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Ocean's Blue

015:挑戦状

 我が主が倒れて20年の歳月が流れた。

 我ら眷属は衰退し、もはや存続すら危うい。

 だが、まだ終わったわけではない。

 ならば我が魔族としての誇りを賭けて戦おうではないか。

 再びミッドガルド大陸に悪夢を、絶望を、滅びを。

 ◆

 太陽が真昼の高さまであがった日差しが、窓に差込んできた。
「んっ…」
 フィリはモロクの宿の一室で目を覚ました。部屋にある3つのベッドのうちの
残りの2つではエリカとティアがそれぞれ眠っている。というか起きる気配が
全くない。当然だろう、「トレント★樹海団」のメンバーが去った後もどんちゃ
ん騒ぎが続いたせいで、宿に帰り着いて眠ったのは早朝だったからである。
「うあ…頭いた…ねむ…」
 フィリはおぼつかない足取りで部屋の洗面所まで歩いていき、ばしゃばしゃ
と顔を洗った。

 コンコン

 部屋のドアをノックする音。
「起きてるか?」
 部屋の外からレイの声がした。扉越しにフィリが返事を返した。
「うん、私は起きてるけど…2人はまだ寝てるよ」
「2人を起こしてくれ。なるべく早く食堂に来てくれ」
「えっ?」
「頼む」
 レイはそう言うと階下の食堂へと行ってしまったようだ。レイの口調は何と
なくかたかった。何かあったのだろうか。
「とにかく、2人を起こさないと」
 フィリはエリカの身体をゆすった。
「エリカ、起きて。もう昼だよ」
「うぅ〜ん…大根が特売で…」
「わけのわからない寝言はいいから起きてっ!」
 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ!
「ゔ…気分わ゙る゙…」
 エリカが顔を青ざめさせながら目を覚ました。ふらついた足取りで洗面所
へと消えていく。次にフィリはティアを起こすことにした。
「ティア、起きて。食堂に行かないと」
「うう〜ん…お姉ちゃん…くらぇ」

 ばぎぃ!

 ティアの寝言&寝相パンチがフィリの顔面に見事命中した。
「…」(←笑顔)
 フィリはにこにこと笑みを絶やさずティアの腕をとった。
「さっさと起きなさいって言ってるでしょぉぉぉぉぉ!!」

 ぐぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃ!!!

「…っ!!みぎゃーっ!!」
 よくわからない関節技を寝起きからくらったティアの絶叫が部屋の中に響
き渡った。

 ◆

 階下に降りてきた女3人に向かってレイが質問した。
「さっきこの世の終わりみたいな悲鳴が聞こえたけど何だったんだ?」
「気にしないで♪」
 フィリはにこにこ笑いながらそう答えた。ティアが目の幅涙を流していた
が。フィリはすでに食堂にはジュニアとイアルの姿もあることを怪訝に思っ
た。しかも男3人の表情は微妙にかたい。
「何かあったの?」
 レイは一枚の手紙をフィリに手渡した。
「カプラ職員がとどけてくれた手紙だが、差出人を見てみろ」
 フィリは手紙を裏返した。そこにあった差出人の名前は…

 『幻影』ウェルガ=サタニック

「…って!」
 フィリを含む女3人が驚きの表情を浮かべた。
「挑戦状さ。今夜、モロクの西方にある遺跡、スフィンクスダンジョンで待つっ
てさ」
 ジュニアが説明するのを聞いた後、フィリが表情をかたくした。
「どうするの?」
「当然行くさ」
 レイは即答した。
「だが、あからさまな罠だな。危険すぎる」
「そういうこと。だからスフィンクスダンジョンには僕とレイ、それにフィリだけ
で行こうかって話」
「えっ!」
 ジュニアの言葉にフィリが驚きの表情を浮かべた。
「他の3人は一緒に行かないの?」
「危険すぎることはやらない、それが俺がここにいる条件だしな」
 イアルが答えた後、ティアが言葉を続けた。
「私も足手まといになると思うから…」
「じゃ…じゃあエリカは!?」
 フィリがエリカの方を向いた。
「…吐ぎぞゔ」
「コンディション最悪ってことね…」
 フィリは自分を無理矢理納得させた。
「でも…私達3人だけで大丈夫なのかな…」
 レイが目を伏せながら口を開いた。
「こいつがいるし、そう不安に思うこともないさ」
「そそ、いざとなったら本気出すよ」
 ジュニアは軽い口調で言ったが、それは実はとんでもないことである。ジュ
ニアが本気を出せば、おそらくこの食堂にいる人間はレイ達も含めて、3分
以内に全員殺しつくすくらいは造作もないだろう。
 普段が普段だけにジュニアは軽く見られがちだが、列記とした魔王に最も
近い魔族なのだ。その強さはボディーガードとしては申し分ない。
「じゃあ、いつ頃出発するの?」
「そうだな…」
 レイは少し黙考した後、静かに口を開いた。
「夕陽が地平線にかかった時にスフィンクスダンジョンに潜る。それでいい
か?」
 ジュニアとフィリは力強く頷いた。

 ◆

 ばさっ!ばさっ!ばさっ!

 夕陽が地平線にかかる時間になった。ガイストが周辺を偵察した後、レイ、
フィリ、ジュニアの3人はモロクの西方にそびえたつスフィンクスの前にやっ
てきた。ちなみに居残り3人は宿で待機している。
「行くぞ」
 レイのその言葉とともに2人は頷いた後、3人はスフィンクスダンジョンに
揃って足を踏み入れた。


 しばらく歩いた後、ガイストが突然、視線を周囲に向け始めた。それはレイ
とジュニアも同じである。
「ど…どうしたの?」
 さすがにフィリはこの2人ほど殺気を感じ取れないようで、不安気な声を出
した。レイは静かにするようにジェスチャーでフィリに指示すると小声でジュ
ニアに尋ねた。
(どこにいるかわかるか?)
(この階の壁の向こうにはいない、けど凄く近いね、だとすれば…)
 膨れ上がる殺気。レイがハンターボウをダンジョンの「床」に向けた。
「!」
 レイが床から跳ぶのと同時に、床を突き破って紅蓮の炎が舞い上がった。
その奥から紅い神官衣をまとった魔物、マルドゥークが2匹出現した。
「Fireeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!」
 マルドゥーク2匹が雄叫びをあげながら揃って杖を構えた。だが遅い、すで
に2匹のマルドゥークの眉間にレイの放った矢が突き刺さっていた。
「分際をわきまえるべきだね」
 ジュニアの淡々とした言葉が紡がれた瞬間、マルドゥーク2匹はジュニアの
大鎌、クレセントサイダーによって斬り捨てられていた。

 戦闘時間6秒、一瞬で決着がついてしまった。

「すごい…」
 フィリが感嘆の息をもらした。これまで旅を続けてきて2人の戦闘を見る機
会はいくらでもあったが、ここまで鮮やかに勝負を決めるところを見たのは
初めてかもしれない。本気になったこの2人は純粋に強い、フィリはそう思っ
た。
「先に進もう」
 レイを先頭に、一行は歩みを再開した。

 ◆

 何度も戦闘を重ね、歩みを続けること数時間、3人はスフィンクスダンジョン
の第4階層に辿り着いた。3人がスフィンクスダンジョンに入ってからでは最
も大きな大広間だった。

 そして、その大広間の中央に奴はいた。

「来たな、レイ=フレジッド」
「ようやく見つけたぜ!ウェルガ=サタニック!!」
 レイがハンターボウに矢をつがえ、ウェルガに向けた。フィリとジュニアもそ
れぞれ戦闘態勢に入る。だが、ウェルガは口元に陰湿な笑みを浮かべるの
みだった。
「クク…そう焦るな」
「洗いざらいオフクロの事を吐け」
「このスフィンクスダンジョンについて面白い話をしてやろう」
「オフクロの情報を吐けと言っている!」
 苛立つレイなどお構い無しにウェルガは淡々と話はじめた。
「世界の各地にある遺跡には意味がある。宝を護るために存在するモノ、太
古を生きた人々の信仰の対象になったモノ…」
「ダブルストレイフィング!!」
 レイの放った衝撃波がウェルガに襲い掛かった。

 ドガォン!!

 だがウェルガは手を掲げ、その衝撃波を難なく受け止めた。そして何事も
なかったかのように話を続ける。
「そして、強力な魔王を封じている遺跡もまた存在する」

 ぎりり…

 レイは口から血がでるのではないかと思えるぐらいの力で歯噛みした。ウェ
ルガは強い。それは当然である。この男もまた魔王に最も近い魔族であるの
だから。おそらくはジュニアと同格かそれ以上。その威圧感は最初に船上で
対峙した時とは段違いであった。
「わかるかね?それがここ、スフィンクスダンジョンだ。ここには『知られざる
魔王』が眠っているのだよ!」
「黙れ…」
「見たくはないかね?誰の目にも触れられることなく封じられた魔王の力
を!!」
「黙れ…っ!!」
 レイが声を荒げるが、ウェルガは相手にしていない。


 だが、ウェルガでも無視できない相手がレイの仲間にいた。
Labyrinth
 聞いたこともないような言葉、脳裏に直接響くような音の調べ。

 その瞬間、

 無数の大鎌がウェルガの周囲に出現し、それらが魔力を帯びた斬撃を繰
り出した。何の脈絡もない致命的な全方位攻撃がウェルガに襲い掛かった。
「くっ!!」
 ウェルガも無視するわけにはいかなかったのだろう。紅蓮の炎の壁、ファイ
アーウォールを自分の周囲に出現させ大鎌の攻撃を防いた後、ウェルガは
ジュニアに向かって手をかざし吼えた。
Hamatan!!」
 ウェルガの手から溢れ出る極太の衝撃波を見据えて、ジュニアが前方に
手を突き出した。
Ancient groover!!」
 ジュニアの手から十字の闇が出現し、その十字の先端から線が伸びた。
その線は十字の先端同士を結びつけ、巨大な四角形、あたかもクルセイ
ダーが持つ盾のごとき形へと変貌した。

 ゴゥン!!

 ウェルガの衝撃波とジュニアの盾は相殺消滅した。

 コォォォ…

 対峙する2人の間にさきほどの衝撃波が残した風が吹き抜ける。ウェルガ
が静かに口を開いた。
「クク…さすがは『魔族の帝王』の血を継ぐ者だな。だが何故、レイ=フレ
ジッドと行動をともにしているのか気になる所ではある」
 ジュニアは手をひらひらと振った。
「そりゃ僕にも思惑って奴はあるからね、それはレイも承知済み」
 フィリがその言葉に驚き、レイの方に視線を向けた。レイはフィリの方には
振り返らなかったが、肯定するようにかすかに頷いた。
「それは…『ラグナロク』の事かね?」
 ウェルガのその言葉にレイ達3人の表情が凍りつく。
「知っているのか」
 レイのその問いにウェルガが口元に笑みを浮かべた。
「クク…知っているも何も…20年前の戦いで我が主『闇を統べる者』と恐れら
れた魔王ダークロードはそれによって滅ぼされたのだからな。貴様の母、マ
リア=ハロウドによって」
「オフクロがさらわれたのはそれが原因か」
 レイの問いにウェルガが答えた。
「言ったはずだ。貴様の母をさらったのは『死の眷属』だとな。『ラグナロク』で
はない、あの女の本質そのものに原因があったとでも言おうか」
「本質だと…!?」
「だが」
 ウェルガはそこで身を翻した。
「今の私には貴様の継いだ『ラグナロク』の方が興味がある。我が主を滅ぼ
すほどの力…どれほどの力があるのか、興味がそそられる」
「悪いが、そう簡単に見せられるモノでもないんでね!」
 その瞬間、ウェルガの頭上からガイストが襲い掛かった。同時にレイがハ
ンターボウに弓をつがえる。ウェルガはその場から跳びのきガイストの攻撃
を避け、レイの放った矢を手で弾き飛ばすと、すぐさま自らの両手をスフィン
クスダンジョンの床に押し付けた。
「クク…では見せざるを得ない状況を作るとしよう」
「しまっ…!ウェルガは封じられた魔王を呼び出すつもりだ!」
 ジュニアが切迫した声を上げた。
「いでよ…!封じられし魔王!ファラオ!!」
 凄まじいエネルギーの奔流がスフィンクスダンジョンの床に流れ込んだ。

 そして…

 そして…

 何も起きなかった。

「…あれ」
 間の抜けたウェルガの声。
「…」
 レイ達3人も何が起こったのか、というか何も起こらなかったのだが、わか
らずに困惑する。そしてウェルガの表情がみるみるうちに引きつっていった。
「しまった!ファラオが封じられているのはスフィンクスダンジョンの第5階層
だったか!」
 ちなみにここは第4階層である。
「お前はドアホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ずがし!!

「ごはっ!」
 レイの跳び蹴りがウェルガの後頭部に炸裂した。ウェルガは蹴っ飛ばされ
た頭を手で押さえつつ、その場から跳びのいた。
「おのれ!我が野望!この程度では敗れはせぬぞ!さらばっ!」
 ウェルガは身を翻すと猛ダッシュで逃げ始めた。レイが逃がすかとばかり
に追い始める。
「逃がすか!この野郎…って逃げ足超速っ!!」
 ウェルガは超マッハでその場から逃げ去ってしまった。

「…」
 疲れた表情を浮かべるレイにフィリがそっと近寄った。
「えっと…おつかれさま…でいいのかな?」
「いいんじゃないか…実際疲れたし…特に精神的にだけどな」
 レイは気が抜けたのか、床に座り込んだ。さらにジュニアがレイとフィリの
元にやってきたので、レイがジュニアに質問した。
「上位魔族ってあんなのばっかりなのか?」
「聞かない方がいいと思うよ」
「…」
 3人がモロクの街に無事戻ったのは、それから3時間後の事であった。

 ◆

「というわけで収穫ゼロの骨折り損だった」
「そりゃご愁傷様だな」
 レイの言葉にイアルがそう感想をもらした。ちなみに今はスフィンクスダン
ジョンから戻ってきた後、待っていた3人と食堂で報告をしている最中であ
る。
「でも皆無事でよかったですよ」
 エリカが笑顔でそう言うと、ティアがその言葉をついだ。
「うん!私、お姉ちゃん達のことずっと心配してたんだよ」
「うん、ありがと。ティア」
 フィリが妹の頭を撫でた。心配してくれたのは本当だろう、何故ならティア
の目の下には思いっきり隈ができていたのだから。
「…?」
 ジュニアは食堂にカプラ職員が入ってきたのに気がついた。カプラ職員は
こちらを見ると、いやフィリを見たようにジュニアには見えた、こちらへ駆け
寄ってきた。
「フィリ=グロリアスさんですね?」
「あっ、はい」
 カプラ職員の問いにフィリが頷いた。するとカプラ職員が手紙をフィリに差
し出した。
「貴女のお父様からの手紙を預かっています」
 フィリの父親、つまりアルベルタ商人ギルドの評議員であるオールド=グロ
リアスからの手紙。フィリは手紙の封を切り、中に入っていた手紙を読んだ。
 それには簡潔に一言記してあった。

 「至急、アルベルタに戻れ」

 [続]


〜あとがき〜
唐突ですが、ジュニアとウェルガが使った技について。
強敵役とか強い味方役にもかかわらず、戦闘ではファイアーボルト連打
などという哀しい事態を避けるために作りました。
上位の魔族しか使えない〜くらいに思っててください。
ちなみに技の名前は全部ROで使われているBGMの曲名からとってます。
今回でモロク編終了。これから第1部終了に向かって突っ走ります。
てゆかモロク編長いんじゃなかったのかよというツッコミは無しで(;´Д`)



〜Web拍手の返答〜
>ナイス害ってすばらしい害?
スペシャルエクセレントな害ですっ

>ビビり気味ながららも<らが一個多いのでは?
ちょぉーぅマッハで修正しました!orz

>トレントさんおもすれぇー(*´Д`)・・・
>ってあの怖い人どなたΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)
小説の登場人物は壊れてます!実際はとても紳士です^^

>あんころ餅
餅と餡の絶妙な組み合わせが真に活かされたあんころ餅!
さらっとしたこし餡の風味を竹皮に包んで守る古くからの知恵、
作りたての美味しさを四季を通じて味わうことができます!!


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