前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

035:Yearning

 形式上だけであるとは言え、「皇帝の十字架」がついにルーンミッドガッツ
王国内に存在する4つの砦全てを占領した。この事は衝撃とともに『ギルド攻
城戦』に参加している全てのギルドへと伝わった。そしてそれらのギルドはい
くつかの選択肢を迫られることとなる。

 ・「皇帝の十字架」に従属し、隷奴と化す。
 ・『ギルド攻城戦』そのものから撤退する。

 そして、もう一つの選択肢。

 ・反「皇帝」連合に参加し一大決戦を行う。

 反皇帝勢力の筆頭ギルド「雷獣の咆哮」と、「皇帝の十字架」そのものに敵
対指名された新設ギルド「Ocean's Blue」、この2つのギルドの動向が『ギル
ド攻城戦』の今後を握ると言っても過言ではないだろう。

 ◆

 「Ocean's Blue」の面々は沈鬱な雰囲気とともに宿へと帰還した。険しい顔
で何かを考え込むようなレイ、鋭い殺意をまとったかのようなジュニア、恐怖
を押し殺しているようなティア、屈辱感に苛まれているイアルなどである。フィ
リとエリカは自分達も敗北感は受けていたが、前者の4人ほどではなかった
ため、この重い雰囲気に顔を見合わせていた。宿についた後も、前者の4人
は早々に部屋に引っ込んでしまったのである。

 宿の食堂でフィリとエリカが頭を悩ませていた。
「エリカ…どうしよ…何か雰囲気重いね…」
「インパクトが大きいことばっかりでしたしね。ですがレイは何か違うことで悩
んでいる気がしましたが」
「うん、私もそれは思ってた。ちゃんと話を聞いたほうがいいと思う。それと
ジュニアだけど…何であんなになってるの?」
 フィリは当然の疑問をエリカにぶつけた。ジュニアは魔族ではあるが、そう
とは思えないほど思いやりがあり、人に気をつかっている。エロいが。だが今
日のジュニアの雰囲気は普通ではない。抜き身の刃のごとく、危険だった。
そう、「皇帝」アイフリード=フロームヘルと顔を合わした後から。
「ジュニアは…以前アイフリードと戦って負けているんです」
「…え!?」
「『魔軍七大勢力』の魔王の中でも最強の魔王…「魔族の帝王」バフォメッ
ト、そのバフォメットが住まうとされる『迷宮の森』、そこで私とレイは…ジュニ
アに出会ったんです」
 それは2年前、エリカがクルセイダーになったばかりの頃の話。

 ◆

「ハァっ!はあ!はあ!」
「他の!奴は…っ!?」
「わかりませんっ…!」
「くっ…そ!ぉ!」
 クルセイダーになったばかりの私は、さらなる経験を積むべく冒険者として
の活動を続けていました。今回の冒険の目的は「迷宮の森の探索」、しかも
あまり奥へは踏み入らず、危険を感じればすぐに引き返すといった安全なも
のだったはずだったんです。ですが、すでに8人いたうちの仲間のうち6人は
いなくなり、私の隣にいるのはレイ=フレジッドと名乗るハンターだけでした。

 紅蓮の炎渦巻く『迷宮の森』、そこに跳梁跋扈する魔族の軍勢、それは侵
入者を許さず、冷徹に狩るだけの単純作業。私とレイはそれから必死に逃
げていました。

 逃げ出すことしかできない自分達。

 だが───あの戦いは人と魔のレベルを超越していました。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘル

 「魔族の帝王」バフォメット

 あの戦いは言葉にすることが不可能なほど激しいものでした。いや、それ
よりも人の身で『魔軍七大勢力』、しかも最強と詠われるバフォメットに挑み
かかるという行為に私たちは戦慄していました。
 アイフリードの傍らにはハイプリーストの男が立っていました。今考えると
あの男が現在の「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』筆頭、ライジング=
ボーンドだったのでしょう。2人のコンビネーションは絶大であのバフォメット
に引けをとっていませんでした。ですが、その戦いに巻き込まれた私たちは
たまったものではありませんでしたが。魔王の領域内で愚かにも魔王に牙
を剥いた人間がいるのですから、その領域内にいる私たちは巻き添えという
形で『迷宮の森』の魔族の全てから攻撃を受けたのです。そして、1人減り、
2人減り、ついには私とレイだけになってしまったのです。

 そんな中、私たちは『迷宮の森』の中で倒れ伏す青年を見つけたのです。
人に構っているような状況ではありませんでしたが、何故か私たちは足を止
めたんです。
「大丈夫ですか!?」
 私がその青年を抱き起こすと、その青年はいきなり目を見開き私の首を掴
み握り潰そうとしました。
「おい人間…!お前たちの仲間の魔術師はどこだ…っ!!」
「…くっ…かはぁ…」
 ミシミシと物凄い握力で私の首を締め上げるその男に、ツカツカとレイが歩
み寄り、拳を振り上げ…

 がぃん!!

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 拳骨一発でその青年は地面をのたうちまわりました。私が咳き込みながら
首を押さえ、後退った後、レイが青年に語りかけたのです。
「いきなり首を絞めてくるとか礼儀のなってない奴だな、お前」
 すると青年は涙目で頭を押さえながら怒鳴り返しました。
「人間風情が僕に手を上げるとは…殺す!殺す!」
「やかましい」
 蹴。レイの足がその青年の顔にめり込みました。目一杯。
「蹴っといて何だが、お前人間じゃないの?」
 レイの足を押しのけながらその青年は答えました。
「僕はこの『迷宮の森』の主、バフォメットが第一子!バフォメット=ジュニア
=サイドライクだ!人間よ、数々の無礼!死をもってあがな…」
 私はジュニアと名乗ったその魔族の手をとり、レイの方に振り返りました。
「怪我をしていますね。手当て…しましょうか?」
 私はそうジュニアに言いました。

 ◆

「怪我をしていますね。手当て…しましょうか?」
 僕の頭は混乱した。と、返事も聞かずに目の前の人間の女は僕の怪我の
手当てを始めていた。何でだ、これから僕に殺されるくせに、殺されるくせに
何故僕の治療なんか、逃げろよ、怯えて怖がって、泣き叫びながら、それが
魔族と人間の関係だろう。
「よっと…こんな感じですね。応急手当だから後でちゃんとした手当てをして
くださいね」
 人間の女が僕に微笑んだ。その時、僕の心音が少し上がった気がした。そ
して、何故かはわからないが、僕はこの人間の女を殺そうと言う気持ちはど
こかに消えてしまっていた。
「なぁ、お前魔族なんだろ、『迷宮の森』の出口ってどっちか教えてくれよ」
 こっちの人間の男はぶっ殺してやろうという気持ちは継続していたが、同時
に興味も沸いていた。こちらが魔族とわかっても物怖じせずに話しかけてくる。
何なんだこいつらは。
「ふん…どうせここで死ぬんだから出口なんて聞いても仕方ないだろ?」
 とりあえずそう言ってやっ…グぼ!この人間の男、また僕に蹴りを!
「ったく…いくらお前が魔族でも怪我人に脅される奴はいないだろ」
「く…貴様ァ…!!」
「レイ=フレジッド、ダメですよ。私たちは同じ生ある者です。人も魔も関係な
いでしょう。せめてボロカスに負けて再起不能になった人間並みの扱いはし
てあげてください」
 …前言撤回。この女も実は随分いい性格じゃないだろうか。…ん?レイ=
フレジッド?フレ…ジッド?まさか。
「フレジッド…だと?」
 するとレイと呼ばれた方の男が困ったように頭をかいた。
「多分想像の通りだ。俺はあのラクール=フレジッドの息子さ。だけど俺とオ
ヤジは違う。俺は俺だ」
「…」
 多分レイは気づいてないだろう。この言葉が、僕を変える契機になった言
葉だということを。

 偉大な父を持ちながら、それに媚びないレイ。

 偉大な父を持ち、その威をかる自分。

 自分が恥ずかしかった。悔しかった。情けなかった。だからこのままじゃい
けないと思った。井の中の蛙は大海を知らず、迷宮の中の自分は世界を知
らなかった。そして僕は最初の一歩を踏み出した。
「…れてけ…」
「「──え?」」
 間抜けな表情で聞き返す2人の人間に僕はまくしたてるように言った。
「『迷宮の森』から無事だしてあげるから、僕を連れて行けと言っているん
だ!お前ら冒険者なんだろ!?」
 2人は顔を見合わせた後、2人して楽しげな笑みを浮かべた。
「大歓迎だ!」
「よろしくお願いしますね」
 2人のその反応に何故か嬉しかった自分がいた。

 こうして僕はレイ達と旅にでた。レイとは早い段階で別れたけど、エリカと
は長いこと旅をしてきた。見聞を広めることにつながると思っているのか、人
間と旅をしていることに関して父上は何も言わなかった。旅にでた事が良
かったのか悪かったのかと聞かれれば良かったと答えることができる。


 そして。


 旅の目的が少しずつ明確化してきた。

 第1に見聞を広め、来るべき人間達との決戦に備える事。

 第2に『ラグナロク』の力を有するレイ=フレジッドの監視。


 これらは現在進行形の状態で進んでいる。『ラグナロク』に関しては父上
直々の命令だったが、レイが弓を引けなくなった時点でなくなったに等しい。
それに僕にとって大切な友人を監視という名目で見ておくのは気分が悪かっ
たので、レイが弓が引けなくなったことは悪いことだけではなかったのかもし
れない。

 そして、この2つとは別にもう一つ。僕には目的がある。

 ◆

 圧倒的だった。1対1で戦えば、あるいは勝てたかもしれない。少なくともこ
んなみじめな負け方はしなかっただろう。

 紅蓮の炎の中、凍れる龍の風をまとった魔術師。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルは倒れた僕にこう言い捨てた。


 「口ほどにもない。魔王以外の『魔の眷属』はクズ揃いか」


 屈辱。侮辱。侮蔑。蔑視。魔族の誇りを貶めた人間。

 その言葉、その命でもって贖ってもらう。

 僕だけのモノではない。お前が奪っていったものは。

 お前を殺して『魔族の誇り』を取り戻す。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘル、貴様は僕が殺す。

 ◆

「結局、バフォメットとアイフリードの戦いは痛み分け…というかアイフリード
がバフォメットが本気を出す前に撤退したらしいのですけど」
「そんな事があったんだ…」
「だからジュニアにしてみれば今回の戦いは乗り気でやる気十分だと思いま
すよ。」
 エリカの言葉にフィリがうんうんと頷いた。と、その時食堂の入り口から一
人の男が食堂へと入ってきた。何となくそっちを見たフィリが驚きの声を上げ
た。
「ラクールさん!」
「ん、おお。フィリちゃんにエリカ」
 食堂へ入ってきたのはレイの父で『七英雄』ラクール=フレジッドだった。
「お久しぶりです」
「つってもこの前会ったばかりだけどな、ガハハハ」
 エリカの言葉にラクールが豪快に笑い返す。ラクールはフィリとエリカのい
るテーブルの椅子にどっかと座った。
「噂は聞いたぞ、物凄い事になったらしいな」
 ラクールの言葉にフィリとエリカがうっと唸った。世界最強のギルド「皇帝
の十字架」が「Ocean's Blue」に宣戦布告した噂はすでに広まっているよう
だ。フィリ達は今の状況──レイ達の状態も含めて──ざっとラクールに説
明した。
「レイが険しい顔して引きこもってるだぁ?」
「引きこもりまでは言ってないですけど…」
 フィリはささやかにつっこんだ。
「フン…何か抱え込みやがったな。フィリちゃん、あいつは何か一人で抱え
込んで自爆するタイプだ。何とかしてやってくれ」
「えっ…!何とかって…言われても」
「多分フィリちゃんになら話すだろ。あいつはフィリちゃんにベタ惚れだから
な」
「えっと…はい」
 フィリが少し頬を染めつつ答えた。
「それでもあいつが口を割らない場合は色仕掛けだ。あいつはフィリちゃん
にベタ惚れだからな」
「…」
「それでもあいつが口を割らない場合は色仕掛けレベルフィーバーだ。あい
つはフィリちゃんにベタ惚れだからな」
「…ラクールさん」
「すまん、そんな視線だけでクマが死にそうな目つきはやめてくれ」
 素直に謝るラクールにフィリが言った。
「でも、色仕掛けは置いといて、私が何とかしてみます」
「ああ、色仕掛けは切り札だからな」

 ドガ!!

「〜〜っ!!」
 テーブルの下で足をフィリに踏み抜かれたラクールが顔を引きつらせた。
「じゃあ善は急げって言いますし、私、レイの部屋に行ってきますね」
「あ…ああ、がんばれ…」
 足の痛みをこらえながら、ラクールが手を振った。

 と、フィリと入れ替わるようにしてティアが食堂にやってきた。
「あ、ラクールのおじさん」
「おお、ティアちゃんか、どうした?真剣な表情をして」
「ちょうど良かった!お願いがあるんです!」
 ティアがテーブルに手をついて、ラクールに詰め寄るように言った。
「私を賢者の都市ジュノーまで連れて行ってください!!」

 ◆

 コンコン

 ノックの音がしたのでレイがそちらの方向に振り返り、声をかけた。
「どうぞ」
 ガチャ…という扉が開く音とともにフィリが部屋に入ってきた。
「や、レイ」
「フィリ、どうしたんだ?」
 フィリがレイに詰め寄った。
「レイ、明日さ、デートしよ!」
「─────────へ?」
「ダメなの…?」
 フィリがよよよと崩れ落ちながら目元をおさえて瞳を潤ませる。どこからど
う見てもわざとらしいがレイも乗ることにした。
「わかったよ。じゃあ明日は早めに起きて、2人で街に繰り出そうか」
「うん!」
 フィリは笑顔で力強く返事をした。

 [続]


〜あとがき〜
過去編ってのは必要だけどやりすぎるとダレるという性質がががが。
本編+過去編とどっちも進めるような形でやれればいいなと思ってます。
次回、「Ocean's Blue」に正式に持ちかけられる同盟要請。
反「皇帝」の狼煙が上がる中、ティアはある決意をしていた。



〜Web拍手の返答〜
>ならトレントさんの能力は相手を自分とラブコメさせる能力に違いない
ちゃうわー!。・゚・(ノД`)・゚・。

>トレントさんの能力がラブコメビーム?
>違いますよ!彼の能力はメガラブコメランチャーです!!
だからちゃうって!。・゚・(ノ∀`)・゚・。

>トレント様かっけー、マジで恋する五秒前
だってトレントは第2部の中ボs…ウワーナニヲスルオマイラー

>素手でエンペ砕くってことは皇帝は殴りwizですかね!?
彼はSTR99,AGI99,VIT99,DEX99,LUK99,INT300の最強ハイウィズです。
反則臭いのは仕様です!だって第2部のボs…ウワーナニヲスルオマイラー


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット