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Ocean's Blue

066:グラストヘイム

 雨はやまない。

 やまない雨を切り裂きレイとラクールはグラストヘイムを駆ける。

 目指すは古城、フェイトが待つ玉座の間。

「オオ!オオオオオオオオオ!!」
 地鳴りを起こすかのような裂帛の気合、ラクールのハルバードが生み出す
力が、奥義が「闇の眷属」の群れに炸裂する。
「ブランディッシュ───スピア!」
 轟音とともに「闇の眷属」の群れに大穴があく。だが、次々と魔物はわきだ
してくる。グラストヘイムカタコンベよりスケルプリゾナーやゾンピプリゾナー
をはじめとする魔物が、グラストヘイム地下監獄よりリビオやフェンダーク、
さらにグラストヘイム騎士団領よりわきだした古城の主力モンスターである
レイドリックとレイドリックアーチャーなどが続々と集結してくる。

 さらに。

 グラストヘイムの最下層より出現した通常のミノタウロスより遥かに巨大な
ミノタウロスも現れる。グラストヘイム城の地上は魔物で埋め尽くされ、レイ
とラクールはそれに包囲される。
「スパイラル────ピアース!」
 巨大な竜巻かと見紛うほどの衝撃波が一直線にグラストヘイムを蹂躙す
る。だが、敵は多い。いや多すぎるのだ。ラクールの攻撃ですら、まるで大
海に水滴を一滴たらしたかのような、それほどの効果しか得られない。

 ラクールが薙ぎ払い、そしてレイが近づくものを全て斬り捨てる。レイはラ
クールの攻撃で取りこぼした魔物を宝剣で全て斬り捨てていた。弓はまだ
使わない。確かに「ルドラの弓」を用いれば戦闘能力は飛躍的に向上する。
だが、「ルドラの弓」に矢が存在しないのは、己の精神を糧とし、矢を生み出
していたからである。だからこそ、長期戦となる現在では使えない。

 レイが「ルドラの弓」を用いるのは───強敵が現れたときである。

 「ルドラの弓」たるガイストは鷹の姿で現在レイの援護にあたっている。

 ◆

 グラストヘイム古城────玉座の間。

 フェイトが傍らに立っているシリウスに問いかけた。
「『無限王』シリウス、魔物だけで彼らを滅ぼすことができると思うか?」
 シリウスは静かに口を開いた。
「無理だな。三日三晩攻めたとしても倒せず、最後は撤退されるだろうな。
仕留めるつもりなら、カードを切るべきだ」
 フェイトの口元にニヤリと笑みが浮かんだ。
「ではカードを数枚切るとしよう。文字通り切り札をな」
 殺意に満ちた悪意がグラストヘイムに満ちる。

 ◆

「キリがねぇな」
 ラクールの呟きにレイが答えた。
「魔物全部を倒す必要はないだろ。要はフェイト達を───」
 次の瞬間、レイとラクールは頭上より強大な衝撃波が落下してくるのに
気づき跳んだ。レイは左、ラクールは右に。

 爆発

 完全に不意を突かれた形となり、レイとラクールは分断されてしまった。爆
煙の中より襲い来る衝撃波から逃げる形でレイはグラストヘイム修道院へと
駆け込んだ。そしてグラストヘイム修道院の扉は突如として閉ざされた。
「レイ!…っち!」
 舌打ちしながら修道院の方向へと駆けるラクールを阻むように人影が現れ
る。ラクールが現れた敵に、ラクールがよく知るその人物に視線を向けた。
「てめぇか…ハウゼン!」
「20年前は世話になったな…ラクール」

 「七英雄」 ラクール=フレジッド

 「七英雄」 ハウゼン=フロームヘル

 かつての大戦、「トリスタンの悪夢」をともに戦った仲間は、20年の時を越
えて、敵としてあいまみえることとなった。

 ◆

 グラストヘイム修道院の中は静かだった。

 生者の存在はなく完全なる静寂。

 そして、ズタズタに壊れ、荒れた礼拝堂。

 光の差し込まぬステンドグラスを背に奴が待ち受けていた。

「決着をつけるとしよう、私と貴様の───因縁のな」

 レイは静かにその敵を見据えた。

 『幻影』 ウェルガ=サタニック

 ついに───追いついた。

 今日こそ決着をつける。

 ◆

 フィリの涙はとまらず、蹲り、後悔に、絶望にさいなまれていた。
「私が、レイを…レイを…」
 だが、フィリは独りではなかった。辛く苦しいとき、支えあう仲間を持って
いた。フィリの元に、ケガの治療を終えたエリカがやってくる。そして──

 バキィ!

 フィリの頬を殴り飛ばした。叩くのではない、殴ったのだ。
「いっ……っ…」
 フィリが驚きで目を見開いた。エリカは静かに諭すように口を開いた。
「事情は聞きました。フィリさん、レイさんを拒絶したのは貴女です」
「…っ!」
 フィリの目から涙が溢れる。
「ですが──レイさんを救うことができるのも貴女でしょう?」
「────────っ」
「行きましょうフィリさん、皆さん。グラストヘイムへ」
 ティアが、そしてエリカに続いて部屋にやってきたイアル、ジュニアが頷い
た。ミリアが両手で顔をおおい、嘆いた。
「ごめんね…私のせいで」
 皆が静かに首を振った。そんな中、イアルがミリアに問いを投げかけた。
「ミリアさんも戦ってください、己の十字架と。もう二度と人を殺さないと誓っ
てください」
「わかった。もし人を殺すぐらいなら自分の命を絶つ」
 ミリアの悲壮な決意を受け、皆が頷いた。ミリアの件は後回しだ。何故な
ら今はそれよりも切迫した事態が起こっているのだから。ジュニアが苦々
しげに口を開いた。
「フェイト達の目的がようやく見えた。奴らはレイを、ラクールさんを倒すた
めにまず僕たちを引き剥がしたんだ」
 皆が一様に静まり返り、ジュニアの言葉に聞き入る。
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすというがまさにその通りだ。ラクールさ
んには類まれなる戦闘力があり、レイには『ラグナロク』がある。特に『ラグナ
ロク』はこの戦いを終結させるほどの強大な力がある。だが、奴らはそれを
逆手にとったんだ」
「逆手に?」
 イアルの問いにジュニアが答える。
「奴らはレイに『ラグナロク』を撃たせるつもりだ。レイの大切なモノを全て奪
い、壊し、そして『ラグナロク』を撃たせる。大切なモノを失っている現在のレ
イがもし『ラグナロク』を放てば、失うものは一つしかない」

 それは────レイ自身の命。

 確実にレイ=フレジッドを始末するためのフェイト達の策謀。そして真の強
者たるラクールにとって、誰が傍らにいようとそれは相棒ではなく、足手まと
いとなるだろう。それこそがフェイト達の狙い。2人の「英雄」を殺す策謀。

 ガタン!
「くそ!冗談じゃねぇ!レイを死なせてたまるか!」
 イアルが叫びをあげた。同様にエリカ、ティアも叫ぶ。
「事は一刻を争います!行きましょう!」
「お姉ちゃん!行こう!」

 私は何がしたい────────

 決まっている。

 レイに────────会いたい。

 フィリの目にはっきりと光が戻った。フィリは静かに立ち上がり、視線をグ
ラストヘイムがある方向に向けた。
「私はレイに会いたい。だから───」
 ポンとエリカがフィリの肩に手を置いた。
「行きましょうフィリさん。レイさんを助けに。後、殴ってごめんなさい。こうで
もしないと話を聞いてくれないと思ったので」
「うん、いいよ。ありがとうエリカ。行こう、グラストヘイムに」
 迷いなく──フィリはその言葉に頷いた。と、ミリアが口を開いた。
「最後に一つだけ。私の中から殺戮衝動が消えているように感じる。まるでレ
イ君に斬られたときに、レイ君に殺戮衝動を吸い取られたような、そんな感じ
を受けた。何かの参考になるなら…頭の片隅に置いておいて」
 コクリとフィリが頷いた。

 ◆

 ドン!ドドン!

 レイが修道院の中をかけぬける。

 ドゴォン!

 レイの頭上より、レーザー砲のような衝撃波が次々と落ちてくる。

 『幻影』ウェルガ=サタニックの得意手「Hamatan」である。

 ウェルガはこの能力と鬼謀により、20年前の大戦「トリスタンの悪夢」にお
いて「七英雄」を2人も殺害した。「英雄殺し」とさえ言われる「闇の眷属」の
大悪魔、魔軍七大勢力の魔王が一人、「闇を統べる者」ダークロードに仕え
ていた「幻影七将軍」ダークイリュージョンのNo.2。

 『幻影』 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン

 その力は既に下手な魔王を凌駕している。
「フハハハ!レイ=フレジッド!逃げ回っているだけか、ハハハハ!」
 頭上でウェルガの哄笑が響きわたる。だが冷静にレイはウェルガの攻撃を
見極めようとしていた。

 「Hamatan

 ウェルガの得意手にして、恐るべき威力を発する衝撃波である。その形状
は極太のレーザーのごときであり、見ようにとっては『ラグナロク』に似てい
る。が、その性質は全くの別物。「Hamatan」が炸裂した場所は完全にすり
潰されたかのように消滅する。潰れる───すなわち重力制御の能力か。

 「Hamatan」の正体はおそらく重力砲──グラビティブラストの類

 だがそれは近接攻撃では己に危険を及ぼす諸刃の剣と化すだろう。

 ならば──弓ではなく剣で倒すしかない。

 レイは修道院の壁に跳び、三角跳びでウェルガへと近接した。

「何…!?」
 突如攻撃に転じたレイに驚いたのかウェルガが「Hamatan」をレイに放ち
損ねる。その隙を逃さずレイが2本の宝剣を空中で振りかぶる。

 ガキィィィィッィ!!

 だが、宝剣を受け止めたのは、ウェルガの手に握られていた魔剣だった。
「───っ!」
 レイの表情が驚愕に歪む。ウェルガが剣を扱うなど予想だにしなかった。
「クククク…!意外か!だが剣ならば、私とて多少のたしなみはある」
「ちぃっ!」
「逃さぬ、我が魔剣「オーガトゥース」の牙の餌食となれ」
 ウェルガの魔剣、オーガトゥースの刃がレイの肩に食い込んだ。
「ぬるい」

 ドガッ!

 勢いよくオーガトゥースをレイの肩から引き抜いたウェルガはレイを蹴り落
とした。礼拝堂の大鍵盤を巻き込みレイが落下した。
「がは…っ!」
 もんどり撃って倒れたレイが頭上を見上げると、ウェルガが手をこちらに向
けてかざしていた。
「クハハハハ!これで終わりだレイ=フレジッド!」

 この瞬間を待っていた。

 ウェルガが勝利を確信するこの瞬間を。

 ありったけの一撃を!反撃を!思い切り喰らわすこの瞬間を!

Hamatan!!」

 一拍遅れて、ガイストが「ルドラの弓」に変化────

 そして次の一拍にはレイは光の矢を放つ───

「シャープシューティング!!」

 ウェルガの「Hamatan」がレイの元へと到達するよりも速く、レイのシャープ
シューティングがウェルガの腹部を貫いた。
「ぐほぉうあ!」
 さらにレイは横に跳び、ウェルガの「Hamatan」をやりすごした。

 ドガン!

 礼拝堂の中央へと落下したウェルガは腹部から瘴気をたれ流し、レイを見
据えていた。憎悪をその眼に込めて。
「レイ=フレジッドォォォォ!よくもやってくれたな…!」
 血が流れ出る肩を押さえながらレイの口元に笑みが浮かんだ。
「余裕ぶっこいてるからだろうが、そんなんだからお前はいつもオヤジに負
けるんだ」
「──────」
 ウェルガは沈黙して、語らない。だがその眼が爛々と昏く輝いている。

「いいだろう───貴様には教えてやろう…」

 ウェルガが静かに口を開いた。

「ダークロードは「まだ滅びていない」という真実を───」

 ウェルガが静かに立ち上がる。

「何故、ダークロードが20年前、突如プロンテラ内部に顕現したかを──」

 ウェルガの異様な、異常な雰囲気にレイが怪訝な表情を浮かべた。

 だが─────

『そこまでだ』

 ドン!

 突如として、レイとウェルガの間に一本の刀が突き立った。

 妖刀「村正」、すなわちフェイトの刀。

『ウェルガ、そこまでする必要はない。そして───レイ=フレジッド』

 この声は───フェイト。

『次の相手は俺がしよう』

 レイの視界が一瞬暗転した。視界が暗転するとともにウェルガの姿が傍
から消える。そしてレイの視界が戻った時、レイの居場所はグラストヘイム
修道院ではなく、グラストヘイム古城、玉座の間へと移動していた。その玉
座の前に───レイの真の敵が静かに存在していた。
「フェイトか…!」
 レイの問いかけにフェイトが会釈する。玉座の間にはフェイトしか存在せ
ず、他の者の気配は全くない。
「レイ=フレジッド、俺を倒したいのだろう?」
「…っ!」
 レイが2本の宝剣をフェイトへと向ける。フェイトはぱちんと指を鳴らす。

 ぱきいん!

 音を立てて、レイの持っていた2本の宝剣のうちの1本、氷の宝剣「アイス
ファルシオン」が砕け散った。
「な…!」
「相手になろう、君と因縁の深い──妖刀「村正」でな」
 フェイトが床に突き立っていた「村正」を引き抜き、静かにそれを構える。
「オァァァオオオオオオオ!!」
 逃れようのない威圧感から逃れるように、怯む心に叱咤うつように、レイが
叫びをあげ、残った宝剣、炎の宝剣「ファイアーブランド」を構えた。
「いつでも弓に切り替えてくれて構わない」
 フェイトの口元に笑みが浮かぶ。
「どのみち『ラグナロク』でしか俺は倒せないだろう?」

 [続]


〜あとがき〜
直接対決開始(・∀・)イイ!!
次回予告無しも(・∀・)イイ!!
あとがき書くことなくて(・∀・)イイ!!


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