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Ocean's Blue

021:ラグナロク

 首都プロンテラが炎の海と化していく。

 天から堕ちる隕石によって。

「もう終わりだ…俺たちは闇の王に…負ける…」
 その様子を弱々しい視線で見つめながら『七英雄』の一人が絶望の声をも
らした。弱音を吐いたその仲間の胸倉をラクールは掴んだ。
「てめぇ…ヴァン…もう一度言ってみろ…」
「ラクール…俺は何も護りきれなかった…この国も…俺が護るべき民も…」
 ラクールは悲嘆にくれているこの国、ルーンミッドガッツ王国の国王にして
『七英雄』の一人、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世を叱咤した。
「諦めんじゃねぇ!まだ俺たちは生きている!負けてねぇんだよ!」
「…ラクール、脚が動かないのだろう」
「…っ!!」
「先ほどの深淵の騎士の大軍団との戦いで負傷を負ったのだろう…隠しても
わかる…私だってそうだ、もう腕が上がらない…」
 ラクールがヴァンの胸倉から手を離す。ラクールとてわかっていたのだ。
もうこの戦いは負け戦だと。『七英雄』、菊丸はダークロード出現の際にラ
クール達を逃がし、自らは犠牲となり殺害された。シェーラとドルガンの2人
はダークロードの配下である『幻影』ウェルガ=サタニックの卑劣な罠にか
かり死んだ。そしてダークロード降臨後のプロンテラ攻防戦を戦ったラクー
ルとヴァンの傷は深く、もはやこれ以上戦うことは不可能だろう。ハウゼンは
死を確認したわけではないが乱戦の中で行方不明でなり、マリア=ハロウド
もまた長い戦いの疲労により、もはや動きにキレがなくなっていた。
 マリアがよろよろと立ち上がったのを見てラクールが険しい声を上げた。
「おい、マリア、何をするつもりだ」
「…私はこの世界を愛しています。貴方と同じくらいに」
「お前、まさか…」
「だから…使います。『ラグナロク』を」
「…っ」
 やめろ、と言えなかった。マリアの表情があまりに凛々しく、美しく、そして
儚く。マリアは自分の肩に止まっていた鷹に声をかけた。
「ガイスト…いえ…ルドラ、行きましょう。私たちの世界を護るために!」
 そして最後の戦いが始まり、戦いはラクール達の勝利をもって終結した。

 ダークロードは死の間際に予言を残し、世界中の空間は歪んだ。

 そして、死んだ者の力は現世に残らない。

 世界中の空間が歪んだのはマリアが『ラグナロク』を使ったから。

 『ラグナロク』の「何か大切なものを奪われる」という副作用。

 マリアは皮肉なことに世界から空間の自由を奪ってしまった。

 マリアはこの世界を誰よりも愛していた。

 だからこそ奪われてしまった。この世界の空間を歪めたのはダークロード
ではない。マリア=ハロウドの『ラグナロク』だった。それは世界中の誰もが
知らないもう一つの真実─────────

 ◆

 強烈な殺戮の意思が伝わってくる。それによりフィンは身動き一つ取れなく
なっていた。殺される、フィンはそう思った。思わざるを得なかった。
「人間よ、誇るがいい。我が天上の極技により、死ねることを」
 ドレイクがサーベルを天に向けると、力が収束していく。

 ザ…

 と、フィンの隣にレイが並んで立った。フィンは引きつった表情で皮肉っぽい
笑みを浮かべながら言った。
「5分たってないぞ?」
「誰かが苦戦してるから早めに来てやったんだよ」
 レイもまた皮肉で返した。2人ともわかっているのだ。例え何をしようと数十
秒後には自分たちは死ぬことがわかっていたからである。

 だが、次の瞬間、街中から光が舞い上がった。

「…何!?」
 ドレイクが驚きの声を上げた。それはまぎれもない退魔の光だったからで
ある。オールド=グロリアスの発案による巨大な聖なる大結界の構築。
「間に合ったみたいだね」
 フィリがにこりと笑った。街中に展開した聖職者達の声が唱和する。

 「「「マグヌス・エクソシズム!!」」」

「グァォオオオオオオアァア!!」
 街中を覆う結界が死霊達を浄化していく。そしてドレイクを強烈な退魔の意
思が押さえつける。だがドレイクは並みの悪魔なら軽く蒸発してしまうその結
界の中を動いていた。
「グ…ガァ!…人間風情が…っ!」
 レイはハンターボウに矢をつがえた。
「これで終わりだ」
 イアルが海面から顔を出し、ガイストの方にある物を放った。オールド=グ
ロリアスが異国で手に入れた世界樹イグドラシルの実、それを受け取ったガ
イストは足首のスナップをきかせてレイの方へとそれを放った。

 イグドラシルとは「生」の象徴である。

「ダブルストレイフィング!!」
 レイの放った矢の衝撃波はイグドラシルの実を貫き、そのままドレイクの身
体に炸裂した。聖なる大結界と、生きる象徴であるイグドラシルの実の液を
浴びた矢がドレイクを、不死者である魔王ドレイクに同時に襲い掛かった。
「グァァァァァァァァァァァァ!!!」
 ドレイクが身体を掻き毟りながら倒れ付した。間髪入れずにレイ達はドレイ
クに止めを刺すべく襲い掛かった。

 その瞬間、

 ドレイクの身体から全ての力が逆流した。

 逆流したその力により結界を張っていた聖職者達は悶絶しながら昏倒した。

 そして

 レイ達もまた何が起こったのかわからないまま、

 激痛と苦悶とともに大地に倒れていた。

「ぁ…あ…」
 フィリはその惨状を見て地面にへたり込んだ。辛うじて意識を保っていたレ
イがまわりを見ると、イアルが倒れ、フィンが倒れているのが見えた。生死は
確認できないが2人とも血溜まりの中で倒れ伏している。
「実におもしろい…我が眷属が皆殺しにされるとは思ってはいなかった…」
 実に楽しげなドレイクの声。
「せめてもの礼だ…街ごと潰してやろう…ククク…フハハハハ!!」
 ドレイクの身体が宙に浮きあがっていく。ドレイクは自らのサーベルを自分
が構築していた結界に突き立てると、その全てを一瞬で吸収した。
「10億トンの闇の水流のエネルギー…受けてみよ…」
 サーベルを核として巨大な闇の球体が出現した。

 空を覆いつくすがごとく展開された闇は「破滅の力」そのものと言っても差し
支えないほど、雄大で…残酷だった。


 フィリの口から弱々しい声がもれた。
「もう終わり…私たちはあの海魔に…負ける…」
 その言葉を聞いた瞬間、レイの中で何かが吹っ切れた。レイは渾身の力を
振り絞り、よろよろと立ち上がると、フィリの頭にポンと手を置いた。
「俺はこの街が好きだ。そして…それ以上にフィリが好きだ」
「レイ…」
「だから…使う。『ラグナロク』を。奪わせやしない…絶対に」
「…っ!」
 フィリは目を見開いた。フィリはレイが言いたいことに気づいたのだ。

 レイにとって大切なものは────

 そして、ドレイクによって奪われようとしているもの────

 例え、何かを失ったとしても、「一番」失いたくないものさえ護れれば、それ
でいい。

 レイは頭上を見上げた後、声を張り上げた。
「ガイスト…いや…ルドラ…来い!!やってやる…!俺はフィリとこの街を…
護りきってみせる!」
 ガイストがレイの元にやってくるのと同時に、レイは手に持っていたハンター
ボウをその場に投げ捨てた。
「ルドラ、真の姿に戻れ──『Out of Curiosity』!!」
 レイの言葉とともに起こった現象はフィリには信じられなかった。ガイスト
が、古代文字の刻まれた弓へと変容していったのだ。
「え!?え!?」
 フィリが驚きの声を上げると、レイが不敵な笑みを浮かべた。
「ガイストの真の姿は『ルドラの弓』、ルドラとは世界の破滅を意味する古代
言語であり、アース神族の主神オーディンが隠匿していた最強の古代兵器、
それがガイストの本質であり、真の姿なんだ」
「兵器…!?」
「そして、『ルドラの弓』こそが…『ラグナロク』の引き金となる!!」
 レイはルドラの弓に手を添えた。強烈なエネルギーが周囲から流れ込み、
光の矢を形成する。


 ドレイクの表情が驚きから、憎悪へと変化していく。
「クク…そうか!そういうことか!貴様はあの女の…!ヴィーダルの…っ!」
 ドレイクはサーベルにまとった10億トンの闇の水流を増幅させた。
「いいだろう!勝負だ…マリア=ハロウドの血を継ぐ者よ!!」
 ドレイクの絶対なる殺戮の意思がアルベルタに向かって振り下ろされた。


 レイが叫んだ。
「教えてやるぜ!ドレイク!『ラグナロク』の本当の意味をな!!」

 巨人族はユミルがアース神族のオーディンたちに殺されたことと、ヨトゥン
ヘイムという荒野に住処を追われたことで常に神々を敵視していた。
 オーディンの子で光の神バルドルが、ロキの奸計で死に、冬が7年続いて
世界が寒気と飢えで苦しみ、人間のモラルが乱れたのを機会に、ロキの子
の氷狼フェンリルと死蛇ヨルムンガンド、死の女神ヘルの配下、霜の巨人た
ち、炎の神スルトの部下たちの魔物の連合軍が神々と人間の世界ミッドガ
ルドに殺到、神々と魔軍は相討ちになり、大樹イグドラシルは海中に没し、
世界は滅びた。

 ───其は「ラグナロク」

 ───其は「神々の黄昏」

 ───其は「世界終末の日」

 だが、それらは神々の戦いをモチーフとしたワグナーの楽劇『ニーベルン
グの指輪』によってつけられた、偽りの意味。

 ───其の真なる意味は

 ───「神々の運命」

 そして、レイは希望を紡ぐ光の矢を天へと放った。




  




 フィリは見た。レイが放った光の矢が天へとのびていく様を。

 それはまるでレーザーのような巨大な光の柱。

 その光の柱はまるで黄金の龍のごとく、雄々しく、力強く。

 それはドレイクの闇の水流をもたやすく撃ち砕き、貫いた。

 そして────

 ドレイクは知った。

 『ラグナロク』とは神を殺すための力。それは神と神に「近づいた」者を滅ぼ
す運命の力。神の力へと最も近づいた、世界に君臨する魔軍七大勢力の魔
王の天敵とも言えるものだったのだ。おそらくただの人間や魔物に『ラグナロ
ク』を使用しても、何の効果もでないだろう。

 そう、それは文字通り「神々の運命」を左右する力。

 ドレイクはそれを知った瞬間、光の奔流に呑みこまれていった。

 ◆

 コォォォォ…

 風が吹き抜けた。レイが肩膝をついて目を閉じている。ガイストは元の鷹の
姿に戻り、レイの傍をうろうろしていた。
「レイ!!」
 フィリはレイに駆け寄った。そう、『ラグナロク』には「何か大切なものを失
う」という副作用があるのだ。フィリは心配で胸が張り裂けそうになりながらレ
イに声をかけた。

 レイがゆっくりと目を開けた。

「フィリ…」
「レイ!大丈夫!?目は見える?耳は?何か変な所はない!?」
 レイはフィリの方に視線を向けるとニッと笑みを浮かべた。
「どうも五体満足みたいだ、副作用…でなかったのかもな」
 その言葉を聞いた瞬間、フィリの目から涙が溢れ出た。
「良かった…良かったね…」
 フィリが溢れ出る涙をぬぐいもせずにレイに抱きついた。
「ああ、だけど…さすがに疲れた…」
 もうボロボロで指一本動かせそうにない。だけど護りきったのだ。愛しい人
と、大切な思い出のあるこの街を。レイはそのことを少しだけ誇りに思いつ
つ、そのまま眠りに落ちていった。


 その後、フィリの膝の上に頭を乗せて泥のように眠って全く起きる気配のな
いレイをどうするかでひと悶着あったのだが、それはまた別の話。

 ◆

 ザ…

「グ…ガ……ハ…」
 上半身、正確には頭と右腕、そしてそれらを繋ぐ部分しか残っていない
状態のドレイクが這う様に闇の中を動いていた。
「おのれ…おのれ…おのれぇ…!」
 怨嗟の声が漏れ出でる。憎悪だけがドレイクの命を繋ぎとめていた。

 だが、そんなドレイクの前にある人物が現れた。

「名高き七魔王の一人もそうなると惨めなものだな」

 『幻影』ウェルガ=サタニック

 ウェルガは変わり果てた姿のドレイクを陰湿な笑みで見下ろした。
「ウェルガ…そこを…どけ…」
「誰に命令しているのかな?」

 ドン!!

 ウェルガはドレイクの頭を足で容赦なく踏みつけた。
「キ…サマ゙ァ…」
「レイ=フレジッドには感謝しているよ、何もかもが私の計画通りだ」
 ウェルガはドレイクの頭を掴んだ。
「ドレイク、貴様の力…私が吸収してやろう…。コーマ!!」

 ドゥン!!

 ドレイクの身体から生命力が抜き取られ、ウェルガの身体に宿った。ドレイ
クは残る力の全てをウェルガに「奪われ」あっけなく死んだ。
「では参ろうか…ハウゼン」
 ウェルガの背後には一人の男が音も無く立っていた。
「…よかろう」
 ハウゼンと呼ばれた男の姿がそのまま闇の中に消えた。ウェルガはその様
子を見て、クックとほくそ笑んだ。
「楽しみだよ…かつての仲間が…『七英雄』としてともに戦った仲間が敵にま
わったと知った時、貴様はどういう表情をするのかがな…ラクール」
 ウェルガの姿が闇の中へと溶けるように消えていった。

 ◆

 ドレイクを撃破したレイはこの後「神雷」と呼ばれる事となる。レイもまた、父
のラクールや母のマリアと同じく英雄となったのである。だが、レイの仲間達
はまだしもレイ自身すら気づいていなかった。

 『ラグナロク』においてレイが大切なモノを失っていたことを。

 旅の終わりはすぐそこに迫っていた。

 [続]


〜あとがき〜
第1部のボス戦終了っっ!!
ですがまだ第1部は続きますっ(何故
次回予告!祝勝パーティで色々です!


〜登場人物紹介〜
○ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世
『七英雄』、さらに現在のルーンミッドガッツ王国の国王でもある。
レイの父であるラクールとは親友。

○ハウゼン
『七英雄』の生き残り。
現在はウェルガとともに行動をともにしているらしい。

○菊丸
『七英雄』、20年前の戦いで死亡。

○ドルガン
『七英雄』、20年前の戦いで死亡。

○シェーラ
『七英雄』、20年前の戦いで死亡。



〜Web拍手の返答〜
>フィンは格好良く決めても、やっぱネタがつきものと
>・・・ネタを利用とはさすがです
生き様がネタな彼に清き一票をっ!

>やはりトレントさんの「意味不明な能力」って
>ハート型のラブコメビーム発射ですか?(・∀・)
トレント「ラララララブコメ〜ビ〜ムッ♪、悪い子はお仕置きだよっ♪」
ってとてもステキにキモすぎるわぁぁぁぁっ!

>腹減ったぞ〜(=w=)ノ
仙人は霧を食って生きていけるらしいですよ?(・∀・)


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