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Ocean's Blue

039:Fate

ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ───

 賢者の都市ジュノーを目指して旅を続けるラクールとティアはようやくプロ
ンテラまでやってきた。この後は北のミョルニール山脈を越え、国境都市アル
デバラン、そしてエルメスプレートという山岳地帯を抜けることでようやく賢
者の都市ジュノーへと到着できるのである。
「ティアちゃん、俺プロンテラで寄りたい所があるんだがいいか?」
「え?構いませんけどどこですか?」
「来ればわかるさ」
 そう言うとラクールはずんずんとプロンテラのメインストリートを歩き始め
た。慌ててティアが追いかけ、しばらく経った後、ラクールとティアの前には
ルーンミッドガッツ王国の中枢ともとれるプロンテラ城がその威厳と威圧感を
もって建っていた。
「ラクールさん、寄りたい所ってお城ですか?」
「おお、そうだ」
 プロンテラ城は基本的に1階部分は誰でも入っていいことになっている。1
階はプロンテラの北と南を結ぶ通路となっているのだ。が、ラクールはずん
ずんと階段を目指して歩き始めた。
「ちょっ…!ラ、ラクールさん!?」
 ティアが驚きの声を上げたのと同時に、階段の見張りの兵2人がラクール
に槍を向けた。
「貴様!何者だ!ここは城の関係者以外通行禁止だ!」
 するとラクールは顔をずいとその兵士のうち1人に寄せた。
「俺だよ俺、俺俺」
「いやラクールさん、意味がわかりませんって!」
 ティアがツッコミを入れた。だが兵士達の顔は予想に反してみるみるうちに
蒼白になっていった。
「すすすすすすいません!どうぞお通りください!」
「おう、ご苦労。それとあの娘は俺の連れだ、一緒に入るぞ?」
「どどどどどどどうぞ!」
「よし、ティアちゃんいくぞ」
「いくぞって…お城の上の階にですか!?」
「ん、そうだが?」
 事も無げに言い放つラクール。というより顔パスな時点でラクールの存在
がいかに偉大なモノであるかということを改めて認めるティアであった。だ
が、それもそのはずだろう。ラクール=フレジッドとは20年前、世界を崩壊寸
前まで追い込んだ魔王「闇を統べる者」ダークロードを討ち滅ぼした『七英
雄』の一人なのだ。そしてその実力は人類史上最大ではないかとも言われ
ている。例え何があろうとラクールが負けることはない。

 もしこの人が敗れれば、それは世界の終わりであろう。

「おーっし、ティアちゃん着いたぞ」
 考え事をしていたティアはその言葉で一気に現実に引き戻された。
「あっ!って…え?」
 ティアが驚きで口をあんぐりと開けた。どうみてもそこは謁見の間、つまり
国王がいると思われる部屋の前だったからだ。
「よし、入るか」

 ガチャ

「ノックも無し!?」
 ティアがヒィィィィーと恐怖に顔を引きつらせながらのけぞりつつ、謁見の間
を見ると、玉座には40代前半と思われる男、独特の威厳と風格を持ち合わ
せているこの国の国王が座っていた。

 ルーンミッドガッツ王国国王 ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世

 国王であるトリスタン三世はため息をつきながらラクールを嗜めた。
「ラクール…ノックぐらいしろといつも言っているだろう…」
「まぁまぁ、お前と俺の仲じゃないか」
「ふぅ…で、何の用だ?それとその娘は誰だ?」
 前置きも無しにフランクに話し始める2人を見て、ティアはある事に思い
至った。トリスタン三世もまた『七英雄』、ラクールにとっては戦いをともに
生き延びた親友であり、礼儀など不用のモノなのだ。
「ああ、その娘はグロリアスの末娘だよ。名前はティアちゃんだ」
 トリスタン三世の顔が一瞬かなり驚いたモノへと変わった。
「そうか…ティア、お姉さんは元気にしているかね?」
「あっ…!はい!どっちもピンピンしてます!」
「フフ…そうか」
 と、ラクールが頭をボリボリと掻きながら、言いにくそうに口を開いた。
「で、だ。お前の所に来たのは悪い知らせをもってきたからだ」
 トリスタン三世もまたその言葉に反応した。
「奇遇だな、私も悪い知らせがある」
  ラクールは少し驚いたような表情をした後、口を開いた。
「じゃあ俺から話すか。俺が追っている例の一味、犯人の首魁がついに尻尾
を見せ始めてきた」
「何だと?」
「どうやらその首魁さんは、『ギルド攻城戦』に参加、それもあの世界最強の
ギルドと言われている「皇帝の十字架」のトップ8人のうち誰かだということ
がわかっている」
 トリスタン三世が手をアゴにあてて考え込んだ。
「「皇帝の十字架」か…そうなると無理矢理拘束はできないな。あのギルドに
は熱狂的なファンが多数ついている。下手に捕まえでもしたら暴動が起きる
可能性がある」
「ああ、だから『ギルド攻城戦』にはレイが仲間を引き連れて参加している。
合法的に「倒せる」ようにな」
「なるほど…だがそれは悪い知らせには思えないのだが」
 ラクールが一瞬言葉を詰まらせた後、静かに口を開いた。
「その首魁の仲間にどうやら…「クラスチェンジ」の使い手がいるようだ」
「っ!!」
 トリスタン三世が顔を引きつらせた。
「バカな…まさか…生きているというのか!ハウゼンが!」
「間違いねぇ。実際それで生み出された魔王で俺を襲ってきやがった」
「ハウゼンが…生きている。あの男が敵にまわるとなると、どれだけの被害
がでるのか想像もつかぬ…」
「ああ、だから『ギルド攻城戦』とハウゼン、この2つにはお前も気を配って
おいてくれないか」
「わかった。プロンテラ騎士団なども連絡を入れておく」

「ああ。ところでお前の悪い知らせとは何だ?」
 ラクールが尋ねると、次はトリスタン三世が口を濁す番だった。
「ラクール、お前はミサキ=リフレクトという女を知っているか?」
「そりゃあ…例の劇団の看板娘だろう?今は一人で各地を修行のために旅
しているらしいじゃないか」
「そのリフレクト劇団だが、ミサキが一人旅にでる少し前に皆殺しにされたよ
うだ」
「───何?」
「賭博の都市コモドの東にある密林で大量の惨殺死体が見つかった。劇団
員の総数から2人分少ない量の死体を残してな」
「まさかその2人とは…」

「ああ、フェイトとミサキ=リフレクトだ」

「っ!!」
「ダークロードの予言とは別に、マリア=フレジッドが残した予言が的中し
たと考えるべきなのだろうな」
「魔物に襲われて全滅…とは考えられないか?」
 ラクールが脂汗を額ににじませながら聞いた。
「それはないだろう。あの劇団員の強さはお前もよく知っているはずだ」
「…待て、ヴァン。お前さっきミサキが一人旅にでる『前』に殺されたって
言ったよな!?」
「想像の通りだ。そのような事があった後、平然と一人旅できるとは思えな
い。ならば導き出される可能性はおそらく」
「ミサキ=リフレクトも犯人だという可能性か」
「ま、待ってください!」
 そこでそれまで黙っていたティアが口を挟んだ。
「ミサキさんはそんな事する人じゃないと思います!レイお兄ちゃんとフィ
リお姉ちゃんの仲を後押ししてくれたのはあの人ですし!」
 そこでトリスタン三世が驚いたようにティアに質問した。
「レイと君のお姉さんは付き合っているのかね?」
「一応恋人ですよ」
「む…」
 複雑な顔をするトリスタン三世に向かってラクールが口を開いた。
「おいヴァン…ダークロードの予言をもう一度教えてくれ」
「あ、ああ…」

 闇滅びるとも死在り
 七つの美徳
 七つの大罪が喰らいし刻
 死出の門は開く


「これでいいか?」
 トリスタン三世から紙を手渡されたラクールが口を開いた。
「ヴァン…七つの美徳、七つの大罪ってのは」
 トリスタン三世が口を開いた。

 七つの美徳とは[英知]、[勇気]、[誠実]、[思慮]、[純潔]、[愛情]、[希望]。
 七つの大罪とは[無為]、[暴喰]、[貪欲]、[傲慢]、[嫉妬]、[情欲]、[憤怒]。

「…推測でいいか?」
「ああ」
 トリスタン三世が頷いた後、ラクールが話し始めた。
「この美徳と大罪、これはこのミッドガルド大陸だけでなく、世界を成してい
るユミルがもたらすものと一般的に言われていたな。アルベルタ近郊で見られ
る「Ocean's Blue」はユミルの[純潔]が投影されたものと言われている」
 ラクールが言葉を一度切ったあと、強い口調で言った。
「このユミルの心の投影だが、[純潔]だけが投影するとは考えがたい。そし
てもう一つ、フィリちゃんは普通の人間が持っていないものを背負っている」
「十字架…か…まさかラクール!」
「ユミルの心が投影されたものが十字架とするのならば、フィリちゃんの持つ
十字架は[愛情]だろうな」

 そして、ミサキ=リフレクトはフィリの[愛情]を後押しした。

「待て、ならばフェイトは何をしようとしているのだ!?」
「わからん。それにこれは仮定に仮定を重ねた推論だ。信憑性はない。ミサ
キが犯人かもわからん。十字架が美徳大罪に対応しているかもわからん」

 ───だが、その推論は何故か一概には否定できなかった。

「『ユミルの十字架』…調べてみる価値はありそうだな」
「それでヴァン、俺がフェイトと遭遇したら…殺してもいいんだな?」
「ああ…マリア=フレジッドの予言が正しかったのならば…殺してくれ」
 トリスタン三世は苦渋の表情で言葉をもらした。

 ◆

 闇、深い闇───奈落。

 その闇の中央に黒紅に輝く複雑な魔法陣が展開されていた。

 そしてその魔法陣を取り囲むようにその者達は立っていた。


 『幻影』 ウェルガ=サタニック
 『堕ちたる七英雄』 ハウゼン

 姿がよく確認できないが、他に3人───。

 そして、常人とはかけ離れた雰囲気を持つ剣士が1人───。


 計6人がその魔法陣の中央にいる者を見据えていた。

 そう、その闇の魔法陣の中央に1人の人物がいたのだ。

 『妖刀村正』を携えし、───全ての元凶。

 レイの母をさらい、死者の都ニブルヘイムへと封じた男。

 その名は───フェイト。


 フェイトが魔法陣の一角にいる剣士に向かって静かに口を開いた。
「『無限王』と名乗っていたな…何故、平行世界よりこの世界に来た?」
 『無限王』と呼ばれた剣士が目を伏せた。
「私はこの世界に探しモノをしにきた」
「では何故俺の前に現れた?」
「私は元いた平行世界の全てを破壊し尽した。その世界では私は最強の力
を持っていた。だが、こちらの世界の根源たる奈落の力を持ちうる者と戦う危
険を冒す必要はないと踏んだだけだ」
「…」
 フェイトの口元に笑みが浮かんだ。
「だが…油断すれば喉笛を喰い千切られそうだな」
「それは貴公次第だ」
 『無限王』のその解答に満足したのかフェイトは次に姿がよく確認できない
3人のうちの1人へと視線を向けた。
「さて、俺達は『ギルド攻城戦』へと戻るとしようか」
 コクリと声をかけられた者が頷いた。


 闇の胎動が始まる。

 フェイトの名の元に。

 そして、フェイトは十字架を背中に背負っていた。

 『ユミルの十字架』、七つの大罪────[憤怒]の十字架。

  ◆

 一方、レイ達もまたプロンテラへと到着していた。そしてレイはフィリとと
もにプロンテラの街へと繰り出していた。フィリが買い物リストのメモ用紙を
広げ、レイがその中を覗き込んでいた。
「他に買ってくるモノはないのか?」
「えっとね、エリカの少女純愛小説とジュニアの萌え美少女読本以外は全部
買ったね」
「小説も萌えもいらん!そもそも『ギルド攻城戦』で必要なモノを買いにきた
のに、んなもんが必要あるのか!?」
「そんなこと私に聞かれても…」
「まぁ…そうだけどさ…」

 その時、レイの視線がふとプロンテラの中央にある噴水の方に向いた。

 噴水の前には────

「キスク…っ!!」
 レイが唸り声を上げるかのような口調でその名を呼んだ。キスクはゆっくり
とレイとフィリの元へと歩み寄ってきた。
「ようこそプロンテラへ、「Ocean's Blue」ギルドマスター、レイ=フレジッド。
並びにそのギルドメンバー、フィリ=グロリアス」
「こちらこそよろしく頼むな、「皇帝の十字架」最高幹部『七近衛』…キスク=
リベレーション」
 そして、レイが剣に手をかけ、キスクが右拳をゆっくりと握った。

 バァン!!

 轟音、衝撃。両者の間で神速の一撃が炸裂した。

 ざわざわ…

 その音と同時にまわりにいた者達が騒ぎ出した。当然である、このプロン
テラの領内ではケンカはご法度だからである。
「──レイ、俺にやられるまでくたばるんじゃないぞ」
「キスク、それは俺のセリフだ」
 バッと身を翻したキスクはプロンテラの雑踏へと姿を消していった。
「レイ…」
 不安そうにレイを見るフィリに、レイはにっこりとフィリに微笑み返した。
「大丈夫さ」
 と、ポンポンとレイの肩を誰かが叩いた。レイが振り返るとそこにはねじり
鉢巻をしたおっさんが立っていた。
「あんたさっきの人の知り合いかい?」
「あ、ああ…そんな所だけど?」
「あの人、うちで飯食ったのに代金払ってないんだ。代わりに払ってくれんか
ね?」
「…」
 財布を取り出しながらレイは誓った。

 ────キスクは絶対ボコる、と。

 [続]


〜あとがき〜
次回予告!というかあとがきじゃなくなってるorz
ついにヴァルキリーレルム砦での戦いが始まった。
足並みが揃わず早々に各個分断されてしまう「レジスタンス」の面々!
そんな中、レイに襲いかかったのは「トレント★樹海団」No.3のあの男!
風の力を操り全てを斬り裂く力を持つネタ騎士だった!!


〜登場人物紹介〜
○フェイト
『妖刀村正』を持つこの物語における全ての元凶。
「皇帝の十字架」のトップ8のうちの誰からしい。

○『無限王』
平行世界から来たと言う男。詳細は不明。剣士。



〜Web拍手の返答〜
>ほぼ同等+七近衛3人ってプロ落とし見るととてもほぼ同等と
>言えないんじゃ?300人より怖いそうだし。
>かといって近衛こみで同等だと派遣人数すごく少なそう(=w=;)
>そのあたりどうなのか気にしつつ次期待
今まで「皇帝」と戦ってきたギルドは兵力が同じかそれ以上用意できても
「皇帝」の幹部連が強すぎて手がだせなかったわけです。
今回レイ達はその幹部連と戦える人材として抜擢されたわけです。

>これは(絵のことね)喜びのごあいさつ?w;;;
感謝感激ですよ!

>なかなか楽しいw
web拍手変更かなり好評みたいですw

>ラヴコメリアンに一片の悔いなし!!
ネタ星堕つか…。

>思わず押しまくったらアミバ様がw
何か妙に今回web拍手の回数が多かった…w


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