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Ocean's Blue

061:Promise

 ザァ…

 風が静かに頬を撫でるその日の夕方、ジュニアはアルデバランの安宿の
ベッドの上で誰かに揺さぶられて目をうっすら開いた。
「ん…僕を起こしてくれるのはどこの美女だ…」
「いや俺だ」

 イアルだった。

「…」
「なんだその物凄く不満そうな赤芋虫でも殺せそうな視線は」
「男に起こされるなんて…一生の不覚…っ!」
「バカな事言ってないでさっさと準備してこいよ、先に行ってるぞ」
 そう言うとイアルはそのままジュニアの部屋から出て行った。ジュニアは窓
の外を───主に空を見た。
「ああ───今日だったか、「ルイーナ決戦」の祝勝会」
 大混乱の中も終わったルイーナ決戦、厳しい戦いを終えた冒険者たちを
ねぎらうため、今日この国の王、トリスタン三世の名の下に祝勝パーティが
開かれるのだ。あの戦いからすでに5日が過ぎた。その5日の間、ジュニア
はほとんどを寝て過ごした。おそらくはロードオブヴァーミリオンを使用した
ために起きた反作用である。それからくる疲労が肉体を支配していた。わ
かっている──ロードオブヴァーミリオンはこれから起こる「最後の戦い」に
絶対に必要になるものだ。制御──できなければならない、絶対に。

────が。

「とりあえず───ドレスだな、祝勝会の…美女のドレス」
 吟味せねばなるまい。人体の神秘が生み出す素晴らしきアートを。

 ジュニアは───相変わらずだった。

 ◆

「よぉ、イアル」
「あ…ラクールさん」
 祝勝会の会場に向かう途中、イアルはラクールに出会った。
「女どもは先にいったのか?」
「ええ、レイも先に行きました。何でもパーティイドレスを着るのに準備がか
かるとかで」
「そうかそうか、じゃあ向こうについたらしっかりエスコートしてやれよ」
「うっ…俺、エスコートとか無縁なんですけど」
 イアルの出身は砂漠の都市モロクのスラム街だ。上流階級のパーティな
ど縁があるはずもない。だがラクールはそれをガッハッハと笑い飛ばした。
「心配するな!そんな礼儀作法がある奴なんて滅多にいねえよ。それに…
生まれた時から礼儀作法が染み付いているのなんて王族くらいなものだ」
「そうっすかね…」
 違う、こんな事を話したいわけじゃない。イアルはラクールに何を言えばい
いのか迷っていた。イアルは「ギルド攻城戦」を通す中、自分がいかに不甲
斐ないかをラクールに叩き込まれたのだ。今なら──どうだろうか、自分は
前を向いているだろうか。
「何か言いたいことがあるんだろうが───言うなよ?」
「!」
 ラクールの突然の言葉にイアルが驚いてラクールの方を向いた。
「お前は頑張ってるよ、成長したと思う。だがそれでも──お前には「目
的」っつう大事なモノが抜け落ちてる。どうだ──今のお前に自分の命を
含む全てを賭けてでも成し遂げたい目的はあるか?」
「────っ!」
 目的。
「あります」
「ほぉ」
 決まっている。
「ならそれが成し遂げた時、また俺のところにくるといい。酒ぐらいおごって
やるぜ」
「はは…ありがとうございますって言えばいいのかな」
「さぁな、ガッハッハ!」
 ロウガ=ブラスト───あの兄を止めることこそが今の自分の目的。

 ◆

 パーティ会場についたイアルはすぐにドレスを身にまとったティアを発見
した。見違えるほど綺麗になったティアを見てイアルが思わず言葉につまっ
た。そのイアルの様子をみてティアも満更でないのか笑顔を浮かべた。
「へっへー、ほらイアルもちゃんとした服を向こうで着てくる!」
「おおい、俺には似あわねぇって…」
「私だってそう思ってたんだから、ほら────」

 と、その時、パーティ会場の中心で行われているダンスを見ていた者達か
ら一斉に感嘆のため息がもれた。

「素晴らしきダンスですな、しかも踊り手が美男美女と来ている」
「しかしどこのお偉方様のご子息ご令嬢でしょうか」
「いやいや、あの2人は「Ocean's Blue」のメンバーですよ」
 ウチのメンバー?イアルとティアが顔を見合わせた。2人が件の2人のダン
スを食い入るように見る観客の間に身体を割り込ませた。

 レイとフィリが息もピッタリにダンスを披露していた。

 王族にも負けず劣らずの─────

「うあ、お姉ちゃんじゃん」
 思わずティアが驚きの声を上げた。
「あの2人、素人目でもわかるぐらいうまいな…」
 イアルも思わず感嘆のため息をもらした。
「レイがうまいってのはわかるけどな」
 レイはあの最強超人ラクールの息子であり、国王との晩餐会にもかなり出
席した経験があるという。ダンスの作法などお手の物だろう。
「でもダンスパーティとかにでたことあるのってミリアお姉ちゃんぐらいだよ。
フィリお姉ちゃんはほとんど経験がないんじゃないかなあ」
「それにしてはうまいな」

 やがて2人のダンスが終わり、レイとフィリはイアル達の元へとやってきた。

「お姉ちゃんダンスとかの経験あったっけ」
「ん〜、ないよー。でもレイがちゃんとエスコートしてくれたから…」
 うわあ、このままではラブラブ世界のオーラに巻き込まれると思ったティア
はイアルの手を引いた。
「ああほら、イアルもちゃんと着替えて」
「わ、わかったよ」

 そそくさと立ち去る2人の後姿を見送った後、レイが呟いた。
「────で、何でお前らがいるんだ!」
 レイの視線の先には高価なテーブルの上に並べられた料理を頬張る「トレ
ント★樹海団」ご一行の姿があった。主にその中で一番作法がなってない奴
───トレントを睨み付けた。
「決まってんだろ…」
 トレントがフッ…とニヒルな笑みを浮かべた。
「ここに上手い料理があるからさ…」

 だめだ。

 こいつには話が通じない。

 改めてレイはそれを再認識した。

 確かに自分はトレントに勝って決着をつけた。

 ──────なんか別に意味なかった気がする。

「これだから礼儀作法のなっていないサルは困る」
 トレント達のさらに向こうから声がした。レイはその言葉を発した男を見てさ
らに頭をくらくらさせた。「皇帝」アイフリード=フロームヘルだった。当然、そ
のまわりにはキスクをはじめとする「皇帝の十字架」の面々がいた。
「あぁん、もう一度言ってみろ!?」
 チンピラのごとくアイフリードにガンをくれるトレントにアイフリードが冷たい
視線を向けた。
「礼儀作法がなってない雑魚は消えるといいと言っているのだ」
 トレントがドカリと椅子を蹴飛ばしながら立ち上がった。
「ハッ!そう言えばテメェとはやりあってなかったなアイフリード!」
「俺の元にたどり着く前にお前が勝手に倒れたからな」
「何言ってんだ?俺はテメェの大事な部下をしっかり張り倒してから進んでた
んだよ。後ろでふんぞり返ってて自分が最強と思ってる大手の親玉はこれだ
からな。デブオタキモオタヒッキー超NEEEEEEETでAD引きこもってニヨニヨ
超絶トレイン狩りしたあげく、BBS戦士輩出して掲示板で他の所に冤罪捏造
して、自分の所は最強と勘違いして俺TUEEEEEEなってるから困るぜ」
 最後の一文は何を言っているかさっぱりわからなかったがアイフリードは
自分がバカにされた事を察してトレントに対して口を開い──

「いやでも勝ったの俺だから」
 レイの一言が───周囲の気温を3度は下げた。

 イズルード海底洞窟にはマリンスフィアーというイクラの形をした魔物がい
る。一定以上のダメージを加えて大爆発する。特にマリンスフィアーの説明
に意味はないが現在の祝勝会の状態がその状態であることは間違いない
だろう。

 トレントが…一歩前にでた。
「(#゚Д゚)、ッペ」

 その瞬間、暴動が起き──────

「まぁ落ち着けお前ら」
 
 深みと威厳、威圧感を持った声がそれを遮った。
「ラクール殿か」
 アイフリードがその声を発した主、ラクール=フレジッドの名を呼んだ。ラ
クールはやれやれと呆れながらレイ、アイフリード、トレントがなす三角形の
中心に立った。
「お前らもうちょっと仲間意識を持てよな?」

「「「は?」」」

 同時に三人が意味が分からないと声をあげた。
「オヤジ、待てよ。俺はこいつらなんかと」
「冗談じゃないな。こんなダメな連中と仲間だと?」
「(#゚Д゚)、ッペ」


「てめぇらの敵は───フェイトだ」


 次の瞬間、その場にいた者たちの目が鋭いものに変化した。
「進む道は違ってても、お前らの最後の目的地は同じだ」

 母が囚われたニブルヘイムを目指し進むレイ
 愛する者を奪われた復讐のために動くアイフリード
 夢の中で見た都市「真紅都市」を追い求めるトレント

 全てが──繋がっていた、まるで導かれるがごとく。
「まぁ、今日までいがみ合ってた面々だ。いきなり仲良くしろとは言わない。
だが足を引っ張り合うのぐらいはやめておけ」
 渋々ながらレイもアイフリードもトレントも頷いた。誰もが頭では理解でき
ているのだ、フェイトを追う事こそ目的に一番近づけるであろうことを。

(アイフリードもトレントも意地張りすぎなんだよ…)
(レイもトレントも一度勝ったぐらいでのぼせあがりすぎだな)
(俺が最wwwwwwwww強wwwwwwwwwww)

 理解はできていても納得はしてない3人だったが。そんな3人を見た後、
ため息をついたラクールが背後、はるか後ろにいる男に視線をちらっと
向けた。

 これでいいんだな?

 この国の国王、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世は静かに頷い
た。トリスタン三世は静かに目を伏せた──未来を彼らに託そう、信じよう。

(っつーか、俺フィリとはやく色々まわりたいんだけど)
(やはりレイとトレントは一度シメなかればならないな)
(魔物連れてきてこいつら轢けば俺のせいじゃないよな)

 この国の未来は不安要素丸出しだった。

 ◆

 パーティ会場でジュニアの姿を見つけたエリカはちょっとはやる気持ちをお
さえながらジュニアに駆け寄った。自分のパーティドレスを一番見せたい相
手がジュニアだから───だ。
「ジュニア」
「ああ、エリカ。綺麗だね…ミョルニール山脈に生えるフローラのようだよ…」
 エリカはジュニアをぶっ飛ばした。
「ぐふっ…いいパンチだ…腕をあげたね」
「他の娘にはちゃんとしたほめ言葉で私にはそれですか!」
「だって、エリカは特殊だし」
「特殊ってなんですかー!」
 慌てて逃げ出すジュニアを追い掛け回すエリカ。逃げ回りながらジュニア
がちょっと反省した。「特殊」じゃなくて、「特別」って言うべきだったかな。エリ
カの攻撃を捌きつつジュニアが変な方向を指差した。
「ほら、エリカ、面白いことになってるよ」
「え?」
 ジュニアが指差し、エリカが振り向いた方向には3人の男同士、合計6人が
向かい合って立っていた。

 右側にはレイ、トレント、ラクール

 左側にはアイフリード、イアル、キスク

 真ん中にはテーブルが置いてあった。エリカが怪訝な顔をしてジュニアに
聞いた。───さりげなく腕を絡ませつつ。
「何ですかあれ?」
「どーも因縁があってぶっ飛ばしたいもの同士、腕相撲でケンカするんだと。
マジ戦闘はさっきラクールとめられたからね」
「とめたラクールさんが参加してるのは気のせいでしょうか」
「そういうもんじゃない?「英雄」ってやつはさ」
 ジュニアが面白そうに笑った。


 イアルが前にでた。
「ラクールさん…よくよく考えたけどぶっ飛ばされた借りはちゃんと返しとくこ
とにしました。前にでてください」
 ラクールが一言。
「俺に挑むことがどういうことかわかってんだろうな…?」
 イアルが口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「ダメ元なんていわないです。勝たせてもらいます」
「こいや!」
 イアルとラクールはガッ!と腕を組み合わせた。何故か審判をしているフィ
リが手を振り上げた。
「ふぁいと!」
「「おおおおおおおおおお!」」
 ギィィィ!と筋肉をきしませる音を立てながら両者が力を込めた。次の瞬
間、誰もが驚いた。イアルとラクールの力が拮抗しているのだ。
「うっそ…!」
 エリカが驚きの声をあげた。
「…!」
 元々素養があることは見抜いていたジュニアだったがイアルの成長に驚き
を隠せない。強くなっている───確実に。だが、ラクールが一言。
「よし。本気出す」
「ぇ」
 イアルの間の抜けた声。次の瞬間、イアルの視界が反転し、イアルの意識
が闇に還った。同時にずがどがばごぉぉおんという音がした。
「…うわあ…イアルの奴、床にめりこんでるよ」
「…ラクールさんとは腕相撲したくないですね」
 ジュニアとエリカがそれぞれ呟く。ラクールが本気を出したらやっぱり誰
も敵わないようだ。というか最初はどうみても本気の30%もだしていないよう
だった。だが──その30%にすら届かないモノがほとんどなのだが。


 次に前にでたのはトレントとアイフリードだった。
「(#゚Д゚)、ッペ ウィズごときが俺の最強パゥワーに勝てると思ってるのか?」
「俺が魔術だけの男ではないと理解できてないようだな」
 結果はトレントが床がめり込む結果に終わった。
「トレントって…小物臭と大物臭がどっちもしますね…」
「エリカ…多分小物臭の方が多いと思うけど…」
 ジュニアとエリカはそうトレントを論評した。


 そして最後にレイとキスクが向かい合った。
「レイ、3度目の正直だ!今度こそ勝つ!」
「2度あることはって言葉教えてやるぜ」
 そう言いつつレイは自分に勝ち目がないこともわかっていた。キスクははっ
きりいって怪力だ。単純な力比べなら負けるのはこちらだろう。だからレイは
秘策を用意していた。
 2人がガッと腕を組み合わせる。
「レイ、覚悟しやがれよ…?」
 壮絶な表情でキスクがレイにガンをくれる。マジである。
「キスク…俺の職業を言ってみろ」
「…ん?スナイパーだな」
「スナイパーってのは罠を仕掛けるのが得意なんだぜ」
「罠だと…そんなものどこにある」
 レイが目をキラリと光らせた。
「見るがいい。お前の肘の下を!」
「何!」
 キスクが慌てて自分の肘──レイと組み合わせた方の腕の肘の下を見る
と何とそこにはバナナがあった。これでは腕にふんばりがきかない。
「これぞアンクルスネアならぬアンクルバナナだ!」
 レイが叫んだ。
「バ…バカな!気付かなかった…!」
「ふぁいと」
 フィリの合図。
「うわ汚ねぇ!この審判絶対公正じゃねえ!」
 キスクの叫び虚しく戦いはレイの勝利に終わった。
「次は──勝つからな!」
「ああ、いつでもかかってこい」
 キスクの敗北宣言にレイが答えた。その様子を見ていたジュニアが一言。
「人生楽しんでるなあ…」

 ◆

 天空に星が瞬いている。

 多少緊迫した場面もあったものの、祝勝会も盛況のうちに終わろうとしてい
た。レイはフィリと夜の街を散歩しようということになったため、アルデバラン
の各所に点在している橋の一つで待っていた。フィリは現在パーティドレス
から普通の服に着替えている最中だろう。橋の上で待っていたレイの元に2
人の男が、それぞれ別の方角から現れた。

 アイフリード

 トレント

 3人は示し合わしたようにここで出会ってしまった。何だか不穏な視線を互
いに這わせていたが、それを打ち消すようにレイが呟いた。
「道は違っていても…目的は同じ───か」
 父であるラクールが吐いたセリフである。その言葉にアイフリードもトレント
も静かに目を伏せた。いずれともに戦うときがくるのだろうか。
「頼みがある」
 レイが静かに切り出した。
「む…」
「言ってみろ」
 アイフリードとトレントはそれぞれの反応を示した。
「もし───俺に何かあったらフィリを助けてやってくれないか」
 それはレイの決意、覚悟。フェイトと戦えばタダでは済まないことが理解で
きることからの言葉。いつか自分が欠けるかもしれないという───
「悪いがそれには応じられないな」
「気に喰わねぇが俺もアイフリードと同じだ」
 トレントが静かに口を開いた。
「フェイトと戦って自分は死ぬかもしれないっつうんだろお前。冗談じゃねぇ、
自分のケツは自分で持て、自分の責任は自分で果たしやがれ」
 アイフリードが言葉を続ける。
「確かに目的は同じなのだろう。だが命を放棄するものとともに戦いたいと
は思えないな。悪いが先に帰らせてもらう」
 バッとアイフリードが身を翻した。トレントも同様に立ち去ろうとしている。
「だが──死に物狂いでやって、それでもダメで、その先で命が尽き果て
て、それでも仲間を大切に想う心が感じられたなら───」
 アイフリードがトレントの言葉を引き継ぐ。
「そうだな…その時は────」
 最後まで言わず2人はその場を立ち去っていった。2人の後ろ姿を見送り
ながらレイが哀しげな表情で笑い、呟いた。
「ありがとう」

 ◆

「レイお待たせーっ!」
 フィリがレイに駆け寄ってくる。レイはいつものように笑って手を上げる
ことができなかった。だから───別の行動でそれを示すことにした。

 フィリが駆け寄ってくると同時にレイはフィリを抱きしめた。

「いつでも俺はフィリの事を大切に想ってるよ」

 フィリは少し驚いた後、レイを抱きしめ返した。

「うん…」

 星空の下、2人は久しぶりに長い口付けを交わした─────

 [続]









































 8ヵ月後、アイフリードとトレントは約束を果たすこととなる。


 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラで。


 レイの遺志を、継いで。


 [ 第2部「ギルド攻城戦」 ─ 完 ]



〜あとがき〜
第2部終了です!
ついに長いお話の終着点である第3部に次回から突入します。
全ての謎が一気に解ける第3部「ユミルの十字架」(゚A゚;;)
話のボリュームが第1部、第2部足したより多そうなんですが!
伏線回収できるのか…Σ(ノ´Д`)
とにもかくにもここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします!(=゚ω゚)ノ


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