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Ocean's Blue

057:Counter Attack

 ガラ…

 「天空台座」の瓦礫の中から這い出すように一人の男がよろよろと立ち上
がった。満身創痍で痛々しいその姿からは、「まだ」、闘志が感じられた。
「おいおい、そんな身体でどこに行くつもりだ?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべながら声をかけてきた男──「トレント★樹海団」
ギルドマスター、トレントの方に視線を向けた。
「こんな身体にしたのはお前なんだがな…」
 「皇帝の十字架」最高幹部である『七近衛』キスク=リベレーションは白い
目でトレントを睨み付けた。トレントはキスクの責めるような視線を軽く受け
流しつつ再度、口を開いた。
「お前も感じてるだろうが、レイ=フレジッドは強ぇ。つーか俺負けた」
「…っ!」
「あれはシャレにならないな。剣は普通の達人並に出来る。弓の腕ははっき
り言って世界最高クラス。それに加えて2本の宝剣に加え、弓から鷹、鷹か
ら弓に自在に変化し援護するガイスト──「ルドラの弓」という武器。あれを
墜とすのは容易じゃねぇ」
 トレントのその言葉にキスクが息を呑んだ。自分をもあっさり倒したトレント
が敗北した。もう──レイを止めれる者はあの人しかいないというのか。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘル

 いや…無理だろう。いかに「皇帝」が最強だろうと、現在のレイ、そして「魔
界の貴公子」ジュニア=サイドライクとが手を組んだならば、おそらくアイフ
リードとてタダでは済まない。
「トレント、戦いの状況はどうなっているんだ?」
「あー、『七近衛』は全滅、うちの勢力は全滅、「レジスタンス」はほぼ全滅、
何ていうか、もう完全に大将戦で決まりそうな勢いだな」
「…っ!」
 行って役に立つかわからない。だが──このまま見過ごすこともできな
い。せめて──あの人の盾になれればそれでいい。
「待て」
 キスクが悲壮な決意を固めていると、トレントが静かに口を開いた。
「行って玉砕は構わんが、一つだけ聞いていけ」
「何だよ、こっちは忙し──」
「レイの宝剣衝撃波は恐ろしく強いが、宝剣は各1本ずつしかねえ。恐ろしく
強い──だが、それを、「一発」を捌ければ──勝てるぜ?」
「!!」
 それは今のキスクにとって最もありがたい助言だった。
「トレント、お前…何で」
 トレントが口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「その方が面白いからに決まってるだろ」

 ◆

「立て」
「…ぐ…っ」
 ルイーナ砦の「エンペリウムルーム」、足元にゆるやかな水が流れ、荘厳
な雰囲気をかもしだしているそこは、すでに戦闘痕、破壊の痕がいたるとこ
ろに刻まれていた。そしてその場に立っている者が一人、その前で片膝をつ
いている者が一人。

 立っている者は「皇帝」アイフリード=フリームヘル

 片膝をついているのは「魔界の貴公子」ジュニア=サイドライク

 初期戦闘で実力が伯仲していた2人だが、時間が経過するにつれ、段々と
実力差が浮き彫りになってきたのだ。いくら「皇帝」とはいえ、アイフリードは
ハイウィザード。近接戦闘に持ち込めば──と思っていたのが間違いだっ
た。アイフリードは近接戦闘──徒手格闘でも恐るべき実力を誇っている。
「『七近衛』のチャンピオン、キスクに戦い方を教えたのは俺だ」
「へぇ…そりゃ凄いね…」
 ジュニアは歯噛みした。強い──冗談抜きでありえない。

 どうすれば──いい?

「来なければ、こちらからいくぞ」
 アイフリードの姿がかき消えた。
「ぢぃっ!」
 四方八方からの電磁球をジュニアは巧みに避けながら、力を──能力を
集約させた。
Labyrinth!」
 大鎌が空間内のいたるところに出現し、空間に斬撃が走る。そのある一点
からアイフリードの姿が出現する。アイフリードとジュニアの視線が交錯。

 いったか───

 アイフリードの死角から一本の大鎌がアイフリードの背中に向けて振り下
ろされた───が。

 ガキィィィィ!!

 アイフリードは後ろ手に持った黒塗りの短剣でそれを受け止めた。
「これはアゾートという短剣だ。あまり役に立ったことは無いが──たまには
役に立つ時もあるのだな」
 その言葉と同時に爆炎がジュニアの身体を吹き飛ばした。壁に叩きつけら
れ、ジュニアが喘ぐ。
「がほ…っ!」
 無造作に歩み寄ったアイフリードがジュニアの顔を蹴り上げた。
「…っ!」
 身体が浮き上がり、死に体となる。
「さらばだ──ジュニア=サイドライク」
 アイフリードの手に魂魄の魔力が収束する、そして解き放つ。

 ソウルストライク

 ドガァァァァァァッァァン!

 「エンペリウムルーム」は爆音と爆煙で満たされた。

 ザァ…

 アイフリードの視線が鋭く険しいものへと変化した。煙が徐々に晴れ──
その男の姿があらわになる。ジュニアをかばうように立つその男の姿が。
「来たか…「神雷」レイ=フレジッド」
「ああ、ようやくここまでたどり着いた」
 レイが静かに──アイフリードへと視線を向けた。
「決着つけようぜ!「皇帝」アイフリード=フロームヘル!」
 ゆらりとジュニアが立ち上がる。まだ諦めないという不屈の闘志とともに。
「ジュニア──いけるか?」
「誰に…モノを言ってるんだい?」
 ぼろぼろながらもジュニアが不敵な表情を浮かべる。
「ああ、じゃあいくぜ!」
 レイとジュニア──最強のタッグが、最強の「皇帝」へと戦いを挑む。

 ◆

「ク…ソ…」
 腹から流れ出る血が止まらない。「絆の旋律」「光の翼」の元ギルドマス
ターであり、現在は「Ocean's Blue」の一員であるホワイトスミスのリゲル=
ウルヴァリンはハイプリーストのミスティ=ホーリーとルイーナ砦での戦闘
途中にフェイトに襲撃されたのだ。
 フェイトの配下であるハウゼンの召喚した魔王、氷狼ハティーから速度増
加効果のある斧「ブラッドアックス」を駆使して逃走したものの腹部に深い傷
を負ってしまったのだ。ミスティはフェイトに斬りつけられてから意識が戻っ
ていない。
「何なんだ…あいつら…は…!」
 そういえば戦いの前にレイ=フレジッドが言っていたような気がする。

「俺達の本当の目的は──真の「敵」を探し出すことさ」

 レイ達にとって最終目標は「皇帝の十字架」ではないらしい。

「だけど奴らがいつ仕掛けてくるかはわからない。そして仕掛けてくるまで
俺達は完全な受け身にまわることになる」

 では──フェイトと名乗ったあの男がレイの真の「敵」なのだろうか。

 あんな──桁外れの化け物が───

 ファルス=エタニティがフェイ──ト───

 はや──く──知らせ───

 リゲルは───出血に耐えられず力尽き意識を失った。

 ◆

 誰もが目を疑った。

 信じられない光景に。

 ライブカメラが映し出すこの戦いの様相に。

「アローシャワー!!」
 レイの放った無作為の矢が直角にカーブし、アイフリードに襲い掛かる。
「ぬん!」
 アイフリードは気合い一閃、炎でそれを吹き飛ばした──が、すでにジュニ
アが間合いを詰めていた。ジュニアの背面蹴りがアイフリードを後退させる。
「遅ぇ!」
 休む間もなくレイがアイフリードに宝剣で斬りかかる。アイフリードはアゾー
トでそれを捌くと氷の柱──アイスウォールをレイとの間に出現させた。アイ
フリードがアイスウォールに手をかざす。
「「!!」」
 レイとジュニアは即座に反応した。レイが後退するとともにジュニアが強固
な結界を構築する。
Ancient groover!!」
 ジュニアの手から十字の闇が出現し、その十字の先端から線が伸びた。
その線は十字の先端同士を結びつけ、巨大な四角形、あたかもクルセイ
ダーが持つ盾のごとき形へと変貌した。

 ゴゥン!!

 アイフリードがアイスウォールを利用し、水蒸気爆発による大ダメージを
狙ったが、結界に阻まれた。アイフリードの表情に一瞬だけ焦燥が浮かぶ。

 そして、その瞬間。

「ダブルストレイフィング!」
「くっ…!」

 ゴゥン!

 レイの放った衝撃波がアイフリードを吹き飛ばす。アイフリードは空中で受
け身をとり、そのまま魂魄の連撃──ソウルストライクを放つ。レイとジュニ
アはそれを避けると、両者ともにアイフリードとの間合いを詰め、右肩をレイ
が宝剣で、左腕をジュニアが大鎌で斬り裂いた。

 おされている。

 あの──「皇帝」アイフリード=フロームヘルが。

 世界最強、難攻不落とすら言われていたあの男が。

 そして、ついにアイフリードが片膝をついた。
「ジュニア!」
「ああ!」
 レイの言葉に合わせてジュニアが短く返事をする。

 決着を───つける!



────────────────だが。

「させるかよ!!」
 突如として戦いに『七近衛』キスク=リベレーションが乱入してきた。予想
外の闖入者にレイとジュニアは驚きを隠せない。
「ッラアァァァァァァ!!」 

 ズガン!ガガガガガガ!

 キスクが放った指弾は天井へと命中、瓦礫がレイとジュニアの上に降り注
いだ。時間稼ぎ───か。ジュニアはそう判断し、キスクに狙いを定める。
Labyrinth!」

 ゾシャアアアアアアア!!

「がはぁ!」
 大鎌がキスクの周囲に出現、避ける間もなくキスクの身体を斬り刻む。だ
がキスクは倒れない。アイフリードをかばうかのごとく、アイフリードの前に
立ち、壮絶な表情を浮かべる。
「倒れるかよ…ここは通さん…!」
「どけ!」
 レイが2本の宝剣でキスクの胸板を斬り裂いた。たまらずキスクがあおむ
けに…アイフリードの傍らに倒れる。アイフリードが目を見開いた。
「キスク…」
「俺は信じてるんだよ…あんたが勝つって…あんたは…昔からずっと…俺の
ヒーローなんだ…」
 キスクがうわごとのように呟く。

 その言葉はルイーナ砦の全てに響き渡る。『七近衛』の中で最も嫌われ者
であるチェイサー、ギルティ=スターンが昔を振り返る。
「アイフリード、クソみたいな人間だった俺を高みに連れてきてくれたのはあ
んただ。大手になればなるほどギルドの妬み中傷は激しくなる…だから…
俺がそれを引き受けてやるんだよ…嫌われ者は俺だけでいい。だから…あ
んたは負けないでくれ…」

 エリカとアルヴィンの近くで倒れていた『七近衛』のリシア=キングバード
が呟くように口を開いた。
「アイフリードは私達の命を救ってくれた。生きる術を生き抜く術を教えてく
れた…私とキスクにとっては兄でもあり父親にも等しい人なの…そして、永
遠に私達の中での一番の英雄…」
 エリカとアルヴィンが憂いをおびた表情で顔を見合わせた。

 フィリ=グロリアスとの戦いに敗北した『七近衛』ルナ=イムソニアックは
静かに涙を流した。フィリがうわごとを呟くルナを静かに抱いた。
「お慕いしております…アイフリード様…例え貴方様の心が…リーナ様の
ものであろうと…私は…」


「俺はな…俺達はな…!」
 キスクが涙を流しながら叫んだ。
「あんたが負けるところなんでみたくねえよ!」
 その瞬間、「皇帝の十字架」のギルドメンバー、その全てから声援が。


「アイフリードさぁぁぁぁぁん!!頑張れえええええ!」「皇帝!皇帝!皇帝
いいいいいいいいい!」「キスクよくいったああ!俺達の気持ちはあんたと
一緒だぜ!!」「アイフリード様がんばれええええ!」「負けないでー!アイ
フリード!!」「アイフリード!皇帝の意地を見せてくれえええ!」「「皇帝の
十字架」に栄光あれえええええ」「アイフリードおおおお!」


 その歓声を聞いた『七近衛』のライジング=ボーンドが静かに目を伏せた。
その口元には笑みが──自分達はまだ負けてないという笑みが浮かんだ。


 ドゥン!!

 次の瞬間、レイとジュニアを衝撃波が貫いた。

 アイフリードの方向から放たれた衝撃波が。

 アイフリードが、「皇帝」アイフリード=フロームヘルが静かに立ち上がる。

 復讐のために力を手に入れた───だが。

 そんな俺でも信じてくれる仲間がいる。

 俺は独りではない。

 ついてきてくれるこれだけの仲間が──いる。

 俺は───まだ終わってないぞ? 「Ocean's Blue」!!

 
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
 アイフリードの咆哮とともにアイフリードの背中に十字架が浮かび上がる。
信じがたい──人知を超えた魔力がアイフリードの中に流れ込んでいく。も
の凄い轟音とともにルイーナ砦が鳴動する。


 我は「皇帝」、

 ユミルが与えし、「七つの美徳」、

 「英知」の十字架を持ちし者なり!

 其は知識、フベルゲルミルの泉に等しき力を持ち、

 其の力、主神オーディンの右眼を奪いし力、

 即ち、我が存在──暴虐なり!!

 ◆

 ライブカメラでその状況を見ていたライジング=ボーンドが側にいるイアル
とティアに声をかけた。
「イアル=ブラスト、ティア=グロリアス」
「なんだよ?」
「なんですか?」
 ライジング=ボーンドは表情に焦りを見せながら言った。
「今、砦にいる人間全てを脱出させろ。いいか、全員だ」
「…何で」
 イアルの問い返しにライジング=ボーンドが険しい表情を見せた。
「アイフリードが本気を出した。下手をすれば砦自体消滅する」
「うそ…」
 ティアが口に手をあてて驚く。イアルが詰め寄るようにライジング=ボーン
ドに掴みかかる。
「どういうことだよ!消滅ぅっ?アイフリードってそんなにヤバイのか!?」
「ああ、来るぞ─────抗いようのない暴虐の力が」

 即ち───

 第2禁呪───「ストームガスト」

 「皇帝」が扱いし──魔王すら屠る最強の魔の力。

 神話と幻想にすら名を刻むその魔法がレイ達に襲いかかろうとしていた。

 [続]


〜あとがき〜
『ギルド攻城戦』編もクライマックスですです(=゚ω゚)ノ
なるべく早めに更新したいと思いますが多分無理ですふぉめんなさ(ノ∀`)
次回予告は無しです(゚Д゚;;)



〜Web拍手の返答〜
>ボケじゃないトレントさんかっこヨサス
気のせいです(*゚Д゚)y-〜〜

>ここで小伝かい(+x+)
>皇帝vsレイとジュニアの戦いに、
>古代禁呪「ソバ」を携えた神参戦?
それはないない(;´Д`)ノ

>銀狼?ラブコメビームではないのですか(´・ω・`)ガッカリ
それもないわ(#゚Д゚)ゴルァ!!

>すみません今までライジング=ボーンドさんのこと
>悪い人だと思ってました(つA`)
ていうか悪い人と思われるように書いてました(゚Д゚;;)

>「真紅都市ルアーナ」意外な名前がw
>どんな具合に話が展開するか楽しみです。
>小伝をミックスするとw
「小さな英雄伝」を知っている人にはキタ━━━(゚∀゚)━━━ッ!!
みたいな展開が今後でてきます。
詳細は今後のお楽しみってことで(=゚ω゚)ノ


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