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Ocean's Blue

025:ザルで底無し

「レイ、キスク」
 本日の製鉄所での仕事を終えた後、レイとキスクは所長のほいに呼び止
められた。
「何ですか?」
「…」
 レイは返事をしたが、キスクは放心状態で魂が抜けていた。
「む、キスク、何かあったのかな?」
「気にしないでください。ちょっと心に傷を負ってるだけです」
 さらりと酷いことを言うレイの言葉に納得したのかほいが頷いた。
「まぁそれは置いといて、来週の慰安旅行でね、社員のキャンセルが相次い
でね…人数が足りなくなったから、誰か知り合いでも呼んでくれないかな?」
「何人ぐらいですか?」
「う〜ん…10人くらいは欲しいなぁ…」
「さすがに10人はキツイですね、一応知り合いを当たってみますけど」
「うん、よろしく頼むよ」
 レイの返答に満足したほいはそのまま製鉄所の所長室へと引っ込んでいった。

 ◆

「あ、誘ってもらえるのなら行きたいです〜」
「あたしも全然構わないわよ」
 レイはその後、いつものようにフィリの待っている道具屋に足を運び、先ほ
どの話を道具屋の3人娘にした。フィリは当然行くと言い出し、ルナ、リシアも
また了承した。
「そういやレイの製鉄所の慰安旅行ってどこに行くの?」
 フィリが素朴な質問をした。
「ああ、『Ocean's Blue』を見に行く船の旅らしい」
「…っ!!」
 フィリが驚きの表情を浮かべた。『Ocean's Blue』とはアルベルタ近海のあ
る海域でしか見られない純青の海の事である。だがそれを見る事は簡単で
はない。様々な気象条件や時期、時間帯、場所などの偶然が重ならなけれ
ば見る事ができない幻の海でもあるのだ。
 だが、フィリが驚いたのは別の理由である。レイが昔、アルベルタに立ち
寄った時、レイとフィリの2人は『Ocean's Blue』を見ているのだ。2人で小舟
を港で借り(無断使用)、沖に出たとき、アルベルタのすぐ傍の海に『Ocean's 
Blue』が出現していたのだ。その雄大さ、美しさは、子供心にすら強く焼きつ
いていた。
 ちなみにその後、2人揃ってミリアに脳天直下拳骨を喰らった。
「また見れるかな?」
 フィリが8年前に想いを馳せながら、レイに微笑みかけた。
「見れるさ、俺とフィリがまた会えたみたいにな」
「うんっ」
 リシアがそんな2人を見ながら一言。
「ちなみにそのセリフ、はたから聞いてると超クッサ〜〜ィんですけど…」

 ◆

 その日の夜、レイとフィリの2人はそのまま家には帰らず、グロリアスの屋
敷に立ち寄った。旅行にミリアやオールドを誘うためだ。
「うーむ、すまんな。来週からは仕事が入っている」
「私もだめっぽいわね…」
 オールドとミリアは済まなさそうに答えた。
「どうしても?」
 一応フィリが食い下がるとオールドが深々とため息をついた。
「来週は国王陛下に会ってドレイクによって壊された街の再建の再支援
を頼まねばならない。さすがにこれは外せん」
 国王とはルーンミッドガッツ王国の王、ヴァン=トリスタン=ルーンミッド
ガッツV世の事である。
「そっかぁ…」
 肩を落とすフィリにミリアがポンポンと肩を叩いた。
「でも誘ってくれたのは嬉しかったわよ、私もお父様もね」
「うむ」
 そこでミリアが思い出したように手を叩いた。
「あ、そうそう。あんた達これからヒマ?」
 レイとフィリは顔を見合わせた。ヒマと言えばヒマである。この後は帰って
夕ご飯を2人で作って、それを食べて、シャワーを浴びた後は寝るだけ。い
つもの日常である。しかも明日は2人で日にちを合わせて仕事も休みにし
ている。
「大丈夫ですけど」
 レイがそう答えるとミリアが喜色満面な笑みを浮かべて、隣の部屋から酒
瓶を持ってきた。酒瓶には天津酒と書いてある。
「飲むわよ」
「「「は?」」」
 レイとフィリだけでなく、オールドすら目が点になった。
「そういやこのメンバーだけでお酒を飲んだことなかったのよね〜」
「あ、そう言えば」
 フィリが納得したような表情を浮かべた。と、そこでオールドがゆらり…と立
ち上がった。
「レイ君…君が真の男かどうか見てあげよう…」
「う…」
 何というか物凄い妖気が伝わってきそうな雰囲気にレイがたじろいだ。オー
ルドは実は酒豪である。このアルベルタの酒豪チャンプはオールドと製鉄所
の所長であるほいのどちらかと言われるほどである。
 すると、フィリがレイとオールドの間に立った。
「私のレイはお父様に負けたりしません!」
 レイは自分の彼女に思いっきり首を絞められていた。
「ふっふっふ…ここでレイ君を倒して、娘を取り戻すのも一興!!」
「くっ…!!フィリは…渡さねぇーっ!!」
 ドレイクが襲来した時より絶望的な気分で、レイはさかずきを手に取った。

 さかずきに酒がどんどん注がれ、思いっきりレイはそれを飲み干した。続
いてオールド、ミリア、フィリの順で一気に飲み干す。レイは一気に酔いがま
わってきたことを実感した。アルコール濃度が異常に高い気がする。
「ゔっ…ご…ごれ…強くないですか…?」
「普通だが?」
「普通よ?」
 オールドとミリアはどんどん酒を飲んでいる。ザルで底無しで、化け物であ
る。レイが脂汗を流しながら横目でフィリを見ると、フィリの動きも止まってい
た。
「レ…レイ…私たちが普通の反応よね…?」
「あ…あ゙あ…」
 ぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐび、どか。すでに3本目の酒瓶を空にしてし
まった2人の酒魔人が動きの止まっているレイとフィリを叱咤した。
「くぉら!レイ君!そんな事では娘はやらんぞっ!」
「んなこと言ってもこの酒強すぎますって!」
「フィリ!女もたまには酒が飲めないと男に嫌われるわよ!」
「お姉ちゃん!そんな理屈はないって!」
 するとミリアがレイの方に視線を向けた。
「レイ君、あなたが私たちに飲み勝ったら、屋敷のタンスの奥にある秘蔵の
フィリが小さかった時の下着をあげるわよ?」
「お姉ちゃぁぁぁぁん!わけのわからない事を言わないでよ!」
 顔を真っ赤にして怒るフィリがレイの方を見ると、何故かレイは自分のさか
ずきをオールドに差し出していた。
「レイィィ!そんなことで急にやる気出さないでよぉぉぉぉっ!?」
 レイの目がギラギラと鋭く光っている。すでに酔いまくっているようだ。
「フィリ…負けられない戦いになったんだ…わかってくれ!」
「うわーん!レイが壊れたぁぁぁぁ!」
 すると今度はオールドがフィリに向かって微笑んだ。
「フィリ、お前が最下位だったら、その下着でハンカチとか作って、レイ君に
渡すからな!?」
「ちょっとお父様!?それはいやですっ!!」
「ならば勝利することだ!この場では敗者に発言権はない!」
 最低親父である。
「負けられねぇ…負けられねぇ…っ!」
「おほほほ、フィリ〜急がないと最下位になっちゃうわよ〜?」
「うあっ!レイ、飲むペースはやっ!!う…うぅ〜!!」
 フィリは覚悟を決めてさかずきを再度、手に取った。

 ◆

 結局、最初に酔い潰れたのはレイとフィリだった。今、レイとフィリの2人は
ソファーで仲良く並んで眠っている。オールドとミリアは屋敷のテラスに出
て、向かい酒と洒落込んでいた。
「あの子は幸せそうですね」
「そうだな」
 ミリアの言葉にオールドの口元に笑みが浮かんだ。
「あの子を『たくされた』時は、この子を幸せにできるのだろうかと…不安に
なったものだが…」
「えぇ、でもお父様もお母様も…あの子を大切にした。だからあの子も素直
に育って…今、幸せを感じている」
「ああ。ミリア、私はな、もうこのまま…フィリには…本当の事を知らずに生
きていって欲しいと思っている」
 その言葉を受けてミリアは目を伏せた。
「あの子の本当の名前…本当は誰の子供で…血を分けた双子の兄がいる
事も…ですね」
「そうだ。真実は必ずしも人を幸せにするとは限らないからな」
「そうですね…あの子には…ずっとあのように幸せでいてほしいから…」
 ミリアが屋敷の中に視線を向けると、フィリがレイの肩に顔をうずめるよう
にしてスヤスヤと眠っていた。

 ◆

「レイ…もうダメ…痛いよ…」
「済まない…俺が不甲斐ないばかりに…」
「ううん…レイはよく頑張ったよ…」
「そう言ってくれると…嬉しいかな…」

 ズキズキズギズギズギィィィィィ!!

「「〜〜〜〜〜っ!!」」
 朝、目を覚ました2人はアホな問答のせいで余計に二日酔いが悪化したよ
うな気分に襲われた。
「し…死ぬ…マジで死ぬかも…」
 這いながらキッチンまで行ってコップに水を満たして、それを一気に飲み
干したレイは、フィリの分の水をコップに注いでまた這いながら戻った。
「レイ…あ、ありがと…頭ぃだぃ…」
 2人が地獄の苦しみを味わっていると、ミリアが2人の元にやってきた。
「あら、起きたの」
 ミリアはレイ達の3倍は軽く飲んだはずだが、平然としている。化け物もビッ
クリなほどのザルっぷりである。
「フィリ、一応元プリーストでしょ?ヒールで二日酔いとか治らないの?」
「お…お姉ぢゃん…治るならとっくにやっでるって…」
 フィリが山岳都市フェイヨンの近郊にあるフェイヨン弓手村の中にある洞窟
に生息しているゾンビのような表情を浮かべながら答えた。
「ふ〜ん、あ、今日は屋敷を空けるから、2人とも留守番よろしくね。あ〜昨日
あんた達に酒を浴びるほど飲ませて正解だったわ」
「「…」」
 レイとフィリはよろよろと顔を見合わせ、一つの結論にいたった。

 酔い潰す → 二日酔い → イヤでも留守番

「「ハメられたぁぁぁっ!!」」
 これを後の祭りと言う。

 ◆

 レイ達が幸せを謳歌している頃───

 ギルド「トレント★樹海団」のギルドマスター、トレントはルーンミッドガッツ
王国の首都プロンテラの南東にある衛星都市イズルードの酒場にたった一
人で姿を現した。
 トレントは酒場の隅で一人で飲んでいる若い男の隣に座った。若い男が隣
に座ったトレントに気づき、口を開いた。
「あんたか…約束のブツはできてるぜ」
 若い男は鞘に納まった一振りの剣をトレントに手渡した。だが、その剣は鎖
で厳重に封印されている。トレントにその剣を渡した後、若い男がニヤリと口
元に笑みを浮かべた。
「久しぶりの業物だ。が、自分で作っといて何だが、その剣はヤベェ」
「ほぅ」
 トレントが吟味するようにその剣を掲げた。
「その剣は殺意と狂気に反応して、さらに斬れ味を増す。戦場に行けば対象
を無慈悲に斬り裂くだろう。例え…それが人であってもな」
「…伝説の魔剣製作者の一人…ナインをもそう言わすか」
「その称号はとっくの昔に捨てた。俺をその称号で呼ぶな」
 ナインと呼ばれた若い男がトレントを睨みつけた。トレントは肩をすくめた。
「ああ、悪かった。…で、この『魔剣』の銘は何と言う?」
「古代ルーン語で『処刑人』という意味で…」
 ナインの口元が楽しげに歪んだ。
「魔剣『エクスキュージョナー』という」
「魔剣…『エクスキュージョナー』…」
 トレントがその名を呟いた。魔剣はその禍々しさを鎖によって封じ込めてい
るかのように静かだった。
「しかし──」
 ナインがグラスに注がれていた酒を一気にあおった後、言葉を続けた。
「そんなものが必要になるとは思えないんだがな。聞いてるぜ、あんたのギ
ルドの噂」
「どんな噂なんだ?」
 トレントはニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべた。噂の内容も大方見当がつ
いているようだ。
「一言で言えばスケープゴートを大量生産させる『狗』」
「ぶわっはっはっは!!」
 トレントがその言葉を聞いて大爆笑した。ナインはトレントのその様子に少
しだけ気分を害されたようだ。
「何だよ、違うとでも言うのか?」
「やべぇ〜…マジウケした。だけど…ん〜…当たってるかな?」
「かな?…だと?」
 トレントがワイングラスに手をのばした。
「物事は多面的に見ろってことさ」
 ナインにはトレントのその返答の意味が全く理解できなかった。

 [続]


〜あとがき〜
さて、そろそろ第1部の終わりも見えて参りました!
第2部『ギルド攻城戦』まであと数話!
ちなみに次回予告はナッシング!考えてるけど言えねえ!
つまり次回は結構重要な話かも(゚∀゚)


〜登場人物紹介〜
○ナイン
伝説の魔剣製作者の一人。他に魔剣製作者は2人いるらしい。



〜Web拍手の返答〜
>このままいつの間にかラブストーリーに!?
プロローグからラブストーリーかと!?

>弓だけが冒険者の武器じゃないしね
>短剣ハンタ手動ブリッツで復帰ですか?ほいさん作のダマとか持ってw
仕込みは上々、後は仕上げをご覧あれってな状態です。

>風邪引いたぞ〜〜(=w=)ノ
寝なさい。

>結婚しました(ノ+x+)ノ
>あと、知らない人からよくwisで話しかけられるようになりました_| ̄|○
結婚おめです。知らない人からのwisは「俺人気者だZEEEEEEE!」
と思い込むと幸せになれますよd('A`)


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