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Ocean's Blue

056:Conclusion

 それはトレントがまだ冒険者になってから一ヶ月程度たった。トレント
のまわりには仲間が少しできていた。現在の「トレント★樹海団」ナン
バー2であるルアーナ、そして同じくナンバー3のフィン=ロルナークで
ある。彼らはルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラから南東に位置
する衛星都市イズルードを拠点に日々修練と経験を積んでいた。
 そんなある日の事。トレントがルアーナにある言葉を発した。
「ルアーナ、俺のことをパパと呼べ」
「…」
 とても汚いモノを見るかのような目でトレントを見るルアーナ。
「トレント…頭に変なものが沸いた?」
 だが、トレントは至極マジメにある言葉を発した。
「夢を見たんだよ…幻想の中にある街を…」
「え…」
「その街の名前は…確か」

「「真紅都市ルアーナ」」

「な!?」
 今度はトレントが驚く番だった。ルアーナが発した街の名称と自分の
言った言葉が重なったからだ。ルアーナは少し憂いを表情に浮かべた。
「フィンもね…同じ夢を見たって言ってたよ」
「よし、行くか。真紅都市」
「─────は?」
 ちょっと待て、色々段階を飛んでそれかこの男、そもそも夢の中の街
に行こうなどとやることなすことが突拍子なさすぎる。だが───
「面白いかもね」
「ん、夢を追うとかバカらしいと言うと思われてたんだがな」
「思わないって。夢を追うなんてロマンティックじゃない。私達は夢を追
いかける冒険者なんだしね」
「フィンの奴も巻き込んでやるぜ、ヘッヘッヘ」
 ルアーナは「あ〜あ、フィンかわいそ」とか思いながら遥か遠くにある
であろう街──自分と同じ名前の真紅の都市に思いを馳せた。毎度ト
レントにひどい目にあわされているフィンも結局この件に付き合うだろ
う。思えば、この時が───はじまりだったのだ。

 ギルド───「トレント★樹海団」の。

 ◆

 レイがルドラの弓を引くと同時にトレントは間合いを詰めた。レイが弓
が扱えるとということは遠距離戦でのアドバンテージは消えた。むしろ
向こうに持っていかれたと考えるべきだからだ。
「っらああああああっ!!」
 トレントの裂帛の気合いとともに剣が振り下ろされる。

 トレントの右腕であるルアーナが言った。
「私達が進む道は間違いなく茨の道になるよ。だけどトレントは出来るっ
て言ってくれた。私達はトレントを信じてる。ずっと信じてる」

「なにぃっ!」
 異様な体術、ありえない。レイは今にも矢を放とうとした弓を床に突き
立て、それを軸に身体を回転させたのだ。物理的にありえない動き。そ
れがトレントの攻撃を鈍らせた。そしてその回転ごとレイの蹴りがトレン
トの腹部に突き刺さる。
「がほっ…!」
 トレントがたたらを踏んだ。

 現実的に確実を求める聖職者、エレンが言った。
「トレントはバカなロマンティストですね。夢の中の街を追いかけるなん
て本当にバカです。だからこそ、私達は皆、トレントについていくんです
けどね」

 トレントが蹴りの衝撃で後退した所をレイは追撃せずに後方へ跳び
退った。レイが同時にルドラの弓を引きしぼり──複数の矢を放つ。
「どっちに放ってんだ、ゴラァ!」
 あさっての方向へととんでいった矢を嘲笑いながらトレントが再度レイ
に肉薄する。その瞬間、トレントの身体に衝撃が突き抜けた。

 癒しと活力を与えるプリースト、奈留が言った。
「ともに歩む仲間がいることはいいことですねトレント。この時がいつま
で続くかわからないけど、最後まで私は歩んでいきたいと思っていま
す」

 バカな。

 あさっての方向へと飛んだ矢が「直角」に曲がって襲い掛かってき
た。奇術ではない、これはただの技術。レイが矢に凄まじい回転を加
え、カーブさせたのだ。
「くっそ…が!!」
 だが、トレントの闘志は衰えない。

 大局を見極めるブラックスミス、バステトが言った。
「トレント、どうやらここにも真紅都市の情報はないようです。本当に手
強い、難易度の高い目標ですね。だからこそやりがいを私は強く感じま
す」

 ガキィィン

 レイが蹴り上げた宝剣がレイの手の中におさまり、トレントの持つ魔
剣「エクスキューショナー」と激しくぶつかり合う。だが次の瞬間、ガイ
ストがトレントの背中を強襲、トレントの背中を斬り裂いた。

 戦慄のギャンブラーアサシン、プレクが言った。
「俺は青箱、トレントは真紅都市。バカにされてもいいさ。夢とは他者に
は理解されず、そして己の全てを賭けるに値するモノだからだ」

 その隙をつかれ、レイに蹴り飛ばされたトレントが床を転がる。顔をあ
げた時、レイはルドラの弓に矢をつがえ、こちらの眉間を狙っていた。
「くそったれがぁ…!!」
 強すぎる。これが──最強の魔王の一角「幽鬼なる海魔」ドレイクを
倒したとされる「神雷」レイ=フレジッドの真の力。

 寡黙で実直なる騎士、すけぽが言った。
「トレント、お前は相変わらず突拍子もないことを考えるのだな。だが、
それがいい。その話、俺も一口噛ませてもらおうか」

 トレントは今の攻防の途中でソードナイフを放っていたがそれら全て
を捌かれていることに戦慄した。そして───もう一つ。
「いつの間に…」
 トレントのまわりはレイの置いた罠で──地雷原に囲まれていたのだ。
「喰らえ」
 レイの言葉と同時に爆発が起こった。

 トリッキーなハンター、クリスが言った。
「夢の中の都市を追うことに正直興味はないな。だが、トレントがどうや
るか、その過程に興味がある。見せてくれ、その努力と言う名の過程を」

 意識が飛びそうになる。だがまだだ。意識を必死につなぎとめるトレ
ントの前に、レイが間合いを詰めた。レイはルドラの弓をもって駆けて
きた。あれを盾とするつもりか──ならば。
「ボウリングバッシュ───剣圧衝撃波」
 まずは動きを止める。トレントの放った衝撃波がレイの足元に突き刺
さった。その瞬間、レイの姿がかき消えた。

 後先考えない奔放な狩人、アリシャが言った。
「いつの間にか大所帯になっちゃいましたねぇ。多分あれですね、皆気
付いてるんですよ。夢を追い求めるトレントの姿が本当の冒険者の姿だ
と」

 どこに消え───

 後頭部に衝撃。レイの蹴りがトレントの後頭部を蹴り飛ばしたのだ。
動きが恐ろしく迅く、見えなかった。
「うああああああああああっ!!」
 ボウリングバッシュ──剣圧衝撃波を放ったトレントと、空中で体勢
を立て直しながらレイは弓を引き絞った。
「ダブルストレイフィング!」

 ゴゥン!!

 誠実にて自由なる聖騎士、アルヴィンが言った。
「私に見せてください。トレントが真紅都市にたどり着く所を。夢をかな
える所を。人が信ずれば、夢は、願いは必ず…必ず叶うということを」

 衝撃が両者の間を突き抜けた。

 煙が舞い上がり両者の姿が見えなくなる。

 レイとトレントは煙の向こうに己が敵の気配を感じとった。

 決着の時は───近い。

 神速のネタ騎士、フィン=ロルナークが言った。
「トレントは立ち止まるな、振り返るな、前へと進め。お前の駆け抜けた
道、それこそが俺達「トレント★樹海団」の進む道となる」


「夢の中の街を探す?君らの頭はイカれているのかね?」
「くだらねぇ、そんなことに船をだせるか、他を当たってくれ」
「またお前らか。諦めな、そんな事に協力する船乗りはいねえよ」

 誰にも理解されなかった。

 辛い思いもたくさんした────させた。

 だけど──俺の仲間は俺についてきてくれた。

 負けてたまるか。

 諦めてたまるか。

 俺についてきてくれた───あいつらのために!!

 トレントの眼が一際紅く───輝いた。

 ◆

 『ギルド攻城戦』──ルイーナ決戦最後の戦いを映し出すライブカメラ
の2つの画面、時がたつにつれて、誰もがジュニア=サイドライクとアイ
フリード=フロームヘルの戦いに魅入るようになっていた。戦いの次元
が違いすぎるからだ。だが──誰かが呟いた。
「おい…あれすげぇぞ…」
 誰かがレイとトレントを映し出す画面を指差した。
「なにあれ…」
「常軌を逸してるぞ!?」

 画面の中、ライブカメラが映し出していたのはトレント。

 トレントが魔剣「エクスキューショナー」を天高く掲げ、それに銀色の凄
まじいエネルギーが、ハリケーンのごとき凄まじい力が収束していたか
らだ。

 凄まじい轟音がルイーナ砦を揺るがす。

 ◆

「そう、それでいいトレント」
 ライブカメラに見入っていた「皇帝の十字架」ナンバー2、ライジング=
ボーンドが静かに呟いた。
「その執念が───お前を強くする」
 その言葉を横で聞いていたイアルとティアが怪訝な表情を浮かべた。
そしてイアルが疑問を口にした。
「あんたさ、トレントとどういう関係なんだ?何か知ってるみたいだが」
「ああ…」
 ライジング=ボーンドの手にはいつの間にか刀が握られていた。
「トレントとは───この「刀」でともに戦った遠い戦友だ」
「「??」」
 イアルとティアはわけがわからないと言った風に顔を見合わせた。

 その刀には「シュラム」という銘が刻まれていた。

 ◆

 ギャギギャガガッガガガガガガガガガガ!!

 凄まじい異音を奏でながら、トレントの魔剣に銀色の瘴気が収束して
いく。

 真紅剣───「銀狼」

 誰もが見たことのない恐るべき力が、今まさに相手を喰らわんとする
狼の牙から涎をたらしているかのような雰囲気をかもし出していた。
「こいつはとっておきだレイ=フレジッド。俺の正真正銘最期の切り札、
「皇帝」戦にとっておくつもりだったんだがな!」
 だが。
「お前は強ぇ。冗談抜きでここまで強いとは思わなかった。だから潰す
──俺達の夢を阻むものは全て潰す!!」


 静かに、レイは2本の宝剣を紅蓮の宝剣「ファイアーブランド」と輝氷の
宝剣「アイスファルシオン」を、ルドラの弓につがえた。

 2本の「矢」に見立てて。

 誰もが思った。まさか──そんなことまで出来るのか。いやできるだろ
う──レイ=フレジッドなら「神雷」と呼ばれるほどの英雄なのだから。
「トレント、お前に夢があるのはよくわかった。だが──お前は間違って
る。それを俺が───教えてやる!!」

 次の瞬間、

 2つの超衝撃波が衝突した。

 ゴグガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 轟音とともに2人のいる「天空台座」にひび割れが発生する。凄まじい
衝撃波のせめぎ合いが広範囲に破壊をもたらしていく。

 レイが叫ぶ。
「トレント!夢があるなら…!そんなに夢を願うのなら!小細工なん
ざするんじゃねえ!」
「なんだと!」
「『ギルド攻城戦』で小細工してるヒマがあるなら!世界の全部をねじ
伏せるぐらいの事をやってみろよ!!」
「…っ!」
「少なくとも…俺ならそうやって前へと進む!!」
「上等だ!なら見せてみやがれ!世界の全てを!ねじ伏せてみやが
れ!」
 レイの言葉にトレントが叫び返した。
「トレントォォォォ!」
「レイィィィィィ!!」
 レイの宝剣衝撃波と、トレントの「銀狼」の力が恐ろしく増加した。

 く た ば り や が れ

 ゴグガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 凄まじい大爆発が起き、「天空台座」の一角が崩れ落ちていった。

 ◆

 ライブカメラの画面内がぶれ、暗転し、煙に包まれた。誰もが固唾を
呑んで見守っていた。レイとトレント、勝ったのはどっちなのだろうか。

 煙が晴れていく中…2つの人影が見えた。

 どちらも──レイもトレントも立っている。

 レイは静かに目を伏せ、身を翻した。
「悪いな、トレント、俺の───勝ちだ」

 どさり…

 その言葉と同時にトレントの身体が崩れ落ちた。

 勝ったのは───レイ=フレジッド。

 それが理解できた瞬間、観衆からわっと大歓声があがった。歴史に残
大勝負の一つ目を制したのはレイだった。これほどの戦いは中々見れ
ないだろう。観衆は勝者であるレイはもとより、敗北したトレントにすら声
援を送っていた。

 そして───

 レイは───ついに宿敵であるトレントに勝利したのだ。

 ◆

 目を覚ました「トレント★樹海団」ナンバー2、ルアーナはライブカメラ
でトレントが敗北したことを確認した。
「そっか…トレントやられちゃったか」
 夢をかなえるために、一歩進もうとするだけなのに──こんなにも難
しく、思い通りにいかない。本当に───大変だ。ルアーナは静かにル
イーナ砦にいる全てのメンバーに指示を伝えることにした。
「「トレント★樹海団」、およびその全同盟ギルドに通達、総大将トレント
の敗北により戦闘続行は不可能と判断し、私達はルイーナ砦より撤退
します」

──戦闘開始より2時間33分12秒

──「トレント★樹海団」、ルイーナ砦より撤退。

 [続]


〜あとがき〜
初回登場時から主人公達を引っ掻き回してた樹海団ですが、
彼らにもこのような目的があったのです。
言葉の端々、行動の端々に目的があったのですよって話でした。
次回予告、圧倒的な「皇帝」の前に大苦戦を強いられるジュニア。
そこにかけつけたのはトレントを倒したレイだった。
史上最強のタッグが、「皇帝」に反撃する!



〜Web拍手の返答〜
>レイ=フレジット弓使い復活ですか・・・
>なるほど・・・面白い
このために第2部があるようなものですよヽ(゚∀゚)ノ

>な、なるほどな伏線だ!すげぇ
長い伏線を消化するのは苦労しますorz

>トレントさんはルドラの弓に対抗して…
>エビを抜くんですな!(゚∀゚)
抜くかーぃ!ヽ(`Д´)ノ


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