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Ocean's Blue

040:Outbreak of War

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ。王国の中枢たるその都市の北
部に広がる砦「ヴァルキリーレルム」、そこを舞台とし、「神雷」レイ=フレジッ
ドを旗頭とし反皇帝の狼煙を上げた連合同盟「レジスタンス」、世界最強の
魔術師「皇帝」アイフリード=フロームヘル率いる「皇帝の十字架」より遣わ
れし遠征部隊──『七近衛』キスク=リベレーション率いる大部隊の戦いの
幕が開けようとしていた。

 ヴァルキリーレルム砦の展望台には2人の男の姿があった。「魔人拳」キス
ク=リベレーションと「陰陽玉」ライジング=ボーンド──ともに「皇帝の十字
架」の最高幹部『七近衛』であり、今回の「皇帝の十字架」の総大将であるキ
スク、そして「皇帝の十字架」のナンバー2にして『七近衛』最強の力を持つラ
イジング=ボーンドは砦のまわりに集結し始めている「レジスタンス」の面々
を見つめていた。
「ボーンド神父、手はず通りによろしく頼むぜ」
「ああ、すでにギルティが配置についている」
「トレントが派兵した「トレント★樹海団」の連中も配置につかせた。後は戦闘
開始を待つだけだ」
 ライジング=ボーンド、冷たき瞳を持つハイプリーストは集まる「レジスタン
ス」の面々に視線を向けた。
「ほぼ烏合の衆だが、中には危険なモノもいる」
「わかってるさ…」
 「レジスタンス」のエンブレムが刻まれた一際大きな旗、そこにキスクの親
友であり、「レジスタンス」の頭たる男が立っていた。
「来たな…レイ」

 ◆

 フィリがレイの元へとやってきた。
「レイ、時間まであと10分切ったよ」
「ああ」
 レイは「雷獣の咆哮」のギルドマスター、ロウガ=ブラストと協力して指示を
飛ばした。この戦いは初戦ではあるが重要な戦いである。これに勝てるか勝
てないかで今後の勢力図が大きく変化する。

 勝てば「皇帝の十字架」の本拠たるルイーナに戦いを挑める。

 負ければ、それは「皇帝の十字架」の完全なる支配を許すことになる。

「絶対負けるかよ…」
 レイは顔を上げた。ふと見やったヴァルキリーレルム砦の展望台には2人
の男が立っていた。その片方はレイのよく知る人物だった。

 「キスク───絶対たどり着いてやる」

 「レイ───ここまで這い上がって来い」

 その言葉が互いに届いたわけではないが、互いが何を思っているかぐら
いは両者ともに理解できた。


 そして────戦いの幕が開いた。


 怒涛の勢いでヴァルキリーレルム砦になだれ込む「レジスタンス」の面々
だったが、足並みが揃ってはいなかった。いらぬ所で時間を食い、連携も取
れない。「レジスタンス」は数こそ多いものの、悪く言えば寄せ集めなのだ。
「いいか!仲間を信じろ!信頼なくして「皇帝」への勝利はないぞ!」
 ロウガ=ブラストが鋭く言葉を飛ばす。その言葉に落ち着きを少しだけ取り
戻した「レジスタンス」を見たレイはフィリやエリカ達「Ocean's Blue」の面々に
声をかけた。
「よし、俺達も行くぞ」
 ジュニア、エリカ、イアル、フィリがレイの後ろについて駆け出した。


 レイ達がヴァルキリーレルム砦に足を踏み入れると、そこはすでに激しい
戦場と化していた。だが砦の奥へと進む通路のある部分から先には誰も進
入できていなかった。そこには最強の敵の1人が待ち構えていたからだ。

 『七近衛』が1人────「影身鬼」ギルティ=スターン

 レイは鞘から剣を、炎の宝剣「ファイアーブランド」を引き抜いた。
「お前は…っ」
「よく来たな…ヒャハァ!!俺様の名はギルティ=スターンだ!」
「『七近衛』の1人だ、強いね」
 ジュニアが率直な感想をもらした。と、ギルティがクックと笑い出した。
「早速で悪いんだが…落ちろ」
「な──?」
 レイが問い返す間もなく、

 ビシィ!ビキビキビキビキ!!ドガァァァァァアア!!

 ギルティが踏んでいる床の部分から砦の床に断裂が走り、ヴァルキリーレ
ルム砦の1F部分の通路が崩壊を始めた。
「しま──っ」
「ヒャハハハッハハハ!!潰れろ落ちろ!ヒャハハッハハハ!!」
 ギルティの嘲笑を聞きながら、レイ達「レジスタンス」の最初にヴァルキリー
レルム砦に進入した面々は奈落へと落ちていった。

 ギィン!!

「おっと!!」
 凄まじい斬撃が背後から襲い掛かってきたため、ギルティは飛び退った。
「ヒャハハハ!やっぱりお前か!ロウガ=ブラスト!」
 「雷獣の咆哮」ギルドマスター、ロウガ=ブラストは砦の2F部分へと通じる
階段でギルティ=スターンと対峙した。アサシンクロスのロウガとチェイサー
のギルティ、ともに上位2次職と呼ばれる最強職である。
「ギルティ、相変わらず女にかまけて、進歩がなさそうだな」
「ヒャハ!テメェは進歩があっても俺に勝てそうにないな!」
 瞬間、2人の姿がかき消え、両者の姿が激突した。

 ◆

 ──ヴァルキリーレルム砦の地下

「く…」
 瓦礫から這い出しながらレイが呻いた。
「クソ…無茶苦茶やりやがる」
 レイは辺りを見渡した。全く人影がない。だが瓦礫の中からも人の気配は
感じない。ただ相棒の鷹のガイストだけがレイの傍にいた。
「俺は何階下まで落とされたんだ…?」
 どうやらヴァルキリーレルム砦の地下は何階層もあり、ギルティはおそらく
その何階層ごと床をブチ抜いたのだろう。非常識極まりない。
「ここより下には穴が開いてないから…皆は上か」
 そして目指すべき「エンペリウムルーム」もヴァルキリーレルム砦の最上階
にあるのだろう。キスクが始まる直前まで展望台にいたのだから、これは間
違いない。
「考えていても仕方ないか」
 レイは迷路のようになっているその階層の探索を開始した。

 しかし、あのギルティの使った技、あれは「サプライズアタック」と呼ばれる
ローグの基本技の一つだった。だが威力が異常すぎた。つまりこれが『七近
衛』の実力ということだろう。これ程の強敵が「皇帝」も含めて計8人、そして
その内の1人がレイの母をさらった張本人───
「っ!?」

 ゴァッ!!

 レイは真横の壁から強烈な殺気を感じとり、その場から飛びのいた。

 ザン!

 真横一文字に壁が斬り裂かれた。斬り裂かれた部分から、ひび割れが発
生し、轟音とともに壁が崩れ落ちた。瓦礫が巻き起こす煙の中から現れたの
はレイの知っている人物だった。

 「トレント★樹海団」ナンバー3、騎士フィン=ロルナーク

「フィン=ロルナークか」
「レイ=フレジッド、その首もらうぞ」
「上等」
 2人はそれだけ言葉を交わすと、戦闘を開始した。

 ◆

 別の階層へと落とされたフィリとエリカもまたある2人組と対峙していた。

 「トレント★樹海団」のプリースト、エレン
 同じく「トレント★樹海団」のハンター、アリシャ

「「インクリースアジリティ!」」
「「ブレッシング!」」
「「グロリア!」」
 同じタイミングでそれぞれの味方に支援魔法をかけるフィリとエレン。
「邪魔ですね」
 エレンがフィリに向かって手をかざした。
「レックスディビーナ!!」
「うっ!」
 フィリが顔を歪めた。エレンはチェンリムの時と同じくフィリの魔法を封じた
のだ。
「少し大人しくしておいてください」
 エレンの手から聖なる光、ホーリーライトと呼ばれる魔法が放たれた。

 バァン!!

 フィリの身体が弾き飛ばされた。どさり…と力無く倒れ伏すフィリ。そしてエ
レンがアリシャとエリカの方に振り返ったその時、
「ディクリース…アジリティ!!」
「なっ!?」
 ズン!とエレンの身体が重くなった。これは魔法をかけられた者の速度を
増加させる「インクリースアジリティ」の逆、つまり魔法をかけられた者の速
度を減少させる効果をもつ魔法───
「まさか、さっきの表情は…」
「ちょっとした芝居!同じ手に何度もかかってたまらないしねっ」
 フィリは粉末状の万能薬の入った小瓶をひらひらとエレンに見せながら
にっこり笑った。
「──っ!!」
 エレンが速度減少の効果をかき消そうと魔法を唱えようとしたその隙を
狙ったフィリの魔法が完成した。
「レックスディビーナ!」
「しまっ…!!」
 エレンの魔法が封じたフィリが、さらにエレンに魔法をかけた。
「レックスエーテルナ!」
 これをかけられた者は一撃のみ2倍に相当する衝撃を受けるという魔法。
そしてフィリは首にかけていたロザリオを引きちぎり、間合いを詰め、そのロ
ザリオをエレンに押し当てた。
「マグナム…ブレイク!!」

 ゴゥン!!

 エレンは爆炎とともに巻き起こった衝撃に昏倒、崩れ落ちた。「マグナムブ
レイク」とは本来剣士の技だが、特殊なアイテムを使用することにより、他職
でも使用することができるようになる。これは「マグナムブレイク」だけに限ら
ず、様々なスキルに適用されている。
「準備は…しないとね♪」

 ◆

 遡る事、数分。
「「インクリースアジリティ!」」
「「ブレッシング!」」
「「グロリア!」」
 フィリとエレンの支援魔法がエリカとアリシャへとかかった。
「アローシャワー!!」
 アリシャの放った無数の矢がエリカへと襲い掛かった。エリカはすかさず横
へと跳び、それを回避すると一気にアリシャとの間合いを詰めた。
「ホーリークロス!」
 十字に斬り裂くその剣に対応してアリシャはエリカの足元に罠を設置した。
「スキッドトラップ!」
「んなっ!?」

 ドガン!!

「うぐっ…!」
 スキッドトラップとはその罠にかかった者を、特定の方向へと吹き飛ばす
効果がある。エリカはスキッドトラップにより吹き飛ばされ、壁へと叩きつけ
られたのだ。そこにアリシャの追撃が入る。
「ブリッツビート!」
 アリシャの頭上にいた鷹がエリカに襲い掛かり、エリカの腹部を爪で切り
裂いた。エリカが壁を背もたれにするように崩れ落ちた。
「これで終わりですよ」
 アリシャが弓を引き絞り、エリカの胸に狙いを定めた。するとエリカが苦し
げな声で不敵な笑みを浮かべた。
「それは…どうでしょう?」
「…?」

 ズン!

「か…は…っ」
 アリシャは背後から突然襲った衝撃に息を詰まらせた。

 アリシャの背中にはエリカが本来もっているシールドが炸裂していたのだ。

「なっ…!?ぐぅっ…」
 意識が飛びそうになりながらアリシャがエリカを見やると、エリカの姿はア
リシャのすぐ傍にあった。間合いを詰めたエリカは渾身の力でもって、剣を
振るった。
「ホーリー…クロス!!」

 ざんっ!!

 アリシャが意識を失い、その場へと倒れた。アリシャは意識を失う直前に
気がついた。最初の「ホーリークロス」はフェイクであり、その時にエリカは
シールドを投げていたのだ。「シールドブーメラン」という技術がクルセイダー
には備わっていることを失念していたことがアリシャの敗因だった。

「はぁ…ぐ…」
 エリカが痛む腹部を押さえてうずくまった。そこにフィリがやってきた。
「エリカ、大丈夫!?」
「はい、何とか…大丈夫…じゃないですね」
 フィリはエリカにヒールをかけながら呟いた。
「やっぱり皆ももう戦ってるのかな…」
「十中八九その可能性は高いですね、こうやって待ち構えていた時点で彼ら
が私達をここに落とすつもりだったということが推測できますし」
「レイ…大丈夫かな…」
 フィリは心配げに恋人の名を呟いた。

 ◆

 速い。

 初動に無駄は無く、呼吸と動作の調和、それにより生み出される神速。

 ほとばしる剣戟。

 ガギィィィィイィィィイィ!!

 レイのファイアーブランドとフィンのウィンドクレイモアがぶつかり合い激し
い高音を引き起こた。レイはフィンをトレントとは全く違うタイプの騎士と位
置付けた。トレントを力とするなら、フィンはその対極、フィンの特性は速さ。

 速いという事はそれだけで凶器となり殺傷力を持つ。

「ちぃっ!」
 レイは鷹のガイストをけしかけるタイミングすらないことに焦りを覚えてい
た。速さだけならフィンは魔王である「幽鬼なる海魔」ドレイク並なのだ。
「レイ=フレジッド、この程度か?」
 フィンがレイを横をすれ違いざまに言い捨てた。フィンはすれ違いざまにレ
イの左腕、腹部、左足を斬りつけていた。
「…っ!」
 傷は浅い、咄嗟に身体を捻ったのがよかったのだろうが、このままではジ
リ貧になりかねない。

 と、フィンが動きを止めた。
「ふぅ…ドレイクの事といい、トレントがやたら気にしているから、もうちょっと
出来ると思っていたんだがな」
 フィンがく懐から取り出した小瓶をくるくると手の中で回した後、それを一気
にくぃっとあおった。

 ハイスピードポーション。

 飲んだ者は一時的に倍近くのスピードで動けるという魔法薬である。
「トレントには悪いが…レイ、お前にはここで倒れてもらう!」

 ゴァッ!!

 フィンは自らの身体に黄金のオーラをまとった。
「ツーハンドクイッケン!」
 ツーハンドクイッケンとは黄金の闘気をまとい、攻撃速度を倍化する騎士
のスキルである。そしてフィンはハイスピードポーションを飲みさらなるス
ピードを得ている。その相乗効果はすでに計り知れない。

 迅いという事はそれだけで凶器となり殺傷力を持つ。

 フィンのさらなる迅さがレイに襲い掛かろうとしていた。

 [続]


〜あとがき〜
ついにヴァルキリーレルム砦の戦いが始まりました!
某ネタ騎士が中ボスという位置付けな無謀な企画!
次回予告!イアル、ジュニアにも襲い掛かる敵勢力!
そしてレイとフィンの戦いの決着は!?
レイはこの苦境を脱し、キスクの元へとたどり着けるのか!?



〜Web拍手の返答〜
>ネタマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
あまりのシリアスフィンっぷりに非難轟々な予感(゚∀゚)
ですが、ご心配には及びません!所詮フィンさんはフィンさ(ry

>色欲が情欲ってのはまだわかるとして、
>無為より怠惰の方がしっくりくるような。
ぶっちゃけると現時点ではお答えしかねます(;´Д`)
『ユミルの十字架』は「Ocean's Blue」最大の謎の一つですのでorz


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