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Ocean's Blue

016:嵐の兆し

 ギィー…
 ギィー…

 昏い、昏い、昏い、深い霧の中、巨大な船が蠢いている。
帆はあちこちが破れており、船体は傷痕ばかりが目立つ。その船体の乗員
は人ではない。この世界に悪意を持って留まっている死霊達。

 ギィー…
 ギィー…

 そして、それらを束ねる海魔が船の舳先に佇んでいた。

 ギィー…
 ギィー…

 ◆

 フィリとティアの父であるオールド=グロリアスの手紙には「至急、アルベ
ルタに戻れ」としか記してなかった。よってレイ達は理由もわからないまま港
町アルベルタへと旅の進路をとった。
 現在、レイ達は砂漠の都市モロクと港町アルベルタの間に広がるソグラト
砂漠のほぼ中央にある、通称「ゴーレム台地」へとやってきていた。
「この短期間に砂漠越えを2度もするはめになるとはな…」
 レイがぼやくとフィリが手を合わせて謝った。
「ごめんね、お父様が妙な手紙を送ってきたせいで…」
「いや、気にするなって。結局、ウェルガの出方待ちなんだし。どこに行こうと
変わらないさ」
 そう、ウェルガが何かを仕掛けてくるまでレイ達は何もできないのである。
しかも頭の痛いことにウェルガが何をしたいのかレイ達にはさっぱり理解不
能なのである。あの後、スフィンクスダンジョンで魔王を復活させてでもいる
のかと思えば、別にそういうこともないらしい。一応保険として、ジュニアとエ
リカがモロクに残っている。2人は遅れて出立してから、後々アルベルタで落
ち合う予定になっている。
「ウェルガの奴、何が目的なんだか…」
「だね…」
 2人がため息をついていると、前の方からティアとイアルが戻ってきた。2人
は偵察にでていたのだ。
「おつかれ、何か異常はあったか?」
「いや、特に危険もなさそうだ」
「ゴーレムもいなかったよ、私見たかったなぁ」
 ばさっ!ばさっ!という羽音とともに偵察にでていたガイストもレイの元に
戻ってきた。ガイストもまた異常無しということをレイ達に伝えた。

 レイ達は「ゴーレム台地」の名物ともいえるゴーレムを見ることなく、そこを
抜けていった。

 ◆

 人間の乗った船を発見した。
 襲う。
 喰う。
 人間達が泣き叫ぶ。
 喰う。
 一人の人間を捕まえ腕をちぎってそれを喰らう。
 絶叫があがる。
 脚にかじりつき、そのまま喰らう。
 断末魔のごとき絶望、命乞いの懇願。
 煩い。
 頭からその人間を喰う。
 静かになる。
 食事終了。
 不味かった。
 
 ◆

 モロクを2日遅れで出立したエリカとジュニアは、砂漠の砂が意思を持った
魔物、サンドマンに囲まれていた。それはもう大量のサンドマンに囲まれてい
た。
「いやぁ、大ピンチだね〜エリカ」
「そう思うなら戦ってください!」
 エリカがレイピアでサンドマンを薙ぎ払いながら叫ぶ。というかレイピアは
突き用の細身剣なのだが、サンドマンが多すぎてそれどころではなくなって
いるのだ。
 エリカが必死に戦う一方、ジュニアは結界で安全地帯を作って、中で一冊
の本を読んでいた。
「いやぁ、モロクの精錬屋さんに秘蔵のえっちぃ本もらっちゃってさぁ」
「死んでください!このエロ魔族ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 エリカがサンドマンに押し潰されながら恨み言を叫んでいる。
「うぉ!エリカ!この女の人こんなに見せていいものなのかな!?」
「うるさぃぃぃぃぃ!!」
「だめだ…興奮してきたよ…」
「もうイヤです…」

 ずざさぁああああああああ…

 エリカが目の幅涙をどば〜と流しながらサンドマンの群れの中に消えて
いった。ジュニアはさすがにまずいと思ったのか結界を解くと、一言だけ呟
いた。
Labyrinth
 無数の大鎌がサンドマン達のまわりに出現し、全てのサンドマンを一瞬で
粉微塵に斬り裂いた。瞬殺もいい所である。サンドマン達が砂に還った後、
その砂の中からエリカが這い出ていた。
「だ…だがら…最初がら…こうじでぐれれば…」
「それはダメだよ、エリカ」
 ジュニアはエリカの砂を払い落とすのを手伝いながら、珍しく真面目な口
調で話し始めた。
「全ての魔物にはそれを統括する魔王がいる。このサンドマン達もフリオニっ
ていう魔王が統括しているんだ。僕がその配下の魔物の命を奪ったことが
もしバレたりしたら 僕の属する『魔の眷属』との戦争に発展する可能性すら
あるんだ」
「って…今、思いっきり殺しちゃったような…」
 ジュニアがエリカの肩をポンと叩きながら、にっこりと笑った。
「大丈夫!フリオニに気づかれる前に砂漠を抜ければ!」

 ぐがぁーおーーーっ!

「……ジュニア」
「どうしたんだい?」
「向こうの方から砂埃を巻き上げながら、見たこともない化け物がこっちに向
かってきてるのですが」

 ぐがぁーおーーーっ!

「…」
 ジュニアはその砂埃を巻き上げながら迫ってくる化け物に視線を向けた。
その化け物は大口を開け牙を剥いている。一見、間抜け面に見えるが、その
殺意は肌にビリビリと感じ取れる。
「フリオニだね。思いっきりガンたれられてるね」
「フリオニですか。思いっきりガンたれられてますか」
 2人は顔を見合わせ、コクリと頷いた。
「逃げるぞぉぉぉぉぉぉぉ!エリカっ!!」
「思いっきり気づかれてるじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ぐがぁぁぁぁーおおおおおおおおおお!!!

 2人は猛ダッシュでフリオニが迫ってくる方向とは逆の方向へと駆け出した。

 ジュニアとエリカの2人は3日3晩走り通しで、フリオニの魔の手から逃れる
ことに成功した。もっとも、その後2人は力尽きたプロボクサーのように座り
込んでしまったが。

 ◆

 武装した人間の船が迫ってくる。
 武装した人間達が乗り込んでくる。
 食事が向こうからやってきた。
 人間が武器を振り回す。
 喰えばいい。
 人間が魔法を唱える。
 喰えばいい。
 傷ついた人間を別の人間がかばう。
 喰えばいい。
 そうしていると人間の数は減っていった。
 最後は騎士風の男が残った。
 まだ喰い足りないけど、あれは我らが主の獲物だ。
 我らが主である海魔がその人間の前に立つ。
 最後の人間は裂帛の気合いとともに我が主に斬りかかった。
 血飛沫があがる。
 人間の体が頭から股間まで2分割されて落ちる。
 いつ見ても惚れ惚れする。
 我が主の神速の居合い。

 ◆

 港町アルベルタの港ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「おい!先月ファロスを出た2番船が到着しないってどういうことだよ!?」
「さすがにおかしいぜ、到着を3日を遅らせるなんて今までなかっただろ」
「嵐にでも巻き込まれたんじゃないのか?」
「馬鹿言え、ミッドガルドの海は落ち着いてるんだぜ。嵐なんて考えられるか
よ」
「もしかしてよ…幽霊船とかに出会ったんじゃないのか…?」
「バカかお前!?そんなものが存在するかよ!」
「でもよ…今月に入ってすぐ、プロンテラの王立騎士団が武装した船で近海
を警戒に当たってるって噂があるだろ?」
「あんなもの噂だ噂!ていうかさっさと仕事しろお前ら!2番船のことは上に
任せて俺たちはやることあるだろうが!」
「わかったよ、やればいいんだろ、やれば」
「神様神様…何事も起きませんように…」

 彼らは2つの事に関して知り得ていない。

 祈るべき神々は『ラグナロク』で滅んでしまったということ。

 そして、もう一つの知り得ていないことは

 ◆

 「ゴーレム台地」を抜けてから約1週間、レイ達はようやくアルベルタに足を
踏み入れた。ジュニアとエリカも同じ工程なら2日後にはアルベルタに着くこ
とだろう。
「こっちこっち〜」
 ティアが先導して先に進む。進む先は当然フィリやティアの実家、グロリア
スの屋敷である。フィリとティアの父であるオールド=グロリアスからの手紙
の真意を問いただすためでもある。

 しばらく歩いた後、グロリアスの屋敷の前にやってきた4人は言葉もなく立
ち尽くした。オールド=グロリアスと、フィリ達の姉であるミリア=グロリアス
が屋敷の前で待っていたからである。
「…?」
 レイはミリアの右頬が叩かれた後のように赤いことに気づいた。
「お父様…た…ただいま」
 フィリがオールドのそばに歩み寄りつつ恐る恐る声をかけると、オールドは
無言でフィリに視線を向けた。そして、

 ばしぃっ!!

 オールドの平手打ちがフィリの頬を打った。
「…っ!?」
 フィリも含めて皆が、何故叩かれたのか信じられないという表情を浮かべ
た。そんな中、ミリアだけが理由を知っているのか目を伏せた。
 オールドは頬を押さえて地面にうずくまっている娘に、フィリに対して口を開
いた。
「何故叩かれたか…わからないという顔だな?」
「…」
 フィリは無言、無論レイ達も。オールドは口調に怒気をこめながら言葉を続
けた。
「私はお前が冒険者になることは認めた。だが、レイ君の旅に同行すること
は認めていない!」
「…お父様は」
 フィリが叩かれた頬を押さえながら立ち上がった。
「お父様はそんな事一言も言ってなかった!」

 ばしぃっ!!

 逆の頬を叩かれたフィリの身体がよろめいた。
「それは言わずともわかっていると思っていたからだ!このバカ娘が!レイ
君の旅の危険性をお前は認識しているのか!?」
 オールドは憎々しげにミリアの方にちらりと視線を向けた。
「それを正確に認識せずに無責任にけしかけたお前も同罪だ!」
 ミリアが済まなさそうに顔をうつむかせた。フィリはそれでも食い下がった。
「私が冒険者になったのは!」
「黙れ!」
「いや!!」

 ばしぃっ!!

 3度目の頬を叩く音。たたみ掛けるようにオールドは言い放った。
「いいか!フィリ!お前は今日限りで冒険者をやめさせる!それから今日か
らしばらくお前を屋敷の外へは出さん!」
 そう言ったオールドはティアに視線を向けた。
「ティアも同行していたとはな、お前も屋敷に戻れ」
「…」
 ティアが無言で後ずさる。オールドはつかつかとティアに近寄ると腕を強引
にねじ上げた。
「…っ痛い!痛いお父様!」
「屋敷に戻れ」
「…っ……はい」
 ティアがうなだれる。

 オールドはレイとイアルに視線を向けた。
「レイ君と…そちらの方は初見ですね。私はアルベルタ商人ギルド評議員の
一人、オールド=グロリアスです。娘達がご迷惑をおかけしました。すみませ
んが…今日はお引取り願えますか?」
 レイとイアルは頷くことしかできなかった。

 オールドの物凄い剣幕から、自分達の旅の危険性を再認識させられ、そし
てオールドが心の底から娘達を心配していることがわかってしまったからで
ある。

 ◆

「もしかしてよ…幽霊船とかに出会ったんじゃないのか…?」
「バカかお前!?そんなものが存在するかよ!」
「でもよ…今月に入ってすぐ、プロンテラの王立騎士団が武装した船で近海
を警戒に当たってるって噂があるだろ?」
 そんな船員達の会話が聞こえてくる港を海沿いに歩いていた男が、前方に
広がる海に少しずつ陰りが見えていることに気がついた。その男はレイ達が
モロクで出会ったトレント率いる「トレント★樹海団」のギルドメンバーの一人
で、ギルドのナンバー3、フィン=ロルナークという騎士であった。
 フィンはその陰りを見つめながら一言呟いた。
「嵐が…来るか」
 海の陰りから逃れるようにカモメ達が飛ぶ。そしてその内の一匹のカモメ
の放った特大のフンがフィンの頭に命中した。

 べちゃ

「…」
 フィンは額に青筋を浮かべながら、カモメを追い回した。

 ◆

「あんなもの噂だ噂!ていうかさっさと仕事しろお前ら!2番船のことは上に
任せて俺たちはやることあるだろうが!」
「わかったよ、やればいいんだろ、やれば」
「神様神様…何事も起きませんように…」

 彼らは2つの事に関して知り得ていない。

 祈るべき神々は『ラグナロク』で滅んでしまったということ。

 そして、もう一つの知り得ていないことは




 魔軍七大勢力の一角。

 『幽の眷属』を率いし、伝説の魔王。

 人の身では抗うことすらおこがましいと思える存在。

 「幽鬼なる海魔」と詠われし、幽霊船長ドレイク。

 ドレイク率いる全てを喰らう海の亡者達の大軍勢、

 それらが港町アルベルタに迫りつつあった。

 [続]


〜あとがき〜
もうすっごい急展開っ!Σ(゚Д゚;)
ちなみに追記ですが、ドレイクとオールドの手紙は関係ないです。
娘を呼び戻したかった親心ですよ、ベイベー(誰
本当は砂漠越えを3話くらい入れようかと思ってたんですが…
中だるみイクナイ(・A・)というわけで、話を進めることにしましたっ!
今回の次回予告は無し!(゚∀゚)


〜登場人物紹介〜
○オールド=グロリアス
フィリ、ティア、ミリアの父。
厳しいが、心の底から娘達の事を心配し、愛している。
アルベルタの商人ギルドの評議員。地味に偉い人。

○フィン=ロルナーク
「トレント★樹海団」のナンバー3の騎士。
やる事が全てネタと化す特殊能力を持っている。(トレント談)



〜Web拍手の返答〜
>4FにMVPボスいたっけとマジで
>考えているとちゃんとオチの準備と・・・お見事
何気にストーリー展開考えて作ってますよ!

>たぬ〜んヾ(´ー`)ノ
捕獲っ!!(ノ゚Д゚)ノ

>アーチャースケルトンカード一個獲得
ラブコメスケルトンカード一個獲得


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