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Ocean's Blue

036:Difference

「ジュノーだと?」
 ラクールはティアに問い返した。同じテーブルについているエリカも怪訝
な表情を浮かべている。
「はい、私…アルケミストになろうと思うんです」
「…アルケミストか、何でまた急に」
 ラクールの質問にティアが少し俯きながら答えた。
「…怖かったんです」
「…」
「昨日の『ギルド攻城戦』で私…何もできなかったんです。怖くて!足がすく
んで…イアルがやられて!自分もどうしようもなくて!」
「だから、アルケミストになろうと?」
 エリカの言葉にティアが頷いた。
「足手まといはもう嫌なんです!だから私は皆の役に立てるように…なりた
い!でも…」
 ティアがそこで言葉を濁した理由はエリカやラクールにも容易に想像がつ
いた。賢者の都市ジュノーはルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラからさ
らに北、国境都市アルデバランよりもさらに北に存在している。そしてその
ジュノーへの道のりは険しく厳しい。かなり手練の冒険者ですら命を落とす
ことすらあると言われているほどである。ティア一人では絶対に行くことは不
可能だ。
「──いいだろう」
 ラクールの言葉にティアの表情に喜びの笑みが浮かんだ。
「ホントですか!」
「おう、任せとけ。だが、出発は明日だ。──少し野暮用があるからな」
「あ、はい。わかりました。お願いします」
 ティアがラクールに頭を下げた。するとラクールは席を立った。
「どこかへ行かれるのですか?」
「ああ、野暮用を済ませてくる」
 エリカの問いにラクールはそう答えた。

 ◆

 レイとフィリは山岳都市フェイヨンの様々な所を2人でまわっていた。久しぶ
りのデートを2人は精一杯楽しんだ。夕焼けが赤く空を染め上げる頃、2人は
山岳都市フェイヨンを一望できる高台へとやってきた。
「気づかってくれてありがとな」
「えっ…」
 レイの言葉にフィリが驚いたような表情を浮かべた。レイはフィリのその表
情がおかしいのか笑いをかみしめていた。
「もう!何がおかしいのっ!」
「はは、悪い悪い。フィリが俺が悩んでることに気づかってくれたことくらい俺
でもわかるさ。っていうか皆にもバレバレだったかもな」
「うん、皆心配してたよ」
「ああ、心配かけて済まないとは思ってる。だけど、これは大切な問題なん
だ。俺の気持ちに整理をつけなければ話すべきではないと思った」
「話して…くれるの?」
「ああ、フィリ、落ち着いて聞いてくれ」
「…うん」
 レイは夕焼けで赤く染まったフェイヨンの町並みを見渡しながら言葉を紡い
だ。
「俺の母さん…マリア=フレジッドをさらった俺達の真の敵は…「皇帝の十字
架」の「皇帝」を含む最高幹部の8人のうちの誰かだ」
「────っ!?」
「つまり、俺たちが信じていたキスクやリシア、ルナですら敵である可能性が
でたってことだ」
「そんな!」
「俺だって最初はまさかと思ったさ、だけどこればっかりは間違いない。真
の敵である8人のうちの誰かさんは俺だけにわかるよう俺に対して宣戦布告
してきたよ」
「ちょっと待って!レイのお母さんがさらわれたのって13年前だよね!?」
「ああ」
「だとしたら年齢が合わないよ。あの中でもっとも年上のアイフリード=フ
ロームヘルとライジング=ボーンドですら22歳だから…」
「だから『彷徨う者』が生まれたんだろう」
 レイが口調に苦々しさをこめて言った。
「おそらく真の敵である奴は子供の肉体の段階で何かしらの能力をもってい
たと考えられるんだ。特殊な能力を持つのは何もあいつらだけじゃないって
ことかもしれないな」
 あいつら…つまり「トレント★樹海団」の事だろう。そのギルドメンバーであ
るルアーナは『気配を完全に絶つ』という能力を保持しており、フィンは『全て
を斬り裂く』という能力を保持している。
「私たちの敵は魔物を生み出す能力を持っているって事…?」
「断定はできないけどな、あくまで仮説の域だ」
 フィリが手で胸を押さえながらレイに聞いた。
「レイは…どうするつもりなの?」
 レイは一瞬だけ目を伏せた後、口を開いた。
「戦うさ、「皇帝の十字架」とな。まずはそれからだ」
「うん…そうだよね。私もできるだけ力になるよ」
 レイは寄り添ってくるフィリを抱きしめた。
「絶対に…勝つさ、母さんを取り戻して、全てに決着をつける」
 その言葉の後、2人の顔が自然に近づき───



「タシーロ(゚д゚)」


 ゴン


 突然、聞こえてきた声に頭突きになってしまった。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」
 頭を押さえて悶える2人の前に先ほどの声の主が現れた。
「うむ、青春うらやましい限りだ」
 そう言いながら現れたのは反皇帝勢力筆頭ギルド「雷獣の咆哮」のギル
ドマスターにしてイアルの兄、ロウガ=ブラストだった。
「いいいいいいきなり現れるなぁぁぁぁ!!」
 怒りの声を上げるレイの声を軽く受け流しながら、ロウガがうんうんと頷き
ながら言った。
「いや止めないと野外プレイに走られても困るのでな」
「わけわらんこと言うな!」
 レイがロウガに詰め寄りながら言い返すと、ロウガの声音が真剣な口調
に、見定めるかのような口調に変化した。


 「では問おう、レイ=フレジッド。お前は「皇帝」を倒せるというのか?」


「倒すさ、俺にはそうしなければならない理由がある」
 レイの言葉にロウガが頷いた。
「ならば我々を率いる長となってもらおう。「皇帝」に叛意を抱く337のギルド
の頂点に立つ長に」
「…」
 レイは少し沈黙した後、焦った表情を浮かべた。
「ちょっと待て、それは話がぶっ飛びすぎだ!!」
「む、話の流れ的に引き受けてもらえるとは思ったのだが」
「俺にはそんな資格も力も無…」
「「神雷」レイ=フレジッド、君の名はすでに王国中に広まっている」
「!?」
「レイの名前が…広まっている!?」
 驚きで言葉が詰まったレイの代わりにフィリがロウガに聞き返した。
「ああ、魔軍七大勢力の魔王『幽鬼なる海魔』ドレイクを討滅し、見事アルベ
ルタを救った英雄の名は急速に王国中に広がっている。最強の七魔王の一
角が落ちたのは20年前、君の母であるマリア=ハロウドが『闇を統べる者』
ダークロードを倒して以来だ。そして、」
 ロウガは一呼吸置いた後、言葉を続けた。
「『七英雄』にも勝る力を誇り、バフォメットとすら互角に戦ったともされる「皇
帝」アイフリード=フロームヘル。これの対面に立つ者として君ほどふさわし
い人間はいないと思うが」
「待ってくれ。俺がドレイクを倒せたのはある力があったからで、現在はその
力は失われてい…」
「知っている。何も君に「皇帝」と戦えなどとは言わない。我らの旗頭になっ
て欲しい、そう言っている」
 レイはかなり思い悩んだ後に言葉を絞り出した。
「少し…考える時間をくれ」
「ああ、答えがでそうだったら呼んでくれ、俺はいつでも君たちの傍にいる」
「待て!傍にいなくていいから!消え去れ!」
 姿を消すロウガに向かってレイが叫んだが、その叫びが届いたかどうかは
謎である。ロウガの姿が消えた後、フィリがレイの顔を覗き込んだ。
「それで…どうするの?」
「…考える時間が欲しい。答えを早急に出したくないからな」
「そうだね。皆の事だしね。大事に考えないと」
「ああ…」
 それもある。だが本当の理由はそこではない。レイはロウガの瞳の奥に深
い闇を見たのだ。まるで全てを押しつぶしてしまうのではないかとすら思える
闇を。あれは…一体何だったのだろう。

 ◆

「…くそ」
 山岳都市フェイヨンの近くを流れる小川、そこでイアルは先日の『ギルド攻
城戦』において、自分がなすすべもなく「トレント★樹海団」の騎士、すけぽ
にやられてしまったことを思い返していた。
「よぉ」
 声をかけられたイアルが振り向くとそこには『七英雄』でもあり、レイの父で
あるラクール=フレジッドの姿があった。
「ラクールさん、こっちに来てたんですか?」
「ああ、それでな、ティアちゃんが俺にジュノーに連れて行ってもらいたいん
だとさ」
「え…?」
「あの子は怖かったって言ってたぜ。それに…もう足手まといはイヤだとさ」
 イアルがラクールを睨み付けた。
「何が言いたいんですか?」
「わからないなら言ってやる。テメェより3歳も年下の、しかも女の子が本気
で頑張ろうとしているのに、テメェは愚痴たれるだけか?」
「な…っ」
「レイが『ギルド攻城戦』に参加するとき俺が手伝ってやるみたいな事を言っ
ていたな?する事が無いから、目標がないから人の手伝いか。それはまだ
いいだろう。だがな、お前の行動には力が入ってないんだよ。お前、何にでも
力半分で楽しいか?」
「俺に…ケンカを売りにきたんですか…!?」
「そうだな。本気で何事にも取り組めないような奴が近くにいるとレイも困るだ
ろうからな」
 その一言でイアルの何かがキレた。イアルは思わずラクールの左頬に自
分の右拳を叩き込んだ。ラクールはそれを避けもせずに食らった。そしてラ
クールはため息をついた。
「フン…こうやって自分の事にすら本気になれない奴がな…」
 ラクールが拳を振り上げた。
「人を助けるなんてほざくんじゃねえ!!」

 ドガン!!

 ラクールの拳を顔面にモロに受けたイアルは小川の中に叩き込まれた。
奇跡的に意識を失わなかったイアルは小川の中で立ち上がり、ラクールを
睨み付けた。
「ティアちゃんがジュノー行きの護衛を何故俺に頼んだんだと思う?お前じゃ
なくてな!教えてやろうか!お前が頼りないからだよ!」
「うるせぇ!!」
 イアルが再度殴りかかったが避けられ、ラクールの拳がイアルの顔面、腹
部、再度顔面へと叩き込まれた。
「が…は…っ」
 イアルはあまりの痛みに膝をつき大地に倒れ付した。
「図星か?それにこの程度で膝をついて、そりゃティアちゃんも見限るわな」
 イアルが怒りの形相でラクールを見上げた。するとラクールは畳み掛ける
ようにイアルに言い捨てた。
「本気で何かをやるのがバカらしいと思ってる。だが愚痴はウダウダ言う。や
られたら仕方ない。群れないと何もできない。そして自分だけ安全な所で見
ている。お前…なめてんのか!!」
「俺は…」
 イアルが絞り出すように言葉を紡いだ。
「俺は…兄貴とは違う…兄貴のような天才とは違う…」
 するとラクールの声音が優しいモノに変化した。
「そうだよ。お前はお前だ、今お前ができる最善を尽くせ」
 ラクールは身を翻すとイアルに背を向けて歩み始めた。そして、イアルの
視界から消えた後、左頬を手で押さえた。
「っつぅ…本気じゃなくてこれとはな。あいつはマジで化けるかも…な」
 ラクールは痛む左頬を押さえながら、ティアの待つ宿へと戻っていった。

 ◆

 全部見透かされていた。ラクール=フレジッドは全部わかっていたのだ。
自分が全ての事に対して本気になれない事を、諦めてしまっている事を、兄
であるロウガ=ブラストに対して何にも敵わないというコンプレックスを抱い
ていた事を。

 レイに協力するとは言いながら危険ならば逃げるなどと言い、安全な所か
ら事態の収拾を見ていただけだった。

 ドレイクの時は一番危険なドレイクに対する囮役は引き受けず、ただの海
に潜ってモノを探してきただけだ。

「情けねぇ…情けないよな…ハハハ…」

 イアルが目に涙を浮かべて自嘲した。変わろうと思っていたのに変われな
かった。自分は一生負け犬なのだろうか。そう、あの兄に対しても。

 最強とも詠われた暗殺者の名門ブラスト家に生まれた天才。

 100年に1度の逸材と言われたロウガ=ブラスト。

 そしてその兄と常に比べられてきた自分。

 全ての暗殺者の頂点に立つとも言われる兄。

 それを見上げることしかできない自分。

「どうすればいいか…わかんねぇよ…」
 イアルの嘆きを聞く者は誰もいない。

 [続]


〜あとがき〜
何だか書くことないので、次回予告だけw
次回予告、ティアがラクールとともに旅立った頃、トレントにも動きが。
トレントが出向いたのは衛星都市イズルード、
そこにはギルド内で「箱師」と呼ばれるアサシンの姿があった。



〜Web拍手の返答〜
>トレント★樹海団の正体もばれたのかなー?
バレますた。トレント勢力は今後「皇帝」の傘下で動くことになります。

>GvGの合間にラブコメですか!
そうです!(ぉぃ


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