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Ocean's Blue

047:Sacrifice

 国境都市アルデバラン──衛星都市ルイーナ

 そこに『ギルド攻城戦』史上、最も難攻不落と言われている最強の砦、ルイーナ
砦がある。そしてそこを治めるのが世界最強のギルド「皇帝の十字架」である。
その砦の一室──ギルドマスターが住まうとされるマスタールームの書斎で「皇
帝の十字架」のギルドマスター、アイフリード=フロームヘルは様々な書類に目
を通していた。

 コンコン

 ノックの音。
「開いてるぞ」
 アイフリードは扉の向こうに声をかけた。すると、がちゃりと扉を開けて入ってき
たのは「皇帝の十字架」の最高幹部『七近衛』の一人であり、レイやフィリの友人
でもあるルナ=イムソニアックだった。
「アイフリードさん〜おいしいお茶が入りました〜」
 相変わらずの間延びした声である。
「む」
 アイフリードはルナからお茶を受け取りながら言った。
「わざわざお前がお茶汲みなどする必要はないぞ…?」
「いえ〜私がやりたいだけですから〜」
 そう言うルナの頬は少し朱に染まっている。誰が見てもわかりやすい反応であ
る。アイフリードはルナのお茶に口をつけた。
「おいしい」
 アイフリードは素直な感想を述べた。ルナがにっこり笑った。
「ありがとうございます〜」
「いや礼を言うのはこちらのほうだろう。しかしこんなにおいしいお茶は久しぶり
だ」
「ありがとうございます〜」
「いやだから…」
「えへへ〜」
 アイフリードは困ったように苦笑を浮かべた。最近の苦しいときはいつもルナが
傍にいてくれるような気がする。いや気がするのではなく実際そうだ。ヴァルキ
リーレルムの戦いにおいて敗北した「皇帝の十字架」はこれまでの作戦プランを
全て練り直し、かつ最強の布陣で「レジスタンス」を向かいうたなければならない
のだ。
「お茶菓子もあるんですよ〜」
「ああ、ありがとう」
 個々の実力で「皇帝の十字架」は勝ち続けたのではない。勝つためにはそれ
相応の準備、作戦、そして人材が必要になるのだ。それは精密緻密な作業、一
手一手駒を進めるチェスのように。
 だが正直行き詰っていたというのも本当のところだ。ロウガ=ブラストにギル
ティが敗れたのはまだ納得ができるが、キスクがレイ=フレジッドに敗れたのは
未だに信じがたい。そしてライジング=ボーンドの報告によるとジュニアは自分
が戦ったときよりもさらに、圧倒的に力を身につけているらしい。
「これは何というお茶菓子なんだ?」
「これはドライポテトっていうお茶菓子です〜」
「うまいな」
 正面からぶつかれば確実に勝つのは自分たちだ。これは間違いない。だが大
番狂わせというものはどこにでもある。一騎当千の『七近衛』が全員敗北すると
は思えないが、「思えないが」ではだめなのだ。欲しいのは確実な勝利である。
「トレント★樹海団」を捨て駒にするか?未だにあのギルドは信用がおけない。こ
こらで潰しておくのもアリかもしれない。
「今日はお天気がいいですね〜」
「む…」
 自分は殺伐としたことを考えているのに、ルナはまったり、にこにこ微笑んでい
る。これで『七近衛』の一人なのだから信じられない人間が多いのも納得できる。
だがルナの強さは折り紙つきである。折り紙つきなのであるが…このまったり感
にペースを乱されることもしばしばである。
「アイフリードさん〜お散歩いきませんか〜?」
「──────ああ」
 少し考えた後にアイフリードは席を立った。書斎にこもって考えていてもロクな
案は浮かばないだろう。それに──この少女に少しだけ心惹かれる自分がいる
ことも自覚していた。

 自分は 「もう1度」 人を愛せるだろうか?

 ◆

「あははははははははっ!!ひぃーおかしーっ!!」
「おい!!そこまで爆笑するなよ!!」
「いやほんと手ひどくやられたわね、ぷぷ」
 砦の一角にある休憩室ではヴァルキリーレルム砦でボコボコにやられたキスク
をリシアが指差して笑っていた。
「あのな、レイはマジで強ぇぞ」
「へぇ…そこまで言うなら信じてもいいけどさ、どう?次は勝てそう?」
「勝つさ、勝ってあの人の恩にむくいてやる」
「そ、そうね」
 真剣な表情で言うキスクにリシアが少し驚いたような表情を浮かべた。
「ん?どうした?」
「な、何でもないわよバカ!」
 見とれていたなどとさすがに言えないリシアはとっさにバカと返した。
「バカってなんだコルァ!!」

 キスクとリシアは4年前──その男に出会った。

 ◆

「オヤジィ…まだ歩くのか?」
 4年前の──14歳のキスクは前を歩く自分の父親に声をかけた。
「もうすぐつくぞ」
「さっきからそればっかじゃないかよ、クソオヤジ」

 ごがん!

「〜〜〜〜〜っ!!」
「ほら着いたぞ、よく見てみろ」
 脳天に拳骨を食らったキスクが涙目になりながらふと前を見ると、そこには天
空に浮かぶ島が存在していた。
「オヤジ…あれが」
「そう、コンロンだ」

 神仙の島コンロン

 そこは所謂仙人達が住まうとされる島にして、人との交わりをもたない辺境の
地である。キスクの父はここの出身であるが、外の世界を旅し、時々ここに里帰
りしているのだそうだ。キスクはコンロンではなく、ミッドガルド大陸で生まれ、コン
ロンに来るのは初めてである。

 コンロンへと足を踏み入れたキスクは奇異の視線に晒された。
(あれが例の…)
(かわいそうに…まだ年端もいってない少年では…)
(お嬢様にこれから会いにいくのだろうな…)
(祟りじゃ…祟りがある前に早く…)

 キスクが前を歩く父親に尋ねた。
「何か変な目で見られてないか?」
「外から来た人間が珍しいんだろ」
 父の淡々とした答え。


 コンロンの中でも一際大きな屋敷へとやってきたキスクとキスクの父は、玄関
先で待っていた侍女に中へと通された。
「おお、よく参られた!」
 屋敷の主人と思われる人物とキスクの父が話し始めると、侍女がキスクの元に
やってきた。
「キスク様、こちらへ」
「ん?」
 何だかよくわからないが、ここでつまらない話を聞いているよりはマシだろうと
キスクは侍女についていった。ある部屋の前で侍女がお辞儀した。
「キスク様、どうぞ中へ」
「あんたは?」
「私はここでお待ちしております」
「…何かよくわからん…」
 キスクは言われるままに部屋の中へと入った。

 そこには一人の少女がいた。自分と年は変わらないだろう。
「誰お前?」
「あんたこそ誰よ!勝手に入ってこないでよ!」
「いや俺案内されてきたんだよ」
「出てって!」
「あのな!意味わかんねえんだよ!」
「出てって!」
 その少女はついには部屋の物をキスクに対して投げ始めた。
「うわっ!わかったから!出て行くから!やめろって!」
 キスクが慌てて扉のノブに手をかけて──硬直した。
「カ…カギがかかってる…」
「えっ!?」
 これには少女も意外だったらしく、慌てて少女もドアノブに手をかけた。やはりカ
ギが外からかけられている。
「この部屋にはここしか出口がないのに!」
 少女の部屋には窓はなく、出られそうなのはこの扉くらいなものだ。
「くそっ!開けろよ!おい!」

 ドン!ドン!ドン!

 キスクが扉を蹴るが、扉の向こうにいるはずの侍女は何もしない。いや何もし
ないのではない。侍女はすでにこの屋敷から姿を消していた。いや侍女だけで
はない。屋敷の人間全て、何とキスクの父すらも屋敷から姿を消していたのだ。
「何なんだよ一体!!」
 キスクが途方に暮れて扉に寄りかかったまま座り込んだ。
「やっぱり…爺やの言ってた通りなんだ…」
 両手で腕を抱きかかえ少女が震えだした。
「おいお前、何か知ってんのか?」
「お前って言わないでよ!私にはリシアって名前があるわよ!」
「知るか!今聞いたぞそれ!で、何か知ってるのか!?」
 リシアは俯きながら答えた。
「あまり知られてないけど…コンロンでは10年ごとに祟り神様に15歳以下の男女
一組を生贄として捧げてるそうよ…」
「───は?」
 いきなりの衝撃の真実にキスクの目が点になった。
「つまり…俺たちがその食われる役?」
 コクリとリシアが頷いた。
「な…何でだよ。俺はただの里帰りだって…」
「知らないわよ!私だって何でこんなことになったのかわかんないし!」
 リシアの目に涙が浮かんだ。その涙を見たキスクがゆっくりと静かに立ち上
がった。
「ふざけんな…食われてたまるか!!」
「だめよ!祟り神様に逆らったらこの島はおしまいよ!?」
「自分が犠牲になれば助かるってか!?あのな!俺らをまんまと生贄に仕立て
上げるような奴らのために死ぬのは俺はまっぴらごめんだ!」
「じゃあどうすればいいのよ!!」




 我に────喰われればよい。




「「…っ!!」」
 ぞくり。凄まじいまでの圧迫感と寒気、恐怖が2人を襲った。めきめきと音を立て
て屋敷が何かに「絞め上げられている」。

 ばぎぃ!!

 床が割れ、天井から砂埃が落ちる。
「きゃあああああああ!!」
 リシアが悲鳴を上げた。キスクは悲壮な表情で落ちてくる瓦礫からリシアを必
死にかばっていた。そして屋敷の裂け目からそれは見えた。


 祟り神───黒蛇王


 巨大な大蛇の化け物、魔王すら呼ばれる最悪の魔物である。
「何だよ…っ!コイツ…」
 屋敷の亀裂からこちらを見据える黒蛇王にキスクが恐怖に声を震わせた。




 我に────喰われよ。




「「ひぃ…!」」
 2人が恐怖に震え、死を覚悟した、その時。

 ドガン!!

 黒蛇王の後頭部が突如爆発した。だがダメージはないらしく、黒蛇王がゆっくり
と振り返った。キスクとリシアは黒蛇王の向こうに一人の魔術師の男がたたずん
でいた。
「あいつは…?」



 邪魔をするか────人間。
 


 魔術師の男は一言だけ呟いた。
「失せろ、黒蛇」
  

 ─────な─


 次の瞬間、黒蛇王の肉体全てに電撃が走った。それは電撃などではなく雷撃、
稲妻のごとき圧倒的な暴力。黒蛇王の肉体が痙攣する。そして、ゆっくりと魔術
師の男が手を黒蛇王に向かってかざした。
「滅べ」


 第2禁呪─────



 



 グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 地に轟くかのような絶叫。

 その魔術師の男によって紡がれた力ある言葉が紡がれた瞬間、輝き凍れる氷
の大竜巻が出現した。その氷旋風は黒蛇王の全てを破壊しつくし、暴虐の限りを
つくす魔王のごとく、黒蛇王を蹂躙し無慈悲に殺した。
 魔術師の男の視線が屋敷の中にいるキスクとリシアへと向いた。

 その魔術師の男──「皇帝」アイフリード=フロームヘルとキスク達の最初の
出会いだった。

 ◆

 その街は神仙の島コンロンなのではなかった。言うならば島全体でコンロンの
名を騙り、邪教を崇める集団の住処だった。そしてキスクの父も、リシアの家族も
全て偽者、キスクもリシアもどこかの村からさらわれてきた子供だったのだ。
 アイフリードは正義のためではなく、「存分に潰せる」相手だからこそ徹底的に
破壊し尽した。偽コンロンの島の住人を殺し尽くし、キスクの父親を騙っていた者
を殺し、リシアの家族を騙っていた者を殺した。

 そしてアイフリードはキスクとリシアに手を差し伸べた。力が欲しいなら、俺とと
もに来いと。進むべき道がないのなら、俺とともに来いと。

 キスクとリシアはそれから死に物狂いで強くなっていった。ヴァルキリーに出会
い、上位2次職となれるまでに。2人は技を常に競い合い、高みを共に目指してい
た。そして、いつしか2人は世界で最強のギルド「皇帝の十字架」の中核をなす人
間へとなっていった。

 そんなある日、キスクがリシアに打ち明けた。
「俺さ…ルナの事が好きみたいだ」

 ───────────────ッ!!!!

 心臓が張り裂けるかと思った。

 いつも一緒にいて、これからも一緒だと思ってた。

 ずっと、キスクの事を見ていたのに。

 リシアは内心の動揺を悟られないように一言だけ。
「そう…なんだ」
 と言葉をしぼりだすのが精一杯だった。

 キスクがルナを追ってアルベルタに行ったとき、いてもたってもいられなくなっ
た。精錬で失敗したなんて嘘だ。心配だった。イヤだった。キスクがルナにフられ
て安堵する自分がイヤになった。どんどん心が乱れていく。


 この小さな嫉妬が、いつしか大きな火種になることをリシア達はまだ知らない。

 [続]


〜あとがき〜
今回は「皇帝の十字架」のお話でした。第2部の大きな敵ギルドですが
彼らにも事情日常色々ありますよっと!
次回予告、また「Ocean's Blue」側に話が戻ります。
レイ達の元を訪れた意外な人物、それはフィリの姉であるミリアだった。



〜Web拍手の返答〜
>ご、拷問部屋・・・((((;゚Д゚)))トレントジュカイダンコワイコワイヨ
拷問部屋からは毎日、怒声と罵声と納豆食う音が聞こえてきます。

>スキッドトラップしか使える罠はないのだろうか・・・
トーキーボックスも使えます。

>仕事場で見るんじゃなかっt 噴いたジャネェカヾ(`д´)ノ
>どうせなら( ̄(エ) ̄)も巻き込m
待てぇぃ!仕事場で見たの俺のせいじゃないぞっ!

>次は蹴りコロしたいでs
了解っ(ぇ

>あ、出していただいてありがとうです(*ノノ)←自意識過剰組
こちらこそ名前使わせていただいてありがとーん


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