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Ocean's Blue

074:生体生命の魔

 国境都市アルデバラン────

 ルーンミッドガッツ王国とシュバルツバルド共和国を結ぶ国境線に位置す
る都市にして、最もルーンミッドガッツ王国で美しい都市。水路には透き通っ
た水が流れ、道行く人々からは談笑が絶えなかった街。

 今は無人、生きる者はなく、ただ蹂躙され滅びた街。

 滅ぼした者の名はハウゼン。

 かつて世界を救った「七英雄」の一人、ハウゼン=フロームヘル。

 その男を倒すべく、ハウゼンの実の息子であるリーフが、

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルがアルデバランへとやってきた。

 ◆

「あの建屋も無人だったぜ」
 キスクがアイフリードの元に戻ってきた。アイフリードはシュバルツバルド
で募った義勇軍を街の北側に配置し、数名だけでアルデバランを偵察して
いた。そう、今のアルデバランはあまりにも人の気配、魔物の気配がしない
のだ。瘴気が篭った霧がかかり、いつ襲撃があるやもしれないのに、何も感
じないのだ。アイフリードは全軍に被害をだすわけにいかないと考え、信頼
できる数名を連れ、アルデバランへとやってきていた。

 その信頼できる仲間とは「皇帝の十字架」、最高幹部の面々である。

 「魔人拳」  キスク=リベレーション (チャンピオン)
 「閃光剣」  リシア=キングバード (ロードナイト)
 「月夜姫」  ルナ=イムソニアック (プロフェッサー)
 「長射撃」  シャドウ=プラスタラス (スナイパー)
 「影身鬼」  ギルティ=スターン (チェイサー)

 かつてレイ=フレジッド達と死闘を繰り広げた世界最強のギルド「皇帝の
十字架」───『七近衛』の面々である。上記の5名にアイフリードを加えた
6名が現在のメンバーである。
「やはり────あそこか」
 アイフリードは国境都市アルデバランの中央に存在する巨大な塔を見上
げた。他の5名もつられてその塔を見上げる。

 永劫の時を刻むクロックタワー、「アルデバラン時計塔」

 荘厳な雰囲気とともに凶悪なほどの悪意を内包している死の塔。数多くの
冒険者が挑み、命を散らしてきたという。おそらくは時計塔内部にハウゼン
はいる。アイフリードが愛した女性、リーナを死なせたアイフリードの父、「堕
ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルが。
「…っ」
 それに気付いたのはスナイパーであり、アイフリードの恋人であったリーナ
の実の弟、シャドウだった。
「誰?」
 シャドウがある方向に向けたその声に皆がその方向を向く。そこには一人
の女性が立っていた。冒険者ならば誰でも見慣れた服装───。その女性
は笑顔で手をあげた。
「こんにちは!カプラサービスはいつでもあなた達のそばに!」
「カプラ…?」
「どうしたんですかー?」
 冒険者の手助けを行うカプラ職員が何故こんな無人の所に一人で。あか
らさまに罠なのか、天然なのかアイフリード達が計りかねていると、カプラ職
員がにっこりと笑った。
「やっぱり慣れない服装をすると疲れますね!一応この街で貴方達の案内
をさせていただくことになりました…セシル=ディモンです!」
「セシル…」
「ディモン…!?」
 キスク達の顔が強張る。それはあまりにも有名な名前だったからである。
かつてこの国、ルーンミッドガッツ王国の建国王であるフィリア=フェリカ=
ルーンミッドガッツ一世が成した偉業の一つである企業都市リヒタルゼンの
一組織「レゲンシュルム」が造り出せし生体生命研究所の6体の魔人との戦
いの中で生み出された6体の魔人の一人の名。

 セシル=ディモン

 6体の魔人の中で、最も多くの人命を奪い去ったという化け物である。

 セシルはにっこり笑みを浮かべると口を開いた。
「ではー、ちゃっちゃと説明しちゃいますね。アイフリード様とそのお仲間方、
ようこそ、ハウゼン様の都市アルデバランへ」
「「…っ!」」
 その瞬間、アイフリード達の視線が鋭くなった。
「もう検討はついているとは思いますが、時計塔最上階の北側の書斎にて
ハウゼン様はお待ちです。そしてその最上階へと続く時計塔の鍵は2種類
存在します」
「2種類だと?」
 ギルティが凄みをきかせながらセシルに問う。ギルティは「ギルド攻城戦」
でロウガ=ブラストやトレントに敗れはしたものの、その実力は常人では計り
知れないレベルにある。だが──セシルはそのギルティの殺気を飄々と受
け流し説明を継続した。セシルが一本の鍵をアイフリードに手渡す。
「一つはこの鍵、「時計塔地下の鍵」───ですが、ハウゼン様が細工して
おり、時計塔に入ると同時に直でハウゼン様の書斎に鍵を持っている人物
が転送されます。そしてもう一種類が「時計塔の鍵」、そちらはスタンダード
なもので5本存在しています。それは時計塔を昇り、最上階手前の転送の
間にて掲げることで最上階へとその鍵をもった人物をアルデバランの時計
塔最上階へと転送します」
 リシアが口を開いた。
「その鍵を私達はどう手に入れればいいの?」
 セシルが微笑む。
「アルデバランの随所に鍵を護るガーディアンを配置しています。それらを撃
破し、最上階へと向かってください」
「へぇ…そのガーディアンって結構有名だったりするんじゃない? 貴女と同
じでさ」
 リシアの言葉にセシルは笑みを浮かべたまま答えない。

 つまりこういうことだ。1人はハウゼンの元に先行して進める。だが残りの5
人はそのガーディアンを撃破してから鍵を手に入れてでないとアルデバラン
時計塔の最上階には到達できない。
「私達が合流する暇はくれるんですか〜?」
「あげません♪」
 ルナの言葉にセシルが即答した。セシルが笑みを浮かべながら言う。
「アルデバラン時計塔の最上階にはこの地域一体を吹き飛ばすほどの爆
薬が仕掛けられています。その爆薬は今から約3時間で大爆発を起こしま
す。そしてこのアルデバランの住人達もまた時計塔の最上階に幽閉してい
ます。急がねば…どうなるかわかりますよね?」
「見事に卑怯だな、感服するよ」
 アイフリードの口元に笑みが浮かんだ。

 ハウゼンはこう言っているのだ。

 アイフリード=フロームヘル、一人で来い。

 お前を直々に始末してやる…と。

 アイフリードは多くは語らず、仲間に一言だけ言った。
「俺はお前たちを信じている」
 アイフリードはアルデバラン時計塔へ向けて駆けて行った。

「しゃあないな、いっちょやったるか」
「そうね、久々に暴れたいしね」
 キスクとリシアがアルデバラン南側へと駆け出した。

「では西側にでもいってみます〜」
 ルナがふら〜りとアルデバラン西側へと歩いていった。

「ヒャハ、女とあたるとモチベーションがあがるんだがな!」
 ギルティの姿が消えた。アルデバラン東側へと向かったのだろう。

 その場にはセシルとシャドウのみが残された。

「坊やはいかないの?」
「ん〜、案内人が仕掛け人ってのはよくあるからね、あんたの身包み剥いで
から行くのも悪くないと思ってさ」
「…へぇ」
 セシルの瞳の温度が氷点下以下まで低下する。明確な殺意、凶悪な悪
意、傲慢なほどの憤怒。セシルの姿が次の瞬間シャドウの視界から消え失
せた。
「…っな!?」

 ゴガン!

「っげはぁ!」
 突如腹部に猛烈な蹴りを入れられたシャドウの身体がきりもみしながら吹
き飛んだ。セシルである。セシルの服装が狩人の上位職、スナイパーのそ
れに変化していた。
「なめるなクソガキが!!ぶっ殺してやろうかアア!?」
 セシルが物凄い憎悪を撒き散らしながらシャドウに襲い掛かった。

 ◆

 アルデバランの東側へと向かっていたギルティが足を止めた。
「おい」
 ギルティが嘲笑を浮かべる。
「気配それで隠してるつもりか雑魚。相手してやるから出てこいや」
 「皇帝の十字架」の先陣を常に切るチェイサー、ギルティが先ほどから屋
根伝いに尾けてきている人物を挑発する。
 次の瞬間、ギルティの目の前に一人の男が降って来た。

 ズン!

 その男の着地と同時に地面がえぐれる。
「ヒャハぁーあ、女じゃねーのかよ、さっさと始末してやるぜ」
 その男が静かに口を開いた。
「死ぬのは貴様だ」
 爆音がしたかのような音を立て、その男がギルティに向かって突進を開始
した。ギルティがその男の突進をひょいと交わしながら口を開いた。
「ヒャハ!名前ぐらい聞いておいてやるぜ!」
「ハワード=アルトアイゼン、貴様の命を奪う者、ホワイトスミスだ」
「面白ぇ!」
 2人の姿が交錯し、大爆発が起こった。

 ◆

 水路沿いのベンチに一人の女性が座っていた。ルナは首をかしげながら
その女性に話しかけた。
「こんな所に一人でいたら危険ですよぉ〜?」
 女性がかすかに微笑んだ。
「人は死の間際まで自分の死には気付きません。今も…昔も変らない」
「殺気を隠さないのはいいことですけど〜戦いやすいですし〜」
「貴女も自分の死に気付かない」
「遠慮なく戦います〜」

 バシュウ!

 女の放った魔法をルナのスペルブレイカーが打ち消した。
「貴女のお名前なんですか〜?」
「ハイプリースト、マーガレッタ=ソリン。謹んでお相手いたします」

 ◆

 キスクとリシアが並んで駆ける。ふと思いついたようにリシアがキスクに声
をかける。少し、声が震える。
「あのさキスク…」
「ん?」
「アイフリードがさ、私達を助けてくれたとき言ってくれた言葉覚えてる?」
 キスクが昔を懐かしむように言った。
「進むべき道がないなら俺とともに来い…か」
 キスクとリシアは昔アイフリードによって黒蛇王という魔王を崇める邪教集
団から命を救われている。
「あれから随分たったけど…私達はまだあの人に助けられてるよね、あの人
が切り開いてくれる道でしか進めてないよね」
「どうしたんだよ、急に」
 キスクが怪訝な表情を浮かべる。
「私達はその道じゃなくて、自分で切り開いた道で、自分が満足いく結果が、
いや何だろ、満足いかなくても、自分で切り開いた道でアイフリードと一緒に
戦わないといけないよね」
「おい、何言ってるかわかんねーぞ?」
「こんな時だけど…私言うよ。今くらいしか2人になれないと思うから」
「は…?」
 キスクが本当にわからないといった表情を浮かべる。

 この鈍感野郎。

 ずっとやきもきさせて、思い知りやがれ。

 ある日、キスクはリシアに打ち明けた。
「俺さ…ルナの事が好きみたいだ」

 心臓が張り裂けるかと思った。

 いつも一緒にいて、これからも一緒だと思ってた。

 ずっと、キスクの事を見ていた。

 昔も、今も。

 だからもう言う、自分に嘘はつかないと決めたから。

 私に足りないのは覚悟だったんだ。

 覚悟が足りなかったから、あの戦いで、ルイーナ決戦で敗北を喫した。

 エリカ=フレームガードとアルヴィンという2人の無名の聖騎士に。

 覚悟の証明として、思いっきりズバっと言ってしまおう。


「キスク、私あんたのことずっと好きだった。ずっと…好きだった」
「────────────っ!」


 キスクの表情が見る見るうちに驚きへと変化する。リシアは目を伏せ、キ
スクの発する言葉を待つ。キスクはいきなりのことで頭が真っ白になってい
たのだろう、少しずつ言葉を発しはじめる。
「俺は…いや俺…」

 その瞬間、2人の間を裂くように衝撃波が走り抜けた。キスクとリシアは咄
嗟に別方向に跳び、その光景を目の当たりにした。

 地割れが発生している。

 リシアが振り向いた瞬間、その衝撃波を放った男が襲い掛かってきた。

 ◆

 地割れと爆煙の向こうにリシアの姿を見失ったキスクが叫ぶ。
「リシアァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 キスクが地割れを超えるべく助走を付け、駆け始め…ることは不可能だっ
た。陽炎のごとくゆらりとキスクの背後に出現する闇が一つ。
「誰だ、殺すぞ」
 キスクが怒りをあらわにしながらその陽炎に向かってキスクが吼える。
「アサシンクロス、エルメス=ガイル。手合わせ願おう、「魔人拳」殿」
「邪魔なんだよ!てめぇ!」
 キスクとガイルの戦いが始まった。

 一刻も早く、リシアの元へと行かなければならない、そう思った。

 ◆

「もの凄い一撃だったわね。あんたがやったの?」
「そうだ、王者の剣とは常に破壊によってしか表現できないからな」
「へぇ、それじゃあんたの王者の剣と私の閃光剣、どっちが上か試してみよ」
「いいだろう」
 リシアが剣を掲げる。
「オーラブレード!!」
 それは青い刀身、「閃光剣」と呼ばれるリシア必殺の武器、その剣は、長さ
30メートルはあろうかという巨大なオーラの大剣である。
「私はもう負けない、そう誓ったのよ」
 リシアはオーラによって生み出された巨大な青き刀身を振りかざし、己が
相手に向かって駆け始めた。
「我が名はセイレン、セイレン=ウィンザー。王者の剣を持つ者だ」
 セイレンがニタリと笑みを浮かべた。

 ◆

 アルデバラン時計塔へと駆け行く「皇帝」アイフリード=フロームヘル

 現れし、リヒタルゼンの6体の魔人。

 迎え撃つ皇帝の仲間達───────

 「皇帝」の戦いはまだ幕を上げたばかりである───────



 「真紅都市」を目指すトレントの物語。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルの物語。

 そして、物語はもう一つ。



 ザザーン…ザザーン…

 その戦いの地より、遥か南、パプチカ森林秘境を抜けた先に広がる大海
岸、ココモビーチ。そこの波打ち際に一人の女性が倒れていた。

 意識を失っている、だが死んではいない。

 全てを失ったが、命を失ってはいない。


 フィリ=グロリアス


 彼女の物語の開幕は─────近い。

 [続]


〜あとがき〜
ハイ!登場人物が多すぎる上に全員に裏ストーリーとかつくってるせいで
わけがわからなくってすみませndfrtgyふじこlp;@
こいつだれだっけ?とかあったら今までの話見返したら
ちょっとはわかるかもしれません!まとめとかつくりませんふぉめんなさい。
次回予告、アルデバラン各所で繰り広げられる戦い!
そしてついに宿敵ハウゼン=フロームヘルが姿を現します!!(゚Д゚)クワッ!!!


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