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Ocean's Blue

073:真実の彼方

 港町アルベルタ────

 5日前に繰り広げられた冒険者連合とタートルジェネラルの軍勢の戦いの
傷はまだ癒えたとは癒えないが、ようやく街に活気が戻りつつあった。タート
ルジェネラルの敗戦が知れ渡ると同時に亀族は自らの占有域であるタート
ルアイランドへと撤退していったのだ。
 アルベルタの実質的指導者であるオールド=グロリアスの元、アルベルタ
は再び街として動き出した。ルーンミッドガッツ王国において、唯一フェイトの
力が及ばない地域として。

 そんな中、「トレント★樹海団」のギルドマスターであるトレントは、ギルドメ
ンバーのクルセイダー、アルヴィンとともにオールド=グロリアスの邸宅を訪
れていた。応接室へと通され、そこで待っていたのはオールド=グロリアスと
背中に激しい裂傷を負っている高齢の老人が一人。トレントがニヤリと笑み
を浮かべて、その老人に言った。
「痛そうだなーその傷」
 老人が額に青筋を浮かべながら言い返した。
「少しは老人をいたわったらどうかと思うのだがの」
「パワフルなじーさんはいたわる必要がないと思うぜ、ハッハッハ」
「ふぉふぉふぉ、やっぱり殺しとくべきかのう、ふぉふぉふぉ」
 オールド=グロリアスが頭を抱えながら口を開いた。
「あーほらほら、ケンカはご法度だ。我々は情報交換を行うために集まった
のだから、2人とも喧嘩腰にならない」
 トレントがニッコリと笑みを浮かべる。
「負けじじいがでかい口叩けないようにたしなめてるだけだぜ」
 老人がニッコリと笑みを浮かべた。
「一度勝ったからと調子づいてる若造は滅しておくべきかのう」
「あん?殺すぞクソじじい、もっかいぶっとば」

 ぼぐ!

 その鈍い音ともにトレントの言葉が途中で途切れ、トレントが気絶する。隣
にいた見かねたアルヴィンがトレントを強制的に黙らせたのだ、椅子で。
「話を続けてください」
 今まさにトレントを殴り倒したというのに自然体なアルヴィンの言葉に、引き
ながらもオールドが口を開いた。

「まず、本日はこの場に来ていただきありがとうございます。「亀族の大将
軍」タートルジェネラル、そして「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレント
とそのギルドメンバー、アルヴィン」
 オールドはその言葉を口にしている間、気絶して転がっているトレントに
は目を向けない。
「ふむ、久々に人の形をとってみたが、たまには悪くないのう」
 老人の正体は5日前、トレント達と死闘を繰り広げたタートルジェネラルで
あった。レイと行動をともにしているジュニア=サイドライクのように人型に
姿を変え、この場へと現れたのだ。
「わしが出せる情報は全てだそう。わし相手に「全てのカードを切らず」に、
わしを撃破してみせたそこの若造に免じての」
「…っ」
 アルヴィンの表情が少し曇る、やはり見抜かれていた────か。
「わしの知りうる限り、そこの若造が動かせる強力な駒はあと3人存在する。
ローグのルアーナ、ハイプリーストのライジング=ボーンド、アサシンのプ
レックスターじゃの。が、「無限王」シリウスにルアーナが狙われていること
から、最強の駒であるライジング=ボーンドをルアーナの護衛につかせ、さ
らにプレックスターを闇に潜ませ二重にルアーナを護っている。いつ「無限
王」シリウスが襲撃してきてもいいようにの。表舞台から完全にこの3人の
姿を出さず、わしのような障害は残った4人で払っていく。実に、大胆不敵か
つ緻密に計算しておる」
 タートルジェネラルの分析は図星だった。トレントはシリウスの襲撃に備
え、ルアーナを護り抜くことを最優先とした。例え目の前に魔軍七大勢力の
魔王が立ち塞がろうと、優先順位は変わらない。理由は明確だ。

 トレントの目的はシリウス、そしてその先にある「真紅都市」。

 シリウスの目的は「真紅都市の姫巫女」ルアーナ。

 ルアーナを奪われれば「真紅都市」への唯一の道は途絶える。故に、他
の全てを犠牲にしてでも護り抜く。トレントが夢を諦めていない証拠だった。
「それを言うなら────」
 トレントがムクリと起き上がる、頭に椅子が刺さったまま。
「タートルジェネラル、あんたも本気じゃなかっただろう。あんたが本気なら、
俺らは抵抗すらできなかったはずだ。あんたには伝説にすら詠われている
「水」そのものを支配する力があるんだからな」
 この世界を構成している重要な元素である「水」、それを力で支配すること
ができる、それがタートルジェネラルを魔王たらせる一番の要因だった。
「ふむ────それはいい。本題へと入るとするかの」
 タートルジェネラルが言葉を濁しながら話題を変える。
「情報交換と言っても多大にあるぞ───何を聞きたい、若造よ」
 トレントは表情を変化させず、すぐさま最初の質問をした。
「レイ=フレジッドは本当に死んだのか?奴らに───何が起こった?」
「やはりそれからだろうと思っていたぞ。では話すとするかの───フェイト
がルイーナに出現し、主らと別れた後、レイ=フレジッド達に何が起こった
かを─────」
 タートルジェネラルは静かに語り始めた。

 ◆

 そして──────

「…ッチ」
 話を聞き終えたトレントは最初に舌打ちした。オールド=グロリアスもまた、
自分の娘たちに起こった悲劇を聞き、涙をぬぐっていた。
「そういうことかよフェイトの野郎…、それに…そうか。かなり見えてきたぜ、
奴らがどういう目的で動き始めているかを、そしてこの一連の出来事のカラ
クリがな」
 タートルジェネラルが目を見張った。よくよく考えればどう考えても勝てるは
ずのない自分を倒す計略を立てたのはこの男だ。ならばこの男なら見える
何かがあるかもしれない。トレントが静かに口を開く。
「おいじーさん…「ユミルの十字架」ってのは…この世界で才能とか潜在能
力とかがある奴に備わるんだよな」
 タートルジェネラルが頷く。
「その通りじゃ。器広き者、ユミルという器に満たされた「世界」をうつしかえる
事ができる「ユミルの聖杯」の候補者としての烙印、それが「ユミルの十字
架」じゃ。「世界」とはこの世そのもの、ミッドガルド大陸しかり、この世に存在
する全ての存在の事を指す」
「なら、何故、「ユミルの十字架」には「七つの美徳」、「七つの大罪」の2種類
存在する」
「それは聖杯候補者としての「ユミルの十字架」がユミルの感情になぞらえ
たモノだからだ。人間にもあるだろう、喜びなどの感情を示す正の面、怒り
などの感情を示す負の面が。ユミルもまた感情を持つ存在だということじゃ」
 トレントがタートルジェネラルに詰め寄る。
「ならば、その「七つの美徳」と「七つの大罪」を持つ7人+7人、計14人は誰
だ?」
「わしの知りうる情報では美徳と大罪は対になっており、血縁者や親族に生
まれ出でる。

「希望」の十字架(美徳)を持つ、「七英雄」ラクール=フレジッド
「無為」の十字架(大罪)を持つ、「神雷」レイ=フレジッド

「英知」の十字架(美徳)を持つ、「皇帝」アイフリード=フロームヘル
「貪欲」の十字架(大罪)を持つ、「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘル

「思慮」の十字架(美徳)を持つ、「Ocean's Blue」エリカ=フレームガード
「情欲」の十字架(大罪)を持つ、「聖騎士団副長補佐」セレス=ドラウジー

「勇気」の十字架(美徳)を持つ、「Ocean's Bule」イアル=ブラスト
「傲慢」の十字架(大罪)を持つ、「暗殺王」ロウガ=ブラスト

「愛情」の十字架(美徳)を持つ、「存在しない王女」フィリ=グロリアス
「暴喰」の十字架(大罪)を持つ、「生み出すモノ」ミリア=グロリ───

「違う」
 トレントがタートルジェネラルの言葉を遮った。
「フィリと対をなす奴はフェイトだ。フィリ=グロリアスはあんたの本当の娘で
はなく、この国の国王であるトリスタン三世の実子なんだろう?」
 オールド=グロリアスが静かに頷いた。その頷きに満足したのか、トレント
が語り始める。
「つまりだ、オールド=グロリアス、あんたが十字架持ちじゃない以上、ミリア
=グロリアスと対なす十字架の持ち主はその妹であるティア=グロリアスと
いうことになる」
「な…」
 オールド=グロリアスの表情が驚愕に歪む。タートルジェネラルが話をまと
める。
「すなわち、こういう事かの。

「愛情」の十字架(美徳)を持つ、「存在しない王女」フィリ=グロリアス
「憤怒」の十字架(大罪)を持つ、「奈落の王」フェイト=トリスタン=ルーン
ミッドガッツ四世


「暴喰」の十字架(大罪)を持つ、「生み出すモノ」ミリア=グロリアス

 その十字架と対になる十字架の持ち主

七つの美徳の十字架を持つ、「Ocean's Blue」ティア=グロリアス

残る持ち主が不明の十字架は七つの美徳が2つで「誠実」と「純潔」、七つの
大罪の残る十字架が「嫉妬」となるのう

 トレントが口を開く。
「単純に考えれば「誠実」と「嫉妬」は対だな。となればティア=グロリアスの
持つ十字架は「純潔」となる。ここでだ、このミッドガルドの海にしばしば現れ
る『Ocean's Blue』の話にうつるわけだ。『Ocean's Blue』という名の純青の海
は、ユミルの純粋な心、「純潔」の十字架を投影したモノと考えられる。なら
ば何故「純潔」な十字架のみがこのような現象を引き起こしているのか…」
 その場にいた誰もがトレントの言葉に聞き入る。


「全然わからん!」


 ばご!


 アルヴィンの椅子(2個目)がトレントの頭上に突き刺さった。トレントは椅子
(2個)を頭に突き刺したまま言葉を続ける。
「それは置いといてだ、今十字架を持っている面子を見てほしい。どいつもこ
いつも信じがたい実力者ばっかりだ。おそらく潜在的な能力まで見ると世界
最強を上から順に数えたような順番になっている」
 オールド=グロリアスがトレントに問う。
「トレント君、君もかなりの実力者だろう。君は「ルイーナ決戦」において「皇
帝」やレイ君をあそこまで追い込んでいる上に、今回、タートルジェネラル殿
まで撃破してみせた」
 トレントの口元が皮肉気に歪む。
「俺には「真紅都市」の力というアドバンテージがあるから上位に食い込めて
いるだけだ。ユミルからしてみたら才能なんざない奴に見えるってことだろ」
「…」
 オールド=グロリアスが納得したような表情を浮かべる。
「で、」
 トレントが話を再開する。
「十字架持ちの連中、どうみても「ルイーナ決戦」、あの場にいた奴ばっかり
だ。むしろ参加するようにフェイトやウェルガ=サタニックに工作された可能
性すら考えれる。何故だと思う?」
「わからんの」
 タートルジェネラルはトレントの次の言葉を促した。
「フェイトがレイ=フレジッドの『ラグナロク』を弾き返せるほどの化け物なら、
ルイーナ決戦の最後の襲撃、あの時点で俺たちを皆殺しにできていたはず
だ。だがあの時点で奴は俺たちを殺さなかった、すなわち殺すことが目的で
はなかったということだ」
「ふむ…」
「俺はあの襲撃、そしてルイーナ決戦までの「ギルド攻城戦」の一連の流
れ、あれは「ユミルの十字架」の集結が目的ではなかったかと考える。「ユ
ミルの十字架」は「ユミルの聖杯」となる候補者達に宿る。だが、その候補
者達はどうやって判別され、「ユミルの聖杯」を選び出すんだ? 『選択と
いう作業を行うには候補を集める必要がある』ということだろう?」
 トレントは言葉を続ける。
「すなわち、「ギルド攻城戦」の真の目的は「ユミルの聖杯」を生み出す最初
の要因だったということだ。「ユミルの十字架」同士の相対認識、それこそが
フェイト達の目的だった。最後の襲撃、あれはレイ=フレジッド達が危機に
陥れば必ずラクール=フレジッドが駆けつける、という狙いがあったため行
われたモノだろう。ロウガ=ブラスト、フェイト自身、両陣営で工作を繰り返
し、あの場に全員が集まるように動いていたということだ」
「なら、あの場でいったんフェイトが退いたのは…」
 アルヴィンの言葉にトレントが頷いた。
「「ユミルの聖杯」の候補者が選定されたかどうか、時間を置き確認するため
だったんだろう。そして「ユミルの聖杯」は狙い通りフィリ=グロリアスに選定
され、レイ=フレジッドはフェイト達にとって、「ユミルの十字架」という道具か
ら最も邪魔な障害へと変化した。よってグラストヘイムで処刑執行を行った」


 静寂がその場を支配する。


「それで、トレント君はこれからどうするつもりだ…?」
 オールド=グロリアスの不安気な声。トレントが静かに口を開いた。
「船をよこせ、オールド=グロリアス。俺は冒険者連合を率い、海路を使って
衛星都市イズルード、そしてルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラに攻め
上がるつもりだ」
「…っ!」
「どのみち───俺には約束があるからな───」



「もし───俺に何かあったらフィリを助けてやってくれないか」



 それは一人の男が残した、ただ一つの想いを込めた言葉、託された約束を
果たすためにトレントはプロンテラに向かうのだ。プロンテラで繰り広げられ
るであろう最後の戦いへと向けトレントが動き出した。

 ただ、トレントには一つだけ懸念点があった。
「「ユミルの十字架」で判明していない美徳と大罪、「ルイーナ決戦」の場にお
いての強大な戦果を残すほどの才能の持ち主…、やべぇな」
 「皇帝の十字架」の中に、その2人が両方存在する可能性がある。

 「皇帝」の道もまた────険しき茨の道という事になる。

 アルヴィンとともに他の仲間が待つ宿に向かいながらトレントが呟いた。
「ま、あいつなら何とかするだろ。それにしてもタダで船が手に入るぜ、わざ
わざ海路を選んで正解だったな。これで戦い終わらせたら「真紅都市」まで
船でいけるぜヒャホーイ」
「…前々から思ってたんですけど、あなたは計算高いのではなくて、思考が
ド汚いんですね…」
 アルヴィンはトレントの頭に刺さった椅子(2個)を見ながら、やれやれと呟
いた。

 ◆

 国境都市アルデバラン─────

 エルメスプレートの先、アルデバランの中央にそびえ立つクロックタワー。

 「アルデバラン時計塔」

 エルメスプレートの峰よりそれを見下ろす者がいた。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘル

 彼はシュバルツバルド共和国大統領、カール=テオドール=ワイエルスト
ラウスより借り受けたジュノー連合軍と、シュバルツバルド全域でつのった冒
険者達の義勇軍を率いてその場へと現れた。

 過去に決着をつけるために彼はここへとやってきた。

 アルデバランを制圧している者の名はハウゼン。

 アイフリードの実の父にして「堕ちたる七英雄」

 これより────「皇帝」の物語が幕を開ける。

 [続]


〜あとがき〜
⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
今回の話は謎解き編その1でした。
よし!次回予告だ!
進撃「皇帝」軍、その前に立ち塞がるリヒタルゼンの六魔人。
圧倒的な力を前にどう戦う!フレフレ皇帝!負けるな皇帝!


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