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Ocean's Blue

020:ネタ騎士参戦

「「な…っ!」」
 ジュニアとエリカは港町アルベルタが巨大な黒く濁った水の結界に覆われ
ているのを見て、揃って驚きの声をもらした。
「ジュニア…あれは…!?」
「あれは魔軍七大勢力の一角、『幽鬼なる海魔』、ドレイクが得意とする結界
…『Watery Grave』…か…」
 信じられないといった口調のジュニアの言葉にエリカが蒼白になった。
「じゃあアルベルタはドレイクに攻められているということですか!?」
「おそらくね」
「何で!?ドレイクが!?」
 取り乱すエリカの肩をつかんだジュニアは、いつになく真剣な眼差しをして
いた。その様子を見たエリカが少しだけ心を落ち着ける。
「いいかいエリカ、あの結界は僕が本気を出しても抜けられない。だけどドレ
イクだって全能じゃない。もしかしたら結界に不備があるかもしれない。そこ
を探すんだ」
「探すと言っても…どうやれば…」
「見たままさ、薄い部分を探してほしい。僕があいつの相手をしている間に…
ね」
「え…」
 エリカはジュニアがいつのまにか視線を向けていた方向に振り向いた。

 そこには黒き瘴気を撒き散らす死霊がいた。

「久しぶりだね。『黒死』…デッドリーレイス、『幽の眷属』のナンバー2」
 ジュニアがデッドリーレイスと呼んだ死霊が蠢いた。
「実に久しぶりだ…『魔界の貴公子』…バフォメットジュニア」
「その名前で呼ぶのはやめて欲しいなあ。今はジュニア=サイドライクだよ」
「名前などどうでもいい…」
 デッドリーレイスがその身体の中央にある大口を開き、牙を剥いた。
「我々の食事を邪魔するというのなら…貴殿とて容赦はせぬ」
「へ…ぇ…容赦ね…どうなるのかな」
 ジュニアはニヤニヤと笑いながら、デッドリーレイスを挑発した。
「粋がるな、小童風情が!」
 デッドリーレイスの姿がかき消え、ジュニアの背後に出現する。ジュニアは
隣にいたエリカを突き飛ばしながら呟いた。
「頼むよ、結界の薄い所を見つけててね」
 エリカは受身を取りながら頷き、身を翻して走り始めた。そしてジュニアが
虚空からクレセントサイダーを取り出した。
「この中には僕にとって人間の中で初めてできた大切な友達がいるんだ…」
 ジュニアの眼が敵を狩るそれに変わる。
「邪魔をするなら殺すよ」
 ジュニアとデッドリーレイスは互いに獣のごとき咆哮をあげながら激突した。

 ◆

 ゴガァァァァ!!

「ぢぃ!」
 レイは何度目かの舌打ち、それも息を荒げながらの舌打ちをした。横跳び
でまた回避できたものの、ドレイクの斬撃は凄まじかった。いや、あれは斬
撃というものではない。

 居合い

 刃を鞘の中で走らせ、刃を抜くと同時に神速の斬撃を繰り出す技。ドレイク
はその使い手だったのだ。その斬撃の威力は、大地を割り、周辺の建物を
ものの見事に『輪斬り』にしていた。しかも剣閃は速過ぎて全くもって視認で
きないのである。レイに見えるのはドレイクが腰の鞘に差してあるサーベル
に手を伸ばしたときと、そのサーベルを再度鞘に戻した時だけである。
「インクリースアジリティ!ブレッシング!キリエ・エレイソン!!」
 フィリのありったけの支援魔法がかかり、長い旅でつちかった野性的な直
感だけでギリギリ避けられてはいるが、もし、かすりでもしたら即死であろ
う。
 その戦いにイアルの姿はなかった。イアルはドレイクをレイとフィリに任せ
て幽霊船の方へと駆け出していった。逃げ出したわけではなく、勝利を手に
するために。
「くそ…好き勝手やりやがって!」
 レイが一瞬できた隙をつき、ハンターボウに矢をつがえる。
「ダブルストレイフィング!」
 矢の衝撃波はドレイクに接近したが、それもまたドレイクの居合いによって
斬り裂かれ消滅した。ドレイクはサーベルを鞘に納めた。
「他の者よりはマシな方だが、我には到底及ばぬ。何故、絶望を甘受し、死
を受け入れぬ」
「うるせぇ、御託並べるヒマがあったらかかってこい」
 レイが凄絶な表情で凄む。だがドレイクの反応は冷ややかだった。
「まだわからぬか。我が居合いとて、我が嗜む遊戯の一つにしかすぎぬ」
「…っ」
 レイの背後でフィリが息を呑んだ。要するにドレイクはこう言ったのだ。レイ
達以外の冒険者を葬ったこの居合いですら、自分にとっては遊びの一つに
過ぎないと。
「…たく、わかってたとはいえ…こうまで圧倒的とはね…」
 レイが苦々しい口調で呻いた。しかも相手の攻撃を避けるだけで防戦一方
なため、どんどん体力が削られていくのがわかる。常時、回復魔法をかけて
いるフィリもそろそろ魔力が限界だろう。
 ドレイクが「遊んでいる」のがせめてもの救いだが、せめて、あと一人、隣
で戦う者がいれば…。

 ゴガァァァァ!!

 再び襲い来る居合いの斬撃を避け、レイが地面に転がった。
「くそ…っ!!」
 レイが顔を上げると、そこにドレイクがいた。
「レイ!!」
 フィリの口から悲鳴がもれた。
「諸行無常」
 ドレイクの言葉とともに、レイの肩にドレイクのサーベルが鈍い音をたてて
突き刺さった。
「が…っ!」
 激痛にレイが顔を歪めた。ドレイクの一撃によりレイの肩から血が溢れ出
る。レイは朦朧とする意識の中、ドレイクがサーベルを自分の頭上に振り上
げているのが見えた。

 ◆

 イアルが向かったのは幽霊船ではない。イアルの用があるのは幽霊船が
押し潰したグロリアスの船の残骸である。イアルはレイ達と別れた後、躊躇
無く海面へと飛び込んだ。ガイストが海の中へと消えたイアルを追おうとす
る死霊達を追い払うかのごとく、死霊達に襲い掛かった。その隙にイアルは
どんどん水の中へと潜っていく。
(…グロリアス船籍の54号室に置かれた荷物…)
 イアルは残骸から目的の場所を探し出そうとするが、中々うまくいかない。

 ガ…

 その時、足に何かがぶつかった。
(…?)
 イアルがそちらを振り向くと、「Room No.54」のプレートとともに大仰な宝箱
が瓦礫に埋もれていた。
(…こいつか)
 イアルがその宝箱を開こうとすると、噛み付かれた。
(…ミミックかよ!っづ!っでぇ!)
 イアルは激痛にのたうちまわりながら、宝箱に扮している魔物のミミックに
怒りの視線を向けた。
(…このボケ!お前の相手をしてる暇はないんだよ!)

 ズガ

 イアルは躊躇なくミミックに肘うちを入れて、ミミックを手から振りほどき、代
わりに近くに落ちていた極太の石をミミックの口の中に突っ込んだ。その後、
ミミックを容赦なく蹴り捨てたイアルは、再度「Room No.54」のプレートのま
わりの探索を再開した。
(…しかし…砂漠で育った俺が素潜り得意ってどーよ…)
 イアルは本気になれば30分は潜っていられる。そんな事で本気を出したく
ないが、今は状況が状況である。
(…待ってろよ…俺が戻るまでやられるんじゃねぇぞ!)
 イアルはさらに海の中に潜行していった。

 ◆

 ガギィィィィィ!!

 鈍い剣戟の音が周囲に響き渡る。ドレイクの兇刃がレイの命を奪おうとした
瞬間、ドレイクのサーベルを受け止めたのだ。レイとドレイクの間に割り込ん
だ騎士がドレイクと刃を合わせた状態で呟いた。
「ふぅぅぅぅ…よく受け止められたな…俺」
 レイは深い傷の痛みに肩を押さえて沈黙した。慌てて駆け寄ったフィリが
回復魔法をレイにかけ始める。
「それで…」
 ドレイクと対峙していた騎士が振り返らずレイに尋ねた。
「俺は何分持たせればいい?」
「5分だ」
 並みの冒険者なら気を失っていそうな傷を負っているレイは強靭的な精神
力で痛みを押さえ込み即答した。騎士がニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「人使いが荒いな。うちのギルドマスター並だ」
「誰かは知らないが…頼む」
 レイは激痛に耐えながら、弱々しく言葉をもらした。その言葉を受けてその
騎士が頷いた。
「了解、その5分、意地でも食い止める!」
 「トレント★樹海団」ナンバー3の騎士、フィン=ロルナークはドレイクと間合
いを離すと、誇り高きルーンミッドガッツ王国の騎士の証でもある長剣、クレ
イモアをドレイクへと向けた。

 ◆

 ドガッ!

「ごはぁ!」
 フィンがドレイクに吹っ飛ばされてKOされた。
「はやっ!」
 思わずフィリが回復魔法の手を止めて、信じられないといった表情をする。
「まじか…5分どころか…5秒ももってないぞ…」
 レイが悲壮な表情を浮かべる。

 チャ…

 ドレイクの腰の鞘の揺れる音がした。ドレイクはレイ達に視線を向けた。
「遊戯の時間は終わりだ」
 死刑宣告。ドレイクが右手を掲げる。そこに大気中の水分が凝縮していく。
「我がウォーターボールにて、死ね」
「…っ!」
 レイが悲壮な表情でフィリを抱きしめる。その瞬間、

 ズバッ!!

 軽快な音とともに、ドレイクの右手が宙を舞った、斬り裂かれて。
「…何?」
 ドレイクが驚愕の表情を自分の右手を斬り飛ばした騎士…フィンへと向け
た。フィンの持つクレイモアからは風の力が溢れ出ていた。
「油断は…禁物だろ?」
 フィンがニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「貴様…何故我の腕を切断できた…?」
「この剣は特注品でね、風の力が付与されてるのさ。風の流れさえ掴めば、
斬り裂けない物なんてない」
 しかも先ほどのドレイクは魔法をレイ達に撃ち込むために無防備もいい所
だった。一度死んだフリをしてから隙を作り、ドレイクの腕を斬り裂いたので
ある。
「風によって全てを斬り裂く…力か、人間にしては面白い能力だ」
 ドレイクの感嘆の声を聞いたフィンが複雑な表情を浮かべた。
「ま、うちのギルドのマスターとナンバー2はもっと意味不明な能力をもってる
けどな」
「…」
 ドレイクが斬り裂かれたままの右手の付け根に力を込めた。と、同時にドレ
イクの右手が再生する。
「ちっ…お約束な奴め…」
 ドレイクがフィンに冷徹な視線を向けた。
「我が身に傷をつけたことに敬意を称し、我も全力を出すとしよう」
「まじすか」
 フィンのおかげで状況がすこぶる悪化した。

 ◆

 ザンッ!!

 ジュニアが虚空から出現させた大鎌…クレセントサイダーがデッドリーレイ
スの身体を串刺しにした。
「が…は…、さすがは『魔界の貴公子』…詠われるだけの事は…ある…」
 デッドリーレイスは怨嗟の声を上げながら、自分を串刺しにした魔族の青
年を見据える。
「ああ、言い忘れてたんだけどさ」
 ジュニアがにっこりと笑みを浮かべながら、大鎌に身体を貫かれ身動きの
取れないデッドリーレイスの顔を、右手で無造作に掴んだ。
「僕さぁ、最近誰も殺さない禁欲生活だったから…血が疼いてるんだよね」
 ジュニアは右手でデッドリーレイスの顔を握り潰そうと力をこめていく。

 ミシミシビキビ…キ…

「ぐ…はあ゙ぁぁああ…」
 デッドリーレイスの口から弱々しい断末魔の悲鳴が漏れる。その悲鳴を聞
いてジュニアの口元に楽しげな笑みが浮かんだ。
「さっさと死んでね」

 グギィ!!

 一瞬、物凄い音がしたかと思うとデッドリーレイスが事切れ、その身体はそ
のまま塵となって消滅していった。
「…くそ」
 ジュニアはそのまま悔しげに唇を噛み締めた。血の疼きを、殺したいという
欲求を、本当に止めるためには誰を殺したいかを自覚しているからである。
「僕が、本当に、殺したいのは─────」

 たったったっ…

 慌てて走るような足音が近づいてきた事に気がついたジュニアは強烈な自
制心でその欲求を封じ込めた。そしていつもの軽薄そうな笑みを浮かべた。
「エリカ〜おかえり〜」
「結界の薄い所と思われる場所を数箇所見つけたんですけど…ってあの死
霊は!?」
「もう倒したよ」
「…そ…そうですか」
 エリカは信じられない面持ちでジュニアを見た。怪我一つない、それは勝
負が一方的かつ圧倒的だったということである。
「でも疲れたなぁ、エリカに慰めてほしいなぁ、主にその身体で!」
「アホですか!そう言うこと言ってる状況じゃないでしょう!?」
「じゃあ、後ならいいんだね。決定っ!嬉しいなぁ、上半身でも下半身でもい
いよ」
「後でもだめです!ていうか早く来てください!こっちです!」
「エリカって意外にケチだね」
「しまいには剣でどつきますよ」
 ジュニアはエリカとのやり取りで抑え切れなかった殺戮の欲求がおさまっ
ていくのを実感していた。ジュニアは口元に笑みを浮かべながら言った。
「ありがとう、エリカ」
「え?」
 エリカがその言葉の意味を知るのはしばらく後のことになる。

 ◆
 
 ミリアやティアとともに屋敷に立て篭もっていたオールド=グロリアスは銀
時計を懐から取り出した。
「そろそろ予定時刻か…」
 ミリアがその言葉を耳にし、緊張した表情を浮かべた。
「お父様、では…」
「全員が配置についたかどうかはわからない…が、この混戦だ。仕方あるま
い。予定通り…作戦を…開始する!!」
 アルベルタに張られた商人ギルドによるネットワークを通じて、作戦の開始
が「配置についた者」達に通達されていく。レイ達が屋敷に侵入してきた最初
の死霊を片付けたときに立てた決死作戦。

 街中の聖職者達による聖なる大結界の構築

 魔を放逐し、死者を滅する絶対の言霊

 それは街を覆いつくすほどの巨大な結界

 その名は「マグヌス・エクソシズム」

 [続]


〜あとがき〜
ゲーム内ではドレイク様は幽霊船じゃなくて沈没船にいらっしゃいます。
何か雰囲気でないので小説じゃ幽霊船つーことにしました。
次回、対ドレイク決着編!


〜登場人物紹介〜
○デッドリーレイス
ドレイクの腹心、『幽の眷属』のナンバー2。



〜Web拍手の返答〜
>フィンさんはドレイクに真っ二つじゃなかった
>活躍を期待してます
今回の話はフィンさんにしては、かつて無い程の活躍を見せております^^

>おばさんは何するか判りませんからね……
>石原知事の言い分も納得できますよ^^;
状況判断力の薄い人間がまわりにいると苦労しますよねorz

>パサナカードゲッツΣd(゚∀゚)
そんな君にアルゴスカードが出やすくなるおまじないを!(*゚ロ゚)ノ)))))

>先生愚痴言っていいですか?忙しすぎます_| ̄|●|||
>10時間労働当たり前〜。・゜・(ノД`)・゜・
頑張れ…超頑張れ…orz


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