話がそのまま4倍
あるかどうかは完全に謎ですが。


〜登場人物紹介〜
●イアル=ブラスト
性別:男
年齢:16
JOB:ローグ
モロクに腰を据えて冒険をしているローグ。
日々の生活をだらだらと過ごしている。

●ティア=グロリアス [再]
性別:女
年齢:13
JOB:マーチャント(商人)
姉2人のように自分の道探し始めて冒険者になった。
必殺技は「お兄ちゃん」&「お姉ちゃん」(?)

●ロウガ=ブラスト
性別:男
年齢:22
JOB:アサシンクロス(上位暗殺者)
反「皇帝の十字架」勢力の筆頭ギルドの一つ
「雷獣の咆哮」のギルドマスターにして、イアルの兄。
実力は相当高い。
どこぞの銀髪の騎士とは激しく仲が悪い。

○ルアーナ
銀髪の騎士のギルドのナンバー2の女ローグ。
だからといってマスターに忠実、というわけではないらしい。



〜Web拍手の返答〜
>何故か雑記の感想、
>増えるたびにマスターの威厳低下してるような^^;
トレントは常に正々堂々!
完璧かつエレガントなボーリングをしてます!多分orz

>金ゴキ自然大増殖・・・イイ(・∀・)
先々月、俺の部屋に奴が出ました。週刊少年マガジンが唸りました。
その後の事は聞かないでください。

>これ読んでいると究極のネタ師はトレントさん
>じゃないのk・・・いえ、なんでもありません
いえいえ、俺なぞネタ師不動の地位を獲得している
あの方の足元にも及びません^^

>ふぉおおおお(;゚Д゚)!!
ふぉおおおお?(;´Д`)

>のほほんのほほん…頑張ってくださいな〜
うぃさ〜頑張りますよ〜Σd(゚∀゚*)
実はこの時点で3話書きだめしてまs(ガッ



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