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Ocean's Blue

029:Invasion

 ルーンミッドガッツ王国には各所に「砦」と呼ばれる建物が4つ存在してい
る。神族もしくは巨人族の遺産とも言われているそれは、現在ルーンミッド
ガッツ王国の管理下に置かれている。

 首都プロンテラ内北部にある「ヴァルキリーレルム」砦
 魔法都市ゲフェン南西部にある「ブリトニア」砦
 山岳都市フェイヨン西部にある「チェンリム」砦
 国境都市アルデバラン西部にある「ルイーナ」砦

 これら「砦」にはある共通点があった。この「砦」を所有した者達には莫大な
財宝が与えられる部屋がある。さらに「砦」の所有者のみが入ることを許され
ている地下遺跡の存在などである。
 金と力は争いの根となる。ならば、いっそのこと刃を交えさせて、最も「砦」
を持つにふさわしい強者にこれら「砦」を管理させようという考え方が発展し、
これが『ギルド攻城戦』のはじまりとなったのである。

 『ギルド攻城戦』に参戦するためには「ギルド」と呼ばれる組織を個々で作
らねばならない。この『ギルド攻城戦』により、ギルド内の結束を高め、再び
訪れるかもしれない20年前のような魔物の大襲来に備える───これが現
ルーンミッドガッツ王国、国王ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツV世の
考えである。
 当初「砦」など見向きもしなかった冒険者達だが、各「砦」には地下にまだ
見ぬ遺跡が存在していることや、「砦」が主と認めた者には莫大な財宝が与
えられる部屋があることが判明。冒険者達は先を争うようにギルドを作り
「砦」を賭けて戦った。


 だが3年前、『ギルド攻城戦』にある一つのギルドが参戦したことから状況
が一変した。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘル率いる「皇帝の十字架」

 「皇帝の十字架」はその圧倒的な戦力をもって、国境都市アルデバラン西
部にあるルイーナ砦を占領。それまでルイーナ砦を賭けて戦っていた個々
のギルドは先を争うようにアルデバランから逃げ出していった。
 ルイーナ砦に本陣を据えた「皇帝の十字架」は、半月後には魔法都市ゲ
フェンの南西部に位置するブリトニア砦を強襲、そして占領した。ルイーナ
砦での「皇帝の十字架」の噂を聞きつけ、ブリトニアにいた全ギルドと、アル
デバランから撤退してきたギルドが「全て」同盟を組んだにもかかわらずだ。

 たったの3日でブリトニア砦は陥落した。

 それらの戦いで前線にいた者達は見た。襲い来る冒険者達をまるで虫け
らのように倒し、前へと進む「皇帝の十字架」最強の──

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルと、七人の武神『七近衛』

 武神というのは誇張でも何でもなく、本当にそれほどの強さをもっているか
らである。信じがたいことにそれら8人全てが世界に30人ほどしかいないと言
われている上位2次職なのである。


 だが、それを機に突然、「皇帝の十字架」は沈黙した。ルイーナ、ブリトニア
の両砦で傘下となるギルドを次々と吸収し、着実なギルドの強化をはじめた
のだ。それを知った冒険者達はアイフリードの指揮に感嘆のため息をもらし
た。そう、このまま4つの砦全てを陥落させても、それを御することができな
ければ意味がないのである。だから、力をこれ以上につける。4つの砦、全
てを占領した時、例え『世界中全て』の冒険者が敵にまわったとしても勝利
をおさめることができるほどの力を。
 これは逆に言えば反皇帝勢力のギルドにとっても力をのばすチャンスで
あった。ミッドガルド大陸でナンバー1のギルドは間違いなく「皇帝の十字架」
であろう。その「皇帝の十字架」に対抗すべく、リゲル=ウルヴァリン率いる
世界ナンバー2のギルド「絆の旋律」とミスティ=ホーリー率いる世界ナン
バー3のギルド「光の翼」が同盟を結び、首都プロンテラの「ヴァルキリー
レルム」砦にて、「皇帝の十字架」へと対抗するための力をのばしていった。

 それから3年の時が流れ、決戦の火蓋が切って落とされた───

 ◆

「リゲルさん!ついに来ました!「皇帝の十字架」が!」
 首都プロンテラ内北部に損存在するヴァルキリーレルム砦の一室でそ
の報告を受けた「絆の旋律」ギルドマスター、ホワイトスミスのリゲル=ウ
ルヴァリンは静かな闘気をまといながら砦の屋上へと移動した。
「ついに来たか。アイフリードの野郎」
 リゲルが砦が「皇帝の十字架」の大軍勢に包囲されているのを見て舌打
ちをした。同行してリゲルとともにやってきた部下が動揺の声をもらす。
「か…囲まれてますよ!リゲルさん!」
「落ち着け、篭城戦になったら攻め手の方が厳しいんだよ。そう簡単にやら
れねぇっての」
「そ、それはそうですけど!」
 と、そこにハイプリースト、プリーストの上位職の女性がリゲルの元にやっ
てきた。その女性は清楚で、アマツ風に言えば大和撫子といったような静か
な雰囲気だが、その目は凛としていた。
「ミスティ、ご覧の通りだ」
 ミスティ=ホーリー、つまりこの女性はリゲル率いる「絆の旋律」と同盟を
結んでいるギルド「光の翼」のギルドマスターということになる。
「リゲル様はいかがいたすおつもりですか?」
「俺が降参するとでも言うと思うか?」
 ミスティがクスクスと口元に手をあてて微笑んだ。
「私はリゲル様がそんな事をおっしゃられる殿方ではないとよくわかっており
ますよ」
「なら戦闘準備だ。おい、さっさと全員持ち場につかせろ」
「は…っはい!」
 リゲルの命令を受けて、リゲルとともに同行していた部下が砦の中に消え
ていく。続いて、ミスティも振り返ると、突然リゲルがミスティを後ろから抱き
しめた。
「あら…リゲル様、いけませんよ。こんな時に」
「こんな時…だからだよ。俺は勝てる勝負しかしねぇ、お前はどうだ?」
「私も勝てる戦いしかしたくありませんわ」
「じゃあ、俺は今から負けるかもしれねぇ勝負をする。見とけ」
「…えっ?」
 ミスティが驚きの声をあげたのはリゲルの言葉の内容ではなく、リゲルが
ミスティのそっと渡したもののせいである。それは指輪だった。
「…」
 リゲルがじっと黙していると、ミスティが微笑みながらその指輪を自分の指
にはめた。ミスティがリゲルに微笑みかけると、リゲルは口元にニヤリと笑
みを浮かべた。
「こんな分の悪い勝負に勝てるたぁ、俺も捨てたもんじゃねぇな。これなら勝
てるぜ…「皇帝の十字架」にもよ!」
「はい。では参りましょう…私たちの勝利のために」
「ああ」
 リゲルとミスティは自分の持ち場に向かって駆け出した。

 ◆

「いいか!第1防衛ラインには罠を隙間なくしきつめろ!前衛は罠にかから
ないように場所を把握しておけ!ウィザード部隊は砦の崖上から攻撃!罠
の上にはバードとダンサーの合奏「ロキの叫び」をかけておく!前にも説明
した通りこの範囲では個々のスキルは封じられる!それをちゃんと踏まえ
て動け!」
「相手のセージに結界をはらせてはなりません!同様にこちらの動きを止
めるダンサーを先に潰しなさい!プリースト部隊は常時ルアーフを展開し、
隠れている敵を探しなさい!相手の手強いナイトなどは阿修羅モンク部隊
に任せ、他の敵から迎撃しなさい!」
 リゲルとミスティが次々と指示を飛ばす。そして配置がぎりぎり間に合った
ころ、「皇帝の十字架」の部隊約200名が砦の中になだれ込んで来た。
 物凄い乱戦となったが、あらかじめ念入りにやっておいた準備のおかげで
「皇帝の十字架」の部隊の誰一人すら、第1防衛ラインを突破できないでい
た。さらに100名が増員され、なだれ込んで来たが、それでもリゲル達はこ
らえた。
「まだ余裕か…だが、まだ外にはこの10倍はいたはずだ」
「頑張りましょう。こんな所でやられるわけにはいきません」
 リゲルとミスティは互いのギルドの仲間たちを励まし、戦った。

 そして──

「オラァ!」
 リゲルの裂帛の気合いとともに突き出された蹴りが「皇帝の十字架」の第
一波の最後の一人を打ち倒した。
「ぜは!くそっ!これで10分の1とはな…」
「リゲル様、ヒールを」
「ああ、頼む、ミスティ」
 しばらくしてリゲルは第2波が来るのを予感し、配置についた。だが「皇帝
の十字架」の第2波は異様だった。

 たった、5人だった。

 だが、その5人を見た瞬間、第1防衛ラインにいた仲間達が震え上がった。
「こ…「皇帝」…アイフリード=フロームヘル!」
「なっ…ななっ…『七近衛』が4人もいるぞ!」
 「皇帝の十字架」、「皇帝」と最高幹部『七近衛』──先ほどの300人よりな
どよりも比べ物にならないほどの危険な化け物たちがリゲル達の前に現れ
たのである。

 スゥ…

 アイフリードが右手をゆっくりとあげ、前方にかざした。
「行け」
 次の瞬間、『七近衛』が第1防衛ラインを形成していた者達に襲い掛かっ
た。
「うわぁぁぁぁあ!来るなぁぁぁ!」
 崖上に跳躍してきた敵を見て、慌てて炎の壁を展開するウィザードの炎の
壁を拳で叩き潰したチャンピオンの男が──「魔人拳」キスク=リベレーショ
ンがそのウィザードに拳を叩きつけ、そのまま壁を破壊した。
「へっ…抵抗する暇なんざ与えねぇよ!」
 キスクの放った無数の指弾が崖上にいたウィザード達全員を打ち据え、意
識を根底から刈り取った。 


 阿修羅モンク3人が跳躍し、クラウンの男──「葬送曲」ファルス=エタニ
ティに襲い掛かった。だがファルスはそのまま手に持ったギターで曲を奏で
始めた。
「「「なっ…っ!」」」
 阿修羅モンク達が驚愕の声をあげた。ファルスの曲によって展開された結
界により、阿修羅モンク達は身体に、特に耳の鼓膜に凄まじい激痛を覚えた
のである。
「不協和音」
「「「ぐぁぁああああああ!!」」」
 モンク達が倒れ伏し、耳から血を噴き出した。


 ミスティ=ホーリーは倒れ伏した仲間たちに回復魔法をかけるべく、手を天
にむけてかざした。
「サンクチュアリ!!」
 サンクチュアリとは広域回復結界である。だが、そのサンクチュアリが不発
し、ミスティが驚愕の表情を浮かべる。ミスティが慌てて振り向くと、そこには
プロフェッサーの女──「月夜姫」ルナ=イムソニアックが立っていた。スペ
ルブレイカーと呼ばれる魔法でサンクチュアリの発動を封じられたらしい。
「貴女に回復魔法は使わせませんよ〜」
「…っ!!」
 ルナがにっこりと笑った。
「あ、あと〜少し大人しくしていてくださいね〜」

 ビキ…

「えっ…!?」
 ミスティは突然、足が動かなくなったことを不審に思い、足元を見た。何とミ
スティの足は「石化」していた。
「ストーンカース〜」
 ルナのその言葉を最後まで聞くこともなく、ミスティの身体の全てが完全に
石化した。


 指揮官の一人であるミスティが倒されたことに気づいた仲間たちに動揺が
走る。だが、彼らはその動揺している時間こそが無駄な時間だと気づく前に
次々と打ち倒されていく。そして、さらに信じがたいモノが彼らの目にうつった。

「オーラブレード!」
 それは青い刀身、ロードナイト──「閃光剣」リシア=キングバードの手に
ある剣は、長さ30メートルはあろうかという巨大なオーラの大剣だったのであ
る。
「な…何だあれは!」
「で、でかい!」
「うわああああ!逃げろ!!」
 リシアはオーラによって生み出された巨大な青き刀身で第1防衛ライン上
の敵を一気に薙ぎ払った。


 ミスティが倒された事で気が狂いそうだったが、リゲルはその感情を押し込
めて戦い続けた。リゲルは第1防衛ラインから撤退し、交戦を繰り返したが、
次々と仲間たちは倒されていった。そして、ついに砦の中枢である「エンペリ
ウムルーム」へとリゲルは逃げ込んだ。
「くそ…何て…奴らだ!」
 最後の仲間──最初に砦の屋上にともにいった──も自分を逃がすため
に「魔人拳」キスク=リベレーションに挑みかかり打ち倒された。リゲルはつ
いに一人になってしまった。
「…っ!」
 リゲルは背後を振り返る。そこにはこの砦「ヴァルキリーレルム」のエンペ
リウムと呼ばれる巨大な黄金に輝く金属があった。このエンペリウムを割ら
れることはリゲル達の敗北を意味し、この砦はこのエンペリウムを割った者
達のギルド─「皇帝の十字架」の物になる。

 ザ…

 「エンペリウムルーム」の中に一つの人影が現れた。
「アイフリード…っ!!」
 リゲルが憎悪を込めてその名を叫んだ。だがアイフリードは意に介さず、
淡々とリゲルにこう言い放った。
「私に対抗するために3年間頑張ったようだが無駄だったな」
「…っ!!」
「最期は華々しく散らせてやろう。かかってこい」
「上等だテメェ!!」
 リゲルは自らの武器を──切り札である『ブラッドアックス』を取り出した。
この武器には魔力が作用しており、使用者の筋力と速度を一時的に増加
させる最強クラスの斧である。

 だむっ!!

 常人では捕らえることのできないスピードでリゲルがアイフリードの背後に
まわった。必殺の間合いに入り、リゲルが裂帛の気合いとともにアイフリード
の背中にブラッドアックスを叩きつけた。
「メルトダウン!!」
 マグマにも似た紅蓮の力の奔流がアイフリードの背中に突き刺さった。
その瞬間、リゲルは異様なモノを見た。リゲルのメルトダウンによってアイ
フリードの服の背中の部分は焼けただれ落ちたのだが──


 アイフリードの背中には十字架が浮かび上がっていた。


「…な…っ!」
 何だこれは、そうリゲルが思った瞬間、アイフリードが言葉を発した。
「その程度か」
 侮蔑の混じったアイフリードの言葉、リゲルがその言葉に反応する間もな
く、アイフリードの超級大魔法が完成した。



 



 アイフリードにより力ある言葉が紡がれた瞬間、輝き凍れる氷の大竜巻
が出現した。その氷旋風はヴァルキリーレルム砦の全てを凍りつかせ、
暴虐の限りをつくす魔王のごとく、全てを蹂躙し尽くした。リゲルは自分が
いつ倒されたのかわからないまま意識が闇へと還ったという。そしてその
日、ルーンミッドガッツ王国に攻城戦史に新たな1ページが刻まれた。


 砦 [Valkyrie Realms]を [皇帝の十字架] ギルドが占領しました。


 たった1日で、反皇帝勢力の最大手ギルドの同盟は潰されたのである。

 [続]


〜あとがき〜
第2部『ギルド攻城戦』のはじまりはじまり〜
つーか誤字脱字をあまり確認せずに話を進めることを最優先にして
思いっきり書きまくってますが、いずれ修正する予定ですorz
 次回予告、『ギルド攻城戦』に参加を決めた『Ocean's Blue』の面々は
まだ「皇帝の十字架」の勢力の及んでいない山岳都市フェイヨンへと
足を踏み入れる。
 そこでレイ達の見たのは、レーサーと呼ばれるギルドの群れと、
モロクでレイ達が出会った「トレント★樹海団」の面々だった。
次回予告長っ!!


〜登場人物紹介〜
○リゲル=ウルヴァリン
「絆の旋律」ギルドマスター、『ギルド攻城戦』でアイフリードに倒され
現在はお城の療養所でミスティと生活しているらしい。
ギルドを解散し、『ギルド攻城戦』からは撤退した。

○ミスティ=ホーリー
「光の翼」ギルドマスター、『ギルド攻城戦』でルナに石化させられ、
元には戻ったものの肌荒れが凄く激しくなったと嘆いているらしい。
ギルドを解散し、『ギルド攻城戦』からは撤退した。



〜Web拍手の返答〜
>再登場が多いと・・・わかったトレントさんに刺された男が
>実は有力ギルドのギルマスだ(ぇ
それはないか…な〜(´・(ェ)・`)

>色々とお疲れ様です、毒茶どうぞー(´・ω・)つ旦~~
どもどもあり〜ごk(#´Д゚)∵ゴハァ

>ついに第二部!どんどん面白くなっていきますね〜がんばってください!
うぃっさー!ばしばしずさずさ行きますよ!!ヽ(゚∀゚)ノ

>ぬらりひょん
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~ ぬりかべ!

>鳩って梅干食べるんですね(´・ω・`)
この目で目撃したから間違いないっすorz 絶対あれは梅干だ…

>皇帝の上位二次があれだけアルベルタいたならラグナロクなしでも
>ドレイクやれたんじゃ、とかいっちゃダメ?
多分誰もが思う部分だったので補足説明します。
「Ocean's Blue」でのいっちゃん強い七魔王は「人では勝てない」
という設定になってます。皇帝の上位軍団でも勝てません。
要するにあの時点でキスク達もどうしようもなくて攻めあぐねてた
わけです。キスク達も勝算がなければ動けないので。
一方レイ達はマグヌスとラグナロクという切り札があったため、
行動が開始できたわけです。ですが、いよいよ切羽詰ったらキスク達も
ドレイクと戦闘開始したでしょうが。その辺りの説明を省いたのは
第1部のラストでキスク達が実は!みたいな展開にしたかったので
説明が出来なかったのですorz



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