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Ocean's Blue

014:表と裏

「その勝負!このスーパーマッドサイエンティストこと、このモルゲンシュタイ
ンがあずかろうぞ!」
 突如、頭のハゲた白衣のじーさんがレイ達とトレント達の間にやってきて
高らかに宣言した。
「誰この人…」
 トレントの隣に座っていたルアーナがこめかみをおさえながら呟く。すると
モルゲンシュタインと名乗った白衣のじーさんは腰に手をあてた。
「ふ、ワシはこの世のありとあらゆる探究する真実の徒じゃ!ちなみにゲフェ
ン在住のちょっとおちゃめなおじいちゃんじゃ♪」
「で、あんたが何なんだよ」
 イアルが半眼で尋ねると、モルゲンシュタインは白衣の懐から何やら紙を
取り出し、それをテーブルの上に広げた。
「これを見るがいいぞ!小童ども!」
 レイ達が紙を覗き込むと、難解極まりない何かの設計図のようなものが記
してあった。何のものかわからないので皆、首をかしげている。
「現在ワシは錬金術を研究しておる!その中でも幻の秘術であるというホム
ンクルスの研究をやっておるのだ!そう!アルケミスト達がホムンクルスの
技術はいずれ完成すると言うと、可哀相な目で見られるというあのホムンク
ルスじゃ!」
「で?」
 トレントが言葉の続きをうながすと、モルゲンシュタインはバッと手を高らか
に掲げた。
「この設計図は幻の秘術!ホムンクルスの設計図なのじゃ!そう!ホムンク
ルスは出来ると信じて、日々悲壮感を漂わせながら戦い続けているアルケミ
ストの皆に希望をもたらす光!それがこの設計図じゃ!そして!」
「つまり、足りない材料集めろってことか」
「その通り!」
 レイが納得したように言うと、モルゲンシュタインは握りこぶしを作った。
「残る材料は6つ!主らで1人1種類!計3つずつ集めてきてもらう!これでど
うじゃ!当然報酬は出すぞ?勝った方だけじゃがな」

 ガタリ

「俺はやるぜ」
 トレントが椅子から立ち上がった。すると後ろで様子をうかがっていた「トレ
ント★樹海団」のメンバーの2人が立ちあがった。ブラックスミスのバステトと、
ハンターのアリシャである。
「私もやりますよ」
「おつきあいしましょう」
 対するレイ達もまたやる気マンマンである。こちらはレイとフィリ、ティアの3
人が参戦する。

 モルゲンシュタインが6枚のカードを懐から取り出した。
「この紙にはそれぞれ材料が記してある!まず3枚ずつに分けるので、代表
者は好きな方を選ぶがよいぞ!」
「やたら準備がいいな…じーさん…」
 トレントが右側のカード3枚を取る。残りはレイが取った。


 レイはフィリとティアとともにカードに書かれた材料の名前を見た。

 『ピラミッドの外壁のかけら』
 『カルシウム』
 『デスティニーセニョリータ』

「うげっ!意味わかんねぇ!特に3番目!」
 レイが思わず呻いた。フィリとティアの姉妹が目を潤ませながら、レイに詰
め寄った。
「3番目頑張ってね、レイ♪」
「レイお兄ちゃん、3番目お願い♪」
「…」
 レイは3番目の紙を握り締めながら、心の中で涙した。


 トレントもバステトとアリシャとともにカードに書かれた材料の名前を見た。

 『砂漠の白砂』
 『アナコンダークの血』
 『鉄のハゲ』

「マスター3番目よろしくお願いします」
「頼りにしてますよ、マスター」
「何だかよくわからないものは問答無用で俺かよ…」
 バステトとアリシャに瞬間的に奈落に落とされたトレントもまた心の中で涙
した。


「というわけで試合開始じゃ!材料を手に入れたらこの酒場に戻ってくるの
じゃぞ!」
 人に厄介ごとを押し付けて自分は何もしないモルゲンシュタインは高らか
に試合開始を宣言した。フィリとティア、バステトとアリシャが酒場を飛び出
していった。
「何をしておる?さっさといかんか」
 酒場の入り口でぼーっと突っ立っているレイとトレントをモルゲンシュタイ
ンが叱咤した。
「そもそもデスティニーセニョリータって何だよ…」
「鉄のハゲって何だ…」
 2人はこの世の不条理を押し付けられた者同士、奇妙な連帯感に包まれ
ていた。


 そこで、「トレント★樹海団」のナンバー2であるルアーナががたりと椅子か
ら立ち上がった。
「私達は私達で勝負しよっか?」
 ジュニアが口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「僕は野球拳か脱衣麻雀しかやらないよ?」
「根底から精神が腐ってるな…こいつ」
 イアルが呆れた声を出すも、ルアーナがにこにこ笑った。
「いいよ、やろっか。脱衣麻雀♪」
「ふ…僕のエロパワー見せて上げるよ…イアル!行くぞ!」
「俺も巻き込まれてるのかよ!」
 ジュニアの言葉にイアルが嫌そうな声を上げた。すると「トレント★樹海団」
サイドからプリースト、エレンがやってくる。
「じゃあ私もおつきあいしますよ」
 ジュニアの両目がギラギラ輝く。
「脱がす…っ!脱がす…っ!女体…っ!女体…っ!」
「誰か助けてくれ…」
 イアルが目の幅涙を流しながら、うなだれた。


 残ったエリカとすけぽはテーブルに向かい合わせに座った。
「噂では…すけぽさんは随分雑学がお得意だとか」
「買いかぶりすぎかな。そこまではないですよ」
 エリカの目がキュピンと光った。
「第1問!賢者の都市ジュノーを治めている三賢者の名前は!?」
「イクルラ、シクルラ、エスクラの3人だ。常識だな」
 すけぽ即答。エリカがうっと唸った。
「や…やりますね…」
「この程度では雑学とは言えないな…今度はこちらからいかせてもらう」
 すけぽのクイズ攻勢が始まった。

 ◆

「む、帰ってきたようじゃな」
 モルゲンシュタインが酒場の外からフィリとティアが戻ってきたことに気が
ついた。フィリは戻ってくるなり、酒場を見回した。
「知りません…わかりません…参りました…」
 わけのわからないことを言いながらエリカが頭から煙を出してテーブルに
突っ伏している。その対面ですけぽが悠々とコーヒーを嗜んでいる。
「玄人コワイ積み込みコワイ國士コワイ…」
「もうイヤだ…もうイヤだ…」
 さらに、酒場の隅で半裸のイアルとジュニアがしくしくと泣いていた。ジュニ
アとイアルがブツブツとわけのわからないことを呟いている。それとは対照的
にルアーナとエレンもまた悠々とハープティーを嗜んでいた。

「うは…全滅」
 ティアが内心ビビり気味ながらも用意した『カルシウム』をモルゲンシュ
タインに渡した。
「なるほどの、肉についた骨でカルシウム。まぁ悪くないのう。それにそちら
のお姉さんの方もちゃんとピラミッドの外壁を持ってきてくれたようじゃし、
じゃが…」
「じゃが?」
 ティアがモルゲンシュタインに問い返す。
「先にこの2人が材料を持ってきておるよ」
「えっ」
 酒場の奥からバステトとアリシャがそれぞれ両手に紅茶をもってきた。
「私達の勝ちみたいですね」
 アリシャがそう言うとフィリががっくりとうなだれた。
「私達完全負けかぁ…」
 バステト達から紅茶を受け取ったティアとフィリはそこである人物2人がい
ないことに気がついた。そこでティアが尋ねた。
「あれ…レイとトレントさんは?」
「あの2人はまだ決着がついてませんね」
 アリシャはそう言ったが、フィリはすでに諦めモードだった。デスティニー
セニョリータが見つかるとは思えないし。
「あれ」
 そこでアリシャが声を上げた。
「私の鷹どこにいったんだろ」
 アリシャの肩に先ほどまでとまっていたメス鷹がいつの間にかいなくなっ
ていた。

 ◆

「「無理だ」」
 レイとトレントは夜のモロクを歩きながら声をハモらせた。
「「そもそも意味わかんねぇ」」
 またハモった。
「ねぇよ…デスティニーセニョリータも鉄のハゲも…」
「ああ…俺もそんな気がしてきたぜマイブラザー」
 レイが泣き言を言うと、トレントもまたがっくりとうなだれた。その時、ばさば
さばさ!という羽音を立てながらガイストがレイの元に戻ってきた。
「ガイスト、デスティニーセニョリータはあったか?」
 ガイストが首をふるふる振った。
「だろうな」

 ピピクゥ!

 ガイストが突如、空に視線を向けた。
「ガイスト!もしかして見つかったのか!?」
 レイがガイストに詰め寄ると、ガイストはそのまま主人を放って飛び立って
いった。モロクの夜空にはもう一匹の鷹、アリシャの連れているメス鷹が空
を優雅に舞っていた。
「主より、女がいいらしいな」
 トレントが空を見上げながらレイに言った。
「みたいだな…」
 レイはそのままがっくりうなだれた。

 ◆

 ガイストは自分を追ってきたメス鷹に呼びかけた。無論、鷹語。
『また追ってきたのか、お嬢さん』
 メス鷹が必死に訴えた。
『ダメなんです…!目蓋を閉じればガイスト様の姿が脳裏に浮かび、ガイ
スト様の事を考えるともうどうしていいかわからなくなるんです…っ!』
 ガイストはしばらく空を滑空した後、言葉を紡いだ。
『俺達は主に忠実でなければならない。苦楽をともにし、歩んでいかなけれ
ばならない。だからこそ…君とは一緒にいれない』
『なら…っ!今夜だけでも…っ!』
 メス鷹の訴えにガイストがにこりと微笑んだ。
『ああ、今夜だけは俺は君のモノだ』
『ガイスト様…っ!』
『そうだ、君に泣き顔は似合わない。君に似合うのは笑顔だけさ…』
 そして2匹の鷹の姿はモロクの夜空に消えていった。

 ◆

「なぁ、鷹って話さないよな」
「何を唐突に」
「いや何となく気になって」
 並んで酒場に帰る途中、トレントの何気ない質問にレイは適当に答えた。
「鷹語でもあれば、話せるんじゃないか?」
「てことは鷹語覚えれば、鷹と会話できるってことか!」
「…」
 プロンテラの精錬所で会った時から思っていたが、やっぱりこいつは変な
奴だ。だが悪い奴ではなさそうだ。そう言えばイアルに因縁をつけていたが、
あれは一体どういうことなのだろうか。
「トレント、お前さ、イアルと仲悪いのか?」
「あー、正確にはあいつの兄貴だな。俺も『ギルド攻城戦』に参加してるんだ
が、あいつの兄貴が率いてるギルドと何度も戦ったことがある。で、仲が異
様に悪い」
「なるほどな」
 今度は逆にトレントが質問してきた。
「レイは『ギルド攻城戦』には参加しないのか?」
 レイが首を横に振った。
「今の俺達に参加する理由も必要性もないしな。でも理由もしくは必要性が
でてきたら参加するかもな」
「ほほぅ。ま、参加するときには味方になるにしろ、敵になるにしろ、よろしく頼
むな」
「ああ」
 そして酒場に2人は揃って足を踏み入れた。

 ◆

「私達は全員勝ったのに」
「これが1ギルドのマスターとは思えませんね」
「クズですよ、クズ」
「役に立たねぇ奴だなぁ」
「1人だけ負け犬ですね」
 トレントが酒場の隅でいじけて泣いていた。

 「トレント★樹海団」のナンバー2、ルアーナがレイに向かって手を差し出し
た。本来はトレントがやる仕事なのだが、いじけているということで代理でル
アーナなわけである。
「結構楽しかったよ、また機会があったら一緒に遊ぼうね」
「ああ、こちらこそ」
 レイはルアーナと握手を交わした。
「それじゃ、またね〜」
 ルアーナはしくしく泣いているトレントを引きずりながら、他の仲間とともに
酒場を出て行った。

「なんか勢いのある人たちだったね」
 フィリが素直な感想を述べると、レイが頷いた。
「だな、結構楽しかったな」
 その隣で半裸のイアルが首をかしげていた。
「兄貴の言う連中の印象と全然違ったな…」
 イアルの兄、ロウガ=ブラストとともに「トレント★樹海団」のギルドマスター
のトレントと話した事があったが、その時は最悪人間の見本市のようにしか思
えな かった。だが実際受けた印象はそう悪いものではなかった。『ギルド攻城
戦』がか らんでいたから、ロウガとトレントの仲は最悪なのだろう。
「『ギルド攻城戦』も考えものだよな…」
 イアルはやれやれとため息をついた。

 ◆

 〜深夜〜

 ルアーナを除くギルドメンバー達が宿で眠りについた頃、トレントとルアー
ナは深夜のモロクを並んで歩いていた。
「それでさぁトレントどうだった?今日の人達」
「クズだな、虫けらの方が強そうだ。今の段階だとだけどな」
「今の段階って?」
 トレントが口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「お前気づかなかったのか?」
「へ?」
「あいつらのリーダー、レイは七英雄ラクール=フレジッドとマリア=ハロウド
の息子だ。それにグロリアスと言えばアルベルタの商人ギルドの現評議員
で昔、アルベルタの内乱を鎮めた英雄の名。イアルはあのロウガの弟だし、
エリカって女はプロンテラ聖騎士団の副長補佐セレス=ドラウジーの従姉
妹だろう」
 すらすらとトレントが説明するとルアーナが驚いたような表情をした。
「結構粒ぞろいだったんだ」
「そういうことだ。将来的にはあいつら化ける可能性がある。それに何より、あ
のジュニアって男、人間じゃねぇ」
「は?」
「『魔族の帝王』の息子が人間の姿で旅をしているとは聞いたことがあった
が、こんな所で出会うなんてな。それにジュニア=サイドライクと「皇帝」アイ
フリード=フロームヘルの因縁は小耳に挟ん…」

 ドンッ!!

 トレントは対面から歩いてきた足取りのおぼつかないゴロツキと肩がぶつ
かったため、会話を中断した。ゴロツキがトレントに詰め寄る。ゴロツキの息
はとても酒臭かった。
「てめぇ、ぶつかっといて詫びも無しかよ、女連れでいいご身分だなぁ?」
「…」
 トレントは懐に手を入れると、小さなナイフを取り出した。
「ちょ…っ!トレント!?」

 ザス!!

 トレントはルアーナの静止も聞かず、そのナイフをゴロツキの男のわき腹
に突き刺した。その瞬間、ゴロツキの刺されたわき腹から血が吹き出る。
「ぎゃあああああああああああ!!」
 トレントは地面で激痛にのたうちまわるゴロツキを見下ろした。
「誰にモノ言ってんだ?おい」
 トレントは躊躇なくゴロツキの刺し傷の場所を蹴り飛ばした。

 ドガ!

「ぎゃあああああ!やめっ!やめてくれっ!」
「言えよ」

 ドガ!

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!誰か!た…助けっ!」
「言えよ」

 ドガ!

「たす…け…っ」
「誰にモノ言ってんだ?」

 ドガ!

「……っ」
「誰に、モノを、言ってんだ?」

 ドガ!

 ルアーナの静止を振り切って、トレントはゴロツキの刺し傷を何度も何 度
も蹴り飛ばす。その度に血が吹き出て返り血がトレントにかかる。ゴロ ツキ
の動きが段々緩慢になった所でルアーナがトレントの腕を掴んで無理 矢理
トレントを制した。
「トレント、お願いもうやめて。その人死んじゃう」
「…」
 トレントが無言で引き下がった。ルアーナがゴロツキの男に応急手当てを
する。だが血が圧倒的に足りてないので、ちゃんとした治療をしないと本当
に死んでしまうだろう。
「トレント、私、この人をエレンの所に連れて行くよ?わかった!?」
「勝手にしろ」
 トレントがそう言うとルアーナはゴロツキの身体を抱えて、エレン達がいる
宿へと走っていった。その後姿を見つめていたトレントが口元に笑みを浮か
べた。
「潰してやるよ…」
 腹の底からこみ上げてくる笑い。
「俺達の障害になる奴は全部な…」

 アイフリード=フロームヘルの「皇帝の十字架」も。

 ロウガ=ブラストの「雷獣の咆哮」も。

 そして、

「俺達の障害になるなら…お前らも潰してやるよ…、レイ=フレジッド」
 トレントは身体を翻し、そこ場から去っていった。

 [続]


〜あとがき〜
俺、危険人物や───Σ(゚Д゚;)───っ!!
実際は違います。誠実でハードボイルドでナイス害です。
次回予告!突如、レイの元に届けられた手紙。
それはウェルガ=サタニックからの挑戦状だった!
予告終わり(´ω`)


〜登場人物紹介〜
○モルゲンシュタイン
ゲフェン在住のマッドサイエンティストのじーさん。
混合剤とか中和剤を作ってくれることもあるらしい。



〜Web拍手の返答〜
>フィンさんは第一部のボスとみた(違
おお!ニアミスどころか全然違ってます。

>ぬるぽ
ガッ!!

>トレント氏のラブコメ最高Σd(==
ラブコメじゃないよ?ラヴコメです(゚∀゚)


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