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Ocean's Blue

059:Deadly Crisis

 誰もが状況を飲み込めていなかった───

 「ギルド攻城戦」の最終決戦とも言えるルイーナ決戦に今、幕が下りた。そ
して現れたのは瘴気をまとった男と、『七近衛』ファルス=エタニティ。ファル
スは己の事をフェイトと名乗り、レイ=フレジッドはフェイトの持っている刀を
見た瞬間、表情が凍りついた。
「ウェルガ、まわりが邪魔だ」
「了解」
 フェイトの言葉とともにウェルガが手を天へと向けてかざす。突如として大
量の魔物が地面から沸きだしてきた。
「殺れ」
 魔物達が死力を尽くしルイーナ決戦を終えた冒険者達に襲い掛かる。

 ルイーナ砦は地獄と化した。

 レイは目の前にいる男──フェイトに向かって呟いた。
「お前が…俺の敵だと…?」
 フェイトが口元に笑みを浮かべた。
「そうだ。レイ=フレジッド、お前の母をさらい──「死者の都」ニブルヘイム
へと封印したのは俺だ」
「何の…ためにだ!」
 レイが口調を荒げる。何故、俺は母を奪われなければならなかった!?
「「ユミルの聖杯」をこの世に生み出すためだ」
「何だと…!?」
「そのための布石も用意した。世界各地の封印されし魔王──黒蛇王、月
夜花、怨霊武者、ミストレス、黄金蟲、ファラオ、フリオニなどの魔王をこの
世界に顕現させ──その魔力を回収した」
 ウェルガがフェイトの背後で目を伏せる、口元を歪ませながら。
「だが「ユミルの聖杯」を生み出したとしても、俺には邪魔な存在がいる」
「何…!?」
「それは神々を穿つ一条の閃光──『ラグナロク』の力を継ぎし者、レイ=フ
レジッド、お前だよ」
「…!」
 フェイトは口元に皮肉な笑みを浮かべながら話を続ける。
「まさかあのマリア=ハロウドの力をお前が継いでいるとは思わなかった。
が、それに気付けたのは良かったとしよう。だが、ウェルガに襲撃させるわ
けにもいかなかった。奴はこの計画の要の一人だからな。死なれては困る。

 よって────

 魔軍七大勢力の七魔王が一人

 「幽鬼なる海魔」ドレイク

 その強大な力を持って港町アルベルタを襲撃させた。お前が向かっていた
────街をな。お前を殺すため、それだけのために」

 な────────

 コイツが…バックで糸を引いていたというのか。あのドレイクの襲撃は。
「その戦いの中、お前は『ラグナロク』を放ち、その力を失った───そう
思っていた」
 ドレイクは何も知らずに死んでいった。フェイトに利用され、レイから『ラ
グナロク』を奪うための道具として使われたのだろう。

 だが、レイは失ってはいなかった、『ラグナロク』を。

「ゆえに」
 ウェルガがフェイトの前に出る。
「貴様はここで死ななければならぬということだ」

 ズズズズズ…!

 ウェルガの両腕に凄まじい魔力が収束する。
「ち…!」
 レイがまわりの人間──特にフィリをかばいながらウェルガと対峙した。

 ◆

「くそ!何て数だ!」
 イアルとティアは魔物を倒しながらレイ達の元に向かっていた。しかもこ
の魔物──普通とは違う。まるで人間のようにも見える。

 動きは単調だが───基礎能力が異常に高い。

 仕留めようとする瞬間、その場から転移して消える。

 そして復活する。

 数が──全く減らないのである。

「何なんだこいつらは!」
「イアル!上!」
「!」
 ティアの叫び声とともにイアルが上に注意を──

 凄まじい斬撃の嵐がイアルに襲い掛かった。

 ガキキキキィィィンッ!!

 イアルはその全てをダガーで捌ききると、その攻撃を放った人間を睨み付
けた。それは──イアルのよく知っている人物だったからだ。
「何の真似だ──クソ兄貴!」
「我が名はロウガ=ブラスト。ユミルの十字架に現れし「七つの大罪」──
『傲慢』の十字架を持ちし者」
 ロウガが静かに──イアルを見据えた。
「どういうことだ…!」
「これらの魔物は「巨人族の戦士」という。「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フ
ロームヘル殿によって作られた機械人形達だ」

 「巨人族の戦士」───Battler Of Titans

  通称───BOT

 ロウガが淡々と説明する。
「全てにおいて効率化を目指した魔物の究極系と言っても過言ではないだ
ろう。不眠不休で戦うことが出来、排除されることもない」
「俺はそんなことを聞いてるんじゃねぇ…!」
 イアルが怒りに震えながら言葉を絞り出した。ティアはイアルがここまで
怒っていることを見たことがなかったため、言葉を失っていた。
「わからないか?俺は貴様の敵だということだイアル」
「このクソがぁ…っ!」
 イアルがロウガに向かって駆け出した。

 ◆

「美しいだろう、血の狂宴は。なぁアイフリード=フロームヘル、我が息子よ」
 アイフリードはその声にうつろな意識から呼び戻され、振り返った。

 そこにはアイフリードがこの世界で最も殺したい男が立っていた。

 そこにはアイフリードがこの世界で最も愛した女が立っていた。

「な…!」
 アイフリードが驚愕、そして憎悪と困惑が入り混じった表情を浮かべた。
「リーナ…!?」
 バカな、リーナが生きているはずがない。それが何故、俺の父、ハウゼン
=フロームヘルとともにいる!?
「私の名はミサキ=リフレクト、リーナ=プラスタラスのちぎれ落ちた肉片よ
り作られしホムンクルスです」
「…」
 アイフリードの顔から表情が喪われた。

 それは

 憎悪が───アイフリードを支配したにも等しい。

「ほぉ?私を殺したいか?欠陥品風情が」
 「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルが息子である「皇帝」アイフ
リード=フロームヘルを見下ろす。
「殺すだけでは飽き足りぬ、その魂を冥府にて八つ裂きにするほどの苦痛
を与えてやろう…」
 アイフリードがゆらりと立ち上がる。
「いいだろう、昔処分し損ねた欠陥品の相手をするのも一興、「七つの大罪」
が一人、『貪欲』の十字架を持ちし、このハウゼン=フロームヘルが相手に
なろう」
 ミサキ=リフレクトはハウゼンの背後で泣きそうな表情を浮かべていた。

 会えて嬉しい。

 早く───抱きしめたい。

 早く───殺したい。

 ◆

 何がどうなっている?

 トレントはBOTを打ち倒しながら──そのほとんどが転移して逃げられて
いるが──レイ=フレジッドとファルス=エタニティとの動向を観察してい
た。ファルス=エタニティはフェイトと名乗っていた。そして、今まさにレイに
襲い掛からんとしている大男。あれは──おそらく、文献に記された姿格好
が正しいのなら20年前、人類を壊滅寸前まで追い込んだ魔王、ダークロー
ド率いる「闇の眷属」の最高幹部、『幻影』ウェルガ=サタニック。
「ちっ…!」
 何がどうなっているかわからないが、レイが首を突っ込んでいることは思っ
た以上にヤバいモノのようだ。トレントはこの場から逃げる算段を立て始め
た。「トレント★樹海団」のメンバーはいずれもルイーナ決戦で傷ついてい
る。レイには悪いが、仲間と知り合い、どちらをとるかは明白である。
「お前ら、とっととずらかる───」

 ぞくり

 背筋が凍った、その男の存在感に。ゆっくりと歩み寄ってくる剣士。
「────っ!」
 トレントは言葉が発せない、恐怖だろうか、威圧だろうか、わからない。だ
が、間違いなく言える。こいつは────ヤバすぎる!
「お前は──誰だ」
 やっと言葉を絞り出したトレントにその剣士が視線を向けた。

「私の名は───『無限王』シリウス、「真紅都市」を滅ぼせし者」

「な─────!?」
 トレント達が凍りつく。「真紅都市」を滅ぼした!?トレント達が旅の大目標
にしている「真紅都市」の手がかりでもあり、滅ぼしたというこの男。
「滅ぼしただと、「真紅都市」を?」
「貴様は──トレントか」
「!?」
 何故俺の名前を知っている!?何なんだこの男は!と、シリウスが「トレン
ト★樹海団」ナンバー2、ルアーナに視線を向けた。
「ようやく見つけた、我が花嫁。「真紅都市」の姫巫女ルアーナ!」
「──え!?」
 次の瞬間、ルアーナを守る様に「トレント★樹海団」のメンバー達がシリウ
スに斬りかかった。誰もがシリウスがルアーナを狙っていると感じたからだ。

「封殺」

 ザザン!

 次の瞬間、斬りかかった全てのメンバーが倒れ伏していた。
「エレン!奈留!バステト!すけぽ!クリス!くそ…っ!!」
 トレントが怒りの形相でシリウスをにらみつけた。誰もがひどい傷を負って
いる。何をされたかはわからない。だが、一つだけわかったことは、

 シリウスというこの男は────あまりにも強すぎる。

「ルアーナ!フィン!アルヴィン!プレク!アリシャ!こいつらを安全な所に
連れて行け!」
「おいトレント!?」
 フィンが問い返す。が、トレントは怒りの形相でシリウスをにらみつけてい
る。シリウスは涼しげな視線でトレントに視線を返す。
「邪魔をするな。殺すぞ」

「そうはいかないな」

 トレントとシリウスの間に一人の男が割り込む。

「皇帝の十字架」ナンバー2、「陰陽玉」ライジング=ボーンド

 ライジング=ボーンドの姿を見て、シリウスが口元を歪める。
「ほう、ロエンか。久しぶりだな」
「フン…」
 ライジング=ボーンドはトレントの隣に並んだ。
「ロエン?」
 トレントのその問いにライジング=ボーンドは簡潔に答えた。
「あちらの「世界」、つまり「真紅都市」が存在する世界での私の名前だ。そ
れよりも…これほどまでに『無限王』が早く来襲するとはな…」
 ライジング=ボーンドが歯噛みした。シリウスが嘲笑を浮かべる。

「まぁいい。殺せばすむことだ」

 ◆

 『幻影』ウェルガ=サタニック

 魔軍七大勢力の魔王にして、20年前の大戦「トリスタンの悪夢」を引き起こ
した魔王、ダークロードの側近の大悪魔。

 「幻影七将軍」 ダークイリュージョンのNo.2

 この男には魔族としての肩書きだけでなく恐るべき異名を持っていた。

 すなわち───『七英雄殺し』

 優雅なるハイウィザード、『七英雄』 シェーラ=ディバイン
 勇猛なるチャンピオン、『七英雄』 ドルガン=アンタッチャブル

 大戦の最中、ゲフェン防衛戦。ウェルガは年端もいかない子供をさらい、
それを救わんとした2人とゲフェンタワー頂上で激突した。

 子供を盾とし、大攻勢をしかけるウェルガの魔法が3時間もの激闘を経て、

 まず

 シェーラの胸板を貫いた。

 血を吐いてタワー頂上から落下していくシェーラ、それに一瞬だけ気をとら
れたドルガンの首をウェルガは刎ね飛ばした。そしてタワーから落下して呻く
シェーラの前でウェルガは、子供の首を見せ付けるように刎ね飛ばし、
シェーラの首を踏み砕いた。『七英雄』たる2人を欠いたゲフェン防衛軍は3
時間後に全滅。魔法都市ゲフェンは陥落した。

 『七英雄殺し』の大悪魔、『幻影』ウェルガ=サタニック

 その残虐極まりない男が、レイに襲い掛からんとしていた。


「クハハハハハハ!レイ=フレジッド!動きにキレがないぞ!」
「くっ…!」
 「ギルド攻城戦」でのダメージが思った以上に大きすぎる。まずい。
Hamatan!!」

 ───────!

 ウェルガの手から放たれたレーザーがレイの頭上をかすめる。
「レイ!下がれ!」
 ジュニアの叫ぶ声。レイはフィリを抱くと後方に飛んだ。
Labyrinth!!」
「ぬるいわ!」
 ウェルガは手を一振りするとジュニアの大鎌を吹き飛ばした。そのままジュ
ニアの腹部に拳を叩き込む。

 ゴギィ!

「が…っふ…!」
 ジュニアの身体が崩れ落ちる。ウェルガが手を振り上げる、首を刎ね飛ば
そうとしている。
「ダブルストレイフィング!」

 ドガォン!!

 レイの渾身の一撃がウェルガの右頭部に炸裂した。

 だが───効いていない。
「フン」

 ゴゥン!

 ウェルガは呻くジュニアの頭部を踏み潰した。そしてその手刀をレイに向
かって放つ。凄まじい斬撃がとんでくる。

 ギギィィィィ!ドガァン!

「が…っは!」
 レイが吹き飛ばされ血を吐き、昏倒した。
「レイ!」
 フィリが慌ててレイを助け起こした。

 そして振り返ると、そこにはウェルガが傍らに立っていた。

 殺される。

 殺される。

 殺される。

 フェイトが一言。
「殺れ」

 ウェルガが手刀を振り上げた。
「さらばだ。レイ=フレジッド」

 いやだ!

 レイが死ぬなんて…いやだ!

 フィリはこの世界にもういないはずの神に祈った。

 お願い────レイを────助けて!!






 次の瞬間、一人の男がウェルガの手刀を素手で受け止めた。





 その男の姿を見た瞬間、フィリの表情が喜びにかわり、ウェルガの表情が
ひきつった。ウェルガが言葉を、その男の名を絞り出し───
「ラ…ラク──…っ!!」
 その男は拳を振り上げ、ウェルガの顔面に拳を──









ド!










 叩き込んだ───────









ゴォゥン!










 凄まじくきりもみしながら超高速でかっとんでいったウェルガはアルデバラ
ン中央に存在する時計塔の壁面に激突、突き刺さった。痙攣して気絶してい
る。というか、あれで死んでないだけマシである。


 フェイトの形相が壮絶なモノへと変化する。
「来たか」
「ああ、きてやったぜ」
 その男は軽く買い物にきたような答え方をした。


 歴戦の戦斧、ハルバードを肩にかかげ、その男は圧倒的な存在感を周囲
にふりまきながら立っていた。その男はフィリと昏倒しているレイに向かって
優しく声をかけた。
「よく頑張ったな」
 その男は目を一度伏せると、一気に見開きフェイトを見据えた。その目に
は静かな怒りが浮かんでいた。
「後は───任せろ」

 ゴォォォォォァァァァァァァァァァァアアアア!!!

 凄まじいオーラとともに周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。

「俺のバカ息子とその嫁に手をだしたクソ野郎どもは俺がぶっとばす!!」
「いやまだ嫁じゃないです嫁じゃないです」
 フィリが後ろで真っ赤な顔になって手をふりながら慌てて訂正している。


 その男とはすなわち────

 世界最強の男、『七英雄』 ラクール=フレジッド


 戦いは終局へと向かおうとしていた。

 かなり、強引に。

 [続]


〜あとがき〜
第2部もクライマックスですΣd(゚∀゚*)
次回予告、世界最強のオヤジが大暴れ!世界はオヤジが救う!


〜登場人物紹介〜
●フェイト [再]
性別:男
全ての元凶。ある目的のために様々な布石を打ってきた。
実力は不明。『憤怒』の十字架を背負っている。


●ウェルガ=サタニック [再]
性別:男
『七英雄殺し』の異名を持つ「闇の眷属」の大魔族。
その実力はかなり高い。


●ロウガ=ブラスト [再]
性別:男
JOB:アサシンクロス
イアルの兄にして、暗殺者史上最強とすら言われている才能をもつ男。
『傲慢』の十字架を背負っている。


●ハウゼン=フロームヘル [再]
性別:男
JOB:プロフェッサー
「皇帝」アイフリード=フロームヘルの実の父親。
フェイトの計画に深く関わってきた。『貪欲』の十字架を背負っている。


●ミサキ=リフレクト [再]
性別:女
JOB:ジプシー
アイフリードの昔の恋人の肉片から作られたホムンクルス。
何故ハウゼンが彼女を作り出したかは不明。
「死者の巫女」と呼ばれている。


●シリウス [再]
性別:男
トレント達が捜し求めている街、「真紅都市」を滅ぼしたとされる男。
己のことを『無限王』と名乗っている。


●ライジング=ボーンド [再]
性別:男
JOB:ハイプリースト
シリウスについて知っている「皇帝の十字架」ナンバー2。
向こうの(?)世界ではロエンと呼ばれていたらしい。


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