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Ocean's Blue

017:パーティ解散

「呼び出してすまないね、レイ君」
 港町アルベルタに到着した次の日、レイをを繁華街の一角にある喫茶店に
呼び出したオールド=グロリアスは開口一番そう言った。
「話って…何ですか」
 テーブルに座った後、レイがそう質問した。
「わかっていると思うが、フィリの事だ」
 やっぱり。レイはオールドの答えが予想できていた。つまるところオールド
が言わんとしていることは、
「あの子を…君の旅に同行させるのをやめさせてほしい。それを…君自身の
言葉であの子に伝えてほしい」
「俺が…ですか」
 オールドは複雑な表情をしながら言葉を続けた。
「君なら…わかってくれるはずだ」
 レイにはオールドの気持ちが痛いほどわかった。オールドはフィリが心配
なのだ。オールドとフィリは血のつながってない親子だ。だからこそオールド
は余計にフィリを大切に、大切に育てた。
 フィリもその事はわかっているだろう。だがフィリは危険を承知でレイの旅
に同行している。理由は誰が見ても明白だ。

 フィリはレイに好意を抱いている。

 それもただの「好き」ではなく、十分「愛情」レベルである。だからこそオー
ルドはその好意の対象であるレイに言っているのだ。フィリに旅に同行しな
いよう言い聞かせろと。
 ウェルガ=サタニックなどの上位魔族に付け狙われ、「彷徨う者」という正
体不明の化け物を追っている、危険なレイの旅。オールドはフィリがそんな
旅に同行していることを考えるだけで胸が張り裂けそうな気持ちになるのだ
ろう。

 だから

 憎まれ役になろうとも、嫌われようとも、娘の安全を最優先した判断をす
る。親として当然の行為。
「……わかりました」
 レイはかすれた声を絞り出した。

 この旅の危うさがわかっているから

 フィリの身の安全の保障などできないから

 オールドの親心が理解できるから

 そして何よりも『ラグナロク』の力を継承しているのだから

「俺が…俺から…フィリに言います」
 レイは…フィリと別れる決意をした。

 別れを告げれば、フィリは傷つくだろう。だが傷は小さい方がいい。 取り
返しのつかない虚無感と絶望感を…フィリに味あわせたくはなかった。

 ◆

 ポツ…ポツ…

「やば…雨が降り出した…」
 フィリは徐々に強まる雨を避けるべく、そばにあった道具屋に駆け込んだ。
すると道具屋のカウンターから声がかかった。
「フィリ?」
 呼ばれたフィリが振り返ると、そこには懐かしい顔がいた。
「ルナ!久しぶり!」
 ルナ=イムソニアック、フィリと同い年の幼馴染である。フィリとルナ、それ
にティアは3人でよく遊んでいた仲だった。
「あれ…?フィリって今、監禁状態にあるんじゃ〜?」
「えへへ…抜けたしてきてたり」
 ルナが呆れたような表情を浮かべた。
「フィリって昔から変わらないよね〜。でもそういう面があるから冒険者にな
れたのかな?」
「かも…、っていうかお父様、横暴〜。ティアがイアルと旅するのは認めたの
に、私がレイの旅に同行するのはダメだって」
「それはレイ君…だっけ、彼の旅が危険だからなんでしょ〜?」
「うん…、でも」
 フィリが頬を少し紅く染めながらつぶやいた。
「私は…レイといたいから…」
 そんなフィリの様子を見たルナがにこにこと微笑みながら一言。
「告っちゃえば〜?」
「──っ!!」
 その言葉を聞いたフィリが顔を真っ赤にして振り向いた。
「ルルルルナ!私は…その!焦らなくてもいいというか…ほら、このままでも
いいと思うな〜とか!」
 告白まがいな事はしたが、プロンテラの宿屋で。
「な〜んだ。まだ告白してないんだぁ〜」
「…」
 フィリの思考が一瞬停止した。ルナの前後のセリフを総合して考えると。
「もしかして誘導尋問っ!?」
「せぃか〜い。フィリって単純〜♪」
「忘れてっ!忘れなさいっ!」
「きゃ〜っおそわれる〜っ♪」
 しばらく道具屋の中をドタバタ走り回った2人はその後、肩で息をしながら
店の床に座り込んだ。
「もう…ルナといると疲れる…」
「あはは、私は楽しいよ〜、…あ」
 ルナは道具屋の入り口に新たな人影が現れた事に気がつき、慌てて立ち
上がった。入ってきたのは男の騎士だった。
「いらっしゃいませ〜」
 外は完全に雨が降り出したのか、その騎士の男は全身がびしょびしょに
濡れていた。
「ついてないなぁ…カモメに特大のフンをクリーンヒットさせられるわ…雨に
は降られるわ…」
 その男の騎士はブツブツ言いながら、道具屋の道具が並べられている棚
を見て回っていた。フィリは邪魔になると判断し、ルナに目配せをした。
(じゃね、ルナ。また遊びに来るね)
(うん。外、雨だからそこにある傘持っていっていいよ)
(ありがと、それじゃっ)
 フィリはルナから借りた傘をさすと、雨の中を歩き始めた。


 ガタン!ドガ!

 フィリが道具屋をでた直後、道具屋の戸棚が突然倒れてきて、その下にい
た男の騎士が全力でそれを支えた。
「ぬおおお!いきなり何だああああああ!ぬおぅりゃああああ!」
 裂帛の気合いで支える男の騎士。だが誤算があった。男の騎士はずぶ濡
れだった、雨に濡れて。

 つるっ!

「何ぃぃぃぃいっ!!」
 足を滑らせ、断末魔の悲鳴を上げる男の騎士の上に道具屋の戸棚が倒
れこんだ。

 ズシィィィン…(途中にぷちっという音)

 ルナがぱたぱたと戸棚の下敷きになった男の騎士に近寄ると一言。
「お客さん、倒した戸棚の商品〜全部で1Mゼニーになります〜♪」
「商売上手だね…お嬢さん…」
 男の騎士…フィン=ロルナークは戸棚の下敷きになったまま涙した。



 ザー…

 雨がとめどなく降り続ける。

 レイが雨の中、傘もささずにフィリを待っていた。

 フィリはレイの瞳に明るい色が全く見えない事に胸騒ぎを覚えた。

 ザー…

 雨がとめどなく降り続ける。

 ◆

「レイ!風邪引いちゃうよ!?」
 傘もささずに雨の中を立ち尽くすレイにフィリが慌てて駆け寄った。フィリ
はひとまず傘をレイの上に持ってこようと手をのばした…が。
「フィリ、話がある」
 レイはフィリの手を押しとどめると、フィリと距離をとった。

 胸騒ぎが大きくなっていく。

「な…何…?」
 フィリの声は震えていた。何故かはわからなかった、フィリ自身にも。レイ
は少しだけ目を伏せた後、こう言った。


「パーティを解散しよう」


「──────────っ」
 フィリはその言葉が意味が理解できず信じられず立ち尽くした。気がつか
ないうちに借りた傘が手を離れて地面に落ちていた。

 ザー…

 降り続ける雨が2人の頬をつたう。

「レイ…何を言ってるの…?」
 フィリは声を震わせながら、レイに問い返した。レイは辛い表情を押し隠し
て、身体を翻した。言うべきことは伝えた、そう言っているようにフィリには思
えた。そして、これでお別れだということも。

 レイがフィリから離れるように歩き始める。

 その瞬間、フィリは大声を張り上げていた。
「わ…私は…っ!レイの事が好きなの!ずっとずっと好きだった!一緒にい
たい!私はレイと一緒にいたい!」
 自然と涙が溢れ出る。止めることのできない感情の吐露。

 レイの足が止まる。

 ザー…

 雨がとめどなく降り続ける。

 レイはフィリの方を振り返らず、歯を食いしばりながら呟いた。
「ゴメン、俺はフィリとは一緒には…いられない」
「───っ」
 フィリが両手で顔を覆った。次第に嗚咽がもれ、それが慟哭へと変わって
いく。レイはそのまま振り返らず、雨が降りしきるアルベルタの街へと消えて
いった。

 ザー…

 雨がとめどなく降り続ける。

 ◆

 先ほどから降り始めた雨が窓を打っている。
「本気なの、お父様!?」
 フィリの姉であるミリアは屋敷の書斎で父であるオールドに詰め寄った。
「ああ、フィリは明日から私が乗る交易船に同行させる。龍之城とアユタヤ
まで行く船だ。半年は戻らないだろう」
「何で!?あの子を連れて行く必要はないでしょう!?」
「連れて行ってはならない理由もないと思うが?冒険者はやめさせるのだ
からな」
「…っ!」
 オールドは目を伏せた。
「ミリア…わかってくれ。これは全部あの子のためなんだ…」
「お父様がフィリを心配する気持ちはよくわかります!でも!」

 ゴ…トン

 屋敷の玄関の方から物音が聞こえたのに気づいたミリアは急いで玄関の
方まで走っていった。そこには放心状態のフィリが立ち尽くしていた。
「フィリ…」
「…」
 傘を手に持っているのにさして帰って来なかったのだろうか。ずぶ濡れに
なっている。それだけではない。見ているだけで痛々しいのだ。
「…っ!!」
 フィリの表情が歪んだ。ミリアの胸にすがりつくように抱きつくと、フィリは目
からぼろぼろと涙をこぼしながら泣き始めた。
「う…う…お姉ちゃん…お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 その様子からミリアは何があったか、容易に想像することができた。

 慰めの言葉をかけることもできず、ミリアは泣きじゃくる妹を抱きしめた。

 ◆

 フィリに別れの言葉を伝えたレイは宿に戻り、出立の準備を進めていた。
ガイストが心配そうにしてレイのそばから離れない。
 見るからに痛々しい様子のレイを見たイアルが口を開いた。
「お前さ、これでいいのか?納得できてんのか?」
 レイの作業の手が止まる。
「これでいいんだ。納得もしてる。ジュニア達に伝えておいてくれ、パーティ
は解散したってな」
 その言葉にイアルがキレた。イアルはレイの胸倉をつかみ上げた。

 バキィ!!

 イアルの右拳がレイの左頬を打った。イアルがよろめくレイの胸倉をさらに
つかみ上げた。
「お前いい加減にしろよ!?これでいい!?納得した!?じゃあ何でそんな
に辛そうなんだよ!見てられないんだよ!」

 ドガ!!

 レイの拳がイアルのわき腹に突き刺さった。感情を吐露するかのごとくレイ
がまくし立てた。
「うるせぇ!もう決めたことなんだよ!大体お前に何がわかるんだ!わから
れてたまるかよ…!とんでもない爆弾を抱えてる身体を持ってる俺の気持ち
をわかられてたまるかよ!」

 バキィ!!

 イアルの拳が再度、レイの顔を打ち据える。先ほどの数倍の威力はあろう
かという本気のパンチだった。レイがその反動でよろめき、床に尻餅をつく。
「んなもん知るか!何か知らんが一人で抱え込んで不幸自慢か!?もう勝
手にしやがれ!」
 イアルは自分の荷物を持つと部屋をでた。部屋を出たところでイアルは吐
き捨てるように言った。
「じゃあなレイ。もう会うこともないと思うが、せいぜい一人で頑張れよ」

 イアルの足音が遠ざかっていく。

「…」
 レイは自嘲するように笑った。
「…全部…なくしちまったな…」
 ガイストがレイのそばに寄った。
「そうだな、まだお前がいたんだったな…」
 この街、港町アルベルタでフィリと再会する前に戻っただけの話だ。

 この日、レイは再び独りになった。

 [続]


〜あとがき〜
(´・ω・`)←この話を書き終わった後のトレントの表情。
こういう話は苦手ですよ…orz
他人の不幸が蜜に感じる人にはツボかもしれませんが(;´Д`)
次回は第1部の山場なんで頑張って書きます(`・ω・´)


〜登場人物紹介〜
○ルナ=イムソニアック
フィリとティアの幼馴染。アルベルタの道具屋の看板娘。
間延びした口調で話すまったり人。



〜Web拍手の返答〜
>フィンさんかわいい〜
彼はいつも新鮮でぷりちーなネタを提供してくれます^^

>怖いよー食われてるよー・・・
>でも実際だったらあんな感じだろうなぁとか、でも怖いよー
自分で書いてて凄く鬱になってましたよ(ノロ`)
しかし危機感MAXな状況にするにはこれしかっ!

>ガンホーガンバッテマス!!(><)ノ
癌張ってるけどBOT減りませんwwwっうぇ
頑張ってねぇぇぇぇぇっ!


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