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Ocean's Blue

068:魔王降臨

 天空を貫く光の柱。

 その光の奔流の中に巻き込まれているはずのフェイトの口元に笑みが浮
かんだ。勝利を、そしてレイ=フレジッドの死を確信した嘲笑を。
「そうか…やはりそうなのか」
 妖刀「村正」を振り上げながら、フェイトが嘲笑を言葉とする。
「俺に『ラグナロク』は通じない…俺は神すら超えている!!」
 妖刀「村正」に信じがたい魔力が収束していく。村正の刀身は砕けるが、
魔力の収束は止まらない。そしてフェイトはそれを解き放った。



  




 闇が『ラグナロク』の光を喰らい、グラストヘイム古城を呑み込む。破壊、
大破壊が起こり、『ラグナロク』の光を全て食らった闇は、レイ=フレジッド
の身体の上に堕ちた。

 レイの身体が壊れたおもちゃのように吹き飛ぶ。

 そして、黒き光が、闇が、レイだけでなく古城そのものを押し潰した。

 轟音、そして静寂。

 無音の世界。

 ◆

「何だ今の黒い光は!」
 イアルが焦燥にかられた叫びを上げる。
「あの黒い光はまさか───ギンヌンガカップの呪法か──?」
 ジュニアが誰にも聞こえない声で呟く。と、5人の先頭を行くようにフィリが
走り出した。弾かれたようにエリカ、ティア、ジュニア、イアルの4人も後を追
う。まだ終わってない、まだ、まだ間に合う!

 5人はグラストヘイム古城に足を踏み入れた。
「これ──」
 ティアが隣を走るエリカに聞いた。
「やったのはおそらくあの2人でしょうね」
 グラストヘイム古城は、魔物の屍で道ができていた。レイとラクール、2人
の英雄が作り上げた道が。

 ◆

 意識が朦朧とする。

 何が起こった──か、わか──らない。

 古城にいたはず、なのに、まわりが燃えている、荒野になっている。

  身      体 が動かな   い。

 だが、想いはまだ消え な い   心の   中に 。

「フィリ、フィリ…フィリ」

 レイはもがき、足掻いた。諦めない。絶対に諦めない。フィリに会いたい、
フィリに会いたい。フィリ、フィリ、フィリ。

 まるでそこにフィリがいるかのように手をのばす。

 フィリを求める。

 人影が、レイのぼやけた視界にうつる────

 5人の人影。

「フィ────リ────」

 レイは、朦朧とする意識の中、両手を地につけ両膝をついたまま身体を起
こした。最後の力を振り絞った。




























 5人の人影の中央に立つは、全ての元凶であるこの男。

 フェイト。

 ロウガ=ブラスト、セレス=ドラウジー、ミサキ=リフレクト、ハウゼン=フ
ロームヘルの4人を従え、瀕死のレイに対し嘲笑を浮かべていた。

 フェイトは壊れた村正を捨て、手に魔力を収束させる。

 フェイトの手に新たなる剣が、魔剣が出現する。

 魔剣「ミストルティン」

 別名、神殺しの魔剣と呼ばれる──究極の魔剣。

 その魔剣の刃の狙いを、レイへと定める。


「ダメエェェェェェェェェェェェ!!」


 そこにフィリ達5人がレイを助けるべく、駆けて来た。

 だが────

 フェイトとレイの距離はあまりに近く、

 フィリとレイの距離はあまりに遠かった。

 フェイトの呟き。
「遅い」
 フェイトはレイに魔剣を振り下ろした。

 魔剣の刃がレイの肩にめり込む。

 魔剣の刃がレイの肉を断ち、骨を断つ。

 魔剣の刃がレイの心臓に到達する。

 魔剣の刃がレイの生命を───

 赤い液体が噴水のように吹き上がり、レイは崩れるように倒れ伏す。

 レイの意識は闇に消えた。

 フィリの絶叫が響き渡った。

 ◆

 フェイトがレイの元に駆け寄る5人に対して言い放った。
「疑問だな」
 イアルが殺人的な形相でフェイトを睨み付けた。
「何がだ」
 フェイトが嘲笑を浮かべた。
「レイ=フレジッドを拒絶したのはフィリ=グロリアス、貴様だろう。何をいま
さらこんな所まで来る」
 フィリの瞳が絶望に彩られた。フェイトは全ての事情が「わかっていなが
ら」言葉を続けた。
「さて、今頃来たところでどうなるものでもないが──」
 フィリはその言葉に耳をかさずレイに回復魔法をありったけかけはじめた。
ティアもまた薬を取り出し、レイの治療を開始する。だが、血がおそろしい速
度で流れ出している。レイが死ぬのは時間の問題か───

「お土産だ」

 フェイト達の元に見たこともない風体の男が現れた。

 『無限王』 シリウス

 シリウスは片手である男の首筋を掴みあげていた。フィリ達の目が驚愕
に見開かれる。そんな、バカな。力無く四肢をたれ下げているその男にフィ
リ達は見覚えがあった、いやありすぎる人物だった。

 フィリ達はラクール=フレジッドの敗北を認めざるをえなかった。

 ブォン!

 シリウスは軽々とフィリ達の方向へとラクールの身体を投げ飛ばした。
慌てて、ジュニア達はラクールの身体を受け止める。

 状況は最悪だった。

 そして─────フェイトが静かに口を開いた。

「フィリ=グロリアス、取り込み中に悪いが──紹介したい者達がいる。
と言っても…名前ぐらいは知っているだろうがな」

 グァァァァァッァァ!!

 そして、巨大な瘴気の竜巻がフィリ達の前方に2本発生する。

 その2つ竜巻の中から──存在が2つ───

 それは、ここにいるはずのない存在だった。

「嘘…だろ」

 イアルのかすれた声、いや、フィリ、エリカ、ティア、ジュニアですらその者
達の存在を知っていた。いや、知らぬものなど、この世界には存在しない。
何故ならそれらは、20年前人類を滅ぼしかけたダークロードや、数ヶ月前ア
ルベルタを襲撃したドレイクと同じ存在、すなわち─────

 そのどちらも「魔軍七大勢力」の七魔王だったからだ。

 闇紫色の包帯をその身に纏いし魔王が嘲う。
「お初にお目にかかる。我は「古の黄金王」オシリス、魔軍七大勢力「古の眷
属」を率いる魔王」

 緑黒色の肌を唸らせし巨大な亜人の魔王が吼える。
「グハハハハ!俺の名は「世紀末魔王」オークロード!魔軍七大勢力「亜の
眷属」を束ねてる魔王だ!」

 その名乗りとほぼ同時、ジュニアが呟いた。
「逃げるぞ!」
 ジュニアがラクールの身体を、フィリとティアがレイの身体を支え、ありった
けのスピードでグラストヘイム古城より脱出するため走り始めた。その姿を
見たオシリスがフェイトに尋ねた。
「狩ってもよろしいのかな、「奈落の王」よ」
「ああ、だがフィリ=グロリアスだけは殺すな、四肢を切断するぐらいは構わ
ないが」
 次の瞬間、オシリスの姿がかき消え、オークロードが爆音とすら思えるほ
どの足音をたてながら、フィリ達を追い始めた。
「グハハハハ!久々のご馳走だ!すぐに喰いちぎってやるぜ!」
 魔王達の狩りが突如として幕を開けた。

 ◆

 背後から爆音のような音がどんどん近づいて来る。焦燥にかられながら
も、冷静な口調でイアルがジュニアに尋ねた。
「今の足で何分でグラストヘイムを脱出できる!?」
「2分だ!」
「わかった!先にいけ!」

 ドガァァァァァァ!!

 大地を踏み割り、オークロードがイアル達に、いや正確にはジュニア達を
先行させ、その場に残ったイアルの元に追いついた。
「諦めたか?人間」

「寝言は寝てほざけ」

 オークロードの前にイアルが立ち塞がった。
「ん〜?」
 オークロードがイアルに視線を向けた。凄まじい圧迫感、威圧感、こんなも
のと同格のドレイクとレイは戦い、勝利したのか。勝てるわけが無い。だが、
ここでやられるわけにはいかない。
「オークロード、お前のは相手は俺だ」

 次の瞬間、オークロードの胸板に真一文字の衝撃波が炸裂した。

「ヌグゥゥゥウオオオオオオオオオオアアアアア!?」

 オークロードの身体がその衝撃波で吹き飛んだ。
「まともに相手するかよ、テメェみたいなデカブツ!」
 イアルは即座に身を翻し、ジュニア達の後を追い始めた。

 イアルが用いた技の名は「飛竜」

 かつて、「皇帝の十字架」のナンバー2であるハイプリースト、ライジング=
ボーンドが得意としていた蹴りより発生する衝撃波、イアルはすでに自分の
ものとして、完全に会得していた。
「不意打ちがきくのは一発目だけってな…!」
 イアルはオークロードに次に追いつかれたとき、そのときが自分の死だと
自覚していた。だからこそ全力疾走した。次に追いつかれれば、
「貴様は死ぬ」
「な…に…」
 イアルがその声を聞き、振り返った。

 そこにはオークロードが憤怒を隠そうともせず、イアルに詰め寄っていた。

「この俺に傷をつけた事を悔やみ、そして死ね」

 次の瞬間、凄まじい打撃音とともに、イアルは自分の全身の骨がバキバ
キと砕ける音を自覚した。間をおかず、イアルの意識は闇へと消えた。

 ◆

 背後からの戦闘音が途絶えた。

 イアルがやられた。

 おそらく───死んだ。

 レイに続き、ラクール、イアルまで倒れた。フィリはその事実に耐えられな
かった。逃げることも忘れ、その場に蹲り、嘔吐した。極度の緊張に耐えら
れなくなったのだ。
「フィリさん!今は!」
 エリカも声をかけながらわかっていた。

 もうだめだと。

 そして、すでにまわりこまれていた。フィリ達の前方には魔王が、「古の黄
金王」オシリスが音も無く存在していた。
「チェックメイトだ、人間達よ。それとも無駄な抵抗を試みるかね?」
 オシリスの包帯がざわつき、触手の様に全方位に展開する。
「エリカ、ラクールさんを頼む」
 ジュニアの悲愴な声でエリカにラクールを託した。
「なるほどね…理解したよ。あの男が言っていた言葉を」

 つい先日、魔法都市ゲフェンで出会った死を体現していた男、ディスクリー
ト=イノックシャースはジュニアにこう言った。
「君も、随分と「死」の気配を内包しているね。そうだね、生への執着を持った
化け物と戦い、君は朽ち果てる運命だ」

 生への執着、オシリス率いる「古の眷属」は死して尚、生きようとすることで
知られている生への執着者達である。図らずも、出会ってしまったわけだ。

 己の最期を、己に死を与える存在に。

 だが─────

「僕がこいつの足をとめる。先に───行ってくれ」
 
「貴様ごときに何ができる、「魔界の貴公子」」
「さぁてね、30秒は持つと思うけどね」
 オシリスの言葉にジュニアがシニカルな笑みを浮かべて返す。
「30秒とは一瞬と同義かね」
「え…」
 瞬きの間に、ジュニアの腹部にオシリスの触手じみた包帯が突き刺さって
いた。その次の瞬きの間には無数の包帯がジュニアの全身を貫いた。
「ああ、完全に息を引き取るまで30秒ということか」
 触手じみた包帯が集束し、巨大な鉄槌を模した。それはジュニアの頭上へ
と無情にも振り下ろされた。

 すでに、ジュニアの意識は闇へと消えていた。

 鉄槌が振り下ろされ、轟音がグラストヘイムを揺るがした。

 ◆

 ジュニアまで、倒された。

「きゃあっ!」
「あぐっ!」

 フィリが悲鳴に顔を上げると、そこにはティアとエリカの首を締め上げ、両
手で掴み上げているフェイトの姿があった。
「魔王相手によくやったと思うが、所詮は無駄に命を散らしただけだったな」
「あなたは…っ!!」
 フィリが涙と怒りをあらわにしながら、フェイトを睨み付けた。
「エリカとティアを放しなさい!」

 ギリギリと絞めあげる力を強め、フェイトが笑った。

「俺にモノを言いたいのなら、力で言うことだ。早くしなければ、この2人も死
ぬぞ? ハハハハ」
 キッ!とフィリが手を頭上にかざした。

 許さない!

 絶対に許さない!

「あああああああああああああああっ!!」

 ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 凄まじい魔力の奔流がフィリの右手に収束しはじめた。聖職者が使える聖
なる光、ホーリーライトの進化系。フィリのみが扱える輝きそのものの力。

 ホーリーシャイン

 「ギルド攻城戦」、ルイーナ決戦でルナ=イムソニアックとの戦いで見せた
暴走する魔力をフィリは完全に制御していた。
「…っはは!」
 その姿を見たフェイトが笑みをこらえていた。

 「ユミルの聖杯」の完成は近い!

 見える!フィリ=グロリアスの背中に!背後に!幻視の翼が!この世界
の混沌の!光と!闇の!全ての魔力を凌駕する力を顕現させている幻視
の翼が!魔力の翼が!白き輝く翼が!

「ハハハハハッハハハハハハ!アハハハッハハハッハ!!!」

 フェイトが哄笑をあげた。

 だが─────その哄笑は、怪訝なモノへと変化した。

 ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 ホーリーシャインの光が、青き輝きに変化したのだ。

「まさか…!」
 フェイトはまさかという表情を浮かべた。
「あああああああああああああああっ!!」
 フィリの一際大きな叫びとともに────空間が歪み、


 「ゲート」が開いた。


 フェイトが目を見開いた。
「これは、20年前の大戦で失われた魔法…「ワープポータル」か!」

 ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 そして、フィリの引き起こした「ワープポータル」はフィリ達を呑み込み、そし
て消滅した。レイ、ラクール、エリカ、ティアだけでなく、ジュニア、イアルの姿
すら、グラストヘイムには残っていなかった。

 残されたフェイトの口元に笑みが浮かんだ。

「まぁ、いい。まずはフィリ=グロリアスの覚醒に喜ぶとしよう」

 この日、人類最高峰の英雄2人が倒れたことを、まだ誰も知らない。

 レイ=フレジッド

 ラクール=フレジッド

 人々の希望は、事が起こる前から潰え、消失した。

 ◆

 だが、まだ全ての光は消えたわけではない。

 物語はここより彼ら2人の話に移る。

 「真紅都市」を目指す真紅の剣を持ちし旅人の話と、

 復讐と悲哀にかられし「皇帝」という異名を持つ英雄の話に。

 物語は終わらない。

 [続]



〜あとがき〜
第3部の序章となるグラストヘイム編終了です。
次回から第2部で暴れた彼らの話に移ります。
次回はノリが正反対になる予定。
次回予告!
フェイヨンに戻ったトレントはいろいろあって機嫌が悪かった!
さらにその機嫌の悪さを倍加させる事件が発生!
何とフェイヨンの街中の家のエンペリウムが割られる事件が発生!
被害者の家に残された「SLEEPING FOREST」の刻印!
出演許可を二つ返事でくれたあの人が登場です!(=゚ω゚)ノ


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