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Ocean's Blue

024:日々楽々

 製鉄所の中に入ると、かなりの熱気がレイの頬にあたった。
「私の商会はアルベルタに集められた鉄鉱石や鉄に加工したり、鉄をさらに
鋼鉄に加工するなどの仕事をやっています」
 レイはほいの説明を受けた後、即決した。
「せっかくですし、ここで働かせてもらえますか?」
「ええ喜んで、人手はいつも欲していますから」
 レイはやりがいのありそうな仕事を見つけることができた事を内心喜んで
いた。ここでがむしゃらに働こうとレイは決意した。
「では、明日から出勤してもらってもかまいませんか?」
「はい」
 ほいの言葉にレイは頷いた。

 ◆

 レイは明日から働きにでる事をほいと取り決めると、フィリの待っている道
具屋へと戻った。フィリの方も簡単な研修が終わったらしく、ルナやリシアと
ともに雑談をしていた。レイが道具屋に戻ってきた事に気づいたフィリが話の
輪から外れてレイに駆け寄る。
「フィリ、帰るぞ」
「あ、レイ。仕事は見つかったの?」
「ああ、帰りながらにでも説明するよ」
「うん。じゃあ、ルナ、リシア、明日からよろしくね」
 フィリが手を振ると、ルナとリシアが手を振り返す。
「よろしく〜」
「また明日ね」

 レイとフィリが連れ立って帰っていった後、リシアが呟いた。
「ふ〜ん、あれが魔軍七大勢力の一角を落とした男ねぇ…」
「少しは興味がでてきたり〜?」
 ルナが相変わらずの間延びした声で聞き返すと、リシアが少しだけ考え込
むような表情をした。
「興味と言うよりは…勿体無い…かな?」
「勿体無い〜?」
「だってそうでしょ?弓だけが冒険者の武器じゃないしね」


 2人の新居への帰り道、レイはフィリに仕事の話をした。
「製鉄所かぁ、暑くて汗がたくさんでそうだね」
「かもな。だけど、こういうやりがいのありそうな仕事の方が俺には向いてる
気がしたんだ」
「うん、私はいいと思うよ。でも無茶はしないでね。身体を壊したら元も子もな
いから」
 レイはフィリの頭を少し小突いた。フィリが驚いて少しだけ飛びのく。
「わっ」
「俺も心配もいいけど、フィリも無理はするなよ」
「うん」
 それから様々な話をしていると、2人の新居が見えてきた。

 ◆

 次の日から、2人はそれぞれの仕事場でがむしゃらに働いた。

 それからすぐレイにラクールからの手紙が届いた。

 その手紙にはこう記されていた。

 「よく頑張ったな。後は俺に任せろ」

 レイはこの時ほど父親が頼りになると感じた瞬間はないと後に語った。

 そして2週間が経過し、2人がようやく仕事にも慣れてきた頃───


「おい、レイ」
「ん?」
 仕事の同僚であり、マグロで突如殴りかかってきた男、キスクが製鉄所で
の仕事を終えたレイを呼び止めた。ちなみに和解はすでに成立しているの
だが…キスクに貸し1を押し付けられている形になっている。
「ふっふっふ…お前への貸し1…使わせてもらうぜ…」
「何だよ、気持ち悪い笑い方だな」
「レイ、男と男の話だ。聞いてくれ」
「…一応聞いてみるよ」
 レイはイヤな予感をひしひしと感じながら言葉を絞り出した。
「グロリアスのお嬢様とはうまくいってるのか?」
「まぁ、それなりに」
 レイは念のため、『控えめ』に答えた。だが、その返答にキスクが喜びの表
情を浮かべた。
「そーか!うまくやってるか!よし!」
「な、何だよ」
「俺さぁ、惚れた女がいてさぁ」
「帰る」

  がしぃ!!

「まぁ、黙って話を聞いてけ、つーか聞け」
 物凄い握力でレイの肩を握っているキスクが満面の笑みを浮かべた。そ
の笑みがレイには凄くイヤだった。
「俺は帰るぞ」
「話を聞いてけ」
「帰るっつの」
「話聞け」
「どう見ても厄介ごとにしかならないだろーがぁぁぁ!!」
 レイが叫ぶと、キスクが右手の人差し指をぴっと立てた。
「貸し1」
「くっ…」
 レイは悔しげな表情を浮かべた後、観念したようにがっくりとうなだれた。
「話してくれ…」
「お前さ、道具屋の娘さん知ってる?」
「ルナの事か?」
「そうそう!その…ルナ…さんの事なんだが」
 キスクが照れながら頭をかいている。
「彼氏とかいるのか…な〜とか」
「いないと思うけど」
 レイの言葉にキスクが目を輝かせた。
「マジ〜〜〜〜〜で!?」
「マジで」
「よっしゃ!レイ!ルナさんと俺が親密にな〜る大作戦に参加してくれ!」
「帰る」

  がしぃ!!

「頼む゙がら゙手伝っでぐれ゙よ゙ぉ…」
 涙ながらに言うキスクにレイが諦めたような表情を浮かべた。
「わかったよ…じゃあ今から道具屋に行くか?俺もフィリを迎えに行きたい
し」
「何…今からか!?心の準備がっ!」
「善は急げというだろ?」
「そ、そうだな…」
 レイはそう言うとキスクとともに道具屋へ向かって歩き始めた。実際の所、
善は急げというわけではなく、さっさと厄介ごとを済ませたいと思っただけの
レイであった。

 ◆

「あんた達ってどこまでいってるの?」
 道具屋の客足が途絶えた頃、フィリとともに店番をしていたリシアが唐突に
聞いてきた。
「どこまでいってるって…?」
「あーもー、だ〜か〜ら〜、彼氏とどこまでいってるか聞いてるの!」
「あっ…えーと、そ、それは…」
 フィリが口ごもっていると、ルナが店の奥からハープティーを持ってきた。
「2人とも〜おいしいハープティーはいかかですか〜?」
「あ、もらおうかな」
 フィリがルナが運んできたハープティーに手をのばした。
「フィリ、彼氏とどこまでいってるの?」
 笑顔で厳しい追及をするリシアにフィリが愛想笑いをした。
「え、えーと、どこまでって具体的にどう答えれば…いいのか、あはは、は」
「ふー、じゃあわかりやすく言ってあげるわ…」

 チリンチリン…

 道具屋に冒険者の客が入ってきた。どうやらアサシンの女のようだ。その
アサシンの女は外でパンを買ってきたようで、パン(ジャムパンらしい)を頬
張りながら、店の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ〜あ、お久しぶりです、ナカラナさん」
 ルナが笑顔で応対するのと、リシアが言葉を発するのは同時だった。

「あんたが処女かどうか聞いてるのよ!!」

 ぶっ!!

 フィリがハープティーを噴き出すのと、アサシンの女…ナカラナがジャムパ
ンを噴き出すのと、ルナが表情を引きつらせたのは同時だった。
「リリリリリリリシアァァァッ!!そそそそそそういうことを大声で言わないでく
れる!?」
 真っ赤な顔で詰め寄るフィリに対してリシアは涼しい顔をしている。
「その反応だとまだみたいね、な〜んだ…おもしろくない〜」
 ルナがさすがに顔をひくつかせながら、リシアに一言。
「リシア〜…今日のお給料減〜ら〜す〜ねぇぇぇ〜」
「ゔっ…っ!!ルナ…本気…で?」
 ルナがにこりと笑みを浮かべると、リシアががっくりと肩を落とした。
「あ…あの、これとこれと…これ頂けますか?」
「はい〜計7200ゼニーになります〜」
 不心得者への制裁が完了した後、ルナとナカラナが取引を済ました。

 ◆

「あ〜ビックリした…」
 道具屋から出てきて、レイ達とすれ違ったアサシンの女はそんな事を言い
ながら港のほうへと消えていった。
「何かあったんだろうか…ん」
 レイがそんな事を呟きながら振り返ると、キスクが胸に手を当てて深呼吸
を繰り返していた。 
「何やってんだ…お前…」
 キスクが羨望の混じった視線をレイに向けた。
「相手のいるお前にはわからんだろうがな…こっちは今から勝負かけようっ
ていう状況だぜ…緊張しまくって声もでねぇよ」
「おーい!!ルナー!!」
「うわ!お前最悪か!」
 いきなり大声で道具屋の方向に叫ぶレイの首をキスクが締め上げた。
「ぐぐぐぇええ…お、お前、会いに来たんだろ…」
「アァァァァァアホかぁぁぁ!!心の準備が出来てないっつうんだよ!」
 レイの声を聞きつけたフィリが道具屋からでてきた。そしてフィリはレイの
首を絞めているキスクの元に歩み寄った。
「初めまして、レイの同僚さんですか?」
「あ…ああ、俺はキスクって言うんだが…」
 フィリはにっこりと笑いながら、どこからともなく刺身包丁を取り出した。
「刺しますね」
「…え?」
「レイに手を出しましたね。だから刺しますね」
「ちょ…ちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!!」
 キスクは慌ててレイを解放すると猛ダッシュで逃げ出した。
「あっ!待てぇ!!」
 フィリが刺身包丁を振り回しながらキスクを追いかけていく。
「逃げないでくださいよぉぉぉ!刺されてぇぇぇ!」
「イヤじゃぁぁぁああああああああっ!!」
 フィリの暴走はレイが止めに入るまで止まらなかった。

 ◆

 道具屋からちょっと離れた路地にて。
「なるほど、キスクはルナに会いにきたんだ」
「そうそう…」
 キスクは満身創痍で半泣きになりながら答えた。レイが腕組みしながら口
を開いた。
「ならとっとと行けって、俺にマグロで殴りかかってきたときと同じ気合いがあ
れば大丈夫だって」
「ああ…そうするよ…」
 敗残兵のごとくゆらゆらとキスクが道具屋の方へと歩いていき、道具屋へ
と足を踏み入れた。続いて、レイとフィリも道具屋へと入る。

「いらっしゃいませ〜、あ、キスク〜」
 ルナが笑顔で応対すると、キスクの頬が赤く染まる。
「え、あ、ル、ルナ。ほ、本日はお日柄もよく…っ!」
「何の話をしてるんだよ」

 ドガ!

 蹴。レイの容赦のない一撃がキスクの足首にヒットした。
「〜〜〜〜っ!!」
 苦痛でのたうちまわるキスクが立てる物音を怪訝に思ったのかリシアが店
の奥から出てきた。
「何よ…一体どうしたっていうの…よ………」
 キスクとリシアの視線が合う。
「…」
「…」
 2人はしばし無言になった後、互いを指差した。

「「あ゙─────────────────っ!!!」」

「な、何であんたがこんな所にいるのよ!」
「そりゃこっちのセリフだ!お前こそ何でいるんだよ!」
「あたしは精錬でクホってお金がなくなったから仕方なくバイト!!あんた
は!?」
「お…俺はっ…」
 口ごもるキスクの表情を見て、リシアが怪訝な表情を浮かべた。そしてル
ナの方を一瞬だけ振り返り─────
「な〜るほどね」
 にやら〜と、とてもイヤな笑みを浮かべながらリシアが納得したように呟い
た。
「お、お前…」
「キスク…あたしお金に困ってるの…」
「てめぇ!たかる気か!」
 リシアがキスクの耳元に口を寄せる。
「あたしはルナの親友よぉ〜協力してあげてもいいんだけどなぁ〜」
「…土下座してもいいですか」
 キスクの敗北が確定した。そこでレイが素朴な質問を2人にぶつけた。
「お前らって知り合いなのか?」
 キスクががっくりとうなだれながら答えた。
「ああ…知り合いっつーか…腐れ縁というか…あんまり聞かないでくれ…」
「…」
 イヤな思い出でもあるんだろうかと、レイは勝手に想像した。そこで今まで
黙っていたフィリが口を開いた。
「そう言えばキスク、用事があるんじゃなかったっけ?」
「うっ…」
 キスクが言われて、顔を引きつらせた。まだ覚悟が決まってないらしい。キ
スクはレイの側によろよろと近寄ると、レイに小声で尋ねた。
「レイ…お前はどんな告りかたをしたんだ?」
 レイは少しだけ頬を赤く染めつつ、一言だけ答えた。
「ストレートに言ったよ」
「そうか!世の中ストレートか!」
 キスクがその言葉に後押しされ、勇気を振り絞ってルナへと歩み寄って
行った。
「ルナ!!」
「はい〜?」
「俺はもう自分の気持ちに嘘はつかないことにした。だから言う。言わせてく
れ!!」
 キスクは一息ついてから、大切な言葉を紡いだ。

「ルナ、好きだ!」

 ストレートな告白。だが一番、相手の心に伝わる言葉。
「ルナ!!俺は自分の気持ちにずっと嘘をついてた。でももう自分の気持ち
に嘘をつくのはやめた!やめにした!大切なのは心だって気づいたから!」
 ルナはにっこりと笑みを浮かべた。

「ごめんなさい〜他に好きな人がいるんです〜」

 キスクは涙を流しながら夕陽に向かって走り去っていった。

 [続]


〜あとがき〜
「アルベルタの休日」編の2つ目のお話です。
改めて読み返すとほとんどRO小説じゃなくなってます。
気のせいと自分に暗示をかけて書き続けようと思います(−−


〜登場人物紹介〜
○ナカラナ
道具屋でリシアの危険発言を聞いた女アサシン。
ジャムパンが好物らしい。



〜Web拍手の返答〜

今回のコメントはありませんでしたorz


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