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Ocean's Blue

028:動き出す強敵達

 次の日、フィリは道具屋のルナに仕事の休止を伝えるために、レイは製鉄
所のほいに同じく仕事の休止を伝えるのと、エンブレム作成の依頼をするた
め、それぞれの仕事場に向かった。
 レイの話を聞くとほいが残念そうな表情を浮かべた。
「そうか、冒険者として復帰するのか。少し寂しくなるけど、仕方ないことだ
ね。君自身で答えをだしたことなんだから。エンブレムは半日後に取りに来
なさい。君たちの提示した通りのデザインして作っておくから」
 ほいはレイにそう言った。さらに製鉄所でレイはイヤに機嫌のいいキスク
に遭遇した。
「おい…やたらと機嫌がいいな、キスク」
「レイか、見ろよ見ろよ!これ!」
 キスクがレイに見せたのは一枚の手紙だった。内容は──

 『今日の夕方、街外れの公園で待ってます』

「…これは」
 レイは冷や汗を一筋流しながら信じがたいものを見たといった感じでキス
クの顔を見つめた。キスクの顔がにやら〜とにやけている。
「ラ・ヴ・レ・タ・ァァァァァっ!ヒャホー!俺にも春がキタゼー!!」
「つーかさ、本当にラブレターか、これ?お前のことだから果たし状とかじゃ
ねーの?」
「へっ!それはありえないな!」
「何でだよ…」
「果たし状で公園を指定する奴がいるか!?断じて否!否!否ぁぁぁ!」
「まぁ…そうだなぁ…」
 そして、小躍りしているキスクにレイが言いにくそうに言った。
「喜んでる所悪いんだが、俺さ明日から仕事しばらく休むから」
「は?」
 キスクの目が点になった。
「何で?」
「冒険者に復帰することになった。『ギルド攻城戦』に参加する」
「…っ!お前弓が引けないんじゃなかったか?」
「何とかなりそうだ。また戻ってきたらよろしく頼むよ」
「お、おう…」
 レイはアルベルタで過ごした中で一番の男友達にそう言って別れを告げ
た。キスクは…何故か動揺を隠せないでいた。

 ◆

 同じ頃、フィリもルナとリシアに同じ事を伝えに道具屋にいた。しかし、奇
妙な事にリシアもまたフィリに手紙を見せていた。内容は──

 『今日の夕方、街外れの公園で待ってます』

「フィリぃぃっ!あんただけがモテるわけじゃないのよ!私に言い寄るなん
てどんな男かしらねぇ〜ウフフ、服は何着ていこうかしら〜」
「リシア、これ本当にラブレター?」
「フィリにはこれがそれ以外の何に見えるの!?」
「う〜ん…見えないけど…」
 フィリは納得がいかなかったが、先に伝えるべきことを伝えることにした。
「ルナ、リシア、私はレイと冒険者に復帰することにしたの」
「え〜レイ君は弓が引けないんじゃなかったんですか〜?」
 ルナの問いにフィリがあははと笑った。
「何とかなりそうだから…ね。それで私たち『ギルド攻城戦』に参加すること
になったの」
「「…っ!!」」
 ルナとリシアが驚きの表情を浮かべた。そもそも『ギルド攻城戦』とは冒険
者達の戦いの極致を体現したような世界である。激しい戦いは絶対に避けら
れない。
「あんた…大丈夫なの?」
「うん、私たちには負けられない理由があるから。だからね…私たちが戻っ
てきたら…また道具屋で働かせてくれる?」
「構いませんよ〜」
 ルナの言葉にフィリが笑顔を浮かべた。ただリシアが少しだけ苦い表情を
浮かべていたのが気になるが。

 そうして別れを告げたフィリが道具屋を去った後、リシアが呟いた。
「生半可じゃ生き残れないわよ…『ギルド攻城戦』はね…ってそうそうラブレ
ターの事忘れそうになってたわ!ごめん、私、今日は急いで帰って準備す
るわ!ルナ、後はよろしく!」
「は〜い〜」
 リシアが道具屋をどたどたと出て行った。すると道具屋のカウンターの隅
からルナもまた手紙を取り出した。
「私も同じ手紙がきてるんだけどな〜」

 『今日の夕方、街外れの公園で待ってます』

 ◆

 砂漠の都市モロク──

 宿の一室で仮眠をとっていたイアルの兄にして反皇帝勢力の筆頭ギルド
の一つ、「雷獣の咆哮」のギルドマスター、ロウガ=ブラストは部屋の中に
気配が生まれた事に気づき目を覚ました。
「どうした?」
 ロウガは一言だけ短く質問した。部屋のどこからか言葉が帰ってくる。
「マスター、「皇帝の十字架」に大きな動きがあります。ヴァルキリーレルム
侵攻が始まる可能性が非常に高いかと。現在、他のメンバーに事実確認を
急がせております」
 女の声だ。ロウガがその報告を受けて飛び起きた。
「ついに来たか…アイフリード=フロームヘル!!」
 「皇帝の十字架」が3年の沈黙を破り、ついに動き出そうとしている。ロウガ
は報告を伝えた声の方に言った。
「青藍、うちのギルドのメンバーを全員招集しろ。ケイル、ジャンク、ナカラ
ナの3人には特に早く来るように伝えろ。俺達も動く。急げよ」
「了解しました」
 青藍と呼ばれた女の気配が部屋の中から消える。ロウガはヴァルキリー
レルムの砦を手中におさめている反皇帝勢力の友好ギルドにして、世界で
ナンバー2とナンバー3の大きさを持つギルド「絆の旋律」と「光の翼」の同盟
連合に対して手紙を書き始めた。
「あの連合が「皇帝」が相手とは言え、易々とやられるとは思えないが…」
 ロウガはその思い込みが甘かった事を後日、認識させられることとなる。

 ◆

 衛星都市イズルード──

 魔剣製作者のナインと別れ、人気のない道を歩いていた「トレント★樹海
団」のギルドマスター、トレントは背後に気配を感じ足を止めた。
 少年、歳は15歳を超えてないだろう。そんな少年が、身体の比率とは明ら
かにあってない巨大な弓を持った少年が、立っていた。少年は次の瞬間、
巨大な弓に矢をつがえ、トレントの頭蓋めがけて、矢を放った。

 ビョゥ!!

 トレントは振り返らず顔を少しだけ右にずらすと、その矢をかわした。が、
左の頬を矢がかすめて、血が流れでる。それを見て少年が感嘆のため息
をもらす。
「へぇ、今のを避けるなんて結構やるんだね」
 トレントは振り返らず、一言呟いた。
「ガキが、自分の命はもっと大切にした方がいいと思うがな」
「へぇ、それはどういう意味だ────」
 途中まで言って少年が息を呑んだ。背後から首筋にナイフが押し当てら
れていたからである。
「い…いつの間に…」
 少年が視線を背後にめぐらす。そこには「トレント★樹海団」ナンバー2の
女ローグ、ルアーナが少年の首筋にナイフを押し当てていた。おそらく押す
か引くかすればあっさりとそのナイフは少年の頚動脈を切り裂くだろう。

 スラリ

 軽やかな音とともにトレントが2本もっていたうちの片方の剣を──鎖でき
つく封印されていない方の剣を抜いた。
「苦しみながら死ぬか、苦しみ抜いて死ぬか好きな方を選べ」
 狂気すら孕んだその言葉に少年が焦った声を上げた。
「ちょ…ちょっと待った!僕は伝言係だって!そ…そりゃ悪ノリしたのは悪
かったけどさ!」
 トレントがゆっくりと近付いてくる。
「だぁっ!マジごめん言ってるだろ!それにうちの親分から手紙を預かって
いるだよ!」
 トレントの足が止まった。トレントが目で合図すると、ルアーナが少年の首
筋からナイフを放す。ルアーナが半歩下がり、少年が慌てて手紙をトレント
に手渡した。トレントは手紙の封をきり、内容をざっと確かめた。
「フン…そういうことか。「皇帝」がついに動くか」
 少年が慌てた声をあげながら逃げ出すように走り去る。
「よし!ちゃんと渡したから!じゃね!」
 ルアーナが逃げ出していく少年を見ながらトレントに尋ねる。
「逃がしていいの?」
「いや、ああ見えてあのガキは手強い。ほっとけ」
「うん」
 トレントがルアーナに手紙をポンと渡した。
「ルアーナ、ギルドメンバー全員を山岳都市フェイヨンに集めろ。俺達もそろ
そろ動くぞ」
「トレント、それじゃあ…」
「楽しい楽しい、『ギルド攻城戦』のはじまりってことさ」
 トレントは口元に不敵な笑みを浮かべ、そう言い放った。

 ◆

 港町アルベルタ──

「「何でお前(あんた)がここにいるんだ(の)よ!!」」
 夕方になって街外れの公園にやってきたキスクとリシアは手紙で指
定されていた場所が同じだったこともあり思いっきり鉢合わせになった。
「はぁ?私に手紙出したのあんたなわけ?」
「なわけねーだろ、お前こそ俺に手紙なんて出してないだろうな」
「それこそ天地が逆さまになってもありえないわね」
 と、そこにルナまで現れた。
「キスク〜リシア〜実は私も手紙もらってたり〜」
「「はぁ!?」」
 キスクとリシアの声がハモる。と、そこに4人目の人物が現れた。男だ。
「すみません、その手紙を出したのは私です」
 その男はキスク、リシア、ルナの3人が共通して知っている男だった。
「ファルス、てめぇがここにいるってことは…」
 キスクにファルスと呼ばれたその男がにっこりと笑みを浮かべた。
「私は連絡係です。では上からの連絡を伝えますね」
 ファルスは厳かな雰囲気をもってして高らかに言葉を紡いだ。










  「皇帝」アイフリード=フロームヘルより通達──

  「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』──

  「魔人拳」 キスク=リベレーション
  「閃光剣」 リシア=キングバード
  「月夜姫」 ルナ=イムソニアック
  「葬送曲」 ファルス=エタニティ

  以上の4名は15日後の『暁と月夜が闇に呑まれる日』までに
  ルーンミッドガッツ王国首都プロンテラに召集──
  翌日明朝、ヴァルキリーレルム砦を確保している連合同盟、
  「絆の旋律」「光の翼」に攻撃を開始する──










 その通達を受け、キスクの口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
「いよいよかよ…楽しくなってきたぜ…」
 その言葉を聞き、リシアとルナもまたキスクのように残忍で冷徹な笑みが
表情に浮かぶ。そう、この4人は世界最強のギルド「皇帝の十字架」の最高
幹部『七近衛』、7人のうちの4人だったのだ。皮肉なことに、レイ達はアルベ
ルタでの最も親しかった友人達と刃を交える運命となったのだ。そして、もう
一つの衝撃の真実がある。
 ファルス=エタニティ、首都プロンテラでレイとフィリの前に『道化師』として
現れた男、この男もまた『七近衛』だったのだ。
「では参りましょうか、我らが絶対なる「皇帝」の元へ…」
 ファルスが最後に言葉をそう紡ぐと、キスク達が静かに頷いた。

 [ 第1部「Ocean's Blue」 ─ 完 ]



〜あとがき〜
ようやく終わりました。第1部「Ocean's Blue」っ!!
ぶっちゃけた話、第1部はギルドが出来るまでのお話だったわけです。
後は世界観作りと、第2部、第3部への伏線を張ることですね。
でもま〜第2部へは何とかつながったみたいなので一安心(;´∀`)=3
次回からは第2部が始まります。これからもよろしくお願いしまっす!


〜登場人物紹介〜
●青藍
性別:女
JOB:ローグ
Guild:「雷獣の咆哮」
ロウガ=ブラスト率いる「雷獣の咆哮」のナンバー2。
のほほん教という怪しげな宗教に入っているらしい。
「雷獣の咆哮」には他にケイル、ジャンク、ナカラナなどの幹部がいる。
気づかれていないかもしれないが、ケイルは第9話、
ジャンクは第23話、ナカラナは第24話にさりげなく登場している。

●キスク=リベレーション [再]
性別:男
JOB:チャンピオン
Guild:「皇帝の十字架」
アルベルタの製鉄所でのレイの同僚。
実は「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
通り名は「魔人拳」と呼ばれている。
『ギルド攻城戦』でレイ達と激しく対立することになる。

●リシア=キングバード [再]
性別:女
JOB:ロードナイト
Guild:「皇帝の十字架」
アルベルタの道具屋でのフィリの仕事仲間。
彼女も「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
通り名は「閃光剣」と呼ばれている。
巨大な大剣を扱うらしい。

●ルナ=イムソニアック [再]
性別:女
JOB:プロフェッサー
Guild:「皇帝の十字架」
アルベルタの道具屋の看板娘にして、フィリの仕事仲間。
「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
通り名は「月夜姫」と呼ばれている。
レイやフィリはキスク、リシア、ルナが「皇帝の十字架」の
ギルドメンバーであることをまだ知らない。

●ファルス=エタニティ [再]
性別:男
JOB:クラウン
Guild:「皇帝の十字架」
首都プロンテラでレイやフィリと接触した『道化師』と名乗った男。
北欧神話に関連した詩を詠いあげることがよくある。
彼もまた「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
通り名は「葬送曲」と呼ばれている。



〜Web拍手の返答〜
>禿がギルド宝「育毛剤」を求めて砦を占拠してるんじゃなかったのか…
そんな宝はねぇぇぇぇ!ヽ(`Д´)ノ

>(´・ω・`)c<´゜ω゜´)
(´・ω・`)c<´T ωT ´)


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