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Ocean's Blue

032:Scapegoat

 どたどたどたどたぁぁぁ!!

「トレント!ゴルァァァァァ!!」
 ギルド「トレント★樹海団」がベースキャンプにしている宿の食堂に一人の
騎士が物凄い足音を立てながら怒鳴り込んできた。食堂で遅めの夕食を他
のギルドメンバー達ととっていたトレントがその騎士の方に振り返った。
「フィンじゃないか、久しぶりだなっ♪」
 その騎士…「トレント★樹海団」のナンバー3のフィン=ロルナークは自身
の武器のウィンドクレイモアを鞘から引き抜いた。
「トレント…死ぬ覚悟はできてるんだろうな…」
「待て待て、覚えがないんだが」
 フィンの額に青筋が浮かんだ。
「集合場所を俺だけオークの村にしやがっただろうがぁぁぁ!おかげで夜通
しオークどもと戦うことになるわ、オークレディと結婚させられそうになるわ、
ハイオークに夜這いかけられそうになるわ…散々だったんだぞ!?」
「そりゃ災難だったな」
「お前のせい…だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 トレントが半眼でフィンを睨みつけた。
「お前が嘘つくから、ギルドマスターとして正しく制裁を加えたんだよ」
「は?俺が嘘?」
 何のことかわからないと言った風な様子でフィンが口を半開きにした。それ
を見たトレントがコクリと頷いた。
「お前がドレイクと戦ったとか嘘言うからだぞ?」
「そりゃ全力で真実だぁぁぁぁ!!」
「だが、フィン、よく聞け」
 トレントが厳かな言葉を、ギルドマスターとしての言葉を紡いだ。
「手紙を出したのはお前からその嘘を聞く前だったから心配するな」
「だぁぁぁぁ!最初からオーク村行き確定かよ!つーかまるきりお前のせい
じゃん!?」
「人のせいにすんなって」
「じゃあ誰のせいだよ!おい!」
「で、…だ」
 トレントがフィンの話を無理矢理さえぎりつつ、言葉を口にした。
「明日は『同盟』組むぞ」
「────っ」
 フィンがその言葉に絶句した。他のギルドメンバーはあらかじめ聞かされ
ていたのか、何も言わない。フィンはしばらくしてから、苦々しげに了承の返
事をトレントに返した。
「…了解」

 ◆

「「「同盟!?」」」
 早朝にやってきたトレントに持ちかけられた話を聞いたレイ達が驚きの表
情を浮かべた。
「トレント達と俺達が同盟…?どういう風の吹き回しだ、トレント」
 レイの言葉にトレントがにやら〜と笑みを浮かべた。
「俺はお前らの力を評価してるんだよ。俺達とお前らで組んだらいい線いけ
るとは思えないか?」
 ジュニアがトレントの方を軽く睨みつけた。
「それは僕達を利用するってことじゃないのかな?」
 トレントがやれやれとため息をついた。
「俺も随分と嫌われたモンだな。心配しなくてもお前らと「皇帝」を食い殺しあ
わさせるとか、そーゆーことは考えてない。だけど俺達にだって思惑はあ
る、お前達だって何らかの思惑があっての『ギルド攻城戦』の参戦はずだ。
だから互いのために互いを利用するのは悪くない案だろ?」
「…」
 ジュニアが反論できずに沈黙した。レイはトレントの真の思惑をはかりかね
たが、多少楽観視するしかないという思いもあった。レイ達は──

 いずれ「皇帝の十字架」と刃を交える可能性があるのだ。

 世界最強のギルドと呼ばれる化け物集団と。確かにトレントは非常に胡散
臭いが戦力にはなる。にやにやと軽薄そうな笑みを浮かべて、誰が見ても
バカにしか見えない。そしてそのまわりのメンバーもバカをつついて遊んで
いるような、そんな印象を最初に受けた。だが実際戦ってみて、まざまざと、
経験の差、知識の差、つまり実力差を見せ付けられたのだ。正直侮ってい
ただけに、これは驚きだった。トレント達は味方につければ戦力になる、それ
は間違いなかった。
「具体的に何をすればいい?」
「レイ!?」
 フィリが驚きの声を上げた。レイの言葉はトレント達との同盟を了承するも
のだったからだ。その返事にトレントが口元をつり上げた。
「そうだな、明日のレースだけどさ、俺達のギルドとそっちのギルドでシャッフ
ルして小さなパーティをいっぱい作ってやるってのはどうだ?連携の練習み
たいな感じでさ」
「わかった。それでいいよ」
 レイの言葉にトレントが頷いた後、身を翻した。
「それじゃ続きはまた後ってことで。よろしくな!」
「ああ」
 トレントは鼻歌交じりで去っていった。そして、その後姿をジュニアがずっと
睨みつけていた。

 ◆

 砦の前に集合したレイ達「Ocean's Blue」のメンバーと、トレント達「トレント
★樹海団」のメンバーが作ったパーティは以下の4つである。
  ( [O]は「Ocean's Blue」、[T]は「トレント★樹海団」 )


●第1パーティ
レイ[O]、トレント[T]、奈留[T]

●第2パーティ
ジュニア[O]、ルアーナ[T]、フィン[T]

●第3パーティ
イアル[O]、ティア[O]、すけぽ[T]

●第4パーティ
エリカ[O]、アルヴィン[T]、エレン[T]

●第5パーティ
フィリ[O]、アリシャ[T]、バステト[T]


「よっしゃぁぁぁぁ!頑張るぞぉぉぉぉぉ!」
 トレントが腕を交差させながら気合いの叫びを上げた。
「トレント、エンペリウムはどっちが割るんだ?」
「適当でいいんじゃね?」
「ホント適当だな…」
 そんな感じの話をしているとついにあの瞬間がまた訪れた。


 ───時間になった


 いつものごとく猛然と砦の入り口に殺到するレーサー達。レイはトレント、奈留
とともに砦の中に入り込んだ。というかトレントや奈留の動きは素早い。
さすがにレースをやりこんでいるだけはあるらしく、全てのレーサーの先頭
に立って走っていた。負けじとレイも追いすがるうちに、他の集団を引き離し
てしまった。そうやって走っているうちにレイはトレント、奈留とともに「エンペ
リウムルーム」に一番に到着した。
「やったな、トレント。俺達一番乗りだな」
「そうだな。ところでさ、レイ」
「ん?」
「唐突で悪いんだが、一つ小話をきかせてやろう」
「…は?この状況でか!?」
「エンペリウム殴りながらでいいからさ」
「まぁ…それなら…」
 レイはエンペリウムに攻撃を開始した。トレントも同じく攻撃を開始する。奈
留は2人の後ろで目を伏せていた。いつもなら後続──他のギルドの連中な
ど──がくるはずなのだが、今日は随分と到着が遅れていた。





 そして──トレントの話が始まった───





 ──ある所に王様がいました。

 ──他の所にも王様がいました。

 ──そうこの世界は王様がたくさんいたのです。

 ──なのに王様達が住めるお城は4つしかなかったのです。

 ──戦いが始まりました。

 ──その中で1番強く欲張りな王様は考えました。

 ──城は4つ全部欲しいと。

 ──だけどもしそうしてしまったら全ての王様を敵にまわします。

 ──だから1番強い王様は3つのお城を手に入れた後は黙っていました。

 ──そして、残る1つのお城を他の王様達に取りあわさせました。

 ──そうやって小さな王様達は互いに戦う牙をもぎ、疲弊していきました。

 ──1番強い王様は小さな王様達が戦う力を無くした後に

 ──最後のお城を自分の物にしようと考えていたのでした。

 ──だけど、小さな王様達の中から自分に対抗しうる王様が現れ

 ──自分を倒し、計画を台無しにしてしまう者が出てくるかもしれません。

 ──だから、1番強い王様は1匹の「牧羊犬」を4つ目の城に放ちました。

 ──自分に逆らう力を身につけそうな王様がいたとき、食い殺すために。

 ──1番強い王様に遣わされた「牧羊犬」に食い殺される哀れなる羊、

 ──『犠牲の羊』…スケープゴート













 トレントが剣を振り上げ、嘲笑した。
「哀れなる羊はお前らだよ、レイ=フレジッド」













 ──「皇帝の十字架」に遣わされた「トレント★樹海団」に食い殺される

 ──スケープゴートたるギルド──「Ocean's Blue」

 ──処刑執行開始



 ガギィィィィィィン!!

「な─────トレント…!?」
 レイはかろうじてトレントの攻撃を受け止めた。トレントは剣に力を込め、レ
イの体勢を崩すとともに、レイの身体を蹴り飛ばした。
「が…っ!」
 レイは何とか空中で体勢を立て直し受身をとった。トレントがそこに一足飛
びで詰め寄り、剣を振り上げた。
「調子に…乗るなっ!!」
 レイはトレントの懐に肩から体当たりをした後、間合いをとった。トレントが
嘲笑を浮かべた。
「ハハ…そう簡単に倒されてはくれないか、だが手遅れだ。お前の仲間も今
頃俺の仲間から攻撃を受けてる頃だろうよ」
「何の真似だ!!」
 トレントの背後で沈黙を保っていた女プリーストの奈留が口を開いた。
「私達はいわゆる「牧羊犬」というものです。私たちは世界最強のギルド「皇帝
の十字架」に雇われている処刑部隊だったというわけですよ」
「な──に…」
「レイ、難しく考えるなって。俺達の目的のためには金が必要なんだ。「皇帝
の十字架」の連中さ、羽振りがいいらしくてな。1つのギルドを潰すごとにウ
チのギルドの全員が一月は軽く遊んで暮らせる位の金を寄越しやがるんだ」
 トレントの言葉にレイが激怒した。
「お前らは…金でそういう事をやってたのか!」
「その通りさ。──レイ、俺達の金のためにブチ殺されてくれ」
「こいつ…っ!!」
 レイは両手に剣を持った。炎の宝剣『ファイアーブランド』と氷の宝剣『アイ
スファルシオン』を油断なく構えた。レイはフェイヨン──このチェンリム砦へ
は来るべき本格的な『ギルド攻城戦』の、「皇帝の十字架」との戦いの模擬
練習のために立ち寄ったのだ。だが、その見通しは甘かった。


 「皇帝の十字架」との戦いはすでに始まっていたのだ───


 ◆

 ズダン!!

「が…は…」
 ボロ雑巾のように倒されたイアルの身体を「トレント★樹海団」の騎士、す
けぽが踏みつけた。
「君達の負けだ。それとも…君も俺に挑むかい?」
 すけぽは壁際でへたり込んでいたティアの方に視線を向けた。
「…ぅ」
 怖い。ティアは震えるほどすけぽが怖かった。これが「トレント★樹海団」の
本気。理由はわからないが、彼らは本気で自分達を潰しにきている。
「な…んで…こんなこと」
 歩み寄ってきたすけぽがティアの胸倉を掴み上げた。
「悪いね。トレントの命令は絶対なんだ」

 ダンッ!!

 すけぽはティアの身体をそのまま床に叩きつけた。
「───っ!!」
 あまりの激痛でティアが声にならない悲鳴をあげた。ティアはすけぽの顔
を見上げた。その眼は、容赦のない冷徹な眼だった。

 ◆

「ニューマ!!」
 フィリは「トレント★樹海団」のハンター、アリシャの放った矢に合わせて、
矢を無効化する結界を張った──が、フィリの敵は一人ではなかった。

 ズン

 物凄い衝撃とともに、鉄槌を腹部に叩きつけられたフィリは気を失いそうな
ほどの痛みを感じた。今の攻撃をしてきた「トレント★樹海団」のブラックスミ
ス、バステトはさらなる追撃を入れるためにフィリに襲いかかった。
「キリエ……エレイソン!!!」

 ギギギギギギ!!

 バステトの攻撃をこらえたものの、アリシャがバステトの背後から弓を引い
ていた。1対2な上に、こちらは攻撃職ではなく、支援職のプリースト。勝ち目
はない。そしてこの2人が逃がしてくれるとも思えなかった。

 状況は──最悪だった。

 ◆

 凄まじい攻撃の応酬。だが、エリカもまた1対2の不利な状況で戦ってい
た。しかも相手の片方は同職のクルセイダーであり、実力はひいき目に見
れば伯仲しているとも言えるだろう。だが、「トレント★樹海団」のクルセイ
ダー、アルヴィンの背後には、「トレント★樹海団」のプリースト、エレンが
いた。実力が伯仲している相手に支援がついたのだ。勝てるわけがない。

 ガキガキガキィィィィン!!

 アルヴィンとの剣戟の音に紛れて、エリカの眼はエレンの姿を捕捉した。
(イタチごっこに付き合うつもりはありません…!!)
 アルヴィンと剣を交えながらエリカはチャンスをうかがっていた。そしてつい
にチャンスが訪れた。互いの身体の位置が入れ替わったのである。
(まずは──プリーストから倒す!!)
 エリカはエレンの肩に必殺の一撃を斬りつけた。エレンは避けようともせ
ず、その一撃を受けた。が、エレンには傷一つつかなかった。
(───え!?)

 ズン

 エリカが一瞬の動揺を生んだ瞬間、アルヴィンの容赦のない一撃がエリカ
の背中を斬りつけた。
「───っ!!」
 エリカが意識を失う瞬間見たものは、アルヴィンの肩に浮かんでいた傷跡
とそこから流れ出る血、それはまるで先ほどのエレンの傷を代わりに受けた
ような───
(しまっ───そういう──こと──でしたか)
 アルヴィンは聖騎士のみが扱える技、仲間の受けた傷を自らが代わりに
受けるという「ディボーション」を使用していたのだ。

 ◆

 パラパラ…

「いたた…さすがに私達じゃ止めれないか」
 「トレント★樹海団」ナンバー2のローグ、ルアーナが頭を抑えながら、隣で
倒れているフィンに笑いかけた。「トレント★樹海団」ナンバー3の騎士、フィ
ンが倒れた状態で返事をする。
「っつつ…「魔界の貴公子」ジュニア=サイドライク、噂以上の実力だな」
「ま、数分は止めてたし、トレントから言われてたノルマも達成したからよしと
しましょ」
「だな」
 ルアーナはまわりを見渡して、口元に笑みを浮かべた。ルアーナ達のいる
砦の区画の壁は裂け、破壊されつくされていた。これらは全てジュニア=サ
イドライクとの戦いの副産物だった。
「しっかし…トレントも人が悪いなぁ…潰すときは毎回同盟組んだ後に、後ろ
からザックリだしね」
「ああ。だけどトレントの奴、まだ何か企んでる気がするんだが」
「私にも教えてくれないから、よっぽどの悪巧みなんじゃない?」
「ルアーナにも教えてないのか…何考えてんだアイツ…無性に不安になって
きたぞ…」

 ザ…

 と、その時、2人の前に3つの人影が現れた。その姿を見たルアーナが口
元に笑みを浮かべた。そのうちの一人はトレントに背後から矢を放ち、トレン
トに殺されかけた少年であり、もう一人は昨日トレントと話していた紫の外套
の男だった。そしてもう一人は若いが表情に深みがある神父だった。ルアー
ナがその3人に対して、口を開いた。



 いらっしゃい。私達の依頼人さん達、

 「皇帝の十字架」最高幹部、『七近衛』───

 「陰陽玉」 ライジング=ボーンド
 「長射撃」 シャドウ=プラスタラス
 「影身鬼」 ギルティ=スターン



 この瞬間、『ギルド攻城戦』、チェンリム砦の戦いに世界最強のギルド「皇
帝の十字架」が参戦した。

 [続]


〜あとがき〜
(*´∀`)<ヒョホホホホホー
こういう本性剥き出し、敵TUEEEE展開って結構好きだったり(ぇ
これから本格的な『ギルド攻城戦』に移行します。
次回予告、トレント達の猛攻に追い込まれるレイ達!
しかしレイ達にも強く頼りになる仲間がいた!
果たしてレイ達は逆転できるのかっ!?


〜登場人物紹介〜
●ライジング=ボーンド
性別:男
JOB:ハイプリースト
Guild:「皇帝の十字架」
「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
『七近衛』のリーダーであり、「皇帝の十字架」のNo.2。
実力は「皇帝」アイフリード=フロームヘルに匹敵するらしい。
戦闘スタイルは謎に包まれている。
通り名は「陰陽玉」と呼ばれている。

●シャドウ=プラスタラス
性別:男
JOB:スナイパー
Guild:「皇帝の十字架」
「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
ティアとそう違わないくらいの歳の頃の少年だが、
「皇帝」アイフリード=フロームヘルの最も古い知人らしい。
姉がいるらしいが詳細は不明。
通り名は「長射撃」と呼ばれている。

●ギルティ=スターン
性別:男
JOB:チェイサー
Guild:「皇帝の十字架」
「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』の一人。
女を道具扱い程度にしか見ていない女の敵。
「ヒャハ」などを語尾などによくつける反感を買う話し方をする。
嫌われているが、それでもなお『七近衛』に居座っている、
つまり、それだけ実力が高いということであろう。
通り名は「影身鬼」と呼ばれている。



〜Web拍手の返答〜
>トレントさんが格好良く見えるのは幻覚ですか
ただの目の錯覚です。
左目で右端を見て、右目で左端を見ると正常に戻ります。



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