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Ocean's Blue

064:鮮血の月夜

 人は死ぬ。

 必ず終わりがあると知りながら、人はこの世界に生きる。

 だが、その終わりがどこであるかを、把握している者などいない。

 だからこそ────自分の終わりは突然に来るのだ。

 自分の終わりに──自分は気付かない。

 今宵より、

 新たなるゲフェンの殺人鬼が動き出す。
 
 鮮血の月夜を背に、その殺人鬼の徘徊を

 『幻影』ウェルガ=サタニックが狂笑を浮かべ、観察していた。

 ◆

夜───

「殺人鬼───か」
 ラクールが旅館「イフリート」の一室で大いびきをかきながら寝ている頃、
レイ達は旅館の食堂に集まり、情報をまとめていた。
「ミリアさん、仕事も大事でしょうが命の方が大切です。夜間の仕事の取り
引きはやめておいたほうがいいです」
 レイがフィリの姉であり、アルベルタの豪商の娘であるミリア=グロリアス
に注意をうながした。
「ええ、さすがに危ないしね」
「もし相手が本当に「あの」ドッペルゲンガーなら、僕達全員でかかってもタ
ダですむと思えないしね」
 ジュニアが頷いた。ドッペルゲンガーという魔物は相手の姿になりすまし、
絶望をあたえながら殺戮を繰り返す魔物なのだ。味方かどうかもわからず
殺されたのではたまったものではない。
「もう一人、気になる男性がいたのですが」
 エリカがそう言葉を発した瞬間、その場にいた者達の空気が凍りついた。
「エリカに…春が!?」
「気になる男だと!」
「エリカアアア!僕というものがありながらああ!」
 フィリやイアル、ジュニアの反応で失言に気付いたエリカが手をぱたぱた
と振りながら否定した。
「ちが…!違いますって!ジュニアだってわかってるでしょう!?あの男で
すよ!」
 途端に、ジュニアの瞳に鋭さが宿った。
「昼間に得体の知れない奴に出会ってね、あんなヤバい奴は今までみたこ
とない。まるで───」
 死者の王たるニブルヘイムの魔王─────
「いや、何でもない」
 ジュニアは言葉を切った。安易な推測はさらなる危険を招きかねない。
「あれはどちらかというと観察者──物事に干渉はしないタイプだと思う。だ
からあれは現状放置でいいと思う」
「そうか」
 レイはジュニアの言葉に信頼をおき頷いた。
「あー、今日は肝心のグラストヘイムの情報は得られず終いか」
 レイのぼやきにフィリが苦笑を浮かべた。
「ほらほらぼやかない。頑張るのは慣れてるでしょ?」
「はは、そうだな」
 レイが口元に笑みを浮かべた後、話をまとめることにした。
「明日も引き続き情報収集でいこう。俺やイアル達も情報収集に加わる。た
だし夜間の外出は絶対するな、以上」
 レイの言葉に皆が頷いた。

 ◆

 ゲフェンで8人目の犠牲者がでた。

 頭部を炎で焼き尽くされ消失していた。

 ◆

「今日もグラストヘイムにつながる情報は無しか」
「昨晩、8人目の犠牲者がでたそうですよ」
「夜間は出歩くな、危険だからな」
 レイはそう皆に念を押した。

 ◆

 ゲフェンで9人目の犠牲者がでた。

 全身を凍り付けにされ、心臓麻痺で死亡していた。

 ◆

「また犠牲者がでたんだ…」
「今回の犠牲者は相当な手練だったらしいよ。「ギルド攻城戦」にも参戦して
いたらしい」
「…」
 レイは押し黙り、何かを考えていた。

 ◆

 ゲフェンで10人目の犠牲者がでた。

 胸板を十字に斬り裂かれ、その十字の一方は炎にて焼きただれ、もう片方
は氷にて斬り裂かれるように見えた。

 ◆

「ここの所、毎日人が殺されてるな」
「しかも時間からすると数秒で殺されたようにしか思えないくらいの早業みた
い。仲間がいたらしいんだけど、ちょっと目を離した隙に殺されたんだとか」
「そんなにドッペルゲンガーはヤバいのか…」
 レイは何も言わない。

 その日の夜間、ベッドの中で寝付けなかったイアルが窓からゲフェンの街
に飛び出すレイの姿を目撃した。

 ◆

 ゲフェンで11人目の犠牲者がでた。

 心臓を一突き、それだけだったらしい。

 ◆

「レイ、ちょっと宝剣みせてくれ」
 イアルは何とはなしにレイに声をかけた。
「ん?」
 レイは無造作に2本の剣をイアルに見せた。

 血の痕はない。

「いやさ、俺も剣を新しく新調するかなーとか思ってさ」
 この日の夜もまた、レイはゲフェンの街へと飛び出していった。

 ◆

 ゲフェンで12人目の犠牲者がでた。

 心臓を、矢のようなモノで撃ち抜かれて死んでいた。

 矢は現場に残されてはいなかった。

 ◆

 その日の夜、

「じゃあ皆おやすみ」

 それぞれが眠りについた頃、レイは武装をしてゲフェンの街へと繰り出し
た。レイは獲物を探すかのように街を駆け抜ける。


 その頃、旅館「イフリート」ではラクールとミリアを除く皆が一階の食堂へと
集合していた。レイが夜な夜な出歩く理由を確かめるためだ。
「レイが僕達に言わないってことは余程の理由があるんだろうけどね。一人
で危険な夜遊びはさせれないしね」
 ジュニアの言葉に皆が苦笑を浮かべた。ジュニアとエリカ、フィリとイアル
とティアの2組に分かれて夜のゲフェンへと5人は繰り出した。

 ◆

 『幻影』ウェルガ=サタニックの後方に一つの影───

「フン…堕落せし生者の一族か」
「それは僕の姉の事を言っているのかな?」
「そうとも言うな。久しぶりだな、ディスクリート=イノックシャース」
 ドッペルゲンガーを排除し、レイ達の動向を見守るディスクリートは口元
に笑みを浮かべた。
「ああ、久しぶりの再会だな。アウレリアス=サタニックの召喚以来か」
「フン…」
 ウェルガが押し黙った。あまり思い出したくない事なのだ。
「ドッペルゲンガーを排除したのは貴様か」
「ああ、やりやすくなっただろう?」
「確かにな。だが、お前がやらずとも私が排除していた」
「そうか」
 互いに言葉を選ぶ。そうでもしないと、即座に殺し合いになってしまう。ウェ
ルガとディスクリートはそういう関係なのだ。
「「ユミルの十字架」とは──理性を奪うほどに強力なものなのか」
 ディスクリートの呟きに、ウェルガが答えた。
「いや、理性を奪われるのは「七つの大罪」を冠する十字架を持つものだけ
だ。「七つの美徳」は奪われはしない。ただ、「七つの大罪」と「七つの美徳」
の十字架はその者に近いものに発症する」
「近いもの?」
 ウェルガ=サタニックは口元に笑みを浮かべた。
「例えば──従姉妹の関係になるエリカ=フレームガードとセレスドラウジー、
兄弟であるイアル=ブラストとロウガ=ブラスト」
「なるほど、近き者とはそういう意味か」
「「ユミルの十字架」は器広き者に宿り、宿主に恐るべき力を与える。が、「七
つの大罪」の十字架をその身に刻まれた者は理性を失い、殺戮を好む傾向
にあるな。そしてそれは、あの者とて例外ではない」

 ウェルガの視線の先にはゲフェンの闇を駆け抜けるレイの姿が───

「それはすなわち、世界最強とうたわれたラクール=フレジッドにも十字架が
宿っていたということか」
 ディスクリートの言葉にウェルガが頷いた。
「奴は武において天才だった。そしてさらにその身に「七つの美徳」たる「希
望」の十字架を刻まれている。それが相乗して、恐るべき勇者となったのだ」
「ラクールに「七つの美徳」、つまりレイ=フレジッドには…」
「そういうことだ。成り行きを見守るがいい。破綻は近い」
「そうさせてもらう」
 ディスクリートの気配が、ウェルガの背後より消失した。

 ◆

 ミリア=グロリアスはゲフェンの闇の中にいた。

 闇の中にいた

 目が覚めると、誰もいなかった。

 誰もいなかった

 あれほど危険とわかっているのに、何故夜に外に出るのだ。

 危険とわかっているのに

 ミリアはいてもたってもいられず、夜のゲフェンを走り回っていた。

 いてもたってもいられず

 そして気付いた、自分を追う者の存在に。

 気付いた

 逃げる逃げる逃げる。

 逃がさない

 逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる。

 逃げれない

 逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる。

 逃げられるはずがない



 逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げ
る逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる。



 そして、襲撃者にまわりこまれたミリアは観念してその者に名を呼んだ。

「やっぱり…貴方なんだ」

 ミリアの瞳に哀しみが浮かんだ。

「レイ君」

 闇夜を染め上げる鮮血の月夜を背に────

 レイは静かに両手に持った宝剣をミリアに向けた。

 ◆

 ザ…!

 ジュニアとエリカの前に、ディスクリート=イノックシャースが姿を現した。
「何の用だい?」
 ジュニアが警戒を言葉に込め、ディスクリートに声をかけた。
「ジュニア=サイドライク、エリカ=フレームガード。相手をしてやる。かかっ
てこい」
「「な!?」」
 エリカが驚いたように叫んだ。
「私達と貴方には戦う理由がありません!」

「あるさ」

 深く重い一言をディスクリートは放った。

「仲間を失いたくなければ、私を倒してこの先に向かうことだ」

 仲間を失う───────

 この先で何かが起ころうとしている、いや起こっている!?

「私は観察者だ。特に──人が壊れる様を見るのは大好きでね」

 ブゥン…!

 凄まじい魔力がディスクリートの手に宿る。

「ちぃっ!」
「くっ!」
 ジュニアとエリカはそれぞれの武器を構えた。ディスクリートが本気である
ことが感じ取れた上に、ディスクリートの強さが常人をはるかに超越したも
のであることが感じ取れたからである。下手をすれば「皇帝」アイフリード=
フロームヘルと戦っていた方が楽かもしれない。
「私の武器の名は「The Sign」!私の姉を殺害した勇者とやらの証だ!」
 ジュニアの背後にまわったディスクリートの拳撃がジュニアを撃ち抜こうと
する。が───
Ancient groover!!」

 ゴガォゥンンンンンン!!!

 ジュニアの手から十字の闇が出現し、その十字の先端から線が伸びた。
その線は十字の先端同士を結びつけ、巨大な四角形、あたかもクルセイ
ダーが持つ盾のごとき形へと変貌し、その拳の一撃を受け止めた。
「ハァァァァァッ!!」
 裂帛の気合いとともにエリカがディスクリートに攻撃を加え──

 ドゥン!

「きゃあ!」
「ぐあっ!」
 ディスクリートの足元から発生した衝撃波が2人を吹き飛ばした。ディスク
リートは静かに2人が立ち上がるのを待っている。

 時間稼ぎをされている───

 ジュニアとエリカはそれを感じ取り、焦燥感を胸に抱いた。何が起ころうとし
ている。そして、どうやってこの状況を切り抜ければいい…!?

 ◆

 ゴガォゥンンンンンン!!!

「え…!」
 街の反対側から聞こえてきた衝撃音にフィリ、イアル、ティアが絶句した。
ジュニアとエリカが誰かと戦っている!?
「くそ!どういうことだ!殺人鬼に遭遇したのか!?」
 イアルが焦りを込めた言葉を発した。もしそうならジュニアとエリカは恐る
べき魔物と対峙していることになる。
「レイのことも気になるけど…まずはジュニア達の元に!」
「うん!」
「おう!」
 イアルとティアがフィリの言葉に頷いた。

 3人は走り始めた。そしてその途中見知った姿を見つける。


 レイ=フレジッドとミリア=グロリアス


「レ…」
 レイに声をかけようとしたフィリの目の前で、

 レイが、ミリアを、

 ファイアーブランドとアイスファルシオンで、

 斬った。貫いた。突き刺した。斬って捨てた。

 倒れ伏したミリアの胸元から鮮血が吹き上がった。

 ◆

 ゲフェンで13人目の犠牲者がでた。

 フィリの目の前で────犠牲者がでた。

 [続]


〜あとがき〜
話の構成が中々まとまらねぇー!
ストーリー自体はまとまってるのですが(ノ∀`)
次回予告は無しです。


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