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Ocean's Blue

079:新たなる王

幻想の島コモド────

 コモドの端にある酒場、海の上に建てられたそこで客と賭けポ−カーをす
る男がいた。彼の名はロイヤルミスト。ガラの悪い客に混じって談笑する今
の姿からは想像できないが、彼は昔、プロンテラ聖騎士団に勤めていたこと
がある。が、彼の勤めていた隊の隊長が起こした不祥事により隊は解散。
失意のロイヤルミストはこの辺境の地で賭け事のみで生計を立て、遊んで
暮らしていた。友人の一人がロイヤルミストに声をかけた。
「おい、ロイ。やべーぜ、すげぇ数の魔物だ」
 ロイヤルミストが笑った。
「どうせ死ぬときゃ死ぬんだ。どうでもいいさ、クックック…」
「お、おい…」
 どうせ俺達は終わりだ。首都プロンテラは壊滅し、国王であるトリスタン三
世は幽閉。フェイトに勝てる奴なんでこの世界には存在しない。クソみたい
な人生の、クソみたいな終わりだぜまったく。

 ドドォン!!

 建物が何かの攻撃を受けたようだ。大揺れを起こし、客がパニックを起こ
す。そんな中、ロイヤルミストが酒場の入り口に視線を向けた。
「…何でお前らがここにいる」
 ロイヤルミストの視線の先には一組の男女がいた。
「久しぶりだな、ロイヤルミスト」
「ジャックに…エマか」
 ジャックと呼ばれた男性、エマと呼ばれた女性、どちらも昔の同僚、プロ
ンテラ聖騎士団に勤めていた時代の仲間である。エマが微笑んだ。
「外でジャンとナインボールも待ってるわ。クアークとイグニゼムは来れな
かったけど、昔の仲間は───貴方の昔の仲間はここにいる」
「だから───俺に何をしろと────」
「刻が動き出し、私達の止まった時間もまた昔のように───」
「おい、エマ。意味が────」

 次の瞬間、光が幻想の島コモドを包み込んだ。

「んなっ…!」
 ロイヤルミストが驚きの声を漏らした。それはエマやジャックも同様で、誰も
がコモドのある一点を見つめていた。

 光の龍が天より大地に堕ち、コモドに侵攻してきた魔物その全てを薙ぎ払
い、消滅させていった。

「な…んだ今の…」
「ルーンミッドガッツ王国、建国王フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ一世
のみが扱えたという光の龍。王家の血を受け継ぐ者がいるという証」
 ジャックが淡々と語る。
「ロイヤルミスト、無理にとは言わない。だが私達は失意のまま終わるつもり
などない。我々にもできることがあるのなら───未来を切り開く力となれる
なら、私達は「新たな王」の力となる」
「俺には無理だ…」
 ロイヤルミストは酒場の隅に転がしていた双剣を拾い上げた。
「無理だよ、エマ、ジャック。ここで逃げるなんて俺にはできねぇ」
 ロイヤルミストは失意の中にあっても剣の手入れだけはやめることができ
なかった。やり直したかっただけなのかもしれない。だけどそれは叶わない
願い。叶わぬのなら、叶わぬ過去を振り払い、我が剣、「新たな王」に捧ぐ。

 未来を切り開く剣としてこの命を捧ごう──────────

 ◆

 ジュニア達がコモドの海岸沿いにたどり着いたとき、フィリが傷つき意識
を失ったレイを抱きしめていた。「幻影」ウェルガ=サタニックはフィリのホー
リーシャインの発動前に早々に退散していった。
「フィリさん」
 ジュニア、イアル、ティアより一歩前にでて、エリカがフィリに声をかけた。
フィリはレイを抱きしめたまま微動だにしない。が、フィリは静かに呟いた。
「決着…つけるよ。全ての決着をつける」
「フィリさん…」
「私は王位を継ぐ」
 フィリの決意────覚悟と気迫を感じ取ったジュニアがフィリの傍に歩
み寄った。
「王の証は先ほどやってきた暗殺者の元にある。フィリにその覚悟があると
いうのなら───自分の足で行くんだ」
 コクリとフィリが頷いた。レイの身体をイアルに任せ、フィリは一歩一歩宿
へと向かって歩みを開始した。






 暗殺者グランが跪き、傷だらけの彼女を出迎えた。

「お待ちしておりました────────────姫様」

 フィリは哀しげな微笑を浮かべると、言葉を紡いだ。

「私は新たなる王として戦います。この国を、世界を背負って生きていきま
す。ルーンミッドガッツ王国の王として」
「姫様が意思と意志、確かに拝聴致しました。では王の証を、簡易ではあ
りますが──僭越ながら私が即位の儀の補を勤めさせていただきます」

 フィリが跪き、グランが直立する。

 フィリは神に祈るかのように手を合わせ、ただ一心に願う。

 グランは己が国王であるトリスタン三世から託されし神器────

 フレイヤの首飾り「ブリーシンガメン」

 グランは力溢れ出るその首飾りフィリの首へとかけた。

 グランは問う。

「汝─────────王たることを誓うか」
「はい」

 ただならぬ雰囲気に人々が何事かと集まってくる。

「汝はこれより人ではなく、王という名の単一の奉仕者となる」
「はい」

 ロイヤルミスト達が遠目に即位の儀の行方を見守る。

「汝が行く道は奈落の終わり道、民を導くため己が身を削れ」
「はい」

 エリカが、イアルが、ティアが、ジュニアが見守る。

「そして汝は民のために死ぬことを誓えるか」
「はい」

 何気なく集まった人々もようやく状況に気付きつつあった。陥落した王都、
トリスタン三世の跡を継ぐ王が誕生しようとしていることを。トリスタン三世に
は正統なる後継者である娘がいたということを。

 フェイトに蹂躙されているこの絶望の世界、

 希望はまだ─────────費えていないことを。

「汝が名を問う、新たなる王よ。その名を民に示せ」
「私の名はフィリア、フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ二世」
 フィリの宣言とともに神器であるブリーシンガメンが輝きを発した。

 呼応するかのようにフィリの姿が輝き、衣装が紅へと染まる。

 フィリがハイプリーストに「転生」したのだ。

 そう、そして───

 この瞬間、この国の新たなる王が誕生したのだ────────

 フィリの元にはすでに300名余りの人間が集っていた。

 希望を信じ、集まった冒険者や、ロイヤルミスト達のような聖騎士団員。

 様々な人々が新たなる王の元に集った。

 フィリが静かに口を開いた。

「この国はかつてない危機に瀕しています。この混沌を生み出している者
の名はフェイト、フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世、彼は私の
双子の兄、血の繋がったわたしの実の兄です」
 人々は驚愕の真実にざわめきを発した。
「ですが──────国とは民がつくりあげるモノです。国のために民が
いるのではない、民のために国があるべきなのです。よって私はその理念
を守れぬ兄であるフェイトを討ち、この国に光を取り戻す戦いを起こします」
 避けられぬ戦争が────────始まる。
「フェイトの力は強大です。おそらくは皆の協力なくして打倒は難しいでしょ
う。それでもこの戦いに挑む者は命を捨て去る覚悟で、虫けらのように散る
覚悟で望まなければならない。ゆえに私は皆に戦えとは言わない」
 フィリが静かに目を伏せ、微笑んだ。
「それでも私とともに戦う愚か者は一歩前にでなさい、戦わぬ賢き者は一歩
後ろに下がりなさい」
 誰もが動けない、動かない、決めかねている、意思を、己の意思を。
「戦わぬ賢き者には今以上の命の保証をしましょう────────」
 そしてフィリは最後にこう言った。
「戦う愚か者には私が授けましょう────────」




「────────勝利を!」




 次の瞬間、ワッという歓声とともに人々が等しく一歩前へと出た。誰もが
認めたのだ、この新たなる王を。この王についていけばフェイトに抑圧され
た現在ではなく、自由な未来を取り戻すことができると、肌で感じたのだ。

 物凄い歓声とフィリの名を連呼する人々の中心にいるフィリを見やりなが
ら、ジュニアがシニカルな笑みを浮かべた。
「凄いね、別に練習したわけでもないのにあそこまで演説できるなんてね」
「あれが王家の血というものでしょうか」
「まぎれもなく…彼女は王家の血を継いでいるよ」
 エリカの言葉にジュニアが頷き、イアルとティアの方に視線を向けた。
「僕達はどうすべきだと思う?」
「決まっている、フィリが進む道を切り開くのが俺達の仕事だ」
 ジュニアの問いにイアルが即答した。ティアやエリカはその言葉に頷いた。


「では、その戦いに我らも加えていただけないでしょうか?」


 声の主の方を4人が振り向くと───そこには2刀の剣を腰に刺した剣士、
ロイヤルミストが静かに佇んでいた。

 ◆

〜コモドの宿〜

 ロイヤルミストと名乗った男は過去にプロンテラ聖騎士団に勤めていたこ
とがあるとのことだった。エリカがハッとした表情を浮かべた。
「もしかして貴方は数年前に解散したというレベイレブ隊長率いる元第3-1-3
分隊の…!」
 ロイヤルミストが苦笑を浮かべた。やはり自分達がかかわったあの隊解散
事件の事は有名らしい。
「まぁ色々あったんだがそのあたり語るのは勘弁してくれ、あんまり思い出し
たくないことでな。で、話はかわるが──────」

 ロイヤルミストが口にする前にフィリが口を開いた。
「最初の進撃目標は「古の黄金王」オシリスが制圧しているサンダルマン要
塞です。ここの突破兼コモドの安全確保無しには私達は前に進めません」
 ロイヤルミストが口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「陛下…何か言いにくいな、姫様でいいか。姫様、問題が数点ありますが、
提示してもよろしいでしょうか?」
 フィリがコクリと頷くと、ロイヤルミストがバッと大きな地図をテーブルの上
に広げた。
「まず戦力的な問題です。現在俺の昔の仲間にコモド中の戦える者、冒険
者や軍経験者などの隊編成を行わせてはおりますが、数は200弱。対する
「古の眷属」は10万を超える魔物の軍団だと聞いております」
 「古の眷属」、オシリス率いるその眷属は、他の眷属の追随を許さないほ
どの「数」が存在することで有名である。200対10万、勝敗は火を見るよりも
明らかである。
「次に、「古の黄金王」オシリスの存在です。魔軍七大勢力の魔王たるオシリ
スの力は絶大と見ております」
 それはフィリ達も十分にわかっていた。なぜならグラストヘイムですでにオ
シリスの力の片鱗を味わっているからである。レイが戦えない今、魔王と呼
ばれる存在に立ち向かうのは自殺行為に等しい。
「他にも数点ありますが───この2点に比べれば些細な問題です」
 誰もが次のフィリの言葉を待つ。フィリは地図から読める情報やその他の
情報を全て精査し、結論をだした。
「コモドとサンダルマンの間にあるパプチカ森、そこに広がる大湿地帯「ジナ
イ沼」。ここが私達の最初の戦いの場、初陣を飾るべき戦場となります」
 その言葉に誰もが顔を見合わせた。

 ◆

 軍議が終わり、フィリは一人、レイが寝ている部屋へと足を運んだ。部屋の
扉を閉め、一呼吸し、フィリは扉に寄りかかるようにへたり込んだ。

 決意と裏腹に恐怖を感じていた。

 皆を戦わせ、死なせてしまうのではないか。

 その責任、重圧、頭に立つものの苦しみをフィリは感じ始めていた。

 怖い。

 顔を見上げると、レイの横顔が見えた。

 ちょっとだけ心が奮い立った、勇気が湧いた。

 レイはこれほどの重圧をいつも感じながら戦っていたというのか。

 誰かを護るということが、どれほどに難しいことか。

 それでも──────進まねばならぬ道。

 床にへたり込んだままフィリが笑った。

「行ってくるね、レイ」

 フィリはただの恋する少女でいられた自分に別れを告げた。

 ◆

 雨が降り始めている。

 姿を隠しながら進軍するには最適な天候である。と、ロイヤルミストがペコ
ペコに騎乗したフィリの元へとやってきた。
「姫様、全軍総数215名、いつでも進軍できます」
 コクリとフィリは頷くと、全軍に聞こえるよう朗々たる声を───
「行きましょう皆さん、全ての戦いに決着を!」



「──────出陣!」



 215人の勇者達がジナイ沼へ向けて進軍を開始した。

 ◆

サンダルマン要塞───

 「暗殺王」ロウガ=ブラストが静かに眼を開いた。

 その視界にあるは曇天の闇。

「次は俺が相手をしよう──────フィリ=グロリアス」

 ロウガの左手に刻まれた七つの大罪、「ユミルの十字架」───

 「傲慢」の十字架が鈍く輝いた。

 暗殺者の影がジナイ沼の方向へと溶け消える。

 [続]


〜あとがき〜
随分と間があきましたが更新っっっ!
ロイヤルミストはROのNPCに実在します、どこぞのクエストで出会います。
そのクエストやってたら物語に深みがでるかもしれません!
次回予告、ジナイ沼での攻防戦。200対10万の戦いが幕を開けます!


〜登場人物紹介〜
●フィリ=グロリアス(フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ二世)
性別:女
JOB:ハイプリースト
フィリが王家の証である神器「ブリーシンガメン」を手に王に即位。
この新たなる王となった姿。
折れそうな心をレイへの想いだけで支えている。

●ロイヤルミスト=クレバー
性別:男
JOB:二刀剣士(実際には存在しない職業)
元・プロンテラ聖騎士団、第3中隊1小隊3分隊の一員。
ある事件に巻き込まれ、失意のうちにコモドで堕落した生活を送っていた。
新たなる王の意志に同調し、軍のリーダーを一手に引き受けることに。
ちなみに、プロンテラ聖騎士団内にも様々な技能をもった人物がいたらしく、
全員が全員クルセイダーで構成されているわけではなさそうだ。
父親は有名な人物らしい。

●ジャック=オー
性別:男
JOB:クルセイダー
元・プロンテラ聖騎士団、第3中隊1小隊3分隊の一員で
ロイヤルミストの昔の仲間。
ある事件の後、船の定期便の護衛などをやって生計を立てていた。
ロイヤルミストとは仲が最も良い友人だった。

●エマ=シアース
性別:男
JOB:プリースト
元・プロンテラ聖騎士団、第3中隊1小隊3分隊の一員で
ロイヤルミストの昔の仲間。
ある事件の後、国境都市アルデバランで静かな生活を営んでいた。
プロンテラ聖騎士団内で特殊な職業についていた一人。

●ジャン=ファードック
性別:男
JOB:クルセイダー
元・プロンテラ聖騎士団、第3中隊1小隊3分隊の一員で
ロイヤルミストの昔の仲間。
ある事件の後、魔法都市ゲフェンを軸に冒険者として生活を送っていた。

●ナインボール
性別:男
JOB:クルセイダー
元・プロンテラ聖騎士団、第3中隊1小隊3分隊の一員で
ロイヤルミストの昔の仲間。
ある事件の後、常夏の島ジャワイでボディーガードをやっていた。


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