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Ocean's Blue

063:ゲフェンの亡霊

 ルーンミッドガッツ王国史に刻まれるほどの凄まじい戦いが繰り広げら
れた「ギルド攻城戦」───ルイーナ決戦が幕を閉じてから約1ヶ月、戦
いを繰り広げた冒険者達は各々の思う地へ旅立っていった。その理由と
して「ギルド攻城戦」のいったんの中止が王国で決定されたからである。

 理由は明白───フェイトの存在である。

 フェイトはルーンミッドガッツ王国ならびにその同盟国全てから莫大な
懸賞金をかけられることとなった。その額や、小さな国なら買えるので
はないかと思われるほどの大金である。
 だが、懸賞金など関係なくフェイトを追う存在があった。レイ達である。
レイ達はルイーナ決戦があった国境都市アルデバランからはるか西、
ミョルニール山脈を越え、魔法都市ゲフェンへとやってきていた。

 理由は2つ、1つはフィリの姉であるミリア=グロリアスの護衛──彼
女はアルベルタの豪商オールド=グロリアスの跡取りであり、ゲフェン
で大きな取り引きがあるらしい。優秀な護衛を雇うよりは、レイ達につい
でに連れて行ってもらったほうが安上がりという商売人の主張である。
 そしてもう1つ、魔法都市ゲフェンの北西部には人が踏み入ることす
ら出来ない恐るべき魔物の巣窟が存在している。

 グラストヘイム古城

 神魔の戦いの舞台となったとさえ言われているその魔城に踏み入り、
帰ってきたものは存在しない。世界中の魔物の半数がここにいるので
はないかとすら言われているほどである。

 そしてグラストヘイムは───「闇の眷属」の本陣である。

 レイ達が追うフェイトの傍らにいる男の存在が、フェイト達の本拠地は
ここであるのではないかと推測させるのだ。

 『七英雄殺し』の化け物、「幻影」ウェルガ=サタニックである。

 20年前に滅んだ闇の眷族の王、大戦を引き起こした魔軍七大勢力の
魔王、「闇を統べる者」ダークロード。その側近であり右腕だった魔族で
ある。ウェルガが身を隠すにはグラストヘイムはもってこいの場所であ
ろう。そして現在、ウェルガの上に立っているフェイトにとっても。

 だが、不用意に乗り込むにはあまりにもグラストヘイムは危険すぎる。
レイの父であり世界最強の男、ラクール=フレジッドの力を持ってしても
だ。よってレイ達はグラストヘイムに最も近い魔法都市ゲフェンで滞在、
情報収集をおこなうことにしたのだ。

 現在のレイ達一行は

 フェイトと決着をつけるべく動く、レイ=フレジッド
 レイとともにあろうとする、フィリ=グロリアス
 兄をとめるために戦うことを決意した、イアル=ブラスト
 同じく姉をとめるために戦う、エリカ=フレームガード
 必死に戦う皆を影で支える、ティア=グロリアス
 同じく影なり表で支える、ジュニア=サイドライク
 商業のためゲフェンを訪れた、ミリア=グロリアス
 妻を救出すべく動いている、ラクール=フレジッド

 で、ある。

 ◆

 部屋の内装を見渡してレイの顔が引きつった。
「いいんですか?ミリアさん、こんないい宿とってもらって」
「いーのいーの、私だってタダで護衛してもらったんだし気にしないの」
 レイ達はミリアのポケットマネーでゲフェンの中で最高級の宿「イフリ
ート」にしばらくの宿泊することなったのだ。躊躇するレイに父である
ラクールが言った。
「レイ、ミリアちゃんがいいと言っているんだ。ご厚意に感謝するんだ。
お、このソファとかフカフカだなぐー」
「オヤジ寝るのはや!」
 レイが思わずツッコミを入れる。ミリアが苦笑しながら言った。
「ラクールさん凄いわね」
「ああ…」
 ラクールが即座に寝た理由がわかるだけにレイも苦笑を浮かべるし
かない。ゲフェンまでの旅の道のり、レイ達は夜は交代で見張りを立
てていたのだが、ラクールはその全てを起きていたのだ。不眠不休の
見張り、恐るべき集中力であり体力の持ち主である。
「じゃあ、私はお向かいの部屋に戻るわね」
「はい、ありがとうございました」
 ミリアがそこで思いついたように言った。
「あ、男4人、女4人の部屋2つじゃなくて、レイ君とフィリ専用の部屋とっ
たほうがいい?」
「…なんでですか」
「それはもう激しい夜を」
「いいですから!」
 レイが慌ててミリアの言葉を遮るとミリアがフッと笑った。
「レイ君、もうすぐ何の日が来るか知ってるよね?」
 レイはすぐピンときた。
「えぇ、知ってますよ。フィリの17歳の誕生日ですよね」
 ミリアが満足気に頷いた。
「ちゃんと覚えてたかー、えらいえらい」
「忘れやしませんよ。そんな大切な日」
 ミリアが笑みを崩さず、少し真剣な表情を浮かべた。
「あの子は貴方からなら何をもらっても喜ぶと思う。でもね、姉バカと思
われるかもしれないけど…、あの子には幸せになって欲しいの。本人は
気にしてない素振りを見せてはいたけどね、やっぱり私やティアと血が
つながってないことを気にしていたんだと思う。あの子は心のどこかで
孤独を感じていたんだと思う。だから──あの子の傍にいてあげれる貴
方からあの子が一番喜ぶものをあげてほしいの」
 レイは迷わず言い切った。
「俺は──元よりそのつもりですよ」
「レイ君…?」
「フィリに一番似合う指輪が手に入るお店を紹介してください」
 ミリアは驚いて目を見開いた。

 ◆

 細々とした物(旅で使用する消耗品など)の補給にでたフィリ、イアル、
ティアとは逆にジュニアとエリカは情報収集のためゲフェンを散策して
いた。ふと、エリカがある場所で立ち止まった。ある裏路地へと続く道の
入り口の所に人だかりが出来ている。
「あの人だかりは何でしょう?」
 エリカがジュニアに声をかけると、ジュニアが顔をしかめた。
「血と腐乱した肉体の臭いがするね。誰か死んでるよ」
「…っ」
「一応調べておく価値はありそうだね」
「そうですね…」
 惨たらしい死体の様を想像してげんなりするエリカが同意した。人ご
みをかきわけ、死体を2人は目撃する。その死体はソードマンの男で、
その顔には悪夢のような恐怖を感じながら死んでいっただろうと思わ
れる表情が読み取れた。
「街中で殺されたのか、この警備が頑強で有名なゲフェンで」
 ジュニアの呟きに、隣にいた男が答えた。
「これで───7件目ですよ」
「7件!?」
 エリカが驚きの表情を浮かべた。男は口元にニヤリと笑みを浮かべ
る。嫌味がない──それでいて底が知れない笑みを。
「最近ゲフェンを騒がしている殺人鬼は実在するということでしょうね」
「その話を詳しく聞いてもいいかな」
 ええ、とその男はコクリと頷いた。
「その昔、このゲフェンには古代王国が栄えていました。その王国の名
は「ゲフェニア」、ですがゲフェニアは何らかの理由を持って滅びました」
 ジュニアとエリカが静かに頷いた。ゲフェニアの話は知っている。有
名な話だからだ。ゲフェニアはある時期を境に消滅してしまったのだ。
「ですが、ゲフェニアはいらぬ置き土産を遺していきました。ゲフェニア
の亡霊──ドッペルゲンガー。同時期に存在していたリヒタルゼンの生
体研究所にて研究されていた魔人の中でも最も手がつけられなかった
暴れ馬、いや特異変質体だそうですよ」
「…」
「それが──これをやったと?」
 ジュニアは押し黙り、エリカは問い返す。
「かも──しれないという話ですよ。犯行は毎晩深夜、狙われるのは決
まってその時間帯に外出している者。それに、いくら殺されるからといっ
てあれほどの恐怖を感じうる存在が他に考えられませんので」
 男は死体の方にちらりと視線を向けた。ソードマンの死体には壮絶な
恐怖が宿ったままかたまっている。ジュニアが目を伏せ、口を開いた。


「ところで君は────何者だ?」


 その問いに男が内心嘲った。やはり勘がいい。
「私の名前はディスクリート、ディスクリート=イノックシャース。生まれ
ながらにして「死」を感じられる者です」
「「死」…?」
 エリカの呟きにディスクリートが頷いた。
「私は「死」の流れを感じることができる。役に立つかどうかはさておい
て…ですが。そして私の存在が誰に一番近いかと言われれば、「魔界
の貴公子」ジュニア=サイドライク、貴方ですよ」
「「っ!」」
 ジュニアとエリカが息を呑んだ。「ギルド攻城戦」で王国中に名前が知
れ渡ったとはいえ、一目で見破られることはほとんどない。ライブカメラ
や似姿を描いた紙でしか、その姿を把握することなどできないからだ。
「別に危害を加えるつもりもありませんがね。私はあくまで傍観者です」
「自分が危険人物だということを匂わせておいて、傍観者はないと思う
けどね。危険と判断したら僕はすぐさま排除するよ」
 ジュニアの言葉は本気だった。何故かはわからない、だがこいつは危
険だと本能が警鐘を鳴らしている。
「君も、随分と「死」の気配を内包しているね。そうだね、生への執着を
持った化け物と戦い、君は朽ち果てる運命だ」
「生への執着…だと?」
 ジュニアが戦慄した。生への執着をもった化け物───心当たりが
ある。だがアレと自分が戦う?それこそありえない事態のはずだ。

 魔軍七大勢力の魔王が軽々しく動くはずがない────

「与太話はやめてくれるかな」
「与太話と思うならそう思えばいい。「死」は誰にでも訪れる。そして君
の仲間には恐るべき「死」の気配を感じさせる者がいる。近いうちに君
の仲間の一人は、殺戮を繰り返した後、滅びの時を迎えるだろう」
「くだらない」
 ジュニアが吐き捨てるような一言にこれ以上話しても無駄と感じたの
かディスクリートが静かに身を引いた。話も聞きたくないとジュニアとエ
リカは身を翻した。
「私の姉も「死」の気配を内包していましたよ。闇の王を復活させる寸前
で、「The Sign」と呼ばれるエインフェリアの証を持ったどこかの勇者に
討伐されましたが」
「「!?」」
 ジュニアとエリカが思わず振り返ったときにはディスクリートの姿はす
でに雑踏の中に消え失せていた。

 ◆

 月明かりが闇夜を照らす。

 ディスクリートは闇の中、魔法都市ゲフェンを歩いていた。そしてディ
スクリートの前に立ち塞がる影。

 ドッペルゲンガー

 ドッペルゲンガーのまわりには悪夢の体現者たるナイトメアと呼ばれ
る死馬が何十匹と付き従っていた。ディスクリートはドッペルゲンガーを
見やる。昼間のソードマンの姿にそっくりである。
「相手の姿になりすまし、動揺を誘い虐殺する。まさに悪夢だ」
 ドッペルゲンガーが咆哮をあげ、ディスクリートに踊りかかった。剣撃
をかわし、ディスクリートが拳をドッペルゲンガーの胸板に叩き込んだ。
えぐりこむように、胸に拳を押し込む。

 メギメギ…!

 凄まじい拳撃がドッペルゲンガーの胸板の全細胞を砕く、破壊する。

「         」

 聞き取れないほどの高音の咆哮、ドッペルゲンガーはこの強敵の姿
へと姿を変貌させていく。が────

「       !  !  !  」

 ドッペルゲンガーの姿が崩壊していく。何故崩壊するのか、ドッペルゲ
ンガーにもわからない。おそらく初めてであろう、ドッペルゲンガーの表
情に初めて恐怖が浮かびゆき、そして絶望が張り付いていく。その様を
見たディスクリートが嘲笑を浮かべた。
「だめですよ。私を真似るなど、それは「死」ぬことに等しい」

「              〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 」

 ドッペルゲンガーがなすすべもなく消滅した。と、同時に付き従ってい
たナイトメアも消失する。
「───ふぅ」
 ディスクリートがため息を一つつく。これでドッペルゲンガーが魔法都
市ゲフェンを脅かすことはなくなるだろう。街に殺人鬼は2人いらない。

 これでゆっくり傍観できる───

 新たにゲフェンに入った新たな殺人鬼の行う殺戮を。

 悲哀溢れ、絶望に彩られた闇のシンフォニー。

 実に楽しみである。

「「くだらない」と「魔界の貴公子」は言いましたが…、このゲフェンで破
綻が起きることは間違いないのですがね…」

 「神雷」 レイ=フレジッド

 「死」の気配を恐ろしく内包したあの男がどういう末路を辿るのか、下
手な喜劇悲劇を見ているよりもよっぽど面白いだろう。

 だからドッペルゲンガーを消した。

 邪魔にしかならないだろうから。

 「死」の体現者、ディスクリート=イノックシャースは闇の中へと姿を
消していった。

 月明かりが闇夜を照らす。

 [続]


〜あとがき〜
ちと次は3月UPできそうもないです(;´Д`)
次回予告、ゲフェンの闇に蠢く殺人鬼が突如激しさを増す。
破綻が───始まろうとしている。


〜登場人物紹介〜
●ディスクリート=イノックシャース
「死」の気配を感じ取ることができる男。
何者であるかは不明だが、その力は強いらしい。


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