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Ocean's Blue

067:×××××

「スパイラル…ピアース!!」

 凄まじき轟音。

 世界最強の名を欲しいままにする『七英雄』最強、「螺旋の王」の畏怖名
その通りの、ラクール=フレジッドの槍奥義がグラストヘイムの魔物達を薙
ぎ払う。だが現在のラクールの視線はある一点に集約されていた。

 「堕ちたる七英雄」 ハウゼン=フロームヘル

「ハウゼン!何故俺たちを裏切った!?」
 戦場に轟くラクールの叫びにハウゼンが応えた。
「私は知りたくなったのだラクール。この世界の成り立ちを!真理を!生命
の神秘を!知識の全てを!私は知識の探求者だと自覚しただけのこと!」
「ふざけろ!そんなものはクソ喰らえだ!あれほどまでに愛していたお前の
息子は!アイフリード=フロームヘルはお前を憎み、お前には何も残ってな
い!」
 ラクールの諫めるような叫びにハウゼンが嘲笑を浮かべる。
「フハハハ!あれを私が愛しているだと?あれは欠陥品だ!使えないゴミ
だ!愛情など欠片も持ち合わせてはおらぬ!」
 ハウゼンの手に魔力が集中する。己が生命力を魔力に転化し、その魔
力を大地に通す。
「アーススパイク!」

 ドガドガドガァッ!!

 巨大な土塊の群れが大地より吹き上がりラクールを襲う。だがラクール
はその土塊を全て薙ぎ払い、ハウゼンに肉薄する。そう、例えハウゼンが
どれほどの魔力を身につけようと、ラクールとの実力差は明白、ハウゼン
はラクールに勝てない。

 ガキィィィィン!

 だが───────

「何!?」
 ラクールの槍を、見たこともない風体をした剣士が剣で受け止めていた。
ハウゼンを、護るよう立ちふさがっていた。ハウゼンの口元に歪な笑みが浮
かぶ。
「後は任せよう───異界の王よ」
「了解した」
 槍と剣をつき合わせたままラクールの心に目の前に立ち塞がるその剣士
に対する警戒心が浮かぶ。

 こいつは────ヤべぇ。

 ハウゼンの姿がラクールの前から消える。だが、そんなことに構ってはい
られない。この剣士───本気でシャレにならない。

「私の名はシリウス、「真紅都市」よりミッドガルド大陸へと参った。ミッドガル
ド大陸最強の使い手たる貴公と手合わせがしてみたかった」

 シリウス───『ギルド攻城戦』、ルイーナ決戦の際、フェイト達とともに現
れ、トレント達の前に『無限王』と名乗り立ち塞がった男である。時間切れの
ような形で見逃してもらいトレント達は難を逃れたが、次に出会えば命はな
いだろう。
「…」
 静かにラクールが身構える、目の前の巨悪に意識を集中する。ここで自
分がやられるわけにはいかない。先ほどから感じていたレイの気配が唐突
に消え、はるか先に移動した。何が起こっているかはわからないが──



 突如として、空が黒き光に覆われた。



「なっ!?」
 ラクールが驚きの声をあげる。黒き空を見上げ、シリウスが呟いた。
「始まったか。フェイトとレイ=フレジッドの戦いが」
「何だと!」
 ラクールがグラストヘイムの最奥に存在する古城へと視線を向けた。黒
き光はそこから発せられており、そこからかすかな気配──息子であるレ
イの気配が感じられる。と、シリウスが剣を振りかざし、ラクールへと踊りか
かった。シリウスの口元には笑みが浮かんでいた。
「ラクール=フレジッド、貴公の相手は私だ」
「邪魔だ──どけ!」
 ラクールは獣のような咆哮をあげ、シリウスと対峙した。

 ◆

 場所はグラストヘイム。

 その最奥たる古城、玉座の間。

 対峙。

 レイとフェイト。

 光と闇。

 今、最期の戦いの火蓋が切って落とされた。

 レイはフェイトと交錯するとともに炎の宝剣「ファイアーブランド」で何十発
もの攻撃を入れた。だがフェイトはそれを妖刀「村正」で難なく捌く。

 間合いをとり、「ルドラの弓」にてダブルスとレイフィングの連射。フェイトは
身体を動かしたか動かしてないか、わからないぐらいの動作でその全てを
避ける。

 剣、弓、織り交ぜながらの連携攻撃、だがそれも捌かれる。

 フェイトは語らず、レイの攻撃を捌いているのみ───
「…っ!」
 すでに手詰まりとなりつつある。隙など存在せず、全ての攻撃は捌かれ
る。残るカード、切り札は2つ───

 宝剣を矢と見立てた「宝剣衝撃波」

 そして、神々を穿つ一条の閃光 『ラグナロク』

 しかし、宝剣の片割れはすでに砕かれ、「宝剣衝撃波」の威力は激減して
いる。そして『ラグナロク』、全てを失ったレイが放てば結末は見えている。恐
らくは──己が生命を代償にもっていかれるだろう。

 純粋に勝ち目が───ない。

 勝ち目があるとするならば、父であるラクール=フレジッドが追いつき、2人
がかりで攻めたてる。恐らくはこれが最も選択肢としてマシなものだろう。突
如、フェイトが静かに口を開いた。

「飽きたな」

 時間稼ぎすら、許されない。

「     」

 ズゥン!!

「がはぁ!」
 フェイトが聞き取れない言語を口から吐いた途端、レイの肉体が床へと縛
り付けられた。まるで──己の身体が何十倍にも重くなったかのような──
「奈落───ギンヌンガガップの話を知っているか、レイ=フレジッド」
「ぐ…っ!」
「俺の力はギンヌンガガップを起源としている魔力、全てを呑み込む奈落。
わかりやすく言えば、重力制御の力を持っている。こんな風にな」
 レイにかかる負荷が増大した。

 ズゥン!!

「ぐぁ…っ!」
「これはその力の中でも最も基本たる「ラグ」という能力だ。相手を重力で縛
り、己は自由にその空間内を移動することができる」
 ミキミキ…とレイの身体が軋みをあげる。
「この力を横向きに放てば、こうなる」

 ドガン!

 衝撃波が発生し、レイの身体が吹き飛んだ。レイは空中で受身をとり、膝
をつきながら床に着地した。息があがっているが。

 レイが顔を上げた瞬間、

 腹部に痛烈な感覚が───。フェイトの拳がレイの腹部を打ち抜いてい
た。レイの身体は浮き上がり、フェイトと視線が交わる。
「だが──レイ=フレジッド、わざわざギンヌンガカップの力を使わずとも、
貴様は楽に始末できそうだな」
「なんだ…と!」
 レイが苦し紛れに振った炎の宝剣「ファイアーブランド」の刀身をフェイトが
手でつかむ。そして刀身を握り潰した。

 パキィィィン…!

 炎の宝剣「ファイアーブランド」が音を立て、あっさりと砕け散っていった。
フェイトの口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「それで?」

 ドガガガガガガガッガガガッ!!

 次の瞬間、フェイトの無数の拳撃がレイの全身を次々と打ち据えはじめ
た。レイの身体はその拳撃のみで空中に浮いている。それほどの高速の
拳撃。今、レイの意識をつなぎとめているのはもはや意地だけだった。

 そして、フェイトは妖刀「村正」を構え、レイの身体を斬り伏せながら、床
へと叩き付けた。レイの斬り裂かれた胸板から血が流れ出る。
「…っ!」
 それでもまだ諦めない。レイは壮絶な表情を浮かべながら顔を上げた。

 こいつには───負けられない───負けるわけにはいかない───

 中々、心が折れない。フェイトは心の中で感心していた。心を折らなけれ
ば、レイ=フレジッドは『ラグナロク』を放たない。まぁいい、そろそろ頃合い
だろう。これより、レイ=フレジッドの心を折る。
「レイ=フレジッド、ラクール=フレジッドが追いついてくる事を期待している
のだろう?」
「…」
 レイは何も答えない。だが、それが何よりの肯定の証。
「待ち人は来ず、英雄はただ死すのみ───」
 フェイトの持つ村正が光を放ち、空中に画面───ギルド攻城戦のとき
に存在したライブカメラのようなもの───を投影した。
「────っ!!」
 レイの目が驚愕と、かすかな絶望に見開かれた。


 そこには────


 血溜まりに倒れ伏すラクールの姿が────


 世界最強の英雄が敗北した姿が映しだされていた────


「オ…ヤジ…!」
 レイがかすれた声をもらす。フェイトの口元に笑みが浮かぶ。
「ラクール=フレジッドは誰にも負けない──とでも思っていたのか?」
「オヤジは…『七英雄』…!バフォメットすら追い返す程の…!」
 うわ言のように呟くレイにフェイトが追い討ちをかける。
「ラクール=フレジッドと対峙した『無限王』シリウス、シリウスがラクールよ
りも強かった───ただそれだけのことだ」
「…っ!」
 発狂しそうになるのを堪え、レイは方策を練った。どうすればいい…?オヤ
ジが敗北した今、動けるのは自分のみ。だが、自分もまた満身創痍、戦いを
続行することは難しい。撤退することは不可能、逃げられるとは思えない。

 撃つしかないのか、『ラグナロク』を。

 だが───今、放てば失うものは自分の命。
「く…っ」
 死ぬことは怖い。怖い。怖い。死にたくない。レイは父であるラクールから
命の尊さをずっと学んできた。死を恐れず戦うのではなく、死を恐れて戦え
と。そして、必ず生き延びるという意思を持ち、戦いへと望むのだ。死は美徳
ではない。生きて帰ることこそが美徳。『ラグナロク』を撃てば自分は死ぬ。

 死にたくない。

 フェイトはレイが迷っていることを見抜いていた。迷っていることに気づい
ているからこそ────最後の引き金を引くことに躊躇をしなかった。

「レイ=フレジッド、いい事を教えてやろう」

 ◆

 グラストヘイムへと続く草原を疾走する。

 疾走するのは、フィリ、ジュニア、エリカ、イアル、ティアの5人。

 レイを、ラクールを、救うために走る。

 レイに──会いたいから、走る。

 ◆

 フェイトがレイの心を折る、乱す、滅びの言葉を吐いた。






「レイ=フレジッド、フィリ=グロリアスは×××××××××であり、
我が魂は×××××の転生した魂が宿ったものだ」






 その瞬間─────全ての謎が一本の糸で繋がった─────

 20年前に遺されたダークロードの予言─────

 同じく遺された、母であるマリア=ハロウドの予言─────

 「Ocean's Blue」に秘められし逸話─────

 「ギルド攻城戦」の真の意味─────

 「ユミルの十字架」とは─────

 「ユミルの聖杯」とは─────

 母がさらわれ、「ニブルヘイム」へと封じられた理由─────

 『ラグナロク』の力を持つ自分が狙われる理由─────

 そして、フィリ=グロリアスの存在───────









 ────殺す


 殺す、殺してやる


 こいつらはフィリに与えようとしている


 死よりも恐るべき苦しみを


 許さない、許すわけにはいかない


 絶対に、ここで、殺す



 殺してやる









 ───────『Out of Curiosity

 ルドラの弓に膨大な魔力が収束していく。








 グラストヘイムまでの草原を駆け抜けるジュニアが想う。
「絶対に『ラグナロク』を撃っちゃダメだレイ…!君は僕に大切な事を教えて
くれた僕の最初の友達───絶対に君を助ける!」



 フィリを、苦しめるものは、許さない


 絶対に、許さない



 グラストヘイムまでの草原を駆け抜けるエリカが想う。
「『ラグナロク』を撃ってはダメですレイさん…!貴方が死ねば哀しむ人が
どれほどいると…!絶対に撃たないでください、絶対に!」



 「ユミルの十字架」?、「ユミルの聖杯」?────


 ふざけるな、何もかもが、うまくいくと、思うな



 グラストヘイムまでの草原を駆け抜けるイアルが想う。
「撃つなレイ!お前にはでっかい借りがたくさんあるんだ…!やっとお前と
並び立って戦えるようになったんだ…!死なせねぇ!絶対にな!」



 フィリは、俺が、護る


 俺が、フィリを、護る



 グラストヘイムまでの草原を駆け抜けるティアが想う。
「撃たないでレイ!私はお姉ちゃんが笑っているのを見るのが好き。レイと
2人でいるお姉ちゃんの笑顔が大好きなの!絶対に撃たないで!」


 ─────フェイト


 貴様は、俺が、倒す



 グラストヘイム古城の外壁が視界に入った。


 グラストヘイムまでの草原を駆け抜けるフィリが、消えない想いを抱え、
もうすぐたどり着く愛しい人の事を想う。
「レイ、会いたい…謝りたい、抱きしめて欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。
絶対に、死なせない。死なせたくない!私はレイと一緒にいたい!」
 息がきれる、肺が悲鳴を上げる。でも、走る速度は落とさない。いや、速
度はもっと上げる。一秒でもはやくレイに出会えるよう、レイの元にたどり
着けるよう。会いたい、レイに会いたい。レイに─────














 次の瞬間、


 グラストヘイム古城より天へ、光の矢が大気を斬り裂き貫いた。










「「────っ!!」」



 5人の目が見開かれた。その光に、光の矢に見覚えがあったから。

 アルベルタで見た時と同じく、光の矢が天へとのびていく。

 それはまるでレーザーのような巨大な光の柱。

 その光の柱はまるで黄金の龍のごとく、雄々しく、力強く。

 レイの命を燃やし尽くす光の奔流。



 フィリがその場にへたりこんだ。そして瞳から涙が溢れ出た。
「レイ…」
 涙が、とまらぬ涙がとめどなく溢れ出た。
「レイーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 ───其は「ラグナロク」

 ───其は「神々の黄昏」

 ───其は「世界終末の日」


 だが、それらは神々の戦いをモチーフとしたワグナーの楽劇『ニーベルン
グの指輪』によってつけられた、偽りの意味。


 ───其の真なる意味は

 ───「神々の運命」





  





 想いは届かず、終焉の引き金は引かれた。

 [続]


〜あとがき〜
社会人化して、書く時間がさらになくなってテラワロス。
まったりまったり書いていこう…orz
次回予告、グラストヘイムにたどりついたフィリ達が見たものは──
グラストヘイム編クライマックスまで後少し!


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