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Ocean's Blue

076:時計塔鎮魂歌

 人々に問う。

 このルーンミッドガッツ王国に数多く存在する冒険者のコミニュティ、

 「ギルド」

 数多く存在するそれらギルド中で最強のギルドはどこであるかと。

 そして大半の人々はこう答えるのだ。

 「皇帝の十字架」────と。

 レイ=フレジット率いる「Ocean's Blue」に敗れたではないかと問うと、

「実質的な実力は永続的に確保できる実力を保有する所だろ」
「一度勝利したぐらいでランキングが変動するかよwwww」
「まぁ自慢したいって気持ちもわからんでもないけどね」
「レイ=フレジッドの所は所詮数ゲーwwwwwww」
「そりゃ黒い装備が多い奴がたくさんいたら負けるだろwwww」

 と言った風に風評がまだまだこんな感じなため、未だに「皇帝の十字架」
が最強のギルドという評価は揺るがぬままである。そしてその「皇帝の十字
架」のナンバー1、「皇帝」アイフリード=フロームヘルもまた最強の名を欲
しいままとしている。

 その強さを証明するもの──この世界に7つ存在するという禁呪の一つ。

 荒れ狂う龍の氷嵐を放つ魔法「ストームガスト」

 過去に恋人を殺害され、悩み、苦しみの果てに手に入れたその力。

 アイフリードという男が生きる糧としてきたモノの証明。

 その糧の名を人々は「復讐」と呼ぶ。

 地獄の果てで手に入れた力にて、アイフリードは、リーフは己の父を討つ。

 ◆

 アイフリードの元に絶大な魔力が収束していくのを見てなお、ハウゼンは、
嘲笑を繰り返す。己の息子を蔑んだ眼でしか見ない。 
「クハハハハハ!!「ストームガスト」か!そんなモノを出した所で結果は変
らぬ!見せてやろう!ヴェスパーの名を冠するモノの力を!!」

 ヴェスパーコア01───発動

 ハウゼンは己の左手を、右手の上に添えた。その瞬間、天を轟く稲妻にも
等しい魔力がそこに「出現」する。ハウゼンが嘲る。

 


 七つの禁呪と詠われる究極の魔法の一つ「アブラカタブラ」によって発生し
た闇が───闇の影がアルデバラン時計塔を包み込む。
「さぁ来い出来損ない。私が直々に引導を渡してくれよう」
「黙れ」
 アイフリードの短い言葉。アイフリードはハウゼンを殺すつもりで魔法を撃
たなかった。その程度では────生ぬるい。

 この世から消滅しろ

 


 ハウゼンの眼が怪しく光る。迫り来る氷の龍を防ぐ術など────


 造 作 も な い


 闇が「ストームガスト」を消し去る。
「…何」
 アイフリードの呻き。そしてアイフリードの傍らにまるで瞬間移動したかの
ようにハウゼンが出現する。アイフリードが反応するより早く───

 ドォゥン!!

 ヴェスパーコア02の一撃にてアイフリードの身体が壊れたおもちゃのよう
に吹き飛んだ。

 ◆

 国境都市アルデバラン北方、エルメスプレート────

「あれは…ストームガストの魔力!」
 シュバルツバルト共和国大統領、カール=テオドール=ワイエルストラウ
スより預けられた義勇軍────それを統括していたカールの秘書である
ヘスニアルは、アルデバランより天を貫く氷龍と、それを飲み込もうとする闇
を確認した。
「行きましょう、合図です」

 ヘスニアル達はアイフリードより指示を受けていた。

「ハウゼンを発見した場合、俺は躊躇無く「ストームガスト」を使用する。それ
を突入の合図としてくれ」

 最も強大な敵をアイフリードがおさえこむ。

 それに順ずる強敵をキスク達がおさえる。

 そして、アルデバランを義勇軍が奪還する。

「全軍!アルデバランに向けて進軍!」
 ヘスニアルの指示により、義勇軍がアルデバランに向けて動き出した。


 ────が。


 義勇軍の前に一人の騎士が立ち塞がった。いや騎士ではない、それは上
位2次職のロードナイト。そのロードナイトは肩に意識を失った女性を担いで
いた。ただならぬ気配を感じたヘスニアルが言葉をもらす。
「貴方は…それにその女性は…!」
「俺の名はセイレン=ウィンザー。アルデバランで現在「皇帝」と戦闘してい
るハウゼンによって現世に蘇った魔人だよ。それと見ての通りこの女はリシ
ア=キングバードだ」
 まさか…リシアほどの手練が敗れたのか…!?ヘスニアルの額から一筋
の汗が流れる。あまりにも読めない、行動が読めない男に感じたからだ。
「ひとまず返す」
 セイレンはリシアの身体をヘスニアルの方向へと放り投げた。慌てて抱き
とめるヘスニアルに向かってセイレンが口を開いた。

「では、皆殺しとしよう」

 やはりそうきたか────────────────!

「おっとそこまでだ」
 セイレンの首筋にナイフが押し当てられる。

 「七近衛」の一人、チェイサー、ギルティ=スターン

 さらにセイレンの後方には同じく「七近衛」であるプロフェッサー、ルナ=イ
ムソニアックと、「七近衛」のスナイパー、シャドウ=プラスタラスがすでに臨
戦態勢に入っていた。彼ら3人は己の敵を撃破した後、義勇軍の元にいった
ん戻ってきたのだ。後方を安定させ、確実に勝利するというギルティは他の2
人と合流後に提案していたのだが、それは正解だったと言えよう。
「さぁて、どう料理してほしい?今なら楽に死ぬっていう選択肢もやるが?」
 ギルティが凄んだ。セイレンはそのまま眼を閉じて語り出した。
「王者の剣の名が示す王とは「絶対的超越者」の事を指す。剣とは戦いを象
徴するモノ。俺はあの忌々しい女に敗れるまで、ルーンミッドガッツの初代建
国王に敗れるまで、その力を存分に振るい、虐殺を繰り広げた」
 セイレンがくつくつと笑い始める。
「確かに俺と同じ組成で生み出されたモノ達を、隷従させ呼び寄せる力は失った
ものの、「力」自体はあの頃の比ではないな。すでに勝っている」

 セイレンはセシルやカトリーヌなどの他の魔人達とは「違う」。

 現世に蘇る際に「奈落の王」フェイトによって力を呼び覚まされた魔人。

 トレントの宿敵である「無限王」シリウスと対極を成す究極の魔人。

 ゴゥン!

 セイレンの足元より強者の証である青白いオーラが吹き上がる。
「ふふ…ははは…!また…戦える!殺せる殺しまくれる殺す殺す殺すブチ
殺せるぜあははははああああははははは…皆殺しだ殺し殺す殺…す!」
 セイレン=ウィンザーの狂気が爆発した。

 セイレンが動き出す前にギルティ達がセイレンへと襲い掛かった。

 ゾクリ

 ギルティは背筋に悪寒を感じた。ギルティは咄嗟にまわりの人間、ルナ
やシャドウ、ヘスニアルを突き飛ばし──────


 それが明暗を分けた。

 次にシャドウ達が見たものは、大量の血煙とともに、「ばらばら」になるギ
ルティの身体だった。セイレンが久しぶりに命を奪った快楽に酔う。
「ギルティ、嘘だろ」
 シャドウがポツリと言葉をもらす。
「嘘だって…言ってくれよ…」
 だがそこには血にまみれた肉の塊しか存在しない。ギルティが生きた証な
どどこにも残っていない。死んだ者は帰ってこない。
「うあ…うああああああああああああがあああああああ!!」
 シャドウが仲間を一瞬で失った苦しみに耐え切れず蹲った。ルナもまた放
心状態から抜け出せない。ヘスニアルもまたこのような惨劇を見たのははじ
めてなのか硬直して動けない。

 セイレンが口を開く。
「死ぬとどうなるか教えてやる。動かなくなる、未来が断絶される、思考が停
止する、そしてもう己が目覚めることはなく、その先は無い。だがそれ以上の
苦しみはなく、誰もがそこに到達する。そして、お前達もすぐにそうなる」
 セイレンがゆっくりと歩み寄ってくる。一瞬で仲間を奪い去った悪鬼が歩み
寄ってくる。あまりにもあっけない死、永劫の別れを与えた悪魔がすぐそば
まで───────

 ザ…

 セイレンの前に、キスクが、キスク=リベレーションが立ち塞がった。

「新手か、いい面構えだ」
 セイレンがそうキスクのことを批評する。
「何をした」
「お前らの仲間をばらばらに斬った」
「そうか」
 キスクとセイレンが互いに視線を交わす。


 ボゴゥン!!


 2人の姿が交錯した瞬間、物凄い衝撃波が大地に轟いた。
「ぐっ…!!」
 キスクが蹲る。セイレンは無傷、キスクは胸に深い傷を負わされた。ここ
で突如、セイレンはそのまま剣を鞘に納めた。
「そろそろ時間のようだ、キスク=リベレーション。お前が殺すべき女は我々
が預かっておく」
 セイレンは意識を失っているリシアの身体を肩にかつぐと、キスクの元へ
と歩み寄った。キスクが凄絶な表情を浮かべた。
「リシアを…返しやがれ…っ!!」
「「ユミルの十字架」の一つである七つの美徳、「誠実」の十字架を持つキス
ク=リベレーションに告げておこう。この女、リシア=キングバードもまた「ユ
ミルの十字架」を持っており、この女が持つ七つの大罪「嫉妬」の十字架の
力を我々の主であるフェイトは欲している」
「…っ!」
「故に、ここは退いてもらいたい。さもなくば全員殺すぞ?」
 その言葉には真実味があった。セイレンの実力はこの場にいる者達では
誰一人おさえることは不可能だろう。キスクがセイレンに担がれたリシアの
顔を見る。そしてキスクが口の端を噛み締めながら言葉を絞り出した。
「行け…」
 セイレンが口の端から血を流すキスクを見つめて笑った。
「また会えることを楽しみにしている」
 セイレンの姿が闇へと溶け消えた。

 仲間を殺され、仲間を奪われ、何もできなかった。

「くそっ…たれ…っ…」

 キスク達は己の無力さを呪った、言葉に血と涙が滲むほどに。

 ◆

「貴様は───無力だ」
 ハウゼン=フロームヘルの言葉、弱者を哀れむかのような言葉。
「例え出来損ないの残された魔力を結集した所で私には及ばぬ。自分自身
がよくわかっていよう」

 アイフリードは沈黙して動かない。

 だがハウゼンは気づいている。

 こちらの隙とともに喉笛を食いちぎろうとするアイフリードの意識に。

 ゆえに、油断など微塵も見せない。

「時間がかかった─────」
「…?」

 アイフリードの呟きを聞き、ハウゼンが怪訝な表情を浮かべる。

「「2つ」を使いこなすのが、これほどに───難しいとはな」

 キスク=リベレーション

 アイフリード=フロームヘル

 そして、「ユミルの十字架」

 「ユミルの聖杯」を生み出す聖杯候補者達。

 十字架の力を「統合」させる資格を持った聖杯候補者達。

 そして、「2つ」という言葉。

 ハウゼンが言葉にするより早く、殺戮の意思をアイフリードに───

「ウゥオオオオオオオオオァァァァァアアアアアッッ!!」
 アイフリードの咆哮。

 アイフリードの背中に浮かび上がる十字架にさらにクロスするようにもう一
つの十字架が浮かび上がる。キスクの持っていた十字架を取り込んだアイ
フリードの力が発動する。アイフリードは己の持つ超感覚のみでこの事実に
気がついていた。「ユミルの十字架」は統合されていく、そしてその統合の果
てに「ユミルの聖杯」が生まれ出でることを────!!


「Ultimate Emperor's Cross」

 


 アルデバラン時計塔から空へ向けて吹き上がる爆氷の嵐の中、ハウゼン
の口元に陰湿な笑みが浮かんだ。
「ククク…!実にいい…!実に忌々しい欠陥品だ!ではそろそろ欠陥品の
処分といこうか!」

 が─────────

 セイレン=ウィンザーがハウゼンの真横に出現した。セイレンは肩にかつ
いだリシアをハウゼンへと見せ付けた。
「…フン」
 ハウゼンは「当初の目的」が達成できたことを知り、鼻を鳴らした。ミサキ
=リフレクトもまたハウゼンの元へと復帰してきていた。

 再び3対1──────────

「リーフ…いや「皇帝」アイフリード=フロームヘル」
 己が父であるハウゼンの言葉にアイフリードは耳を傾けた。
「我々の目的であるリシア=キングバードの奪取は完了した。礼としてこの
アルデバランは貴様に返してやろう」
「…リシア」
 アイフリードが苦々しげに呻く。キスク達は敗北したということか、他の仲
間の安否も気になる。だがそれよりも今は確認すべきことがある。
「アルデバランの人々はどうした、話では爆薬とともにこの時計塔に幽閉さ
れているという話だったが…?」
「爆薬など初めから存在しない。それと人間の安否のほうだが」
 ハウゼンは手を静かに上げ、バチバチと音を鳴らした。
「ヴェスパーコアの動力源になってもらった、クズのような動力源だが」
「──────」
 怒りで言葉も発さないアイフリードにハウゼンが言い放った。
「プロンテラに来い、アイフリード。そこで完全なる引導を渡してやろう」
「楽に─────」
 アイフリードの呟きとともにハウゼンが微笑を浮かべる。
「死ねると思うな」
「クハハハ…楽しみにしている」
 アイフリードの怒りに任せた無詠唱魔法が木っ端微塵にハウゼン達のい
た部分を吹き飛ばした。そしてその爆発で怒った粉塵が消えた後、ハウゼ
ン達の気配はそこから完全に消えていた。

 ◆

 こうして「皇帝」の物語はいったん幕を閉じる。

 全ての運命が首都プロンテラでの断罪を求めて動き出す。

 そして──────────

 最後の運命を切り開く物語がこれより幕を開ける─────

 ◆

 何かの夢を見ていた。

 頭痛がした。

 気だるさを感じながら目を覚ます。



 首都プロンテラでフェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世が。

 幻想の島コモドでフィリ=グロリアスが。



 RagnarokOnline EpisodeEX Ocean's Blue

        ──────────「ユミルの十字架」

 [続]


〜あとがき〜
なんだか随分時間がたったような気がしますが、ようやく第3部のメインス
トーリーに突入します。全ての謎と全ての因縁に決着をつけるお話になり
ます!もうしばらくお付き合いくださいませ(=゚ω゚)ノ
次回予告、目を覚ましたフィリがコモドで見たものとは!?
森の人グランの来訪がフィリの運命を加速させるっっっ!


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