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Ocean's Blue

071:開戦の狼煙

「プロンテラが陥落した…だと」
 その報告がシュバルツバルト共和国大統領であるカールの元へ届いたのは、プ
ロンテラが攻められているとの第一報が届いてからわずか6時間足らずのことであ
った。大統領の執務室に重苦しい空気が流れる中、同席していた「皇帝」アイフリー
ド=フロームヘルが口を開く。
「カール、戦うというのなら、先頭に立つが?」
 カールが自分を落ち着けるように目を伏せた。カールとてわかっているのだ。ここ
で戦わなければ、世界はフェイトに滅ぼされる。
「だがリーフ、プロンテラの主要都市全てを同時に潰してしまうほどの戦力を相手は
保有している。我々だけでは────負けるぞ」
 アイフリードの口元が皮肉げに歪んだ。
「主要都市「全て」ではない。港町アルベルタの情報は入ってきてはいないが…山
岳都市フェイヨンは「まだ」負けていないはずだ」
「何故、そう断言できる?」
「「奴ら」が本拠としている場所だからな」
 カールがハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。
「そうか…!真紅の旅人…!「トレント★樹海団」か!」
「ああ、我々「皇帝の十字架」の独裁を打ち崩す一端となった奴らの事だ、今頃激し
い抵抗を繰り広げているだろう」
 アイフリードは確信を込めて断言した。

 ◆

 山岳都市フェイヨン───

「ふぁ〜ああ〜、あー眠ぃ」
 その頃、トレントはあくびをしていた。何と言うかアイフリードが見たら、瞬間的に
八つ裂きにしてしまいそうな程の気の緩みっぷりである。トレントは宿の一室の窓
から顔を出すと、外で厳しい顔をして打合せをしている「トレント★樹海団」の騎士、
フィン=ロルナークに声をかけた。
「フィン」
「何だ?」
 フィンが忌々しげにトレントをにらみ付ける。
「アルベルタで売ってるおいしい魚が食いたい、買ってきて」
「ふざけんな!」
 フィンが怒鳴りつけた。そう、山岳都市フェイヨンは現在「幻影」ウェルガ=サタニッ
ク=ダークイリュージョン率いる「闇の眷属」と激しい篭城戦を繰り広げていた。プロ
ンテラ陥落の報を受け、少しでも使える「頭」を求めて、トレントの元に冒険者達が
殺到したためだ。(本当は「皇帝」がよかったのだが、「皇帝」は現在ジュノーに行っ
ている) だが、当のトレントは「無限王」シリウスの話を聞いてから、それ以外の事
が眼中に入らなくなったのか、全てを上の空で聞くような状態になってしまっていた。
仕方がないので、「トレント★樹海団」の残ったメンバーが手分けして指揮している
が、いずれ限界がくるだろう。それに、何もしないトレントへの冒険者達の不満はす
でに爆発寸前の所まできていた。

 再び、トレントが口を開く。
「フィン」
「今忙しいんだよ!やる気ないならとっとと寝てろ!」
「アルベルタだぞ。一週間以内に戻って来いよ?」
「うるせぇよ!死ね!」
 そう叫びながら、フィンは違和感を感じた。それは長年トレントと付き合ってるから
こそ感じることができた、かすかな違和感。フィンが「その」可能性に気づき、トレント
の方を振り返ったときは、すでにトレントの寝息が聞こえていた。

 ◆

 それから一週間の死闘を経て、山岳都市フェイヨンの冒険者連合は「幻影」ウェル
ガ=サタニック=ダークイリュージョン率いる「闇の眷属」を撤退させるまでに至った。
敵の総大将ウェルガが何故か腹部に凄まじい傷を負っていたことにも救われた。
 冒険者連合は現在、フェイヨン中央の大会堂で会議中である。

 すなわち、このままプロンテラまで攻め上がるか。

 または、フェイヨンに残り、さらなる力を蓄えてから討ってでるか。

 会議の内容は白熱していたが、話はこの勝利の勢いに乗じてフェイトが支配する
プロンテラまで攻め上がる方向に傾き始めていた。


 大会堂にも入れてもらえず(自業自得だが)、大会堂の近くにある草むらで惰眠を
むさぼっていたトレントの前に一人の男が立った。

 フィンである。

 トレントが愉快気な表情を浮かべた。逆にフィンは蒼白な表情をしている。あまり
にも恐ろしいものを見てきたかのような表情だった。
「トレントお前…「気付いて」…いたのか…」
「いや?そういう可能性もあるかなとは思ってたがな。ま、確信したのは、たった今
フィンの表情を見たからだ」
「どうするつもりだ…俺たち一人残らず皆殺しにされるぞ」
 トレントがゆっくり立ち上がる。
「現状のままだとそうだな。だがこちらに必要な手札は揃った。そろそろ動くとしよう
か」
 トレントはズカズカと大会堂の方へと歩き始めた。当然だが、大会堂の入り口で
見張りをしていた2人の冒険者のうち1人が怒鳴りつけた。
「おいトレント!ここはお前みたいなクズが入る権利なんて無ぶげらしっ!」
 見張りの冒険者に思いっきり裏拳を入れたトレントが申し訳無く「なさそう」に呟いた。
「すまん、邪魔」
「おい!トレント暴れるつもりか!」
 もう1人の見張りの冒険者が咎めるように言った。
「暴れないけど通るぞ」
「だめだ!通行許可はでていない!」
「どけ」
「だめだ!」
「どいて」
「ダメ!ゼッタイ!」
「殴るぞ」
「やってみぐぶふぉげぁ!」
 見張りを殴り倒したトレントが背後のフィンに言う。
「行くぞ」
「もうちょっと穏便に済ます方法を知らんのか…」
「一刻を争うからな、こいつらも死ぬよりは殴られるほうがマシだったと後々思って
くれるさ」
 トレントは自分が殴り倒した冒険者2人を見おろしながら笑った。

 ◆

 大会堂の会議の場にトレントが現れると、何とも言えない冷たい空気が流れた。
その空気に込められた意味合いはただ一つ。

 何でこいつがここにいるの、超うざ…

 という空気だった。が、そんな空気を気にせずトレントが口を開いた。
「おいお前ら俺の言うことを聞け」
 室内の空気の温度が雪の国ルティエもビックリなほど冷え込んだ。そんな中、会
議を行っていた冒険者の1人が口を開いた。
「トレント」
「何だ?」
「見張りが2人いただろう、あれはどうした?」
「寝てる」
「寝 せ た ん だ ろ !」
「わかってて言うなよ」
「おい!!トレントを追い出せ!!」
 会議に参加していた冒険者達が各々の武器を取る。一触即発、大乱闘の気配が
立ち込めた。
「ふん…いいぜ相手になってやる。ここで俺に殺されるようなら、この後に控えてる
アルベルタの敵との戦いにも勝てないだろうしな」

───────アルベルタ?

 その言葉に違和感を感じた冒険者達の手が止まる。
「おい、トレント…それはどういう意味なんどぐふぉぉああああっ!」
 トレントの蹴りがその冒険者に炸裂した。
「アホかあああああああああああああ!」

 どがす!

「ぐはっ!」
 事情を知っているフィンがトレントの背中に飛び蹴りを入れる。フィンがトレントの
ダメっぷりに涙しながら主張した。
「違うだろ!そこ蹴るところじゃないだろ!な!話の流れ見ろよ見ようよ!」
「フィン貴様殺す」
「話を聞けアホおおおおおおおおおおおおおおお!」
 飛び蹴りでキレたトレントがゆらりと剣を鞘から引き抜く。が、そのままフィンに斬り
かかることはなく、トレントがくっくっと笑い始めた。
「何がおかしい!」
 他の冒険者が怒りの声を上げる。トレントは笑いがこらえられないといった風でそ
の冒険者を見た。
「お前らこのままプロンテラに攻め上がるとほざいてたな」
「そうだ。今ならウェルガ=サタニックを追撃して討伐することも可能な上に、この勢
いで士気の高いままならば、プロンテラを奪還することも可能だからだ!」
「攻め先はアルベルタだ。それ以外ありえない」
 トレントのその言葉に誰もが怒りを覚えた。プロンテラとアルベルタはフェイヨンを
中心に真反対に位置しており、その発言はふざけているとしか思えなかったからだ。
「バカかお前は!アルベルタには敵がいない!敵の幹部の数、その幹部の現在の
位置と軍の所在を考えろ!アルベルタには敵は存在しない!」

・  首都プロンテラに「奈落の王」フェイトと「七つの大罪」である「闇騎士」セレス=ドラ
ウジーと「暗殺王」ロウガ=ブラスト

・衛星都市イズルードに「世紀末覇王」オークロード

・  国境都市アルデバランに「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルと「死者の巫
女」ミサキ=リフレクト

・砂漠の都市モロクに「古の黄金王」オシリス

・魔法都市ゲフェンに「無限王」シリウス

 そして、山岳都市フェイヨンに「幻影」ウェルガ=サタニックがそれぞれ軍を配置し
ている。幸か不幸か港町アルベルタはどう考えても放置されているとしか考えられ
ないのだ。

「違うな」

 だがトレントはその主張を完全に否定する。

「国を支配する侵略する王権を我が物とするために必要な要素の一つとして、
「海路」があげられる」
 重みをもって語りだすトレントの言葉に誰もが聞き入る。
「この国の重要な「海路」の玄関口はどこだ?イズルードとアルベルタだろうが。
俺ならば真っ先にこの2拠点を押さえる。戦意がなくなった奴を海路から逃がさ
ない事も含めてな。───ならば」
 トレントが先ほど抜いた剣を鞘に戻しながら言った。
「何故フェイトはここに軍を侵攻させない?配置させない?」

 その場にいた誰もが「その可能性」に気付き始めた。

 トレントは結論を出そうとしている、誰もが「求めていない」答えを。
「港町アルベルタにはすでに敵の勢力化だということだ、そしてその敵の名は誰も
がもう気付きはじめているはずだ。フェイトに従った魔王は「幽鬼なる海魔」ドレイク
や「古の黄金王」オシリス、「世紀末覇王」オークロードだけなのか?誰がそう決め
た?決め付けた?その可能性を否定して考えないようにしていただけじゃないの
か!?」
 もしトレントの話が本当ならば敵の名前は「あの魔王」しかありえない。それに気
付いた冒険者数名が恐慌状態に陥る、耳を塞ぐ、震えがとまらなくなる。
「このままウェルガを追撃すれば間違いなく挟み撃ちにあって俺たちは全滅する
ぞ?ウェルガは追撃せず、アルベルタに向かい戦うべきだ!」
 そこでアルベルタを実際に見てきたフィンが口を挟む。
「俺はトレントに頼まれて実際にアルベルタを見てきた。無惨なものだったよ。すで
にアルベルタは完全に制圧されている状態だった」

 そしてトレントが答えを出す。
「もう気付いているだろう。「幽鬼なる海魔」ドレイクが「神雷」レイ=フレジッドによっ
て倒された現在、アルベルタ近郊に存在する「魔軍七大勢力」なんざ一つしかねぇ。
俺たちの相手は奴だ、奴が率いる化け物どもだ」

 すなわち、「魔軍七大勢力」の一角、

 魔物の中でもトップクラスの実力と軍団の強さを誇る「武の眷属」、

 霧の中に存在し、古代の冒険者に発見されし軍艦島、

 それらを治めし最強の魔王。



「「亀族の大将軍」タートルジェネラル。奴が俺たちの相手だ」



 トレントにより答えはでた。

 絶望にも似た、残酷な結論が。

 ◆

港町アルベルタ────

 その中央に陣を張ったタートルジェネラルの元に一人の人間が連行されてきた。
その男の名はオールド=グロリアス。このアルベルタを代表する商人ギルドの評議
員にして、フィリの育ての親でもある。オールドはボロボロだったが、それでも目に
輝きを失ってはいなかった。
「何故だ」
 オールドが呟く。
「タートルジェネラル翁。貴方は魔王の中でも最も人間に友好を示してくれる方だっ
たはずだ。ラクールとも酒を酌み交わし、貴方だけは最後まで人間に刃を向けない
と信じていた」
 タートルジェネラルはゆっくりと首を横に振った。
「わしとてこのような事はやりたくなはい。だがの、わしにも護るべきものがあるのだ。
それは我が眷属、わしについてきてくれる仲間、部下。わしがフェイトに逆らえば、
必ずフェイトは我が同胞を殺す。それだけは認められぬのだ。すまぬ、オールド=
グロリアス、我々「武の眷属」は全力で人間どもを排除せねばならぬ」

 タートルジェネラルは北を見据えた。

 北方より土煙をあげながら人間達、冒険者連合が現れる。
「もうこれは止められぬ戦争なのだ。ゆえに─────」

 冒険者連合の先頭に立ったトレントがタートルジェネラルの姿を見据える。
「お前らわかってるな、こいつはあくまで中ボスだ。潰すべきはプロンテラでふんぞ
りかえってやがるフェイトだ。だからな────」


 トレントとタートルジェネラルが同時に言葉を発する。

「「 この戦い、負けてたまるものか 」」

 同時に突撃の指示が響き渡る。魔物最強と呼ばれる亀族と、フェイトの侵攻で生
き残った猛々しき冒険者達が激突する。

 そしてトレントは真っ直ぐとタートルジェネラルの元へと駆け出した。

 [続]


〜あとがき〜
オー、ワタシ社会人更新オソイノ仕方ナイネ!すんませんすんません(ノ∀`)
次回予告!圧倒的なタートルジェネラルの力に対抗する術とは!
そして戦いは思わぬ方向へと転機していくのであった(てけてん


〜登場人物紹介〜
●タートルジェネラル
「亀族の大将軍」と呼ばれる「魔軍七大勢力」の魔王の一人。
自らの領地に踏み入ったものには容赦はしないが、基本的に争いを好まない。
自らが護るものをかけてトレント達の前に立ち塞がる。


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