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Ocean's Blue

041:Stomachache

 イアルもまた深い闇の中へと落とされていた。暗闇の中に落とされ、右も
左もわからない状態から壁をたどって歩みを進めていた。そして、ついに明
かりがもれている部屋を発見したのだ。そこで待ち受けていたのは──
「あんたは…」
 イアルが焦りの表情を浮かべた。

 「トレント★樹海団」の槍騎士───すけぽ

「君とは随分因縁があるようだな」
 壁によりかかっていたすけぽがゆっくりとイアルに向き直る。
「…っ!!」
 イアルはこれ以前にすけぽの実力を2度見ている。1度目は同じパーティと
してピラミッドへ行ったとき、そして2度目は『ギルド攻城戦』においてチェンリ
ム砦で戦ったときだ。そのどちらにおいてもイアルとすけぽの実力差は明確
だった。そしてすけぽの恐ろしさはその耐久力にある。生半可な攻撃ではす
けぽは全く動じないのだ。
「だけど──負けるわけにはいかないよな」
 イアルはくるくると回した後、ダガーを逆手に持ち不敵な笑みを浮かべた。
「少しだけ──君は変わったな」
「変わってないさ、変わろうとしてるだけさ!!」
 イアルはその言葉を叫ぶと同時に疾風のごときスピードですけぽへと襲い
掛かった。すけぽの槍の間合い手前で上方へと飛んだ。
「ムダだ」
 すけぽは大型のランスを振り回すと、大きく振りかぶった。
「スピアブーメラン!!」

 ブンッ!!

 槍から発生した衝撃波がイアルに衝突した。
「ぐあ…っ!」
 その勢いですけぽの足元すぐそばに落下してしまったイアルをすけぽが見
下ろした。
「だが、実力差は変わってないようだな」
「だから──どんな手を使ってでも勝ってやる!」
「くっ…っ!」
 イアルは逆立ちするかのような体勢で脚を蹴り上げ、すけぽのランスを蹴
り飛ばした。その勢いでランスが天井に突き刺さる。
「喰らいやがれ!!」

 ドガ!!

 イアルがダガーを振りかざした瞬間、すけぽの右拳がイアルの腹部にめり
込んだ。
「舐めるな、徒手格闘も戦闘の基本だ」
「ぐっ…ほっ…!!」
「寝ろ」
 すけぽの左拳の鉄槌がイアルの右頬を撃ち抜いた。

 ズガシャァァァァ!!

 殴られた勢いで床の埃を巻き上げながらイアルの身体が跳んだ。
「槍を狙ったのは見事だったが、詰めが甘かったな」
 すけぽはイアルが完全に意識を失っている事を確認すると身を翻した。

 ────────────ズン

「な──?」
 何と意識を失っているはずのイアルがダガーをすけぽの背中に突き立て
ていたのだ。
「言っただろうが、何でもするってな!!」
「何故──」
 イアルは立ち上がった。間違いなくイアルは意識を失っていた。なのに何
故、立ち上がった!?
「バック──スタブ!!」

 ぞん!!

 再接近距離からの容赦の無い一撃がすけぽの背中を斬り裂いた。
「──ぐ…」
 すけぽが床に膝を屈した。
「仕方ないな…どうやら君の勝ちのようだ。だが、どうやって…」
 すけぽが苦しげな声を吐くと、イアルが苦々しげな表情でボリボリと髪の毛
をかきむしった。
「単なる──死んだフリだよ」
「死んだ──フリ…?フリ…クックク…はっはっはっは!!」
 すけぽが大笑いを始めたため、イアルがすけぽに食って掛かった。
「おいっ!そこまで笑うな!」
「いや、初心者時代のスキルをこんな時に活用するとは…ははは!」
「これでも必死に練習したんだぞ…」
「ああ、見事にダマされたよ。間違いなくこれは君の───勝ちだ」
「──っ」
 すけぽのその言葉にイアルの胸が熱くなる。
「だが、「皇帝の十字架」は強いぞ。頑張ることだ」
「ああ!」
 イアルはすけぽに背を向けると走り始めた。すけぽはその後姿を見送ると
目を伏せた。
「「皇帝の十字架」は──『七近衛』は本当に強いぞ──」

 ◆

 『七近衛』であるギルティ=スターンによりヴァルキリーレルム砦の地下へ
と落とされた「Ocean's Blue」の面々の中で、一人だけ落下していない人物、
それはジュニアだった。ジュニアはあの瞬間、ギルティの脇を通り抜け、ヴァ
ルキリーレルム砦の上階、それも「エンペリウムルーム」でなく別の違う部屋
を目指していた。

 ザンッ!!

 大鎌クレセントサイダーで、ある部屋の扉を斬り裂いたジュニアはその奥
にいる人物へと視線を向けた。
「やっぱりね──いると思ったよ」
「ジュニア=サイドライクか」

 「皇帝」の右腕にして『七近衛』のトップ

 ハイプリースト、「陰陽玉」ライジング=ボーンド

 「皇帝の十字架」のナンバー2の男は巨大なシャンデリアのぶらさがった大
きな部屋の中央に静かに佇んでいた。
「狙いは私か」
「アイフリードだけと思っていたのかい、僕が殺すのはね?」
「だろうな、だがあの時の言葉は私もアイフリードに同感だな」
 ジュニアとアイフリードの因縁、迷宮の森でのアイフリードの言葉。
「─っ」
「『魔の眷属』はクズ揃いだ」

 ブォン…!

 無数の大鎌がライジング=ボーンドのまわりに出現した。

 「空間支配」

 ジュニアの持つ空間干渉能力である。ジュニアはこの能力を駆使すること
により周囲の空間に強制干渉することができる。無数の大鎌を浮遊させ、対
象に襲い掛からせるようなことも──
「死ね、クソ神父が」

 キィィィィィィンガガガガガガガガガ!!

 ジュニアが怒りをともなった言葉を発したと同時に、高音を伴いながら無数
の大鎌がライジング=ボーンドに襲い掛かった。
「アスペルシオ」
 無機質な言葉とともにライジング=ボーンドの手に聖なる光が宿った。その
瞬間、ライジング=ボーンドは大鎌の全てを聖拳で弾き返した。
「お相手しよう、「魔界の貴公子」」
 魔族の誇りを取り戻す───ジュニアの戦いが始まった。

 ◆

 ガキガキガキガキィィイッィン!!

「ネタタタタタタホワタァ!!」
 フィンは凄まじいスピードとともに斬撃を繰り出してきた。もはや人間の領
域を遥かに超えたそのスピードに喰らいつくのがやっとなレイは焦燥感を覚
え舌打ちした。
「くそ、やばいな…!!」
 すでに凌ぐのも限界に来ている。このまま凌いでいるだけでは埒があかな
い。だがレイはもう一つある事を失念していた。

 ───ニヤリ

 フィンが突然浮かべた笑みに背筋が凍るほどの殺気を感じたレイは思わ
ず後方へと思いっきり跳んだ。受け身もままならず、レイは床に背中を思
いっきり打ち付けてしまった。だが、それが正解だった。

 シャン…

 フィンが振りかざした剣の軌跡が斬れていた。

 空気が──斬れていた。

「運が良かったな」
 フィンがそう言葉をもらした。
「くっ!!」
 レイは素早く身を起こすとフィンに向き直った。
「『能力』か…」
 フィンが持っているのは全てを斬り裂く能力。「トレント★樹海団」のギルド
メンバーであるルアーナは気配を完全に消す『能力』を、そしてギルドマス
ターのトレントもまた何かしらの『能力』を持っている。
「今のタイミングで避けなければ──宝剣ごとバッサリだった」
「ああ…我ながら運が良かったと思ってるさ…」
 レイはそう言いながら、ある事に気付いた。

 全てを斬り裂く能力。

 その矛盾に。レイはチラリと頭上を盗み見ると、ガイストがいつでも行動を
起こせるように待機している。
「…」
 レイは静かに炎の宝剣『ファイアーブランド』を鞘へと戻した。そして次に氷
の宝剣『アイスファルシオン』でもって抜剣の構えへと。
「このままやっててもジリ貧なんでね、決着をつけさせてもらう」
「面白いな。やってみろよ」

 ゴォッ…!!

 フィンの殺気、闘気がさらに増した。その迅さと『能力』でもって、レイを斬り
捨てるつもりのようだ。フィンもまた剣を鞘に戻し抜剣の構えへと移行した。

 ジリ…ジリ…

 少しずつ、間合いを狭める2人。両者の額から脂汗がにじみ出た。レイの
奇策が成功するかは、初撃に全てがかかっているのだ。

 ジリ……

 ジリ……ぐきゅるるるるるる

「Noooooooooooooooooooooooooooooo!!」
 突如、叫び声とともにフィンが腹部を押さえてうずくまった。
「───は?」
 レイが呆気にとられて、フィンを見つめた。するとフィンは先ほど飲んだハ
イスピードポーションの入っていた瓶を見つめた。
「ぬぁぁぁぁぁ!!まさかぁぁぁぁぁ!」
 フィンはハイスピードポーションの瓶に紙が貼り付けてあることに気がつい
た。その紙にはこう書かれていた。

 『フィン!便秘にならないように死ぬほど下剤混ぜといたぜ! by.トレント』

「あのアホギルドマスタァァッァァァッァアア!!」
 腹部を押さえながらフィンが血の叫びをあげた次の瞬間。
「隙あり!!」

 ドガ!!

「うわらばっ!」
 レイの飛び蹴りがフィンの顔を蹴り飛ばした。たまらず昏倒するフィン。フィ
ンがばたり…と床に倒れ伏したのを見たレイがため息をついた。
「何か…勝った気がしないぞ…」
 必死で考えた奇策も使わなかった──が、応用は効くだろう。うまくいけば
の話だが奇策は奇策、何度も使えるものではないため、ここで使用しなかっ
たのは益となる可能性のほうが高い。
「とにかく、皆と合流するし──」

 間合いはゼロ。刃が光る。

 敵はフィンだけではなかったのだ。

 この階層に潜んでいた「もう一人」の敵。

 「トレント★樹海団」屈指の暗殺者、プレックスターがレイに襲い掛かった。

 ◆

 ヴァルキリーレルム砦の最前線では「雷獣の咆哮」のギルドマスターにし
てイアルの兄でもあるロウガ=ブラストと、「皇帝の十字架」の最高幹部『七
近衛』が一人、「影身鬼」ギルティ=スターンが死闘を繰り広げていた。

 縮地法という技術がある。

 縮地とは間合いを詰めるのではなく、間合いを極限まで無くす。

 この2人の戦いはその技術の応酬であり、誰の目にも止まらぬハイスピー
ドバトルであった。
「ヒャハ!ロウガ!もっとスピードあげようぜヒャハアアヒャハァ!!」
「あまり無理をすると死ぬぞ?」
 ギルティとロウガのスピードがグン!と増加した。その合間合間に相手に
致命傷を与えんと、急所「のみ」を狙った攻撃が繰り出される。
「ヒャハハハ!大体俺様はテメェなんざ相手にしたくねぇんだよ!さっさと死
ね!俺は女とネットリ遊びたいんだよ!ヒャハハッハ!」
「フン…人の持つ三大欲求の一つに溺れ、それ以外が見えなくなっている」
 ロウガの眼が、全ての暗殺者の頂点に立つ男の眼が爛々と輝いている。
「そのような者が───俺に勝てると思ったか?」
「──ヒャ」

 ブゥン!

 ロウガはギルティの10倍強のスピードでギルティの脇に移動すると、ギル
ティの首を右手で鷲掴みにした。
「メテオ───アサルト!!」

 ッドッゴォゥン!!!

「…っ」
 ロウガの起こした大爆発とともにギルティの身体が力無く崩れ落ちた。ロウ
ガは無造作にギルティの身体を投げ捨てると呟いた。
「理性を持って欲を封ず。例え『七近衛』であろうと貴様程度には負けぬ」

 ドン

 ロウガの腹部に極太のグラディウスが突き立っていた。
「だが──欲望に忠実な方が楽しいと思わないか?ロウガァ、ヒャハ!!」
「ぐ…っ!意識は──失っていたはず──!?」
 ギルティがニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「死んだフリに決まってんだろ!ヒャハハハハ!!」
 ギルティがロウガの身体をグラディウスで滅多斬りにし始めた。

 ザン!ザざン!ぞん!

「楽しいぜロウガァ!死ね死ね死ね死ねヒャハハッハハハハ!!」
 ロウガが追い詰められている様子を見た仲間達が叫んだ。
「ロウガさん!今助けます!」
「貴様!ロウガ様から離れろ!」
「やめろ…来るんじゃない…!」
 ロウガの静止も振り切り、「レジスタンス」の仲間達がギルティへと襲い掛
かった。だが、ギルティの前には無力だった。斬り倒される仲間達をなすす
べなく見るしかないロウガが歯噛みした。腹部の傷が──深すぎる。
「ヒャハハハ!ザコは引っ込んでろ!女は後で可愛がってやるから服脱い
で待ってろ!ヒャハハハ!」
 ロウガが眼を伏せた。




────勝利を確信して。

「ヒャ───ハ、な…何だ、おあああああっぁぁぁああああ!?」
 ギルティの左腕の一部が膨らみ、そして。

 ゴゥン!!

 爆発した。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
 ギルティがのたうちまわった。
「俺の腕が!腕がぁぁぁぁ!」
 ロウガがゆらりと立ち上がった。そして静かに口を開いた。
「メテオアサルトはカモフラージュ、本命はその時同時にしかけた、ベノムス
プラッシャー。簡単に言えば時限式の爆弾だ」
「ひ…ひぃ」
 ギルティが恐怖に顔を引きつらせた。ロウガが淡々と語る。
「ギルティ、さっき楽しいと言っていたな。俺も『楽しい』よ、お前みたいなムカ
つく奴をブチのめせるからな」
 ロウガがギルティの首を鷲掴みにした。そして再度大爆発──メテオアサ
ルトが炸裂し、今度こそ完全にギルティ=スターンは意識を失った。

 「レジスタンス」はようやく『七近衛』の一角を落とすことに成功した。

 [続]


〜あとがき〜
フィンさんは所詮フィンさんでしたというのが今回のあらすじ(ぇ
次回予告!ついに「エンペリウムルーム」での決戦が始まる!
キスクが「Ocean's Blue」の面々へと牙を剥く!
ジュニアの戦いの決着は?レイとプレクの戦いの行方はいかに!



〜Web拍手の返答〜
>フィンさんファン増加の予感?
フーリガンが大量に増えます。

>腐なら、HSP飲もうとして猛毒薬を飲むはずだ(+L+)
惜しい…wと思わずニヤついてしまったorz

>ストライクフリーダムまだ〜?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
ガン○ムマニアは(・∀・)カエレ!!(何故かガ○ダムとわかる俺

>(・ε・)プップクプー
       クルクル
          _ /lミ
   ∧_∧ l /| ̄ l
  (・∀・) | |. |   | ガッガッガッガッ
    ⊂彡☆|_| .|__|))Д´)
        .::|/彡


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