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Ocean's Blue

075:時計塔の戦い

 天を見上げる。星々の瞬きが視界に飛び込んでくる。
 あの星々の輝きは何なのだろうか。
 この我々が住むミッドガルドもあの輝きの一つなのだろうか。
 ならば何故ニブルヘイムなどの別の世界が存在する。
 どういう仕組みで?
 あの星々が存在する黒き空、あの場所は何なのだろうか。
 その世界には何が存在し、何がある?
 空の果てまで行き、その先には何がある?
 命とは何だ?
 どこからこの世界にやってきて生まれ、どこに消えていくのだ?
 知りたい。
 欲望のままに知りたい。
 命が何かを知るためには実験すればいい。
 命を喰らって大量のサンプルをとればいい。
 幸運なことにこの世界には腐るほどサンプルがいる。
 実験体にふさわしい欠陥品どもがいる。
 我が研究のために死ね。
 死ね。
 死ね。
 死ね。
 死ね。
 死ね。
 死ね。
「試しに────────自分が死んではどうかな」
 声、欠陥品、出来損ないの忌々しい声。

 アルデバラン時計塔最上階────────

 七つの大罪「貪欲」の十字架を持ちし、堕ちたる七英雄。

 ハウゼン=フロームヘルは静かに振り返った。

「来たか、欠陥品風情が」
「ああ、待ちわびていた。この時をな」
「クク…」
 ハウゼンの口元に陰湿な笑みが浮かぶ。

 ザッ…

 ハウゼンを守るように2人の女性が立ちはだかった。

 リヒタルゼンの六魔人の一人、ハイウィザード、カトリーヌ=ケイロン

 ハウゼンにより生み出されし7人目の魔人、ミサキ=リフレクト

 だが────────例え誰が立ちはだかろうと関係ない。

 復讐を遂げるのみ。

「貴様より与えられた地獄、その全てを返してやろう」

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルはそう宣言した。

 ◆

 ドン!ドン!ドン!

 セシルの放つ矢がシャドウの足元に突き刺さる。シャドウはアルデバラ
ンの路地をひたすら駆け抜けていく。
「うわっとぅ!」
 頬を超威力の矢がかすめる。シャドウの額に冷や汗が浮かぶ。
「うーん…まずいなぁ…」
 威力からスピード、それら全てを軽く上回られている。ていうかあのセシ
ルって奴、レイ=フレジッドより強くない?とか思ってしまうぐらい、滅茶苦
茶強い。しかもすぐキレるし。

「ようやく」

 来た。

「追いついたな、クソガキ」

 セシルがゆっくりとシャドウに歩み寄ってくる。ギリ…と歯軋りする自分がよ
くわかる。嫌な汗が手ににじむ。
「死ーね」
 セシルが弓に矢をつがえ、シャドウの額に狙いを定めた。

 ◆

 ハワードと交錯した瞬間、ギルティは鈍い痛みを感じた。
「ぐがっ!」
 何て威力だよこの野郎…っ!

 左腕がイッた。

 最初の交錯であんな化け物みたいな一撃いれてきやがって。ギルティは
すぐさま身を隠すと、怪我の具合を確認した。

 左腕がねじれてる、見るんじゃなかった。

「どこに行った。臆したか」
 ハワードが周囲の建物に対し鉄槌を振り回し、破壊している。何あの威力
なめてるんですかヒャハ。パワーバカで定評があるトレントより強くない?と
思ってしまうぐらい、滅茶苦茶強い。しかもすぐキレるし。

 ドガン!

「うぉぅわぁっ!」
 身を隠していた建物の壁が粉砕して、ギルティの身体が吹っ飛ばされた。
ハワードがこちらの姿に気付き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ちっ…」
 ギルティが苦々しい呻きをもらし、ハワードが再度突進を開始した。

 ◆

「あぅ」
 ルナは足をもつれさせ、その場に倒れこんだ。先ほど、防ぎきれずマーガ
レッタのディクリースアジリティ(速度減少)をくらってしまい、まともに動けな
いのだ。
「貴女は死にます。でもそれは幸せなこと」
「お断りします〜」
「でも死にます。やはりそれは幸せなこと」
「お断りします〜」
「往生際が悪くても貴女は死にます。どう見てもそれは幸せなこと」
「お断りします〜」
「レックスエーテルナ」
 ルナの頭上から威力倍加の魔法がふりかかる。
「…」
 ルナの額に冷や汗が浮かぶ。まずい。
「さようなら、次の生ではもっと長く生きられるよう祈っています」
 マーガレッタの手に光が生まれる。フィリ=グロリアスほどではないが、
超巨大な聖なる光、ホーリーライト。

 迫り来る光球を前にルナが身構えた。

 ◆

 恐るべきスピードで攻撃を繰り返すガイルの姿が消失した。キスクは全
身に傷を負わされ、壁を背にもたれかかっていた。
「クソ」
 リシアが唐突に告白してきたことが頭から離れない。言いたいことがたく
さんあるのに邪魔者が立ち塞がっている。闇の中から嘲笑が聞こえてくる。
「キスク=リベレーション、お前はここで朽ち果てる運命だ。他の貴様の仲
間である『七近衛』であったか、奴らも私の同僚によって始末されているこ
とだろう。現世に蘇った時には我々の名が伝説として刻まれているのには
驚いたが、貴様らのレベルを見ればそれも頷ける」
 ガイルは闇の中から断言した。
「貴様らは弱い。かつて私を倒した「嘆きの王」ゲフェニアと比べるまでもな
く弱いと断言できる」
 キスクはガイルの言葉など聞いてはいなかった。
「もう話す気力もないか、死ね」
 姿を隠したまま、ガイルがキスクの首筋にカタールを突き刺そうとした、

 が。

「な…何!?」
 キスクが片手でそのカタールの刃を受け止めている。白羽取りである。
「俺達が弱い…?」
 キスクの耳に入ったのはその一言のみ。
「う…っく…!?」
 ガイルが焦りを覚える。完全に握りこまれ、身動きがとれない。
「お前さ」
 キスクのもう片方の手に気が生まれる。

 練気功、そして爆裂波動。

「誰にモノ言ってるのかわかってんのか?」

 凄まじい力がキスクの固めた拳に収束されていく。

「や、やめろ…!」
「お断りだ」

 阿修羅覇凰拳発動、一瞬にしてガイルの意識が断絶した。死したガイル
の肉体は砂と化し、その場にはキスクのみが残された。

「伝説か、過去ってのは誇っても記録は塗り替えられるもんだぜ」



 セシルの矢を皮一枚で避け、シャドウの弓がセシルの首を貫く。

 突進を潜り抜け、ギルティがハワードの首にナイフを突き立てる。

 ホーリーライトの魔力を吸収し、ルナはそのままマーガレッタに撃ち返す。



「いずれ取り戻す、「世界最強」の名前を「皇帝の十字架」の元にな」
 キスクはそう呟いた後、リシアがいる方向へと駆け出した。

 ◆

「ふむ、4人死んだか」
 ハウゼンの口元に笑みが浮かんだ。
「リヒタルゼンの六魔人、伝説級の魔人ともなると完全な再現は難しいよう
だ。だが────」
 ハウゼンの言葉を受け、カトリーヌとミサキが前へと進み出る。アイフリー
ドは静かに己の前に立ち塞がった相手を見据える。
「完全なる再現、そして語られる伝説以上の力をも引き出せたモノもいると
いうことだ」

 その瞬間、爆発が起こった。

 アイフリード=フロームヘルの無詠唱魔法である。

「まずは、邪魔者から狩らせてもらおうか」
 アイフリードの死刑執行宣告。凄まじい魔力が時計塔最上階に満ちる。

 だが───────

 カトリーヌの詠唱完了。

「ユピテルサンダー」
「…っく…!!」
 ドガシャアァァァアアアア!!という轟音をたてながらアイフリードの体は
時計塔最上階の歯車へと叩きつけられた。恐るべき高威力、高密度の魔
法である。咄嗟に受け身をとったものの身体が多少痺れている。

 糸が見えた。

 糸の繰り師は「死者の巫女」ミサキ=リフレクト、魔性を払う国、アユタヤ
で織られた「神糸」である。魔力を吸う力を持つこの糸に捕まれば、魔術師
であるアイフリードは無力化させられる。

 アイフリードの無詠唱魔法──ファイヤーウォールが糸の侵攻を食い止
め焼き払う。アイフリードは即座にマジッククラッシャーと名づけられた衝
撃波でカトリーヌとミサキの両名を吹き飛ばす。

 が──────────────────

 アイフリードの眼前にもう一人の敵が──真なる敵が立ち塞がっていた。
アイフリードが失策に気付くも遅く、ハウゼン=フロームヘルはアイフリード
の胸板に手を添えた。

 ズドォン!

 轟音がアイフリードの身体を貫いた。
「ぐっ…が…!」
 アイフリードの身体が崩れ落ちる、そこをミサキ=リフレクトが「神糸」に
てすくいあげる。「神糸」はアイフリードの身体を縛りつけ、時計塔の内壁
へと叩きつけ、内壁が衝撃でめり込む。

 そしてそこにカトリーヌのファイヤーボールが突き刺さった。

 大爆発が起こった。

 ◆

 キスクがそこにたどり着いた時、

 そこには誰の姿も存在しなかった。

 リシア=キングバードの姿も、

 セイレン=ウィンザーの姿も、

 ただ、破壊痕のみがそこに存在していた──────

 ◆

「この程度か」
 ハウゼンが嘲笑を浮かべる。
「我が研究の一端を見せてみたのだが喜んでくれたかね」

 アイフリードは意識を失っているのか答えない。

「知識の探求者たる私は、生命とこの世界の真理に近づくことを命題として
いる。全てを知る貪欲の前には全ての事象は否定される。凡人はそれを拒
否し私を狂っていると言う。だから貴様らは欠陥品だと言うのだ。知識無き
者に存在価値などないことを理解していない」
「ああ…」
 意識を失ってはいなかったらしいアイフリードが静かに呟いた。
「それでも…貴様は狂っている、己が必要とした物にひたすら狂っている」
「クク…そうだな。私は闇に還る知識を、夕暮れの刻、夕暮れの中核より呼
び覚ますもの。夕暮れ──────古代語で言えばヴェスパー、その名
を冠する者として世に知れわたることとなるだろう」
「物狂いヴェスパーか、実に滑稽な名前だ」
 アイフリードの皮肉にもハウゼンは動じない。
「そうだな、我が名はハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコアとでも呼ん
でもらえればいい」
 ハウゼンは壁に縛り付けられたアイフリードを見上げながら語る。
「先ほどの貴様への攻撃もその研究の一端だよ、付ける名称もないので
「ヴェスパーコア02」と名づけてはいるが。純粋に強大な力を放出するシス
テムといったところだ」
 ハウゼンはヴェスパーコア02と言った。すなわちこの系統の技は複数存
在することになる。一撃で戦闘能力を奪うほどの攻撃を何度もだされてはさ
すがに身がもたない。

 仲間達が来るにはまだ時間がかかるだろう。

 現在敵は3名、ハウゼン、ミサキ、カトリーヌ。

 現状は魔力を吸う「神糸」によって自分が壁に縛り付けられている。

 絶対的絶望状況。

 だがそれでもまだ勝算はゼロではない。

「そろそろ欠陥品に講義することにも飽きてきたな」
 ハウゼンはカトリーヌに命じた。
「殺せ」

 カトリーヌの魔力が収束していく。

 そしてカトリーヌの魔法の詠唱が完了した──────

「あ…ああああああああああああああっ!」

 次の瞬間、カトリーヌの両腕が凍付けになっていた。

 ボキリという音とともにカトリーヌの腕が折れ、そして首が刎ね跳んだ。

「まず一人──────」
 アイフリードの無機質な声。


 我は「皇帝」──────

 アイフリードは己を縛り付ける「神糸」を引き千切った。

 ユミルが与えし、「七つの美徳」──────

 襲い来る「神糸」を払い、ミサキの腹部に拳を叩き込んだ。

 「英知」の十字架を持ちし者なり──────

 ミサキの身体は吹き飛び、粉塵と瓦礫の中へと消えていった。

 其は知識、フベルゲルミルの泉に等しき力を持ち──────

 アイフリードは己が真の敵へと向き直る。

 其の力、主神オーディンの右眼を奪いし力──────

 ハウゼンが憎々しげに表情を歪ませた。

 即ち、我が存在──暴虐なり──────

「決着をつけよう、ハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコア」
 「皇帝」アイフリード=フロームヘルの足元より強者の証である青白いオー
ラが吹き上がる。それに伴いアイフリードの背中に十字架が、ユミルの力を
具現化させた「英知」の十字架が浮かび上がり──────


「Ultimate Emperor's Cross」

 アイフリードが持つ最強の魔法の詠唱が完了した。


 


 氷龍が、天より、邪悪を討つ。

 [続]


〜あとがき〜
間あきすぎと言われました、苦情は課長に言ってくれ!
次回予告、アルデバラン編決着!消えたリシアの行方は!
そろそろフィリに絡んだメインストーリーに入れそうです、はい(・∀・)ノ


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