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Ocean's Blue

037:Blue Box

 ティアとラクールが賢者の都市ジュノーに向けて旅に出た頃、ある男が衛
星都市イズルードにやってきていた。

 「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレント

 トレントはここである男に会うつもりでやってきたのである。それは「トレント
★樹海団」のもう一人のメンバーであり、ギルドの中では「箱師」と呼ばれる
暗殺者である。トレントはイズルードの裏通りをくぐり抜け、海に面した海岸
沿いの道へとやってきた。そこにその男は座り込んでいた。
「地へ…と還れ…大地に溶けよ…青き箱のモノ達よ…」
 何やらブツブツとその暗殺者は呟いている。トレントはため息をつくと、ナイ
フを目にも止まらぬ速さでそのアサシンの頭部に向けて放った。

 ビシィ!!

 それを振り返らずに左手の人差し指と中指で受け止めるアサシンの男。そ
してそのアサシンは振り返らずに言った。
「いきなりナイフを投げつられる事を喜ぶ趣味はないんだが、マスター」
 ゆっくりと振り返りながら立ち上がるアサシンの男に向かって、トレントは口
元にニヤリと笑みを浮かべながら話しかけた。
「久しぶりだな、元気そうでなによりだ。プレク」
 このアサシンの名はプレックスター、「トレント★樹海団」のギルドメンバー
の一人である。仲間内からはプレクと呼ばれている。
「わざわざ俺の所に来たという事は何か面白い事でもあったか?」
「ああ、「皇帝の十字架」がな、チェンリムを落とした」
 プレクの眼が鋭いモノに変化した。
「つまり決戦の時が近いというわけか、皇帝と反皇帝の」
「そういうわけだ。それでプレク、お前に頼みがある。お前にはある人物を
マークしてもらいたい」
「ある人物…だと?」
「ああ」
 トレントはその人物の名をプレクに告げると、プレクの口元が楽しげに歪ん
だ。
「それは楽しそうだな、引き受けてやるよ。ところで…だ、トレント。「病気」の
方はどうなっている?」
「ああ、進行中さ。それも病人にとっては最悪の形でな」
「ククッ!そりゃいい!この事を他の奴は知ってるのか?例えばルアーナと
かだ」
「いや言ってねぇ、そのうち話すがな」
「そうか。だが腑に落ちないな、「病気」の事を何故俺だけに話した?」
 トレントが口元に笑みを浮かべた。
「ギルド内じゃお前が一番俺に近いからだよ、目的の為なら手段を選ばない
非情さと狂気が俺に似てるからだ」
「フン…褒められたのか貶されたのかわからないな」

 そこで思い出したようにトレントがポンと手を叩いた。
「そうだ、思い出した。お前、プロンテラに行け」
「──は?」
「プロンテラにあるヴァルキリーレルム砦に「皇帝の十字架」が大規模な派
兵をするらしい。『七近衛』を総大将にして、『七近衛』が合計3人だったかな」
 プレクが驚いたような表情を浮かべた。
「おいおい、それは随分と大規模だな。どういうつもりだ?」
「ヴァルキリーレルム砦での戦いは皇帝勢力と反皇帝勢力の最終決戦前の
前哨戦という位置付けだろう。ならばそれなりに力を入れるのは当然だろうし
な」
「ならウチからも派兵する必要があるんじゃないのか?」
「ああ。もやしとカニとイナバ物置と忍者マニアの4人を向かわせる事にした」
「なぁトレント…ごく身内でしか通用しない通称はやめようぜ…」
「それにプレクもいれて5人だな」
「俺のツッコミ無視かよ」
 プレクがため息をついた。

 と、プレクがどすんとその場にあぐらをかいて座った。
「おい、プレクどうした?」
「ああ、戦勝祈願に青箱を3つばっかり開けようかなと思ってな」
「…」
 この世界には「古く青い箱」と呼ばれるマジックアイテムが存在する。それ
は開くことで「何か」が手に入る魔法の箱なのである。とてつもなく高価で価
値のある財宝が入っていたり、強力な武具が入っていたり、かと思えばゴミ
のような役に立たないモノが入っていたりもする。
 「古く青い箱」は冒険者の間では「青箱」という通称で親しまれ、夢と浪漫を
求めて冒険者達によって開かれ続けている。そしてこのプレクはギルド内で
「箱師」と呼ばれるほど青箱中毒なのだ。
「まずは開く前におまじないをしなければ」
 プレクは立ち上がると太陽の方に向かって手を掲げた。
「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
「…それ…効果があるのか?」
 トレントのツッコミを無視して、プレクが太陽に向かって土下座した。
「マンクルポ!マンクルポ!マンクルポ!」
「…いや…いいけどな」
 トレントは頭を抱えつつ、プレクの怪奇な儀式を見守っていた。


 〜30分後〜

「トレント、いよいよ開けるぞ」
「長ぇよ…」
 待ちくたびれたトレントはその場で横になって仮眠をとっていたらしい。
「よし、では一個目オープン!!」
 プレクは勢いよく青箱の蓋を開けた。

 中には安物の「ナイフ」が一本入っていた。

「…」
「…南無」
 トレントが思わず念仏を唱えると、プレクは首をブンブン振って2個目の青
箱を懐から取り出した。
「トレント、こういうのは保険として残りがあるんだ。賭け事の鉄則としてな、
例えば1000ゼニー賭けて負けたなら、次は2倍の2000ゼニー賭けて勝てば
最初の負け分も取り戻せて儲けになる。それでも負けたなら4000ゼニー賭
ければ通算の負けは取り戻せて儲けになる。この論理でいけば俺は負ける
ことはない」
「それは典型的な敗北ギャンブラーの論理だな…」
 と、プレクが勢いよく2つ目の箱を開け放った。

 中にはその辺に生えている「草の茎」が入っていた。

「…」
 プレクの額から脂汗が流れ出る。トレントが半眼でプレクの方を見た。
「おい、背水だな」
 プレクが肩を震わせながら笑みをこぼした。
「フフ…ハハ…、だがいくしかないだろ?」
「まぁそうなんだが、ここでやめたらお前完全に敗者だしな」
「いくぜ…これが男の生き様だ!!」
 プレクは全身全霊の力を持って青箱を開いた。

 青箱の中には「青箱」が入っていた。

 時々あるのだ。青箱の中に青箱が入っていることが。
「…二重底か」
「…二重底だな」
「だが開けるしかないだろう!」
「待てプレク、二重底って大抵ロクなモノが入ってないという統計が」
「二重底じゃなくてもロクなモノ入ってなかっただろうが!」
「いや…まぁ…そうなんだが」
 トレントが頭をかきながら言った。
「あ〜もういいや、開ければ?」
「トレント…すっげぇ投げやりだな、その発言」
「気のせいだろ」
「見てろよ、この青箱にヴァルキリーレルム砦の戦いの勝利祈願の念を込
めて開けるぜ!!ウオオオオオオオオオォォッ!!」
 プレクが豪快に青箱(二重底)の蓋を開いた。

 中には「死者の遺品」(死人のモノ詰め合わせ)が入っていた。

 トレントが呟いた。
「不吉な…」
 プレクが引きつった笑みを浮かべた。
「この戦い、俺たちがもらったな('A`)」
「いやセリフと表情合ってないから、マジで」
「フン!!」
 トレントのツッコミを無視しつつ、プレクがたった今、青箱から出た「ナイフ」
と「草の茎」と「死者の遺品」を海に放り捨てた。
「さて、悪夢は去った。トレント、ヴァルキリーレルムの戦いの結果、楽しみに
してろよ」

 ゴゥ!!

 プレクの姿が風のように消えた後、トレントが呟きをもらした。
「不安だ…」

 ◆

 山岳都市フェイヨンから賢者の都市ジュノーに向かうためにはかなりの距
離を移動しなければならない。よってラクールは騎乗用のペコペコを借り、
自分の後ろにティアを乗せて移動していた。その道中、ラクールとティアはこ
んな会話を交わしていた。
「それでトレント達は金が目的で他のギルドを狩っているってレイお兄ちゃん
に言ったらしいの、ひどいよね…」
 するとラクールが少し考えた後、口を開いた。
「金が目的…ね、それにしてはあいつら随分羽振りが『悪い』と思わなかった
か?」
「枝ばら撒いてたよ」
「それは見なかったことにしとけ」
 ラクールはティアのツッコミを光の速さで却下した後に言葉を続けた。
「お金ってのは使うもんだ、金が目的だというのなら、金が必要だから手に
入れようとしているってことだ」
「…?」
「つまりだ、この場合奴らがお金を何に使おうとしているかが問題なわけだ」
「うん……ぁ」
「気付いたか、あいつらが金貨とかに頬擦りして舐め回すのが趣味だという
奇特な性格じゃない限り、その金には使い道がある」
「そう言えば「トレント★樹海団」の騎士のすけぽが何か自分達には夢があ
るって言ってたような…絶対に叶わないとも言ってた気がするけど」
「…」
「ラクールさん?」
 急に沈黙したラクールの顔をティアが怪訝そうな表情で覗き込んだ。
「ティアちゃん、ペコペコの手綱をしっかり握ってるんだ」
「へ?」
 ラクールは手綱をティアに押し付けると自らの武器、戦斧ハルバードを肩
にかついだままペコペコを降りた。
「ひゃぁっ!!」
 ペコペコが突然暴れだした、まるで恐怖を感じてるかのように。ティアは必
死に手綱を握っていると、急に背中に怖気、寒気が襲ってきた。
「フン…出てこい」
 ラクールが森林の茂みの奥にそう言い放つと、そこからとてつもなく強大な
力を持つ存在が現れた。そしてティアはその姿を見た瞬間、顔を引きつらせ
た。あまりにも、あまりにも有名すぎる魔物、いや魔王だったからだ。

 全てを引き裂く大虎、魔王エドガー

「人間ヨ…我ガ領域に踏ミ込ンダコトヲ後悔スルガヨイ…」
 ラクールは戦斧をその場に投げ捨てた。
「ララララクールさん何を!?」
 ティアが驚きの声を上げた。するとラクールはニヤリと口元に笑みを浮か
べた後、エドガーをビシっと指差した。
「三味線にしてやるぜ!」
「ラクールさん!それ猫違う!トラ!虎だって!!」

 ズズズズ…

 強烈な殺気を振りまきながらエドガーがゆっくりとラクールの方へと歩み
寄ってきた。そしてエドガーが拳についた大爪をラクールの首の頚動脈に向
けて振り下ろした。

 がぃん!!

「うっそ…」
 ティアが口をあんぐりと開けたまま、硬直した。何とラクールは素手でその
攻撃を受け止め、力比べを開始したのだ。
「オルァァァァァァ!!三味線にされたくなかったら本気出してみろや!!」
「ヌゥゥゥゥ!バカナ!我ガ力デ負ケテイルダト!?」
 エドガーが焦りの声を上げた。だがすでに勝負は決していた。エドガーは
受け止められた方のラクールの腕に気をとられすぎており、もう片方の腕に
注意を払っていなかったからだ。

 ラクールはもう片方の腕を、拳を振り上げた────

 ◆

 22年前、まだ『七英雄』と呼ばれる前のラクール、マリア=ハロウドと出会
い「トリスタンの悪夢」を勝ち抜く前のラクールは賢者の都市ジュノーに住ん
でいるある男友達の元を訪ねていた。
「で、何の用だ?わざわざジュノーまで来たんだからあんまり変な用事だっ
たら怒るぞ」
「あっはっは、俺の可愛い息子でも拝んでいく?」
「しばくぞ」
「まぁ見てろって、ラクール、すぐに驚かせてやるからよ」
 その男はラクールを地下にある魔法陣の描かれた部屋へと案内した。
「これからラクールに見せてやるのは失われた古代禁呪の一つさ」
「古代禁呪?」
「ああ、世界に7つ存在するというとんでもなく強力な魔法の類さ、現在残っ
ているのは第1禁呪の「マグヌス・エクソシズム」だけだが…あれも結局はブ
ルージェムストーンを媒介にし、尚且つ大量の術者を必要とする不完全なも
のだ」
「7つって事は…他にも存在するわけだよな?」
「ああ

 第2禁呪「ストームガスト」
 第3禁呪「メテオストーム」
 第4禁呪「ロードオブヴァーミリオン」
 第5禁呪「リザラクション」
 第6禁呪「アブラカタブラ」

 そして存在するかすら怪しい7つ目の禁呪があるらしい。その魔法は遥か
太古の昔、神々と巨人族が対立した際に起こった最終戦争『ラグナロク』の
名を冠しているらしいが…こればっかりは全くわからないね」
 ラクールは首をかしげた。
「その何だ、メテオストームとかは使い手がいないんだよな?」
「いや、魔族の帝王バフォメットなどはこの中の魔法を使えるっていうのが
もっぱらの通説さ」
「ふーむ…ってお前!使えるようになったのか、この中の魔法が!?」
 その男はアハハと笑いながら手をブンブン振った。
「あ〜第1歩って所かな?俺が今研究してるのは第6禁呪「アブラカタブラ」っ
て奴で使うと何が起こるかわからないっていう楽しい魔法でね」
「やめぃ、んな物騒なモノ使うのは」
「ハハ、ちょっと見ててよ」
 その男は研究用のタロウと呼ばれるネズミを一匹魔法陣の中央に置いた
後、何やら間延びした声で呪文を唱えた。
「〜〜ア〜ブ〜ラ〜カタ〜ブ〜〜〜〜〜〜ラ〜〜〜」

 ボンっ!!

 タロウが突如煙に包まれた。
「うおっ!げほっ!おいこら!煙がでるなら先に言えよ!」
「アハハ、ごめんごめん、でもほら見てみてよ」
「ん…?」
 ラクールが視線を向けると、そこには一匹のポリンが歩いていた。
「!!?」
「まだこんな効果…「チェンジポリン」って名づけたけど、こんな効果しかでな
い。だけど研究を重ねれば自在に…そうだね、魔王クラスの魔物も呼べるよ
うになるんじゃないかなと思うんだ」
「お前…」
「魔王すら使役できる究極魔法「クラスチェンジ」を復活させるのが俺の研究
の最終目標さ」

 ◆

 ザァ…

 拳で貫いたはずのエドガーが塵も残さず消滅してしまった。
「え!え!?」
 ティアが何が起こったかわからないといった風な表情でラクールの背中を
見つめていた。

 そう、今のエドガーは造りモノ、紛いモノ、生み出されたモノだった。

 第6禁呪「アブラカタブラ」によって。

「そういうことかよ…生きてやがったってことか…!」
 ラクールが唇を噛み締めた。こんな事ができる男は一人しかいない。ラ
クールと同じく『七英雄』と呼ばれ、20年前の大戦「トリスタンの悪夢」で戦
い、そしてその大戦の際、行方不明になったプロフェッサー。

 『七英雄』…ハウゼン

「宣戦布告確かに受け取ったぜ、何の真似かは知らんが…俺を敵にまわし
たことを後悔させてやる」
「ラクールの…おじさん?」
「ティアちゃん、この旅、楽なモノにはなりそうもない」
「…ぇ」
「覚悟しといてくれ」
「…」
 ティアは何だかよくわからないが目の幅涙を流すのであった。

 ◆

 ゴゥ…

 崖の上からラクールとエドガーの戦いを見つめていたハウゼンは背後に気
配が現れたことに気付いた。
「何の用だ、ウェルガ=サタニック」
「フ…我らが主の前に面白い男が現れた」
「ほぅ、どのような」
「その者は『無限王』と名乗っている、そして自分は平行世界から来たとも
言っていた」
「ふむ…興味があるな」
 その言葉を発した後、ハウゼンの姿が闇へと消えた。残されたウェルガが
口元に笑みを浮かべた。
「クク…ハウゼン…貴様のその欲求すら十字架より生み出されしモノである
と自覚できなければ破滅するぞ…クックック…」
 そしてウェルガの姿も闇へと還っていった。

 [続]


〜あとがき〜
前半と後半のノリが違う!…のはいつもの事ですな('A`;)
次回予告!同盟を受け入れたレイの元に「皇帝の十字架」より挑戦状が!
ヴァルキリーレルム編開始です!


〜登場人物紹介〜
●プレックスター
性別:男
JOB:アサシン
Guild:「トレント★樹海団」
仲間内からはプレクと呼ばれている。
3度の飯より箱を開けるのが大好きな中毒者。箱シン。
今回の『ギルド攻城戦』において、トレントと何か悪巧みをしているらしい。



〜Web拍手の返答〜
>何でタシーロw
覗き見するときはこの呪詛は必須です!

>ケミ転職ってアルデバランだったと思うけど
>アルデの先のジュノーって・・・勘違い?
ハハハ、アルケミは転職するためにジュノーに…

>調べたら転職クエ途中でジュノ行くのねorz
…(;´Д`)あれ…アルケミギルドて、アルデバランにあるんだ…
ですがマジ勘違いしてたとか言いません!

>337は思いつきですかね?
多すぎず少なすぎずを基準に設定しました。

>ああして男は漢になっていくんだよね・・・応援してるぜイアル
第2部において一番の成長を遂げるのはきっと彼です。
「皇帝の十字架」の最高幹部の誰かと戦う!…かも(゚∀゚)

>だいぶ進みましたなw
いやいや〜まだまだっすよダンナ!

>「ほい」としてはマグロでキスクとやり合えばいいのかな?(=w=)ノ
ほいさんの次の登場はっ…ウワッ、ヤベヤベ口が滑りそうにっ

>あいすぅ〜
(=゚ω゚)ノぃょぅ
っていうか今回web拍手多くてやる気増しますわ。・゚・(ノД`)・゚・。
現段階で実は39話までしかストックがないから癌張らないとorz


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