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Ocean's Blue

031:Disquieting

「トレント許さんトレント許さん…」
 「トレント★樹海団」にしてやられたその日の晩、レイは食堂のテーブルに
突っ伏したまま恨み言を吐いていた。「Ocean's Blue」の他の面々もボッコボ
コにされたため、随分と機嫌が悪い。
「そもそもいきなり入り口に騎士が詰まってるとかアリなのかな…」
「思いっきりしてやられましたね…」
 ジュニアの言葉にエリカがため息をついた。初参戦で結果が出せるほど甘
くないというのはわかっていたのだが、こうまでハメられると腹が立つ。

 と、レイ達がベースキャンプがしている宿の食堂にトレントが姿を現した。
「よぉ、レイ!今日の『俺たちが勝った』ギルド攻城戦楽しかったか?」
「な」
「な?」
 レイが発した一言にトレントが聞き返した。するとレイが思いっきり剣(ファ
イアーブランド)を抜いてトレントに斬りかかった。
「なわけあるかぁぁぁ!!」
「うぉ!ちょっと待て待て!」
 バシィ!!という音を立てながらトレントが振り下ろされた剣を白羽取りし
た。

 ジュー…

「うあぢゃぁぁああああっ!!」
 手が焦げる音とともにトレントが熱さで床を転げまわった。ファイアーブラン
ドは火の宝剣なので白羽取りすると火傷するのは当然である。しばらく転げ
まわった後、トレントが額に青筋を浮かべながらレイに向かって凄んだ。
「何しやがる…テメェ…」
「明日は俺たちが勝つからな…」
 レイがトレントに凄み返すと、トレントがクックックと悪役笑いをした。
「クックック…やれるもんならやってみろ…この火傷の借り、3.1415936倍に
して返してやるぜ…」
「何で円周率なんだ…しかも微妙に間違ってるし…」
 イアルのツッコミを無視して、トレントが身を翻した。と、フィリがトレントの火
傷した手を見ながら手を上げた。
「トレントさん、ヒールしましょうか?」
「俺は敵の情けは受けねぇよ…」
 トレントはそう言い捨てると、食堂を出て行った。トレントが食堂の外に出る
と同時に叫び声が聞こえた。
「イデェェエェー!!奈留ヒールしてくれぇぇぇぇ!!」
「我慢してください」
「何で我慢!?」
 相変わらず騒がしいギルドだった。しばらくしてティアが素朴な疑問を口に
した。
「あの人さ、何しに来たんだろ?」
「自慢しにきただけじゃないか…?」
 レイはそう言うと頭を抱えた。

 ◆

 次の日、レイ達はやる気十分でチェンリム砦の前にやってきていた。ギル
ド攻城戦の開始時刻はまだなため、「トレント★樹海団」のエンブレムが刻ま
れたギルドフラッグが延々とレイ達の前で揺れている。
「俺さ…これ見るとすげー殺る気でてくるぜっ!」
「レイ…目が笑ってないよ…」
 レイの言葉にフィリがため息をついた。ティアがそんな会話を交わしている
2人の元へやってきた。
「そろそろ時間だよ」
「ああ、じゃあ行くか!!」

 ───時間になった

 次の瞬間、砦の入り口にその場にいた連中が全員殺到した。レイは前日
の経験を活かして、列の前の方に陣取っていたため前日よりは手間を取ら
ず砦内に進入できた。
 全力ダッシュしながらレイが背後を振り返ると、エリカとイアルがついてき
ていた。ジュニア、フィリ、ティアの3人は入り口でもたついているようだ。
「先に行くぞ!」
「はい!」
「おう!」
 3人はレースの先頭集団に混じって走っていたのだが…途中でイアルが違
和感に気づいた。
「なぁ、妨害が全くなくないか?」
「それは私も思ってました」
 エリカがイアルの言葉に頷いた。
「考えてても仕方ないか…トレント一味がいないのが気になるけどな」
 レイがそう言うと、イアルがイヤそうな顔をした。
「また何かやらかしてるんじゃないのか?あいつら…」
「ありえますね、昨日の戦いで思いました。彼らはトラブルをこよなく愛してま
すよ」
 エリカがさりげにトレント達に対してボロクソな発言をした直後、「エンペリウ
ムルーム」の手前の部屋へと3人はたどり着いた。
「一番乗りか、意外に俺たちイケてんじゃねぇ?」
 イアルが意気揚々とエンペリウムルームの扉を開けた。




グール、シーオッター、ガイアス、ドリラー、ドレインリアー、エギラ、ゴート、
ネレイド、アノリアン、エクスプロージョン、ソルジャースケルトン、フリルドラ、
クッキー、スチールチョンチョン、メガリス、サイドワインダー、ソードフィッ
シュ、スプリングラビット、スケルワーカー、チャッキー、レイブオルマイ、ク
リーミーフィア、アリゲーター、クランプ、オボンヌ、ドリアード、キャタピラー、
コボルド、ホロン、ゼノーク、ドケビ、サンドマン、デーモンパンク、ビートル、
ステムワーム、グランペコ、スタラクタイトゴーレム、マルク、ダスティネス、
アーチャースケルトン、スリーパー、ウータンシューター、クルーザー、グ
リズリー、ジャック、ミスト、グリンブルスティ、ブレイザー、ジオグラファー、
ディアボリック、メタルラ、スティング、がいた。(全部魔物)




「…」
 ばたむ。顔に引きつった笑みを張り付かせたまま、イアルが扉を閉めた。
そして首だけレイとエリカの方にギギギと向けた。
「何…コレ?」
「…」
「…」
 あまりの出来事に絶句してレイとエリカも硬直していた。レイの方はいつ
ものごとく逃げ出そうとしていたガイストを逃がさないように脚を掴んでおく
のを忘れてはいないようだったが。すると邪悪な笑みを浮かべたトレントが
3人の前に姿を現した。
「クックック…エンペリウム割れるものならやってみやがれ…クックック…」
「何をした…?」
 レイが一応聞くと、トレントが額に右手を当てて勝ち誇ったように言った。
「不特定の魔物を召喚する『古木の枝』っつー代物があるだろ?枝を買い
漁って、エンペリウムルームの中でばらまいてやったぜ!買いすぎて全財
産なくなっちまったけどな!」
「バカかお前わぁぁぁぁぁああああっ!!」
 レイがトレントに掴みかかって、首をガクガクと揺らした。
「これどーすんだよ!この魔物が街に溢れ出したら、かなりシャレにならな
いぞ!?」
「ま、自然災害つーことで」
「きっぱりしっかり人災だろうがぁぁぁぁ!!」
 レイは特に反省もしていないトレントをどつき倒すと、焦燥感に駆られた表
情でエンペリウムルームの方に視線を向けた。と、別のギルドの連中がやっ
てきた。そのギルドの面々は血気にはやっているのか、エンペリウムルーム
の中に一気に雪崩込んでいった。

 一瞬の悲鳴の後、何か凄まじい殴られまくる音がした。

 ご丁寧な事に、スティングと呼ばれる人間の腕を模した泥の魔物がそのギ
ルドの面々をエンペリウムルームから放り出した。放り出された連中はその
後、極度の心理的外傷にかかったらしいが、それは別の話。


「くそ、とりあえずどうにか突破しないとな」
 レイが舌打ちした。このままギルド攻城戦の時間が終わってしまうと、砦は
またトレント達のモノになってしまう。それは腹が立つ…というかどう考えても
納得できるものではない。
「複数の敵から攻撃を軽くかわせる方法があるぜ」
 いつの間にか復活していたトレントが静かに口を開いた。
「ていうか元凶がそれを言うんですね…」
 エリカのツッコミは無視して、トレントが目を伏せた。
「敵を見るんじゃない、感じるんだよ」
 全く役に立たないアドバイスだった!
「お前さ…実は楽しんでるだろ…」
 レイの言葉にトレントがグィっと親指を立てた。
「ギルド攻城戦は楽しまないとな!」
「つーか他のメンバーはどうしたんだよ?」
「ああ、宿で寝てる」
 トレント達はめちゃくちゃ手抜きしていた!
「お前なぁぁぁぁぁ!!」
 その言葉を聞いたイアルがいい加減ブチ切れた。というかトレントに対して
は皆で交互にキレまくってるような気がしないでもないが。
「ぁぁぁ…ってこいつにキレても疲れるだけだな…」
 と、イアルが悟りの境地に達していた。こうしている間にも他のギルドの
面々が果敢にエンペリウムルームにアタックしているのだが、死屍累々と、
ボコられた連中の山が積みあがっている。
「レイ、どうしたの?」
 フィリがレイ達の元にやってきた。その後ろにはジュニアとティアの姿もあ
る。レイは手短に状況の説明をすることにした。レイはトレントを指差した。
「こいつがエンペリウムルームに枝を死ぬほどばらまいたせいで、誰も中に
入る事ができないんだ」
「楽して砦防衛だぜ!」
 トレントのその言葉にその場にいた全員が──他のギルドの面々も──ト
レントを睨み付けた。
「とにかく」
 レイが氷の宝剣『アイスファルシオン』を鞘から引き抜いた。
「これを突破しない限り、今日の勝ちはないんだ。他のギルドの奴らとも共闘
するしかないな。ちょっと待っててくれ、他のギルドの奴らに話を持ちかけて
みるよ」
 レイは氷の宝剣を携えたまま、他のギルドの連中の元へと歩いていった。
その後姿を見ていたトレントが一瞬だけ鋭い視線をレイに向けたのをジュニ
アは見逃さなかった。
「トレント、随分と怖い視線を向けるんだね?」
 ジュニアが口元に笑みを浮かべた。するとトレントが何のことかわからない
といった風な表情を、いつものバカっぽそうな笑みを浮かべながら答えた。
「は?何言ってるんだ?俺は目からビームとかできねーって」
「いやいや、目からビームとかじゃなくてさ…空間から大鎌なら来るよ?」
 ジュニアのその言葉の瞬間、トレントの背後にジュニアが出現させた大鎌
が出現し、超高速でトレントに襲いかかった。
「うぉっ!!」
 トレントがその攻撃をとてつもなく格好悪い海老反りジャンプで紙一重で交
わすと、ジュニアに対して文句を言った。
「おい!あぶねーだろ!?」
「…」
 ジュニアは言葉を発さない。いきなりの緊迫した雰囲気にエリカやイアル、
ティアやフィリは黙って成り行きを見つめていた。
「ったくよ…」
 トレントが手で髪をくしゃくしゃとかいた。
「何かここにいたらいずれ痛い目にあいそうだし今日は引き上げるとするか
な。ま、せいぜい頑張ってくれよ〜」
 トレントはそう言い残すとその場を立ち去っていった。

 ジュニアは言葉を発さない。それが驚愕によるものだった。
「…冗談じゃないね」
「え?」
 ジュニアの呟きにエリカが聞き返した。
「どうしましたか?」
「死角からの攻撃を避けて、なおかつ僕に反撃を加えてきたよ、あいつ…」
「!?」
 エリカ達が慌ててジュニアの方を振り返ると、ジュニアの足元には小さなナ
イフが突き立っていた。ジュニアも咄嗟に避けたようだが、そうでなければナ
イフはジュニアの足に深々と刺さっていただろう。床に刀身の『根元』まで刺
さったナイフがその威力の高さを物語っている。
「これを…あの人が?」
 フィリが床に深く刺さったナイフに驚愕の視線を向けながら呟いた。
「っつーかよ、ナイフなんていつ投げやがったんだよ、見えなかったぞ俺」
「私も見えなかったよ」
 イアルとティアがそれぞれ言うと、エリカが頷いた。
「私も見えませんでした。実はあの人、バカっぽそうに見えて実力者だったり
するんでしょうか?」
「こうなるとあの噂も信憑性がでてくるかもしれないね」
「あの噂?」
 ジュニアの言葉にフィリが聞き返した。
「各ギルド、様々な噂や憶測が飛び交っているけど、トレントのギルド…「トレ
ント★樹海団」にもいくつかそういうモノがある。その内の主なものとして挙げ
られるのが…」
「他のギルドとの共闘準備に入ってくれ。連携をとりたいそうだから、なるべく
急いでくれってさ。って…あれ?俺、もしかして間の悪いときに戻ってきたり
た?」
 ジュニアの言葉を図らずも遮ってしまったレイが申し訳なさそうに言う様子
を見たジュニアが微笑んだ。
「いや、どうせ噂の類だし気にしなくていいよ」
「そっか、じゃあ魔物退治といくか」
 「Ocean'sBlue」の面々が力強く頷いた。

 ◆

 砦の中を逆走しながら歩くトレントの背後に気配が沸きあがった。トレント
はそちらに視線を向けず言葉を発した。
「何の用だ」
 影の中から出現するように一人の紫色の外套を着た男が姿を現した。
「何の用だとはご挨拶だなぁ?貴様が手を抜いているからケツを叩きにきて
やったのによ、ヒャハ!」
「余計な世話だ。それにもう潮時のようだ」
「ヒャハ!そーかいそーかい!楽しそうだなぁ?その相手の中に女はいるの
か?いるなら俺様も楽しみたいねぇ、ヒャハヒャハ!」
 紫色の外套を着た男が涎を床に垂らしながら、陰湿な笑みを浮かべた。
「そういえば貴様のギルドにも女がたくさんいたなぁ?一人二人俺様の今晩
のお供に貸してくれ、金は積んでやっていいぜ、ヒャハハハ!」
「失せろ、それ以上話すと殺す」
「ヒャハハ!つれない返事だねぇ。まぁいいさ、金で買った女よりも嫌がる女
を無理矢理押さえつけたほうが楽しめるからな、ヒャハハハ!!」

 ゴゥン!!

 突如、トレントの『攻撃』が紫の外套を着た男に襲いかかった。紫の外套の
男はそれをひょいと避けた後、陰湿な笑みを浮かべた。
「ヒャハ!なるほどな!それがお前の『能力』か、あぶねぇなぁ、ヒャハ!」
「…」
 トレントの眼に本気の殺意が浮かんだ。それを見た紫の外套を着た男が
降参とばかりに手を挙げた。
「ヒャハ、冗談だよ。まぁ、俺様達は貴様らがやる気ならそれでいいんだ。
楽しませてくれよ、ヒャハハハハハ!!」
 耳障りな笑い声を残しながら紫の外套を着た男の姿が消え、気配が消え
た。忌々しげにトレントが唾をその場に吐き捨てた。
「フン…言われなくてもわかってるさ」
 トレントは鞘に剣を収めながら呟いた。
「犠牲の羊に怨嗟の声を吐かせるのは得意だからな」
 トレントのその呟きとともに今日のチェンリム砦の獲得アナウンスが砦の中
に響き渡った。「Ocean's Blue」は今日も砦の取得に失敗したようだった。

 [続]


〜あとがき〜
レイ達のギルド「Ocean's Blue」のライバルギルドとして登場した
「トレント★樹海団」ですが彼らにもしっかり目的はあります。
で、作者的には第2部が書きたかっただけあり、かなり作りこんでます。
ではでは、2転3転する『ギルド攻城戦』、お楽しみください(゚∀゚)



〜Web拍手の返答〜
>昨日ビール一箱飲んだ、
>今日はちょいと疲れ気味・・・年かナァ(=w=
ちょい待てぃ、そんなに飲めば疲れもするわ!

>前回と急に雰囲気がかわりましたね
「Ocean's Blue」はギャグとシリアスとラヴコメが混在しています!

>青藍は・・・ギルメンに阿呆と呼ばれていますよ(+L+)
>ってか1日2話づつupせよ(ノ+x+)ノ ~┻
それやると過労死しますorz


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