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Ocean's Blue

026:Ocean's Blue

 本日は快晴で、絶好の船出日和だった。そう、今日はレイの働いてい
る製鉄所の面々の慰安旅行の日。レイとフィリ、2人の想い出に深く根
付いている

『Ocean's Blue』という名の純青の海を見にいくのだ。

「わぁ…結構大きい船なんだね、定期船とあまり変わらないね」
「ああ、ほいさんって意外に色んな所にコネがあるらしくてさ」
 これから乗る船の素朴な感想を述べたフィリにレイが屈託なく笑いな
がら説明した。
「船に乗るのは久しぶりだな…アマツから乗った船が最後か」
「そうそう、そこでジュニアやエリカに会ったんだよね」
 と、そこにルナやリシア、キスクなどのレイ達の友人達がやってきた。
「お待たせ〜」
「ゴメンゴメン、もう皆乗っちゃった?」
「…っ」
 キスクはルナとリシアの荷物を持たされていて一言も発せない状態の
ようだ。とりあえず親しい知り合いも揃ったので5人は船に乗り込む事に
した。


 どさどさどさ!!

 船に乗り込んだ後、キスクが荷物とともに倒れ伏した。
「ちょっと乱暴に扱わないでよ!」
 文句を言うリシアに力尽きたままのキスクが言葉を絞り出した。
「バ…バカ言…え…、っつーか…お前のあの袋、むっちゃくちゃ…重い
ぞ…」
 キスクが指差した袋を見たリシアが即答した。
「あれね、入ってるのタダのでっかい石だし」
「うぉい!イヤがらせかよ!」
「あっはっは、つーかあんた途中で気づきなさいよ」
「このクソアマァァァァァ!!」
 取っ組み合いをはじめる2人の隣で、フィリはルナの持ってきた荷物に
唖然としていた。
「ルナ…このでっかいツボは一体…」
「これは動くヒドラツボ〜」
「じゃあこっちのもっとでっかいツボは?」
「これは半漁人ツボ〜」
「じゃあこっちのさらにでっかいツボは?」
「これは海のおっさんツボ〜」
「…」
 フィリはよくわからないものを大量に運ばされたキスクに心底同情した。

 と、船室係と話をしにいっていたレイが4人の元に戻ってきた。
「2人部屋と3人部屋の鍵を渡されたんだけどどうしようか?」
 レイが2本の鍵をチャラチャラとならしながら全員に質問した。すると全
員がこれだけは譲れないという主張をした。

「私はレイと同じ部屋がいい!」(←フィリの主張)
「頼む!リシアとは別の部屋にしてくれ!」(←キスクの主張)
「大勢の方が楽しいので、私は3人部屋がいいです〜」(←ルナの主張)
「野獣のキスクとは別の部屋にして」(←リシアの主張)
「俺もフィリと一緒の方がいいかな」(←レイの主張)

 上記の条件を満たす部屋割りはゲフェンのマッドサイエンティスト、モル
ゲンシュタインのじーさんでも振り分けることは不可能であろう。
 しばらく激しい論争が繰り広げられた後、レイとフィリが妥協し、普通に
男女別部屋になることになった。

 ◆

 やわらかな風がレイとフィリの頬を撫でていく。レイとフィリは船の甲板
に出て、並んで海を見ていた。美しい景色だった。
「綺麗…」
「ああ…」
 出航してから2日、船の流れに沿って開けていく青い海、だが「Ocean's 
Blue」の美しさはその比ではない。キスク達は気をきかせてくれたのか、
この場にはおらず、別の場所で「Ocean's Blue」の出現を今か今かと待っ
ているはずだ。
「レイ、8年前の事、ちゃんと覚えてる?」
「小舟をかっぱらったことか?」
「もうっ!それもだけど、そっちじゃなくて!」
 拗ねてそっぽを向くフィリにレイは苦笑を浮かべた。
「冗談だって、覚えてるさ。つーかフィリこそ覚えてたのか」
「レイは私が想い出を忘れるような女に見えるんですか〜?」
「思わない」
 レイが即答したため、フィリの頬が紅潮した。
「じゃ…じゃあ私が8年前に言った言葉、言える?」
 レイが少し困ったような表情を浮かべた。
「言えるけど…それは待って欲しい。冒険者をやめた事で、実はまだ心
の整理が本当はついてないんだ」
「うん…そうじゃないかと思ってた」
「でも…」
 レイはフィリの手をとった。その手の薬指には首都プロンテラでレイが
フィリに買ってあげた指輪がはめられていた。
「いつかちゃんとしたの買ってやるから待っててくれよ。その時に言うべ
き言葉もちゃんと言うからさ」
「うん…」
 フィリは頬の紅潮が顔全体に及んだような状態で、少しうつむきながら
答えた。

 ガタ

 と、レイは自分たちの後ろにある大きめのタルから音がしたことに気づ
いた。レイは耳を澄まして、その大きめのタルに注意を向けた。

(やば、気づかれた!?このバカキスク!あんたが動いたからでしょ!)
(あほか!逆海老反り状態をずっと維持とか無理だろうが!)
(ああ〜何か2人の会話がやみました〜こっちに注意を向けてる気が〜)

「…」
 レイが無言でそのタルに近寄った。フィリが怪訝な表情を浮かべる。
「レイ、どうしたの?」
「うーん…」
 レイは少し黙考した後、答えた。
「フィリ、とりあえずこのタルを無性に転がしたくなったから手伝ってくれ」
「へ?」
 フィリは目を点にしつつも、レイの作業を手伝う。

 ごろごろごろごろごろ──

 レイとフィリはそのタルを思いっきり転がしながら移動していく。中では
惨劇が起きていた。

(うぇぇぇぇぇぇ〜)
(うわっちゃあんぎゃー!リシアっ!俺に向かって吐くなぁぁぁ!!)
(目が〜目が回ります〜)

 レイとフィリは行き止まりについてしまった。
「あれ、ここ行き止まりだったか。フィリ、逆回転だ」
「うん、でも何でタルを転がすの?」
「まぁ、後でわかるさ」

 ごろごろごろごろごろ──

(げろげろげろべろぁぁぁぁあ〜)
(うっぎゃー!助けてくれぇぇぇぇ!!)
(目が〜目が〜!)

 レイとフィリが後でタルの中を確認すると、中は凄いことになっていた。
それはもう凄いことになっていた。

 ◆

「レイ…マジで死ぬかと思ったぞ…」
 レイのかなりきっつい報復にキスクが肩を落としながら言った。
「なら覗くなよ…」
「だから悪かったって…」
 リシアとルナは目を回して、甲板にあるベンチで力尽きている。フィリが
詰め寄るようにキスクに尋ねた。
「だったら何で覗いたりしたのよ〜、その私とレイの…ふ…2人の時間を」
「あ〜、もうバラすしかねぇな。賭けだよ賭け」
「「賭け?」」
 レイとフィリが口を揃えて聞き返すと、キスクはバツが悪そうに言った。
「だ〜か〜ら、お前らがいつ結婚するかの賭け」
「はぁ!?お前らそんな事してたのかよ!」
 レイが羞恥で顔を真っ赤にしてキスクに掴みかかった。
「待て待て!参加者は俺達だけじゃないぞ!アルベルタの住人のほぼ7
割が参加してるビックイベントになってる」
「うあ参加者多っ!!」
 フィリが驚きと羞恥で顔が真っ赤になる。レイがキスクに詰め寄る。
「で…元締めは誰だ…」
「ミリア=グロリアス」
「お姉ちゃんのあほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 キスクの答えにフィリが頭を抱えた。
「一応聞いとくが一番人気はいつ頃なんだ…?」
「えーと…一番人気は1週間以内だな」
「うぉい!やたら短いな!」
 レイが思わずツッコミを入れる。キスクが笑いながらフォローを入れる。
「ま、それだけ仲良く見えるんだよ、お前ら2人はな」
 キスクは目を伏せて微笑んだ後、言葉を続けた。
「俺はいいと思うぜ。冒険者をやってるよりはアルベルタで平和に暮らして
る方がな…」
「キスク…お前…」
 レイが目を伏せて呟いた。
「早くゲロふけよ」
「たまには格好よく決めさせてくれよ!頼むから!」
 キスクはそう言うとがっくりとうなだれた。

 ◆

 た…

 リシア達の面倒を見ていたフィリが突然、立ち上がった。
「…レイ、海が…蒼い、これって…」
 レイとキスクが驚きの表情を浮かべて海を見た。
「おい!リシア!ルナ!起きろ!だぁぁぁぁ!起きやしねぇっ!お前ら先に
行ってろ!」
 キスクがそう言うのと同時にレイとフィリは船の舳先に向かって甲板の上
を走り始めた。全速力で船の先頭までやってきた2人は船から身を乗り出
して海を見た。

 ────蒼き大洋──「Ocean's Blue」──
 
 レイとフィリは言葉もなく、その美しさに見入った。先ほどまで見ていた海
の美しさなどこれに比べれば、いかに矮小なものかわかる。


  この美しい世界は───

  光が溢れている───

  多くの命が育まれている───

  この蒼き海は───

  この世界そのものでもあるユミルの───

  純粋な心を投影したもの───


 レイは小さい頃、この話を母であるマリア=ハロウドに聞かされていた。


  だけどね、レイ、忘れてはならないことがあるのよ───

  ユミルは神々によって×××たの────

  そしてユミルを愛していた彼は───

 
「あっ!『Ocean's Blue』が消えていく…」
「えっ!?」
 フィリの言葉にレイが慌ててそちらに視線を向けると、『Ocean's Blue』はす
ぐに普通の海へと戻っていった。
「消えちゃった…」
「ああ…」
 すると、どたどたという足音を立てながらキスクやリシア、ルナ達がやって
きた。
「あ゙──っ!見逃したぁぁぁっ!」
 リシアががっくりと肩を落とした。ルナとキスクも同様に肩を落としている。
「見たかったなぁ〜」
「リシア…てめぇが俺にゲロ吐くから…」
「はぁ!?私のせいだって言うの!?タルがどーのって言い出したのはあん
たでしょ!」
「やんのかコラァ!」
「上等よっ!」
 2人がいつものごとくケンカをはじめるのをルナが必死に仲裁している隣で
レイがフィリの耳元に口を寄せた。
「また…2人だけで見れたな」
「うん…」
 フィリがレイに微笑み返した。

 ◆

 それから3日後の夕方──

 あれから再び「Ocean's Blue」が現れることもなく、レイ達の小さな旅行は
終わりを迎え、船はアルベルタの港へと帰着した。レイとフィリは夕日が街を
紅く染めている中、帰宅の途についた。
「『ラグナロク』で全てを失った時…俺はもうだめだと思っていた」
 その帰り道、レイは自嘲しながら苦笑を浮かべながら呟いた。
「でも、俺にはフィリがいてくれた。俺をあの暗がりから引き上げてくれたの
はフィリだったんだ」
「ううん、それなら私だってそうだよ。私は昔、引っ込み思案で友達だって一
人もいなかった。だけど…レイが背中をそっと押してくれたから。小さな勇気
を私にくれたから」
 フィリの言葉を受けて、レイが目元に柔らかな笑みを浮かべた。
「『ラグナロク』を継いだ者は必ず不幸になると言われている。だけど俺は不
幸なんかじゃない、今が幸せだ、幸せなんだ」
「私も幸せだよ。ずっとレイといられるから…」
 2人の足が止まり、レイとフィリは互いの顔を見つめ合った。何となく人気
のない道を通ってきたのでまわりに人のいる気配はない。レイとフィリの顔
が自然と近付き────

















 その瞬間、レイの視界の隅に何かが見えた。

  ────思い出せ

 レイは思わず、そちらの方向に視線を向けた。

  ────貴様が何者かを

 そこには、

  ────人間ごときが

 この場にはいてはならないモノがいた。

  ────神をも穿つ力を持っているにもかかわらず

 この場にはいるはずのないモノがいた。 

  ────この世の幸福を感じるなど

 顔面髑髏の

  ────おこがましい

 妖かし侍

  ────貴様は














──永遠に苦しめ













「何でだよ…」
 レイの心が、乱れる、かき乱される。動揺が支配する。怒りと哀しみと、そし
て絶望にも似た悲痛なやるせなさ。
「何で今頃現れるんだよ…っ!!」
 レイが唇を噛み締める、血が噛み締めた部分から流れ出ている事にすら
気づかないほどの動揺。フィリがレイを落ち着けようと腕を掴む。
「レイ!落ち着いて!」
「何で…今頃…っ!!」
 レイが憎悪をこめた呪いの言葉のようにその名を呼ぶ。
「『彷徨う者』…っ!!」
 顔面髑髏の妖かし侍、『彷徨う者』。レイの母であるマリア=ハロウドをさら
い、レイの家庭から幸せを奪っていったその悪魔は、アルベルタの街に降り
注ぐ夕日の光を背に、音もなくレイとフィリの前にたたずんでいた。

 [続]


〜あとがき〜
「Ocean's Blue」第1部もいよいよクライマックスです。
次回予告、レイが再び冒険者として立ち上がる!
それは『ギルド攻城戦』という新たな戦いの始まりだった!

〜登場人物紹介〜
○彷徨う者
全ての元凶。レイの母であるマリア=ハロウドをさらった張本人。
顔面髑髏の妖かし侍、『死の眷属』の悪魔。



〜Web拍手の返答〜
>次回はトレントさんがエクスキュージョナーを
>クホる話に違いない(大間違い
くほってねーよ!ヽ(`Д´)ノ 実は話の続きは28話に続いてます

>やべぇ、トレントさんかっけぇよ、惚れそう(´Д`*)
俺に惚れると火傷するぜ?(カエレ

>今更ながらラヴコメなら、
>告白しそうでしないような微妙な関係なはずですよね
そのツッコミにハッとされつつも、俺は物知りだZEEEEと見栄を
張りたいので、そのツッコミはスーパー却下します!

>最近徹夜で活動時間62時間を記録しますた…(´・ω・`)
そろそろ悟りが開けそうな頃合ですねorz


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