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Ocean's Blue

069:樹海序章

「残念ですが、貴方の仲間がつけられた傷はどんな手段を用いても癒すこ
とは不可能です。何か特殊な傷の負わされ方をしています」
 その言葉はトレントにとって死刑宣告に等しかった。

 「トレント★樹海団」の仲間の半数はシリウスによって傷を負わされた。

 もはや仲間達と「真紅都市」を目指すことはできない。

 トレントの旅は停滞し、そして動き出す。

 山岳都市フェイヨン、ここで新たなる物語が幕を開ける。

 ◆

 というわけで、トレントは非常に機嫌が悪かった。あまりの機嫌の悪さを
見かねた「トレント★樹海団」のギルドメンバーの一人であるフィンが飯を
おごってやるというと突如目の色を変え、フィンの財布の8割を食い尽くす
ほどの料理を喰らい、フィンが涙ながらにもうやめてくれと言った後、今度
は無意味に街中をジョギングし、フィンの横っ腹が痛くなったところにケリ
を入れまくってストレス解消していたりしていた昼下がりの事。
「くそ!またやられた!」
「何なの!何がやりたいの犯人は!」
 人々の叫ぶ声、トレントは未だに横っ腹を押さえるフィンの首根っこを掴
みひきづってその人々がたまっている場所まできた。
「おい、何かあったのか?」
 野次馬の一人にトレントが尋ねるとその野次馬が、ぼろ雑巾のようになっ
ているフィンから顔をそらしつつ答えた。
「最近、フェイヨンに神の金属っていわれるほら、なんだっけ」
「エンペリウムか?」
「そうそれだ、それを砕きまくるバカがいるらしいんだ」
「………それ何か意味あるのか?」
 トレントが頭をおさえながら言った。
「わからないから皆困っているんだよ。とにかくエンペリウムがあるところに
現れて、ああ、家にいつのまにか侵入されて割られるケースもあったり、冒
険者とすれ違いざまに割ったりするケースもあるんだ」
「それで、何か問題が…?」
「冒険者はギルド作れないし、一般の人はお守りとして家に置いてるケース
もあるんだし、困りまくると思うんだが」
「それもそうか」
 トレントはすぐに興味を失った。

 こんな事に構っているヒマはない。

 常に冷静に状況を判断し、知略を尽くさなければシリウスは倒せない。

 宿に戻るか。

 トレントはフィンを引きずりながら、ふと地面に落ちていたエンペリウムのか
けらを手にとった。どうやら片付け忘れられていたらしい。
「どんな奇人変人なんだか…」
 そのかけらには文章が2つ刻まれていた。


 「SLEEPING FOREST」

 「トレントはバカ」


「ぶっ殺すあああああああうがうああどこのどいつだあああああ!!!」
 フィンの身体をブンブン振り回し、トレントが怒り狂った。
「ていうか!」
 フィンがトレントの魔手から無理矢理逃れた。
「いい加減人で遊ぶな!」
「うっせぇ!犯人つかまえるぞ!ひき肉にしてやる!!!」
「おい!シリウス対策の会議は!?」
「知らん!まずこの犯人ブチ殺しが重要だ!」
「あほかああああああああああ!」
 トレントとフィンが言い合いしていると、ふと2人の背後、木の上に気配が
出現した。


「フ…、仲間割れとは見苦しいな」 


「「ああん!?」」
 トレントとフィンがその気配の方向をにらみ付けると、そこには一人のア
サシンクロスが音も無く佇んでいた。
「……」
 トレントは絶句した。

 そのアサシンクロスの男は錐を口にくわえ、薔薇の花を周囲に散らして、
カッコいいと思っている勘違い君だったからだ!

「カッコいいぜ…」
「医者に頭の中、見てもらえ」
 フィンが思わず口をついてでた言葉を切り捨てると、トレントはそのアサ
シンクロスに言った。
「今俺は機嫌が悪ぃ。俺に殺される前に帰るんだな」
「犯人俺」
「よしお前殺す」
 トレントの周囲に爆発するほどのオーラが展開した。マジモードである。
「死ぬ前に名乗るぐらいは許してやるぜ、このヘッポコピー」
「フ…」
 そのアサシンクロスは髪をふわさ…とかきあげると名乗りをあげた。

「我が所属するギルドは「SLEEPING FOREST」!エンペリウムを割るため
に生まれ、エンペリウムを割ると、私怨で粘着され!それでもめげない!
「ギルド攻城戦」が終わったらすぐ寝るというのに増える書き込みは全て自
演乙!言っとくが俺じゃない!俺じゃないぞ!でも時間ギリギリになったら
コッソリ割るのでよろしくね!(はぁと  我が名はグラン!森の人グラン!」

「くそ…何て…濃いキャラなんだ…!」
 トレントがグランの特濃ぶりに後ずさりする。強敵だ。
「「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレント!手合わせ願う!」
 ブゥン!超スピードでグランがトレントとの間合いを詰めた。

 ガキィィィィィィン!

「濃いことに間違いはないが…、あまりナメてると死ぬぞ?」
 トレントは魔剣エクスキューショナーでグランの錐を受け止めていた。
「そうこないとな」
 グランの口元が楽しげにつりあがる。トレントとグランは数度斬り結ぶと、
間合いを離し互いに武器を振り上げた。
「ボウリングバッシュ…剣圧衝撃…!」
「遅い!ソウルブレイカー!」
 神速にも等しい衝撃波がトレントを襲う。だが、
「フィンバリアー!」
「うぎゃあああああああああああああああ!!」
 フィンを盾とし、衝撃波をやり過ごしたトレントの目元に涙が浮かんだ。
「よくも…フィンを…!」
「お前心臓に剛毛が生えてるな」
 グランのすばやいツッコミを受け流し、トレントが再度グランと間合いを詰
めた。ドガン!という音とともにグランはトレントの攻撃を受け止めた。グラ
ンは自分の骨が軋むほどの衝撃に驚いた。
「ち…っ!」
 噂には聞いていたが、トレントはかなりのパワーバカのようだ。あまり長引
くと強烈な一撃をいれられかねない。だが────

 自分の任務は「トレントに本気を出させる」こと。

 それ即ち、未知の世界の力、「真紅都市」の力。

 「ギルド攻城戦」、レイ=フレジッドとの戦いで見せたあの力。

「さすがに本気はなかなかださないか…!」
 グランが口惜しげに唇を噛み締めた。期待はしていなかったが、直接的
な接触をもち、本気を、トレントの本当の奥の手を引き出せないというのは、
かなり屈辱的だ。だが、このままでは押し切られてしまう。
「どうした?グランとかいったな!俺にケンカを売ったことを後悔させてやる
ぜ!テメェは一生「自演乙」に苦しめられるんだな!」
 意味のわからない勝ち誇り方をするトレントに対し、グランが言い返した。
「このうんこ!」
「なんだとこらああああああああああああああああああああああ!!」
 トレントの眼が「真紅」に輝いた。
「うわ本気きた!!」
 思わぬ事態にグランが動揺する。当社費3倍増しになったトレントの攻撃
を必死に避けまくりながらグランがトレントと間合いをとった。
「わかったギブギブ!俺が悪かった!」
 これ以上やると本気で殺されかねないと感じたグランが叫んだ。
「いや殺すし」
 トレント、攻撃やめるつもり無し。
「おいいいいいいいちょっとまて!!」
 グランはこの超バカをとめるために真実を話すことにした。
「トレント、俺はこの国の国王トリスタン三世直属の密偵なんだ」
「わかった殺す」
「だあああああああああああああああ!」
 攻撃を避けまくりながら、グランは絶望感を抱いた。と、グランの懐から
財布がポロリと地面に落ちた。
「うるあ!」
 超ジャンプでトレントが財布めがけてジャンプした。
「…っ!」
 グランは自分の足元に跳んで来たトレントの脳天に渾身の拳を叩き込
んだ。主にゲ○ツボあたりに拳を叩き込んだ。

 どがす!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 脳天の一番やばいところに拳をクリーンヒットさせられたトレントが痛み
の余り悶絶し、転がりまわった。グランは息を整え、話し始めた。
「先ほども言った通り、俺はこの国、ルーンミッドガッツ王国の国王である
ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世直属の密偵だ」
「うあああああいてえええええ!痛痛痛い痛いあああああ!」
 グランはごろごろと転がりまわるトレントから視線をそらした。
「俺に課せられた任務は2つ、「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレント
の動向を監視することと、その力を見極めること」
「ぬああああああ!あああああああ!痛ああああ痛いいいい!」
「つまりだ、お前は王国から信用されてないんだよ。この国の未来を託す
冒険者として認められるか認められないか、保留状態にあるわけだ」



「この国のことなんざ知ったことか」



 トレントが突如はいた言葉にグランは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
「王国の未来がどうだか知らないが、潰れるなら勝手に潰れろ。テンプレ回
答と営業だけやってればその場しのぎで儲けれる組織とは違うんだからな」
「何が言いたい?」
「そうだな。俺の力は俺の物だ。そして俺が信じているのは俺の仲間だけだ」
 グランは静かに目を伏せた。

 こいつは飼いならせない、真紅の狼を飼いならすことはできない。

「わかった。すまなかったなトレント。だが俺からも言わせてもらおう。ここ数
日ずっとお前の行動を監視していた。監視しといてあれだが、お前の性格は
痛い・自己中・厨・異常・わがまま・ネクラ・ペドフィリア・ヒッキー・私怨の塊・
核廃棄物に近い・暖めたガム並みの粘着質・無責任・身の程知らず・顔も性
格も悪いのにナルシスト・生きているほうが迷惑・キモイ・キチガイ・粘着厨・
自己厨だな」
「しばいていいか?」
 トレントの額に青筋が浮かんだ。と、その勢いを削ぐかのようにグランは透
き通るような、真摯な眼差しをトレントに向けた。

「だがトレント、お前を信用できるか信用できないかで言うなら────














































全然信用できん!

おい!

 ◆

 フェイヨンの宿に戻った(グランには逃げられた)トレントは現在残っている
「トレント★樹海団」のギルドメンバーを召集した。

 ローグ、ルアーナ
 騎士、フィン=ロルナーク
 ハンター、アリシャ
 クルセイダー、アルヴィン
 アサシン、プレックスター

 そして、騎士、トレント

 たったの6人になってしまった。あの男、『無限王』シリウスによって。そして
このメンバーの他にもう一人の同行者がいた。
「話を聞く覚悟はできたか、トレント」
「いいから全部話せ、ライジング=ボーンド」

 「皇帝の十字架」ナンバー2

 ハイプリースト、ライジング=ボーンド

 シリウスとは何らかの関係があり、おそらくは「真紅都市」の情報を持って
いるであろうこの男は、ジュノーへと向かった「皇帝」と別れ、トレント達の旅
に同行していた。
「では語ろう、「真紅都市」の全てを」


 ライジング=ボーンドは語る。

 この世界、ミッドガルドとはまた別の世界、アスガルドやヨトゥンヘイム、ニ
ブルヘイムとはまた別の世界、位相のずれた世界、そこに「真紅都市」は存
在していた。

 存在していた───すなわち現在は滅びてしまっている。

 かつて、「真紅都市」の冒険者達と『無限王』シリウス率いる魔人集団との
間で激しい戦いが起こった。世界のバランスを崩すほどの戦いだった。

 そんな中、「真紅都市」の冒険者を先導した数名の強力な冒険者がいた。

 その中に────トレントという男の名があり、

 「トレント★樹海団」のメンバーと同じ名を持つ冒険者達がいた。

 「真紅都市」の姫巫女ルアーナの加護の元、シリウスを後一歩の所まで
追い詰めたトレント達だったが、最後の最後、トレントの身体に異変が起こっ
た。トレントもまたシリウスと戦うために恐るべき魔人の力を身に宿していた
のだ。限界を超え息絶えたトレント、戦いのバランスは崩れ、「真紅都市」の
冒険者達は次々とシリウスに殺され、最後に残ったのが、ライジング=ボー
ンド───あちらの世界ではロエンという名だったが───だけだった。ライ
ジング=ボーンドは最後の力を用いて、己が剣「シュラム」の力を発動させ
た。「シュラム」により「真紅都市」の姫巫女ルアーナとライジング=ボーンド
の肉体は異次元を渡った。「シュラム」の能力はその世界からの消滅、すな
わちライジング=ボーンドは姫巫女を奪われるぐらいなら殺すとしたのだ。

 だが皮肉にも、その能力は異界へと渡る力だった。

 ミッドガルド大陸へと渡った直後、「シュラム」は力を失った。

 ライジング=ボーンドは、そこで気づいた。ルアーナが傍らにいないこと
に。結局、自分は何もできなかったのだ。親友であったトレントを失い、守
るべき巫女であるルアーナさえ失った。そして失意の底にいたライジング=
ボーンドは出会ったのだ。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルに。

 「皇帝」の右腕として働く間も、ライジング=ボーンドは諦めなかった。そし
て、自分の仲間達と瓜2つ、いやそのものとしか思えない冒険者集団を見つ
けたのだ。

 それが「トレント★樹海団」

 彼らは魂の底で「真紅都市」とつながっている。そう確信したライジング=
ボーンドは彼らと「皇帝の十字架」の処刑部隊にならないかという件をエサ
に接触を試みた。かつての仲間達に性格までそっくりな彼らの中にルアーナ
の姿もあり、ライジング=ボーンドは安堵するとともに、ある危惧を抱いた。

 そしてその危惧は形となった。

 『無限王』シリウスの襲来。

 奴はこの世界に、「真紅都市」の姫巫女ルアーナを手に入れんと現れた。

 奴は肉体を「真紅都市」に残し、魂を具現化させて現れた。

 すなわち、こちらの世界のモノ達では傷一つつけられない。

 世界最強と詠われるラクール=フレジッドでも勝つことは不可能だろう。

 勝つ方法はただ一つ。

 「真紅都市」の力を使って倒すのみ。

 すなわち、シリウスを倒せるのはトレント達のみ。

「上等」
 全てを聞き終えたトレントが一言呟いた。

 [続]


〜あとがき〜
久々に気が抜ける話を書いてみました(前半
最近の話重かったからね!(ノ∀`)
次回予告、シュバルツバルト共和国の大統領と面会する「皇帝」。
そこで聞かされる父、ハウゼンの所業。
もう一つの戦いが幕を開けようとしていた。


〜登場人物紹介〜
●グラン
性別:男
JOB:アサシンクロス
Guild:「SLEEPING FOREST」
王国の密偵であるアサシンクロス。
エンペリウムを割るのが趣味。


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