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Ocean's Blue

070:王都陥落

 はるか昔、ミッドガルド大陸の中央にあるルーンミッドガッツ王国を建国し
た初代国王は女性だったという。

 名をフィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ一世という。

 彼女は仲間たちとこの世界を旅し、大別して5つの偉業を成し遂げ、世から
認められ、王となった。その5つの偉業とは、


 1つ、港町アルベルタで起こりし動乱の制圧、かのグロリアス商会との力を
借りたものの、たった一人、1週間もの間戦い続けたという。

 2つ、ミョルニール山脈へと陣を張った魔軍七大勢力が七魔王が一人、『亀
族の大将軍』  タートルジェネラル との激突、そして撃退。

 3つ、古代王国ゲフェニアのゲート解放、「嘆きの王」ゲフェニアとの激しい
戦い、そしてゲートの封印。

 4つ、企業都市リヒタルゼンの一組織「レゲンシュルム」が造り出せし生体
生命研究所の6体の魔人との戦い、組織の壊滅。

 5つ、施術者セリンによるアウレリアス=サタニック=ダークロード召喚の儀。
ダークロードのミッドガルド侵攻を食い止め、セリンを止める。


 そして彼女は人々から認められ、交易都市プロンテラは、ルーンミッドガッ
ツ王国建国の際、首都プロンテラと改められた。そして、この5つの偉業のう
ち、4つ目のリヒタルゼンで起こった事件、この話こそが「皇帝」アイフリード
=フロームヘルの新たな戦いの要因となるのだ。

 ◆

 「ギルド攻城戦」、ルイーナ決戦でレイ=フレジッド達に敗れた「皇帝」アオ
フリード=フロームヘルは近しい者だけを連れて、シュバルツバルド共和国
の首都である「賢者の都市ジュノー」へとやってきていた。ここはアイフリード
の生まれ故郷であり───

 愛する恋人、リーナ=プラスタラスを失った場所でもある。

 ここにやってきているメンバーはアイフリードも含めて6名。

 レイとヴァルキリーレルム砦で激戦を繰り広げた、キスク=リベレーション
 ルイーナ砦でエリカとアルヴィンの共闘で敗北した、リシア=キングバード
 リーナ=プラスタラスの実の弟である、シャドウ=プラスタラス
 「皇帝の十字架」の斬り込み隊長で女の敵、ギルティ=スターン
 「皇帝」を慕いフィリと激突した、ルナ=イムソニアック

 そして、「皇帝」アイフリード=フロームヘルである。

 アイフリードは昔、恋人であるリーナを実の父であるハウゼン=フローム
ヘルによって殺され復讐を誓った。そして先日のルイーナ決戦で見たもの
は、リーナの細胞から造られたホムンクルス、ミサキ=リフレクトだった。
そして、それを操る「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルの姿だった。

 許さない、絶対に───────殺す。

 そして、アイフリード達はある人物の元へとやってきていた。天空の浮かび
し「賢者の都市ジュノー」、その北方にある大統領邸の中央にある執務室、
そこでアイフリード達が面会した人物、彼こそこのシュバルツバルド共和国
の大統領、カール=テオドール=ワイエルストラウスである。
「久しぶりだな、リーフ…いや今はアイフリードだったな」
「いえ、昔のようにリーフと呼んで下さい。貴方があの後一時期、養ってくれ
れば俺は比喩抜きに野垂れ死にしていたはずですから」
「そうか…リーフ、強くなったな」
「いえ、これでもまだ足りないと自覚しました。「ギルド攻城戦」で完敗させら
れましたから」
 カールが驚いたように目を見開いた。
「そうだったな!リーフに勝てる者がまだいるのだったな!」
「ええ。ですが、いずれ借りは返します、必ず」
「フフ、そうだな。目標があることはいいことだ」
 カールが封筒を取り出し、アイフリードの目を見据えた。
「そしてこれがリーフが欲しがっていたハウゼンの資料だ。自由に使うとい
い」
「ありがとうございます」
 アイフリードは封筒から何枚かの紙を取り出し、ざっと目を通した。そして、
苦々しい表情を浮かべ、カールの方へと視線を向けた。
「事実だ」
 カールの短い一言。キスクやリシアが怪訝な表情を浮かべた。そしてアイ
フリードが静かに口を開いた。
「かつて、「企業都市」リヒタルゼンを支配しようとしていた組織があった。名
は「レゲンシュルム」。ルーンミッドガッツ王国建国王の英雄譚にもでてくる
名前だが、その時「レッケンベル」を主導していたマッドサイエンティスト、ボ
ルセブ。その男が用いていた「生体錬金術」という技術をハウゼンは流用し
ているらしい。おそらくはBOTも、そしてミサキ=リフレクトもそれにより造り
出されたのだろう」
 カールが口を挟んだ。
「だが、BOTとミサキ=リフレクトは技術の質が違う。ミサキ=リフレクトを造
り出した技術は洗練されたもの、即ち──リヒタルゼンの6体の魔人と同じ
技術が使われているということだ」
 誰もがその事実に息を呑んだ。

 魔法都市ゲフェンに存在していたドッペルゲンガー、あれは「レゲンシュル
ム」によって造り出された試作体だっだ。数多くの人体実験を繰り返し、そし
てその時代、つまりルーンミッドガッツ王国が建国された時代に存在してい
たリヒタルゼンの6体の魔人、それらこそが完成体。

 ロードナイト、セイレン=ウィンザー
 アサシンクロス、エルメス=ガイル
 ハイプリースト、マーガレッタ=ソリン
 ハイウィザード、カトリーヌ=ケイロン
 スナイパー、セシル=ディモン
 ホワイトスミス、ハワード=アルトアイゼン

 これらがリヒタルゼンの6体の魔人である。そして7体目の魔人としてミサ
キ=リフレクトはこの世界に造り出された。

 ハウゼン=フロームヘルの手足として。

 フェイトの目的を果たすために。

「ひどいです…」
 ルナがぽつりと呟いた。そしてそれはその場にいるもの全員の共通の意
識だった。己の欲望のために愛する2人を引き裂き、弄び、そして未だなお
苦しめ続けている。

 アイフリードが静かに口を開いた。
「皆、俺に力を貸してくれ」
 コクリとその場にいたもの全員が頷いた。


 ドタドタドタ!バタン!


 突如、大統領カールの秘書であるヘスニアルという女性が執務室に飛び
込んできた。カールがいきなりやってきたヘスニアルを嗜める。
「客がきているのだぞ、もっと静かに───」
 ヘスニアルはカールの忠告も聞かず叫んだ。
「大変です──」
 誰もがヘスニアルの方に視線を向けた。
「ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラに魔軍七大勢力、亜の眷属…「世
紀末覇王」オークロード率いるオーク族の大軍団が侵攻を、攻撃を開始した
そうです!援軍の要請がプロンテラより来ています!」
「何だと!?」
 カールの表情が動揺のあまり、声を荒げた。

 すでに事態は、取り返しのつかないところまできていたのだ。

 レイとラクール、あの2人が敗れた瞬間、この世界の終焉は確定していた。

 ◆

ルーンミッドガッツ王国首都プロンテラ───

「グハハハハハ!ガハハハハハ!!殺せ壊せ喰い尽くせ!」
 オークロードの咆哮とともにオーク族最強の戦士であるハイオーク達が
次々と冒険者達を薙ぎ倒していく。あまりにも数が多すぎるのだ。
「オークロード覚悟!」
 果敢に挑みかかる冒険者の顔を掴み、握り潰す。

 グシャ

 ボダボタと赤黒いモノを手に滴らせ、オークロードが徐々にプロンテラ城に
向かい歩みを進める。その様子を木陰から伺うのは、プロンテラの名工、ホ
ルグレンである。ホルグレンはこういったときのために、プロンテラの地下に
隠れる場所を作っていた。とにかく女子供から避難させ、手早く人々を誘導
させていた。ホルグレンが舌打ちした。
「くそ…!20年前の教訓が役に立つとはな…」
 20年前の大戦の爪跡を噛み締めながら、ホルグレンも避難していった。


プロンテラ城内部───

 ルーンミッドガッツ王国の国王、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三
世は側近である密偵のアサシンクロス、森の人グランを呼び寄せていた。
「グラン、「これ」を───彼女に届けてくれ」
「これは──!」
 グランの表情が驚きに変わる。
「行け!王国を!この世界の未来を終わらせるわけにはいかぬ!必ず届け
るのだ!王国の未来は──彼女に託す!」
「了解しました!」
 グランが城の脱出口──抜け道より脱出していく。


 グランは自分がだせる限界の速度で駆けた。「これ」は王国の希望、この
世界の未来を左右するもの。だからこそ、自分は捕まるわけには行かない。
彼女の元に─────必ず届け────
「逃げられるとでも思ってる?」
「くっ!」
 フェイトの側近たる「七つの大罪」の一人、セレス=ドラウジーである。
「ソウルブレ──」
「残念」
 迅過ぎる。
「ガハ…ッ」
 真一文字に胸板を斬り裂かれたグランが倒れ伏す。血溜りができあがり、
セレスの表情が虚しいものに変わる。

 セレスが身を翻し立ち去っていった。

 数分後、グランがムクリと起き上がる。
「残念なのはそちらだったな、昔から自演には慣れている」
 胸からケチャップの入った袋を投げ捨て、グランの姿が闇に消えた。

 ◆

 ルーンミッドガッツ国王、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世は招
かれざる来訪者がついにやってきたことを感じた。
「来たか」

 ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 黒い竜巻とともにフェイトが姿を現した。

 レイ達をグラストヘイムで倒したフェイトの次の標的は王国。

 ルーンミッドガッツ王国の制圧、そして支配。

 フェイトが口の端を吊り上げながら、この国の国王であるトリスタン三世に
向かって言葉を発した。
「この国と王権を頂きに参りました───父上」
「おのれ!」
 トリスタン三世が剣を抜き、フェイトへと向けた。



 フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世へと。



 フェイトが嘲笑を浮かべる。
「ハハハ、実の親子だろう?この国は俺がもらってやろう」
「黙れ!貴様は何を企んでいる!貴様は一体…何者だ!
「言ったはずだ、俺は「ユミルの聖杯」を追い求めていると、それは「ユミルの
十字架」美徳と大罪それぞれ7名ずつ、すなわち14名の候補者の中から生
み出される『もう一人』のユミル」
「ユミル…だと!?」
 ユミルとはかつて栄えた巨人族の母と呼ばれる存在で、太古の昔、アース
神族によって殺害され、現在の「世界を構成している」存在である。
「まさか貴様は…ユミルを復活させようと言うのか!?」
「だとしたら、どうする?」
 完全なる肯定、トリスタン三世の表情が歪んだ。
「バカな!うまくいくはずがない!世界の構成要素をもう一人のユミルへと移
すつもりか!そんなことをしたら世界が壊れてしまうぞ!」
 そう、器に注がれた水、それを別の器に移そうとしても完全には移らない。
それと同じことなのだ。そんなことをすれば確実に世界に歪みが生まれ、世
界は崩壊するだろう。
「壊れてしまえよ、こんな世界」
 フェイトの冷徹な宣告、さらにフェイトは語る。
「だが──聖杯候補者の選出には苦労した。ユミルという器は大きいから
な。それなりの器を持つモノではなくてはならない。あの「皇帝」アイフリード
=フロームヘルや「七英雄」ラクール=フレジッドですら、ユミルの器を支え
るには不十分だ。その点、王家の血とは凄まじいな」
「…っ!」
 トリスタン三世はこの国最大の秘密を「すでに」フェイトに知られているので
はないかという気配を感じた。知られていると知られてないとでは今後の対
応も変わる。
「俺自身が聖杯となるわけにもいかない、儀式の施術者は俺だからな。かと
言って「ユミルの十字架」にすら選ばれなかった父上を使うわけにもいかな
いだろう?」
「何が言いたい…!?」
「父上、俺が知らないと思っているのか? 「存在しない王女」フェリカ王女の
存在をな」
「くっ…!」
 トリスタン三世の表情が焦燥に歪んだ。
「彼女は凄まじい力の持ち主だ。さすがはこの国の、王家の血をひいている
だけのことはある。この国の建国王と同じ名を持つ王女。

 ルーンミッドガッツ王国の国王たるトリスタン三世の実の娘にして、

 この国の正統王位継承者。

 フェリカ王女。
























 現在の名を



 フィリ=グロリアス










 

 ルーンミッドガッツ王国の建国王と同じ名を持ち、この俺の双子の妹にあ
たる女。十数年前にオールド=グロリアスに預けられ育った「この国には存
在しない王女」、それがフィリ=グロリアス、フィリア=フェリカ=ルーンミッド
ガッツ二世。

 あの女を「ユミルの聖杯」とし、俺は目的を果たす。止められるものなら、
止めてみろ」
「おのれ…っ!」
 マリア=ハロウドの残した予言はこうだった。

『フィリ、もしくはフェイトのどちらかに、「この世を滅亡に追い込む超高位の
魔族」が顕現します。その存在が何かはわかりませんが、放っておけば必
ず世界は…』

 だからこそ、フィリをグロリアス商会に預け、

 だからこそ、フェイトをリフレクト劇団に預けた。

 トリスタン三世に自分の子供を殺すことなどできなかった。その気持ちを、
グロリアス商会もリフレクト劇団も、どちらもトリスタン三世の親としての気
持ちを汲んでくれたのだ。命をかけて、親の愛情を汲んでくれたのだ。

 そして、先日、その明暗が分かれた。

 トリスタン三世の元に、リフレクト劇団が皆殺しにされていたとの報が入っ
た。フェイトを預けていたリフレクト劇団は殺されたのだ。

 この男、フェイトに。

 ズゥン!

「ぐはあっ!」
 超重力が突如発生し、トリスタン三世が玉座の間の床に押しつぶされた。
「父上、貴方は殺しません。最期の最期まで生きて、この世界の顛末を見
届けてください。この世界が滅びる様をずっと見ていてください」

 次にトリスタン三世が目を開いた時、暗い暗い牢獄の中であった。

 そしてフェイトが玉座に座る。

 それと同時刻、オークロードによって衛星都市イズルードを含むプロンテ
ラ全土を制圧したとの報が入る。さらに────

 国境都市アルデバラン「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルが、
 砂漠の都市モロクを「古の黄金王」オシリスが、
 魔法都市ゲフェンを「無限王」シリウスが、

 それぞれ制圧したとの報が入る。

 それらの報を受け、フェイトが嘲笑を浮かべる。
「早く出てこい、フィリ=グロリアス。早くでてこないと俺がこの国を───」


 壊してしまうぞ

[続]


〜あとがき〜
だーorz 中々書き出さないですが、
書いたらボリュームが一話ごとに増えとるΣ(´Д`|||
次回予告!王国制圧の方を受け、トレントとアイフリードが動きだす!


〜登場人物紹介〜
●フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ一世
性別:女
ルーンミッドガッツ王国の建国王。凄い人だったらしい。

●カール=テオドール=ワイエルストラウス
性別:男
シュバルツバルド共和国の大統領。
アイフリードの面倒を一時期見てやったことがある。
秘密組織を使うのが趣味で「秘密の羽」という直属組織を持っている。

●ヘスニアル
性別:女
カール大統領お付きの秘書。
びしばし仕事する人。

●フィリ=グロリアス [再]
性別:女
JOB:プリースト
フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ二世が本当の名。
フェイトは双子の兄。
現在は行方不明になっている。

●フェイト [再]
性別:男
JOB:不明
フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世が本当の名。
フィリは双子の妹。
王国を制圧、今後の動きは…?


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