前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

018:告白

 その日は月夜が綺麗な夜だった。
「私は…『ラグナロク』という禁呪を継いでいます。この力は使用することで、
使用者の大切なものを奪っていく諸刃の刃なんです」
 弓を持った美しい若い女と、軽装だが年季の入った鎧を身にまとった若い
男が寄り添うようにしてミョルニール山脈の景色を、月夜に照らされた美しい
七色花を見つめていた。
「大切なものが奪われる…?具体的に何を奪われるんだ?」
「わかりません」
 女は即答した。
「消え去るのは私の五感かもしれません。心の中に宿る感情かもしれませ
ん。それは…奪われた後でしか…わからないんです」
「ふん…なら使わなければいいだけだ、そんな物騒な力はよ…」
 男がそう言うと、女は哀しそうに微笑んだ。
「これでなければ…『ラグナロク』でなければ大切な人を護れないとしたら…
貴方だったらどうしますか?」
「そりゃあ……」
 男は気づいた。救える力があるにもかかわらず、何もせずに見過ごすこと
など絶対無理だ。護りたいものが大切な人であるならばなおさらだ。例え自
分がどうなろうとも…諸刃の刃でしか大切な人を護れないのならば、躊躇は
しない。いつか奪われる時が来る、そういうことなのだ。
「なるほどな…そういうことか」
 男が複雑な表情で納得したように言った。その様子を見た女が目を伏せ
た。
「だから…貴方とはもういることはできません。私はいずれ…貴方に哀しみ
を背負わせてしまうから…」
「…」
 男は無言で女に歩み寄った。そして強引に自分の方に引き寄せるようにし
て抱きしめた。
「…っ!」
 突然のことに驚く女に男は力強く語りかけた。
「そうだな。お前を愛した俺はいずれ哀しみを背負わされるかもしれねぇ。だ
けどな、それがどうした?お前がいる限り俺はお前を愛す。例えお前が死の
うが関係ねぇ、俺はお前に惚れたんだ。理屈じゃねぇんだよ」
「…」
「ずっと傍にいてやる、そして…お前がその力を使わなくてもいいようにずっ
と護ってやる。そして、このくそったれな戦いが終わったら俺と結婚してくれ」
 女の目から涙がこぼれ落ちた。そして一言だけ答えた。
「はい…私も…貴方をずっと愛します」


 そして戦いは…魔族達の大攻勢、『トリスタンの悪夢』はその日から終局へ
と向け加速し始めた。


 ラクール=フレジッドはこの時の誓いを果たすべく、愛するマリア=ハロウ
ドを護り、傷つき、戦った。だがラクールですら敵わない、強力な闇の王が具
現化した。魔軍七大勢力、筆頭魔王『闇を統べる者』ダークロード、その魔力
は手の一振りで街を廃墟と変えていった。
 ラクール達『七英雄』も果敢に挑んだが、結果は無惨なものだった。『七英
雄』のうち3人が殺され、マリア=ハロウドを除く3人が瀕死の重傷を負った。
その圧倒的な力を持つ魔王を前に人々は敗北を悟った。

 そして、マリア=ハロウドは決意した。

 全てを護るために、『ラグナロク』を使うことを─────

 ◆

 ザァ……

 港町アルベルタのいたる所に設置してあるベンチの一つにレイはずっと
座っていた。昨日の雨が嘘のように快晴であり、海から吹いてくる柔らかな
風がレイの頬を撫でていた。
「何やってるんだろうな…俺…」
 この街をすぐに出ると決めたにも関わらず、未だにこんな所にいる。朝か
らずっとここにいた。もう夕方に差し掛かり、夕陽がさんさんと輝いていた。
 未練、多分言葉にすればこれ以外当てはまるものはないだろう。何が未練
なのかはわかっている。だが、いずれ深い哀しみを与え、傷つけてしまうか
もしれないのなら、離れた方がいい。その事はわかっているはずなのに…こ
の街から離れられなくなっている自分がいることにレイは気づいていた。
「…情けないな」
 そう言えば朝からガイストの姿も見ない。もしかしたら愛想をつかされてど
こかに飛び去ったのかもしれない。レイはため息をつくと、空を見上げた。夕
陽が空を紅く染め上げている。

 そんな時、その女性がレイの前に現れた。

 にこにこ微笑みながらベンチに座って空を見上げているレイの顔を覗き込
んでいる。レイはその視線を見返した。
「何か用か?」
 その女性は柔らかな微笑を浮かべながら言葉を返した。
「何か…悩んでいませんか?」
 レイはその女の顔にどこか見覚えがあった。服装でなく、顔に。しばらくし
てレイはある女性の顔と目の前の女性の顔が一致した。
「ミサキ=リフレクト?」
「はい、そうですよ」
 モロクにいた天女のごとき舞を披露していたダンサーだ。今は肌が露出し
ている踊り子装束ではなく、普通の服装だったため、すぐには気づかなかっ
た。
「つっても俺はあんたとは面識ないけどな…」
「そうですね。でも何だかお辛そうにしてましたから…」
「…でも俺は間違ったことはしてない」
 レイはそう言うとミサキが少し微笑んだ。
「間違ったことをしてなくても…自分に嘘をついてはいけませんよ」
 レイがその言葉を聞いて弾かれたように立ち上がった。
「あんたに…何がわかるんだ…っ!!」
「私は…記憶喪失なんです」
「…っ!?」
 レイの表情が驚き、凍りついた。
「今、私を養ってくれている座長さんが言うには、雨の降る夜に川辺に倒れ
ていたそうです。私はその時より以前の記憶がないです。覚えていたのは
私自身の名前と…」
「…」
「…私には大切な人がいたことだけは…何となく思いだせるんです」
 ミサキは言葉を一度切った後、再度口を開いた。
「誰かもわからない人を探しています。でも…私の心が言うんです。その人
は…私にとって大切な人だって。そしてその人は…きっと私が記憶喪失に
なっていたとしても…私を愛してくれるだろうって…」
「あんたは…自分が大切な記憶を失っていても、そいつが自分を愛してくれ
るって信じてるのか」
 ミサキはにっこりと微笑んだ。
「信じてますから。私自身の気持ちと、私を愛してくれた大切な人の気持ち
を、私は…ずっと信じています」
「…あんたが記憶を失っている事を知ったら、相手は傷つくんじゃないの
か?」
 レイはいつになく饒舌だった。だが言葉が止まらない。
「好きっていう気持ちは理屈じゃないですよ。それに…どんな事があろうとも
…私を好きでいてくれた人は…ずっと私の傍にいてくれる、私はそう思いま
す」
 どんな事があろうとも。理屈じゃない。レイの胸にこれらの言葉が突き刺
さった。自分の気持ちに嘘をついて、予定調和のようにまわりに合わせて、
それで相手もまわりも、自分自身も傷つけて、それが一番いいことなのだろ
うか。


「レ…レイ君ですか…?」
 レイがミサキの言葉に心を揺り動かされているとき、レイの所に一人の女
の子がやってきた。ルナ=イムソニアック、フィリの友人で道具屋の看板娘
だ。何度か顔を見たことはある。
「…ルナだっけ」
「そうです〜ってそんな自己紹介してる場合じゃないんです〜っ!フィリが!
フィリが!」
「フィリが…どうした?」
 ルナの慌てようにレイの表情が険しいものへと変化した。
「あと30分くらいで出航する交易船に乗ることになってたんです〜!龍之城
とかアユタヤに行くらしくて…半年は戻らないって言ってたんです〜っ!!」
「…っ!!」
 レイの表情が一瞬だけ険しいものに変化した後、すぐに穏やかなものに変
わった。レイはミサキの方に視線を向けた。
「俺も…自分の気持ちに嘘はつかないことにした」
「はい、頑張ってくださいね」
 事情は聞かず、ミサキはレイにエールを送った。次にレイはルナに礼を
言った。
「ルナ、教えてくれてありがとな」
「早くフィリの所にいってあげてくださいね〜。あの子はずっとレイ君の事を
待ってますよ〜」
「ああ」
 レイは次の瞬間、全速力で港の方向へと走り始めた。


 港までの距離はレイが全力で走って30分はかかるだろう。

 だが、諦めない。

 もう自分の気持ちに嘘はつかないと決めたから。

 レイは走った。

 全速力で走っているから、息がすぐに切れた。

 だが、それでも走り続けた。

 止まるわけにはいかなかった。

 諦めない。

 絶対に諦めない。

 フィリに会って、そして言うのだ。

 自分の嘘偽りない気持ちを────


 ◆
 
「おい!何だお前!?止まれ!」
 港についたレイは人ごみをかき分け、グロリアス商会の船へと駆け寄って
いく。だがそれを数人の船員達が押しとどめる。
「どけ!」
 レイは自分を押しとどめようと道を塞いだ船員達を殴り倒して前へと進む。
「てめぇ!よくもキスクを!」
「こんなガキ捻りつぶしてやれ!」
 船員達とレイの乱闘が始まった。


 何で。

 レイが船員達と乱闘を起こしている。レイは船員達を殴り倒して、こっちに
向かってくる。自分の元にやってこようとしている。
「レイ…何で…」
 抜け殻のように放心状態になっていたフィリはグロリアス商会の船の甲板
からその様子をずっとずっと見つめていた。


「何の騒ぎだ」
 オールド=グロリアスは外の騒ぎを聞きつけ船長室から甲板へと出てき
た。すると顔を腫らした船員の一人が訴えるように言った。
「それが滅法ケンカの強いガキが船に乗り込もうとこっちに向かってきてるん
ですよ、いつつ…」
 オールド=グロリアスは港で乱闘を起こしている人物が誰かを認識した瞬
間、息を呑んだ。そして何か言おうと船の桟橋に向かおうとしたとき、腕を誰
かに掴まれた。オールドの腕を掴んでいたのは、娘であるミリア=グロリア
スだった。
「ミリア、放せ」
「お父様もいい加減わかってるんじゃないですか?あの子は…フィリはもうレ
イ君なしじゃ、もういられないことぐらい…ね♪」
「……ふぅ…ミリア…強引さが母さんに似てきたな…」
 オールドは諦めたように深いため息をついた。


 ズダンッ!!

「よし!押さえ込んだぞ!」
「絶対放すな!このままミンチにしてやる!!」
 船員達数人がかりで地面に押さえ込まれたレイはもがいたが、まるで動き
がとれなかった。もがきながらレイは船を見上げた。そこにはフィリがいた。
 まだ、諦められない。そこに大切な人はいるから。

「やれやれ…世話のかかる奴だな、ホント。サプライズアタック!!」

 ドガドガドガッ!

 突然、レイを押さえ込んでいた船員達の身体が吹き飛んで宙を舞った。レ
イが驚いて見上げると、そこにはイアルとティアが立っていた。ティアの肩に
はガイストがとまっていた。
「レイお兄ちゃんに助っ人参上〜っ♪」
「イアル…ティア…」
 呆然と呟くレイをイアルが叱咤した。
「はよ行け。ここは俺たちに任せろ」
「ほいじゃ相手になるよ〜!カートレヴォリューション!!」
 イアルとティア、それにガイストが船員達に突っ込んでいく。
「ティアお嬢様!そんなご無体な!」
「勘弁してください〜!!」
「うあああ!変なところから攻撃されたぁぁぁ!」
「うぉっ!この鳥風情がっ!っいてて!ごめんなさい!ごめんなさい!」
 船員達がカートをぶんまわすティアや、物陰から攻撃を繰り返すイアルか
ら逃げ惑う隙にレイが船と港をつなぐ桟橋を駆け上がった。


 甲板に駆け上がったレイと、そこで様子をずっと見ていたフィリの視線が
合った。
「フィリ」
「来ないで」
 レイが声をかけるとフィリが拒絶の言葉とともに少しだけ後ずさった。
「フィリ」
「いや…」
 フィリが身を翻して逃げ出そうとしたのを、レイが素早く腕を掴み、押しとど
める。レイは逃げ出そうとしていたフィリを自分のそばに引き戻した。
「放して…」
 弱々しい拒絶、レイはフィリと向き合うとその両肩を自分の両手で掴んだ。
「フィリ、聞いてくれ」
「いや…もう…辛くなる言葉なんて聞きたくない…」
「俺はもう自分の気持ちに嘘はつかないことにした。だから言う。言わせてく
れ」
 レイは一息ついてから、大切な言葉を紡いだ。

「フィリ、好きだ」

 ストレートな告白。だが一番、相手の心に伝わる言葉。
「フィリ、ゴメン。俺、自分の気持ちにずっと嘘ついてた。でももう自分の気持
ちに嘘をつくのはやめた。やめにした。大切なのは今だって気づいたから」
「…レイ、わ…私は」
 フィリは唐突な告白に思考が現実についていってなかった。何か、何か言
わないとという気持ちが先走っていて、うまく言葉にならない。
「もう聞いた。だから言わなくていい」
 レイはそう言うと、そのままフィリに唇を重ねる。

 一秒。

 ――二秒。

 ――――三秒。

 ―――…

「…焚き付けはしたけどよ…公衆の面前でそこまでしろとは言ってないぞ…」
 呆れたようなイアルの声が聞こえて、レイとフィリは慌てて身体を離した。
レイ達のまわりにはイアルとティア、オールドとミリアがやってきていた。
「あ、う…」
 今になって羞恥心がでてきたのかフィリは顔を真っ赤にして俯いた。レイも
バツの悪そうな表情を浮かべながら、オールドの方に視線を向けた。
「オールドさん、俺はフィリの事が好きです。だから…フィリ無しの旅はもう考
えられません」
 オールドはその言葉を聞いた後、深いため息をついた。
「多分こうなるような気はしていたよ」
 オールドが優しい笑みを浮かべた。
「レイ君。血はつながっていなくてもフィリは私の大切な、本当に大切な娘な
んだ。ちゃんと護ってやってくれ」
「はい」
 レイは力強く頷いた。
「お父様…」
 フィリが言葉を震わせながら、オールドを呼ぶ。オールドはそんな娘の頭
に手をポンと置いた。
「もう私は何も言わない。自分のやりたいようにやりなさい。後悔しないように
な」
「はいっ」
 フィリもまた力強く頷いた。と、そこでティアが羨ましそうな声を上げた。
「あ〜フィリお姉ちゃんいいな〜、晴れて彼氏もちかぁ〜」
 その言葉を聞いてミリアが額に青筋を浮かべた。
「それは未だに彼氏作ってない私への当てつけかしら?」
「ち…違っ!ミリアお姉ちゃぎゃあああああああああ!!」
 ミリアからコブラツイストをくらったティアが悲鳴を上げた。

 全く、いつもの光景だった。

 ただ違うのは、レイの傍にはフィリがいて、フィリの傍にはレイがいる。

 2人気持ちが通じ合ったということ。

 それを実感した2人は視線を交わすと、互いに笑顔で返した。


 ◆


 どさ…

 港にいた船員の一人が突然倒れた。
「おい、どうした……ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁあ゙あ゙!!」
「なっ…ぎゃあああああああああ!!」
 連鎖的に次々と船員達が倒れ付していく。
「何だ!?」
 オールドが甲板から港を見下ろすと、そこは血の海と化していた。

 船員の腕がちぎれている。

 脚がもげているものもいる。

 首がない、死んでいる者もいる。

「…なっ!?」
 オールドは絶句した。何が起こっているか全く理解できないからだ。だがレ
イ達…冒険者の反応は少し違っていた。
「何だ…この強烈な圧迫感は…!?」
 イアルが額から脂汗を流しながら呟いた、次の瞬間。


 ドォゥン!!ドォゥン!!ドォゥン!!


 港町アルベルタのいたる所で爆発するかのような音とともに無数の竜巻が
発生した。それと同時に空は曇り、太陽は闇へと消えた。
「…竜巻!?」
「違う…あれは竜巻なんかじゃない!」
 ミリアの言葉をレイが訂正した。そうそれは竜巻などではなかった。

 その竜巻に見えたものは無数の死霊が群を為しているものだった。

「うわぁぁぁああああ!何だあれは!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
 船の海側にいた船員達が悲鳴を上げた。レイ達が視線を向けると、巨大な
船が深い霧の中から出現した。
「あれは幽霊船…か、まさか」
 オールドが言葉を震わせた。そして誰もが最悪の事態が起こりつつあるこ
とに気づいていた。

 巨大な幽霊船の船の舳先にそれはいた。

 魔軍七大勢力、最強の魔王の一人

 『幽鬼なる海魔』、幽霊船長ドレイク

 今宵、アルベルタは血に染まる。

 [続]


〜あとがき〜
第1部の大きな山場である今回の話いかがでしたでしょーか?
書いてる途中で何度か放り出しそうになってましたorz
色んな意味で精神崩壊しますよ、これ(;´Д`)
次回から第1部のボスであるドレイクとの戦いが始まります!


〜登場人物紹介〜
○マリア=ハロウド
レイの母。20年前の魔物の大攻勢『トリスタンの悪夢』で
闇の王ダークロードを倒した。七英雄。



〜Web拍手の返答〜
>フィンさんはネタをしょってくるんですね
しょってるどころか、ネタそのものです。崇めましょう。

>道具屋で1Mて・・・
>どんだけ壊したらそこまでいくんだろうw
あの後フィンさんは1Mゼニー払えなかったので、臓器を売r(鯖キャン

>(´・ω・`)
(`・ω・)<もげー

>RBO=RganarokBattleOcean'sBlueの方向で(何
伝説のオヤジが強すぎて皆ゲームオーバー!

>古くて青い箱がある。どうしますか(==)ノ
笑顔で開けて、泣き顔で閉めます。

>酒きれたぞ〜〜(=w=)ノシ
とりあえず青汁飲んどけっ


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット