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Ocean's Blue

043:Asura Strike

 ダン!!

 キスクが床のタイルを踏み抜くと同時にレイが身体を半歩右にずらした。
その瞬間、レイが動く前まで立っていたタイルが浮き上がり、キスクがそのタ
イルに手をついた。
「発勁!」
 衝撃がタイルごしにレイに襲いかかる直前にレイが両宝剣でタイルを斬り
裂いた。同時にレイが前屈み気味に斬り裂いたタイルに向けて突っ込む。

 ゴォッ!!

 衝撃が頭上をかすめ、レイがキスクの懐に飛び込んだ。キスクが拳を振り
上げ、レイが宝剣を振りかざした。

 ガギィィィィィッィィ!!

 レイの交差させた両宝剣とキスクのカイザーナックルが凄まじい轟音ととも
にぶつかり合った。と、キスクがその場で体位置を半回転させた。
「猛虎硬派山!」
 半回転させた身体を戻す勢いとともに打ち出された拳が、レイの肩を撃ち
ぬいた。鈍い音ともにレイの身体が吹き飛ぶ。

 ドガン!!

 レイが壁にぶつかり、衝撃で瓦礫がレイの身体の上に降り注ぐ。
「オラアアアアアアアアアア!」
 キスクが瓦礫の下敷きになろうとしているレイに向かって指弾を乱打した。
鬼気迫るその姿はまさに魔人のごとしである。だが次の瞬間、キスクが身体
の位置を左側にずらしつつ横へと跳んだ。

 ドン!

 キスクがたった今いた位置に向けてレイが宝剣『ファイアーブランド』を投
擲したのだ。壁に突き刺さった宝剣を見やるキスク。まさか剣を投擲してくる
とは思ってなかったキスクが一瞬だけ動揺を浮かべた。レイがもう一つの宝
剣『アイスファルシオン』を振りかざして、煙の中から突っ込んでくる。
「甘ぇ!!」
 キスクが吼えながらそれを向かい撃つ。凄まじい攻撃の乱打。「エンペリウ
ムルーム」を周回するように2人の位置が移動していく。


 キスクと互角に戦うレイを呆然とした表情でフィリとエリカが見つめる。
「レイ…あんなに強かったんだ…」
「はい…レイさんの実力は私達と同程度ではないかと思っていたくらいです
し。今まで見聞きしたレイさんの実力は敵に後れをとるような話が多かった
ものですから」
 スフィンクスダンジョンでのウェルガ=サタニックとの戦いや、チェンリム砦
でのトレントとの戦い。レイが後れをとるような、力の差を見せ付けられるよ
うな戦いは多かったと言える。
「まさかとは思うけど、トレントが「皇帝の十字架」の『七近衛』より強いってこ
とはないよね?」
「…それはないと思いますけど…」
 ありえない話ではない。トレントは誰にも気付かれずに攻撃を仕掛けるな
ど多彩な戦闘を見せてきた。そして何より──得体の知れない『能力』があ
る。だとするならば──
「掛け値なしに「トレント★樹海団」は最大の障害になりますね…」
「うん…」


 強ぇ

 マジで強ぇ

 キスクの口元に自然と小さな笑みが浮かぶ。こいつになら見せてもいいだ
ろう。俺の本気を。最強の技を。

 俺には負けられない理由がある。

 神仙の島コンロンで「皇帝」アイフリード=フロームヘルに命を救われた俺
とリシアは一生この人についていくと誓った。命の恩人であるあの人に。

 だから負けられない。

 あの人の道を阻む奴はぶっ潰す。

 本気でな。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 レイが跳び退る。キスクの叫びに本気の色を汲み取ったからだ。恐らく何
かしら強力な技を仕掛けてくる。いや、そんなモノは一つしかない。仕掛けて
くる技はモンク達の最強奥義。

 ばちばちばちばちばちばち!!

 キスクが稲妻のごとき力をその身に、その拳に宿す。
「ガイスト!」
 レイの鋭い言葉に頭上を旋回していたガイストが攻撃体勢に入る。だが無
駄だ。勝つのは───俺だ!裂帛の気合いとともにキスクが駆け出す。レ
イもまたキスクに向かって駆け出す。
「三段掌──連打掌!」
 拳の三連打からの連携、痛烈な一打。
「猛龍拳───伏虎拳!!」
 振り下ろし気味に相手を吹き飛ばし、追撃の拳撃。
「連柱崩撃!!」
 追いついたと同時に無数の連撃。その全てを受けたわけではないだろうが、
レイの身体が「く」の字に折れ曲がる。

 終わりだ。

 とてつもなく強大な気がキスクの拳に宿り──拳が吼えた。
「阿修羅──覇凰拳!!!」

 光と、爆音が、木霊した。

 ◆

 ズズズズズ…

 地響きとともにヴァルキリーレルム砦自体が振動した。
「どうやら決着がついたようだ」

 スッ…

 「皇帝の十字架」ナンバー2、ライジング=ボーンドが拳を降ろした。 
「もうやっても無駄だろう、お互いにな」
「…」
 ライジング=ボーンドと戦闘を繰り広げていたジュニアが不服そうな表情
を浮かべた。その表情を見たライジング=ボーンドが諭すように言った。
「仲間に迷惑をかけたくないのなら、矛を収めることだ。「決着」がついた後
の戦闘は禁じられている」
「わかってるよ」
 ジュニアが少し投げ槍気味に言った。
「でも腑に落ちない事もある。何故──そうまでして僕らと戦いたがる?」
 凄まじい戦闘痕が残る部屋を見渡しながらジュニアが聞いた。
「決まっている。アイフリードは最後の詰めとして何人もの英雄を喰らうこと
にしたのだ。最強を手にするためにな」
「僕はその犠牲の羊たりうる存在ということか」
「ああ、その通りだ。「魔界の貴公子」」
「…」
「それと」
「…?」
「一応保険をかけておいた。どう転んでも、この砦における我々の敗北は
──ゼロだ」
「──何?」
 ジュニアが怪訝そうな表情を浮かべるのを見て取ったライジング=ボー
ンドは身を翻し、その場を立ち去っていった。去り際にこう言葉を残して。
「すぐにわかることだ」

 ◆

 キスクがあまりの驚きに目を見開いた。

 阿修羅覇凰拳を受け止めやがった!?

 キスクは拳の先を、レイが弓で受け止めている様を凝視した。ルドラの弓
──レイに付き従う鷹のガイストの真の姿にして『ラグナロク』発動の鍵。

 そう、レイはルドラの弓でキスクの阿修羅覇凰拳を止めたのだ。

「──くっはぁ…、衝撃で腕がしびれる…よなぁ!!」

 ドン!!

 レイが呻き声をもらしながら、宝剣『アイスファルシオン』でキスクの肩を貫
いた。大技の直後で回避が間に合わずキスクはまともにその攻撃を受けて
しまった。
「ぐっ…、何でだ…!?」
 致命傷にもなりうる一撃を受けながらもキスクが凄絶な表情を浮かべなが
らレイに尋ねた。阿修羅覇凰拳は間違いなく最強クラスの技だ。受け止める
ことなど───まず不可能。
「ガイストは──神具だからな」
 レイのその一言はキスクは理解できるものではなかった。
「く────っ、こっの…!!」
 キスクが肩に突き刺さった宝剣を引き抜こうと手をかけた──が、レイの手
がそれを押しとどめた。レイが静かに口を開いた、燃え盛る闘志をその眼に
秘めて。
「キスク、悪いな…俺は前に進ませてもらう!!」

 ドガン!!

 レイの拳がキスクに顔面に炸裂、強烈な一撃とともにキスクはそのまま意
識を失いその場に倒れた。決着の様子を見届けたフィリが、肩で息をしなが
らキスクを見下ろしているレイに駆け寄った。エリカはイアルを含む、他3人の
容態を見にいったようだ。
「レイ…一体どういうこと?」
「ああ、要するにガイストは神具だから人の手じゃ絶対壊れないだろ?だか
ら最強の盾になるんじゃないかな〜とか思ってさ」
「──っ」
 理解したフィリが驚きの表情を浮かべた。レイがフィン=ロルナークとの戦
いの時に思いついた奇策というのがコレだ。フィンの『能力』は全てを斬り裂
く=人の力が遠くとも及ぶ範囲ではないのかと考えた。つまり、人の力が届
かない神の領域だった場合、その『能力』は意味を成さないのではないか。
 だが実際の所、危険な賭けではあったし、いざ実行しようとしたらフィンが
腹痛で力尽きてしまった。あげくこんな切り札があることはすぐにでも広まる
だろう。決め手とするには一度限りの奇策と言うわけだ。
「フィリさん、皆さんにヒールをお願いします」
「うん」
 フィリがエリカに呼ばれてぱたぱたと走っていく。

 そしてレイは壁に刺さった宝剣『ファイアーブランド』を抜き、「エンペリウム
ルーム」の中央にある巨大なエンペリウムへと歩み寄っていく。だが、

 ゴゥン!!

 何の前触れもなく突然、レイのまわりに毒の霧が出現した。
「なっ!?」
 レイが後方に飛び退ると、エンペリウムの前には2人の男が立っていた。そ
れは先ほどレイを襲った「トレント★樹海団」のアサシン、プレックスターと…

 「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレントだった。

「トレント…っ!!」
 レイが焦りの表情を浮かべた。トレントの出現にフィリやエリカも立ち上が
り身構えた。トレントはいつものニヤニヤ笑いとともに口を開いた。
「初勝利おめでとう、レイ=フレジッド。次の相手は俺だ」

 チャ…

 レイが2つ宝剣に手をかけた。だが状況は厳しすぎる。キスクとの戦いで体
力をほとんど消耗してしまっているのだ。勝てる見込みは…ゼロだ。だが、ト
レントが発した言葉は意外なモノだった。
「と、言いたいところだがな。今日の俺はおつかいさ」
「…何?」
 トレントがおもむろに剣を引き抜き、一刀のもとに斬り裂いた。

 「エンペリウム」を。

「──────────な」
 レイが驚きの声を上げる間もなくすぐさま戦いが終了した。


 砦 [Valkyrie Realms] を [トレント★樹海団] ギルドが占領しました。


「お…」
 レイが声をかすれさせながら言葉を絞り出した。
「おぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!!」
 不満度マックスのその叫びを聞いたトレントが耳を塞いだ。
「(∩゚д゚)アーアー聞こえない聞こえな〜い 」
「く…っ!この…っ!クッソ…野郎っ…!!」
 怒りでまともに言葉がでないレイに向けてトレントの隣にいたプレクが口を
開いた。
「砦の同盟回しは禁じられているが──俺たちは雇われの身だからな」
「んな理屈が通るか!砦返せよ!俺たちの勝利を返せよ!」
 トレントがレイのその言葉に返答した。
「あ〜今日中にアルデバランに向かって出発するから明日この砦取れば?」

 ブチブチブチ

 レイは脳内の血管が切れまくるような気分になった。トレントは最悪であ
る。そして何が最悪かやっとわかった。
「お前…性格最悪だろ!」
「俺ほど紳士な男はいないぜ?」
「嘘付けええええええええええええええええ!!」
 レイの叫びがヴァルキリーレルム砦に響き渡った。

 ◆

 かくしてレイ率いる反皇帝同盟「レジスタンス」と「皇帝の十字架」の前哨戦
はライジング=ボーンドの言っていた保険──トレントにエンペリウムを壊さ
せて強引に戦いを終結させるという、うやむやな結末となってしまった。
「くそ…トレントめ…」
 その日の夜、レイはプロンテラの中央にある噴水でブツクサと文句を呟き
ながらある人物を待っていた。今日はフィリとのデートというわけではなく、あ
る友人を待っていた。
「すまん、待たせたな。レイ」
「おっせーよ、キスク」
 レイとキスクはアルベルタで別れてから、ようやくゆっくりと話す機会をもう
けることにしたのだ。
「レイ、まさか俺が負けるとは思わなかったよ」
「結構ギリギリだったけどな」
「そう言ってくれると助かるぜ」
 キスクは笑いながらレイと拳をつき合わせた。そしてキスクが静かに口を
開いた。
「なぁ…レイ。何でお前そんなに俺たちに…「皇帝の十字架」に突っかかって
くるんだ?」
「…」
 レイはこの友人を信じる事にした。いや最初から疑ってなどいなかったが。
「俺さ、オフクロを探す旅をしてたことは知ってるよな」
「ああ」
「その犯人が…お前らの中にいる。「皇帝の十字架」のトップ8の中の誰かな
んだ」
「何…まじかよ…」
「間違いない。『奴』は宣戦布告してきたんだ。俺を見つけてみろってね」
 キスクが天を仰ぐように上を向いた。
「はぁーっ…そりゃ突っかかりもするわな…だから『ギルド攻城戦』にも参加し
てるってわけか…」
「黙ってたのは悪いと思ってるよ」
「いや、その話なら俺も怪しい奴の一人だからな、迂闊に話さなくて正解と思
うぜ。あーだけど、リシアは違うと思う」
「リシアは違う?」 
 フィリとともにルナの店で働いていた少女である。彼女もまた「皇帝の十字
架」のメンバーのロードナイトだった。
「あいつさ、昔は箱入りお嬢様だったんだぜ」
「へぇ…ってまじかよ」
 あまりにギャップが凄いためレイが思わず本音をもらす。
「つっても俺が疑われてるんじゃ信憑性ねぇな…」
「いや参考になったよ」
「そう言ってくれると助かる。っつーか俺も内部を洗ってみる事にするわ」
「キスク…」
 レイが驚きの表情を浮かべた。
「もしそうならそんな奴許せないからな。人様の幸せを奪う奴なんてサイテー
だ。だけどよ、レイ」
「…?」
「お前が「皇帝」に立ち向かおうとする度に俺がお前の前に立ち塞がるって
こともわかっておいてくれ。俺とリシアは昔、「皇帝」に命を救われてるんだ」
 それはキスクの譲れない想い。「皇帝」のために戦うことがキスクの出来る
唯一の恩返しだからだ。
「ああ、わかってるよ」
 レイが苦笑した。お互いに譲れないモノの大きさを認識して。

 この日2人は互いが再び戦うであろうことを予感した。

 [続]


〜あとがき〜
ヴァルキリーレルム編終了です。
このヴァルキリーレルム編はあくまで前哨戦。
次に控えているルイーナ決戦が『ギルド攻城戦』のメインストーリー!
トレントの企みとは!?フェイトは一体誰なのか!?
こうご期待ください(*´Д`)
次回予告!全く考えてません!ラ○コメでいいんじゃねぇかとか思ったり。



〜Web拍手の返答〜
>トレント★樹海団は死んだふりが得意ですか?
フィンさんに関しては腹痛で本気で死にかけてます。

>きっと颯爽と教授が現れてSP奪うんだね(-x-)
颯爽と現れそうな教授が小説にいませんorz

>ってか青いのは適当な所で倒されてるのだろうか(=x=)
フィンさんは適当な所でのびてます。


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