前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

022:旅の終わり

 人の身で神を殺すということはこの世の理そのものの否定である。

 ゆえに『ラグナロク』の使用者は「大切なものを失う」のだ。

 それには例外は無く、そして失わなかったという前例はない。

 そして、レイもまた、ある大切なモノを失っていた────

 ◆

「この戦いで大勢の人々が傷ついた。大切な人を失った人もいるだろう。だ
が我々はまだ生きている…生きているのだ!!」
「哀しみの中に身を置き前進を止めてしまうのは犠牲となった人々への冒涜
へ他ならない」
「だからこそ我々は歩み続ける…この街!アルベルタとともに!!」

 ワ…ッ!!

 オールド=グロリアスの演説が終了するとともに人々の歓声が街中に響き
渡る。ドレイクの襲来から3日、今日は祝勝パーティと追悼パーティを兼ねた
パーティが執り行われることになった。その主催者であるグロリアス商会が
中心となり、街中で朝から酒や食べ物が振る舞われていた。


 屋敷の窓から差し込む夕陽の日差しでレイは目を覚ました。
「ん…」
 レイはベッドから起き上がると、少しふらつきながら立ち上がった。
「あれからどうなったんだ…?」

 ガチャ…

 レイは扉の開く音がしたため、そちらに視線を向けた。部屋の扉から顔を覗
かせているのはフィリだった。
「フィリ、おはよ」
 フィリは少しだけ目を潤ませると、思いっきりレイに抱きついた。
「おはよ…じゃないよぉぉぉぉぉぉお!!」
「おおっ!?」
 レイは慌ててフィリを抱きとめた後、矢継ぎ早に質問した。
「あれからどうなったんだ?つーかむっちゃ腹減ってるんだが。ああ、ガイス
トはどうなった?」
「あのね、レイは丸3日も眠ってたんだよ」
「って、そりゃ腹が減るのも当然だな…」
「ガイストは他の鷹とデート」
「無闇にパワフルだな…あいつ」
 フィリはレイの胸に顔をうずめながら呟いた。
「起きないかと思って本当心配したんだからね…『ラグナロク』の事もあるし」
「でもなぁ…別段変わったことも無いぞ」
「それでね、今日は祝勝パーティと追悼パーティを兼ねて街中でお祭り騒ぎ
をしよ〜ってことになってたりするよ」
「タダ飯が食えるわけか腹も減ってるし、行かないとな」
 レイが手早く、外出するための準備をはじめた。と、フィリが突然真っ赤な
顔でレイの服の裾を握った。
「レイ…あの…ね?」
「…ん?」
「えと…つ…続き…帰ってきたし」
「…」
 レイは少しだけ黙考した後、思い出した。そんなことも言ったような気がす
る。具体的にいつかと言われれば、ドレイクと戦う前の屋敷の中で。
「そ、そうだな、続きだったな」
 改めて言うとレイも恥ずかしさが増したのか顔を真っ赤にしている。レイは
フィリをそっと抱き寄せ、フィリはレイの身体を抱きしめた。
「フィリ、好きだ」
「私も、レイの事が好きだよ」
 そう言った後、2人は唇を重ねた。

 ◆

「よっす」
 イアルとジュニアが競うように口の中に食べ物を放り込んでいた時、背後
から声をかけられて振り向いた。そこには3日ぶりに目を覚ましたレイと、其
の間ずっとつきっきりで看病していたフィリの姿があった。
「レイ、起きたのか。腹減ってるんだろ、これとか旨いぞ」
 イアルの差し出した料理を口に運び、レイが感動にむせび泣いた。
「…マジでうめぇ…3日間何も食ってないから、効果が相乗してるみたいだ」
 ジュニアは少しだけ表情を曇らせた後、レイに聞いた。
「レイ、『ラグナロク』の副作用は本当に何もないの?」
「ああ、五体満足だし、特に問題はないと思う」
「そうか、それならいいんだけど」
 ジュニアは納得がいかないような表情をしていたが、すぐにいつもの軽薄
そうな表情に戻った。
「じゃ、今から女の子達集めて野球拳しようか!」
「するかっ!」

 バキ!

 レイの拳がジュニアの顔面に炸裂し、ジュニアはそのまま失神してその場
に崩れ落ちた。
「ったく…こいつは…」
「こんなのが『魔族の貴公子』なんて未だに信じられないぞ」
 イアルの言葉にレイが噴き出した。
「ねぇねぇ!レイ!こっちにお酒あるよ!」
 フィリが何だか物凄い高価そうなワインをレイの元に持ってきた。
「…うわっ…これってゲフェニアの550年物じゃないか…?」
 イアルの顔が引きつった。ゲフェニアの550年物と言えば、大きな屋敷が
10軒は軽く買えるほどの値段がついている。
「グロリアス商会恐るべし…だな」
 レイはそう言いつつフィリからそのワインを受け取り、コルクを抜いた。
「おい!?飲むのかよ!」
 少しビビり気味のイアルがそう言うと、レイがニカッと笑った。
「だって滅多に飲めないぞ、こんなすげーの」
「私も飲むよっ!」
「じゃあ俺も飲むけどさぁ…」
 と、そこにエリカとティアの2人がやってきた。エリカは地面で気絶している
ジュニアを見てため息をついた。
「制裁後ですね」
「そゆこと」
 レイが笑いながら答えた。すると突然、ムクリとジュニアが起き上がった。
「僕も飲むよ…ゲフェニアの550年物!!」
「えっ!?そんな高価なワインだったんですか!?」
「フィリお姉ちゃん、私も飲む〜〜〜〜〜っ!!」
 ジュニアの発言にエリカとティアも騒ぎ出す。

 全員のグラスにワインが行き渡ると、レイが自分のグラスを少し上に掲げ
た。
「こういうときはどう音頭を取ればいいかな」
 エリカが微笑んだ。
「思ったとおりでいいと思いますよ」
「じゃあ…俺達の勝利に乾杯っ!!」
「「「乾杯ーっ!!」」」
 全員でグラスを打ちつけあった後、一気にワインを飲み干すと、喉が焼け
るような熱さを感じる。
「きゅぅ」
 ティアが目を回して気絶する。
「はやっ…って言ってもまだ13歳だしな、それにしてもこの酒はきつ…」
 レイはそう言いながら、自分も酒がまわっていることを自覚した。レイは親
父の血のせいか酒には強いはずなのだが。酒がまわっているのは他の面
子も似たようなものらしい。
「おい…これはいくらなんでもアルコールが強すぎじゃないか…?」
「レイ」
 フィリがレイの傍によって一言。
「続きしよ」
「…っ!フィリ、落ち着け、さっき続きって言ってだなぁ」
「…そんな覚えないよ」
 記憶飛ぶの早すぎ。しかも微妙に違うところの記憶が飛んでいる。
「レ〜イ!それが終わったら女の子達集めて裸でプロレスだ!」
「ジュニアァァァ!!お前も酔いすぎだろぉぉぉぉぉぉ!!」
 ジュニアの変態発言がもうどうしようもなくなっている。
「レイー!!続きー!!」
「プロレスだぁぁぁぁ!!」
「だーっ!うるせぇぇぇぇぇー!落ち着け!酔いを醒ませアホォォォォ!!」
 酒を飲むときの掟として、酔わない奴は苦労する、という掟がある。

 エリカはまた一人誰かがこの場に現れたのに気がついた。
「あ、ミリアさん、こんばんわ」
「こんばんわ…って凄い騒ぎね…」
「ミリアさんもいかがです?ゲフェニアの550年物」
 ひききっ!!ミリアの顔が引きつった。
「あんた達、それ飲んだの?」
「はい、それがどうかしましたか?」
「あ…あのね…ゲフェニアの550年物って2日酔いが凄いのよ」
「…どのくらい?」
「う〜ん、隕石を脳天に喰らうくらい…かな?」
 即死。
「か…回避する方法は?」
 ミリアは哀しそうな表情を浮かべた。
「残念ながらそれは存在しないわ…あなたたちの明日には地獄しかないわ」
「…」(←震えながら目の幅涙を流している)
 そんな事実を知らずレイ達は騒ぎまくっていた。


 どんちゃん騒ぎから脱出した後、レイはオールド=グロリアスとともに酒を
酌み交わしていた。
「レイ君には感謝している」
 その言葉を受けてレイがにへらっと笑った。
「ここは『感謝されるほどのことはしてない』とか言うべきなんですかね?」
「フフ…どちらでもいいさ。だが君の『ラグナロク』なくして、この街の人々の
命はなかっただろう」
「…否定もしませんし、肯定もしません。それに俺は…フィリがいたから、フィ
リを護りたかったから『ラグナロク』を使ったんです」
 レイのその言葉にオールドが複雑な笑みを浮かべた。
「君は…本当にあの子の事を好きでいてくれるんだな」
「ええ、それだけは自信を持って言えます」
「もう君とフィリを引き止めたりはしない。君にあの子が必要だというのなら…
連れていってくれても構わない」
 オールドは最後にこう言った。
「フィリの傍にいる男が君で本当によかった」

 ◆

 レイが戻ってくるとジュニア達のまわりには人だかりができていた。かくし
芸大会になっているらしい。
「スーパー貴公子〜ジュニアッ!かくし芸!酒瓶ごと飲み干します!」
「「「いいぞ〜!!やれやれ〜!」」」
「ほぁぁぁぁあ、ん…ごっく」
「「「うおおおおお、飲んだぞすげぇぇぇぇ」」」
 ジュニアの顔が突然蒼白になる。
「ゔ…胃薬ぐだざい゙」
「種もなしに普通に飲んだだけかよ!」
 イアルの突っ込みとともにジュニアがばったりと倒れ伏した。
「あ、レイお帰り」
「俺もやってみるか…かくし芸」
 フィリの隣に座ったレイがそう呟くと、フィリが目を輝かせた。
「ホント!?見たい見たい!」
「うっし、しっかり見てろよ?」
 レイが皆の前に出る。
「おっしゃ、次は俺だ!レイ=フレジッド!空に向かって打ち上げた矢が落下
してくるのを掴み取ります!」
「「「おおお!いけいけー!」」」
 観客の声援とともに、レイは近くに置いていた自分のハンターボウを手に
取った。





 次の瞬間。






















 ───人間ごときが


 ───神をも穿つ力を持ち


 ───この世の幸福をも感じるなど


 ───おこがましい


 ───貴様は







  ───永遠に苦しめ







「…っが…ぁ…」
 猛烈な悪意の感情の激流を感じたレイはハンターボウから手を離した。
「「「…??」」」
 観客達が怪訝な表情でレイを見つめている。レイは何とか表情を取り繕う
と、額に脂汗を浮かべながらにっこりと笑った。
「…す、すまん、やっぱり無理だ、たはは…」
「「「何だよ〜期待させんな〜コラ〜!」」」
 レイはそそくさとその場から逃げ出した。その様子を険しい表情でフィリと
ジュニアだけが見つめていた。フィリはジュニアの隣にやってくると質問し
た。
「ジュニア、もしかして…」
「十中八九そうだろうね。行ってあげなよ、レイを救えるのはフィリだけだよ」
「…うん」
 フィリはレイの後を追って走り始めた。

 ◆

 間違いない。絶対に間違いない。それに気がついたレイは人気のない公園
で壁に手をつき自嘲した笑みを浮かべた。
「そういうことか、俺が…俺が…失ったのは…」

 ザァ…

 夜風が吹く中、フィリがレイの後ろに立っていた。レイは取り繕うように言っ
た。
「ああ、悪い。ちょっと酒が変な風にまわってさ…」
「…レイ」
 フィリは決意をこめて、レイに聞いた。聞けば何かが壊れてしまう一言。
「聞いていい?何を失ったの?」
「…っ!!」
 レイの表情が一瞬で曇る。レイは今まで見せた事もないような笑みを、哀し
い微笑みを浮かべた。




「弓が引けなくなった…」




 フィリはやっぱりという表情をした。
「レイ…じゃあ」
「ああ、俺が『ラグナロク』を使って失ったもの…それは『弓を引くこと』、大切
なもの…失ってしまったな…」

 それはレイからあらゆる物を奪ったに等しい。

 冒険者として、もう旅する事はできない。

 そしてそれは母を救うという目的が達成できないことを指す。

 レイが物心ついたときからラクールに叩き込まれた弓術、

 それを失うということはレイの生きてきたこの17年を奪われたも同じだ。

「もう、冒険は続けられない…俺は無力になってしまったから」
 レイの自嘲めいた独白が続く。
「俺は…生きる意味を…失った…」
 淡々とした、哀しい、哀しい独白。


 だけど、レイの傍らにはフィリがいた。


 フィリはレイの身体をそっと抱きしめた。
「でも、私はそれでも…レイと一緒にいたいよ」
「…っ」
「私が冒険者になったのはレイと一緒にいたかったから。レイと一緒なら…
冒険をしていようと、してなくても関係ないよ…」
 フィリの言葉にレイが唇を噛み締める。何かを我慢するかのように。
「私にはレイが必要だから」
「俺は…」
 何か言おうとしたレイの口をフィリが人差し指でそっと封じる。
「男の子だって辛いときは泣いていいんだよ?」
 レイはフィリをすがりつくように抱きしめると嗚咽をもらした。
「…っく…う…ううああああ…うああああああああああああ!!」
 それは嗚咽から激しい慟哭となり、泣きすがるレイをフィリはずっと抱きし
め続けていた。ずっと、ずっと、ずっと────



 レイの長い、長い旅が、この瞬間、終わりを迎えた。

 [続]


〜あとがき〜
一区切りついた────(゚∀゚)────っ!!
第1部がそろそろ終わると見せかけて全然終わりませんっ(゚∀゚)
つっても30話前後で第2部に行きたいなとかは思ってます。
次回からは第1部のファイナルエピソードとなる「アルベルタの休日」編!!
旅をやめなければならなくなったレイはアルベルタで
フィリとともに生きていく事を決意する!!
しばらくは冒険者の舞台裏を書いていく話です(なぞ
新キャラいっぱいでそうな感じです、すいませんすいませんorz



〜Web拍手の返答〜
>大事なものが消失・・・あの話の後でなかったフィンさんとか?
そーいやフィンさんのその後書くの忘れてたわ…
彼はトレントをどつくためにフェイに向かいましたとさ。

>小説では某騎士が鳥の糞喰らってましたが、
>リアルではトレントさんですか。さすがだ!Σd(゜∀゜)
    _, ._
  ( ゚ Д゚)   …………
  ( つ旦O
  と_)_)

    _, ._
  ( ゚ Д゚)   ガシャ
  ( つ O. __
  と_)_) (__()、;.o:。
          ゚*・:.。
ジッサイオナジメニアッタラ、リセイナンテフットビマスヨ?

>レイが第2部の終わりで死亡?((((;゜Д゜)))
「Ocean's Blue」の第1部、第2部ではなるべく物語の明るい側面しか
出さないようにしてます。誰も気づいてないと思いますが、レイ達の
敵も計画段階なわけです。それが悪意とともに一気に噴出すのが
第3部。敵が本気になるのが第3部なわけです。話ってのは日常に
非日常が現れるから成り立つのです。よってキャラクターのいずれ
かに不幸が訪れる場合があるということです。
で・す・が
「Ocean's Blue」は完全懲悪モノの極ハッピーエンドモノです。
後味の悪い結果に絶対するつもりはないので、最後までよろしくですっ!



前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット