前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

080:生き残れ

 20年前 首都プロンテラ─────

 巨大な地鳴り、天空を染め上げる黒紅魔法陣、人間と魔族の決着戦とも
言える「トリスタンの悪夢」でのプロンテラ攻防戦。後に「七英雄」と呼ばれる
者達はこの戦いを引き起こした魔王、魔軍七大勢力が魔王───

 「闇を統べる者」 ダークロード

 その復活を肌で感じ取った。プロンテラの街中に突如として顕現したダーク
ロードはその圧倒的な力で天より星を堕とし、全てを火の海へと変えていっ
た。ラクールがダークロードの復活の余波で大怪我をし、意識を失ったマリ
アを腕に抱きかかえたまま叫んだ。
「ヴァン!菊丸!いったん退くぞ!」
 戦いのこの段階で生き残っている「七英雄」は4人───

 ロードナイト、ラクール=フレジッド
 スナイパー、マリア=ハロウド
 パラディン、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツV世

 そして、

 ソードマスター、菊丸=クレバー

 アマツよりふらりと現れた菊丸と名乗る剣豪は、ルーンミッドガッツ王国で
次々と冒険者に戦いを挑み、その全てに勝利を収めてきた。彼の持つ剣は
普通の剣ではない。

 紅蓮の炎のごとき真紅の刃を持つ炎の宝剣 「ファイアーブランド」
 蒼氷のごとく透き通った輝きを持つ氷の宝剣 「アイスファルシオン」

 「トリスタンの悪夢」の最中散っていった、ハウゼンやドルガン、シェーラと
は一線を超える位置に立つ実力者だった。彼を死闘の末打ち破ったのは世
界でただ一人、ラクール=フレジッドのみである。その戦いは実力伯仲の名
勝負だったとのもっぱらの噂である。

 いったん退こうとするラクール達をかばうかのように菊丸は立った。

「おい菊丸──」
「行くでござるよ、ここは拙者が食い止める」
 ラクールの言葉を遮るように菊丸が言う。
「待てよ!なら俺も残るぞ!」
 ヴァンの言葉に菊丸が首を横に振った。
「お主はこの国の王でござる。お主なくしてこの国の再建はありえぬ。行け
───必ず拙者もお主達の元に追いつくでござるよ」
 ニコリと菊丸は笑った。ラクールとヴァンが沈鬱な表情を浮かべた。
「それに妻も子もおる身、拙者は死ぬわけにはいかぬよ」
「妻ぁ!?」
「子供!?」
「お前妻帯者かよ!!」
「しかも子持ち!」
 ラクールとヴァンが驚きの表情を浮かべている。
「無事逃げおおせたら詳しく話してあげるでござるよ、ほら行くでござる!」
 ラクールとヴァンは顔を見合わせた後、菊丸に言った。
「「生き残れよ!」」
 菊丸が不敵な笑みを浮かべ頷いた。


 ラクール達が逃げた後、ダークロードの影がゆっくりと近づくのを感じ取っ
た菊丸が2対の宝剣を手に取った。
「さて────楽しませてもらうでござるよ…!」
 瞬間、菊丸が神速の跳躍でダークロードの背後へとまわった。
「ソードマスター、菊丸=クレバー。闇の王よ、謹んでお相手致す」
 ダークロードが瘴気を撒き散らしながら笑った。
「         」
 その瞬間、菊丸を中心に巨大な爆炎球が出現した。いや、菊丸はその移
動力で回避するが、爆炎球の爆散に巻き込まれて吹き飛ばされる。
「ぐがっは…!」
 菊丸が受け身をとり、顔を見上げた瞬間、ダークロードの闇の剣「骸骨杖」
がこちらを両断せんと振り下ろされてきた。
「うっ…おおおおおおおおおおおおおっ!!」
 菊丸は裂帛の気合いで持ってそれを2対の宝剣で受け止めるがかなわ
ず大地へと叩きつけられる。轟音とともにクレーターが広がり、菊丸が口
から血を吐く。強すぎる───足止めすら敵わぬ、最強最悪の魔王。

 「闇を統べる者」 ダークロード

 だが、菊丸は違和感を感じ取っていた。この感じ、前にも感じたことがあ
る。何故だ、何故前に感じたことがある。この違和感は何だ。

 菊丸が力を振り絞り、ダークロードの姿を見上げる。

 そして気付いた、気付いてしまった。

「──────まさか」

 ダークロードが笑う。今頃気付いたのかと。菊丸がその「名」を呼ぶ前に、
ダークロードの魔力が菊丸の身体を押し潰した。地獄の業火が菊丸の身
体を蒸発させ灰燼と帰した。

 かくして菊丸=クレバーは誰も知りえない一つの真実を抱えたまま散り、

 「トリスタンの悪夢」は終盤戦へと移り行く。

 「七英雄」 ソードマスター、菊丸=クレバー

 ロイヤルミスト=クレバーの父である。

 ◆

 ジナイ沼─────

 豪雨が降りしきる中、幻想の島コモドとサンダルマン要塞の間にあるパプ
チカ森の中心部、巨大な大湿地帯の「岸」にイアル達は集結した。ティアが
感嘆の声を上げた。
「うわぁ…底無し沼とかありそうだね…」
「実際あるから無闇につっこまないほうがいいよ」
「う、そうなんだ」
 ジュニアの言葉を聞いたティアが心持ち後退りする。
「冗談を言っている暇もくれなさそうですよ…来ました」
 エリカの言葉に誰もが反対側の「岸」を注視した。そこには───

 不死の魔軍。

 人の肉を喰わせろ

 生への執着に囚われた命の簒奪者達。

 心満ちるまで喰わせろ

 「古の眷属」の全軍にも等しき数が集結していた。

 喰い足りない、喰い足りない!

 200対10万──────

 生命が喰い足りない!!

「戦闘開始だね」

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアア!!

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 グガアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオアア!!


 ジュニアはその言葉とともに、己が手に大鎌「クレセントサイダー」を出現
させた。怒号と咆哮とともに、ジナイ沼を渡って魔軍が侵攻を開始した。
「いいか!「岸」から絶対上げるな!全部沼の中に叩き落せ!」
 イアルが叫び、その合間を縫うように魔物たちが、グールが、マミーが、ベ
リットが、ゼロムが、レクイエムが、アーチャースケルトンが、ソルジャースケ
ルトンが、イシスが、マーターが、マルドゥークが、ミノタウロスが、パサナが
名も知らぬ魔物達が次々とジナイ沼を渡って攻撃を仕掛けてきた。
「スフィアーマイン!3連爆!!」
 ティアが放ったマリンスフィアーが、3連続の爆音とともに魔物を吹き飛ば
す。だが10万の勢いは止まらない、例え1万滅されようとそれは彼らにとって
は痛みにすらならない。ただ数で押し潰し、喰らうのみなのだ。
「グランド───クロス!!」
「ったくうぜぇ!くらいやがれ!「飛竜」!」
 エリカが聖十字の衝撃波で敵を押し潰し、イアルが蹴りからの衝撃波で敵
を吹き飛ばす。勢いは止まらない。「岸」にあがられたら終わりである。
「とにかく!上がってくる!敵を優先的に!潰すんだ!」
 ジュニアが無数の大鎌で敵を切り刻む。敵の勢いは止まらない。だが幸運
にも豪雨に助けられている、土が滑り、岸に上がりづらくなっているのだ。
「ぎゃああああああああ!」
 「岸」から足を滑らせ、沼の中に落ちていった者の悲鳴が響き渡る。ぐちゃ
ぐちゃ
という鈍い音ともにその落ちたものの悲鳴が止まる。
「絶対足を滑らせるな!絶対「岸」にあげるな!信じるんだ!僕達の王を!
フィリ=グロリアスを信じて生き残れ!!」
 皆は信じて勝ち目なき戦いを続ける。

 すでに仲間の半数近くが魔物に喰われていた────

 ◆

 ジナイ沼より南東、パプチカ森林境を駆け抜ける2対のペコペコの姿が
あった。それぞれの搭乗者はフィリ=グロリアスと、ロイヤルミスト=クレ
バー、そして2人の後方から森の人グランが追う。

 3人が目指す先はサンダルマン要塞。

 フィリ達は諦めていない、「古の黄金王」オシリスを倒すことを。

 勝利を得るために、ここを駆けているのだ。

 真っ直ぐとサンダルマン要塞に向かう彼女ら3人はようやくパプチカ森を抜
け、サンダルマン要塞の目と鼻の先までやってきた。だが、彼女らの想いを
踏み躙るかのように、その男はそこにいた。

 ペコペコの足を止め、フィリがその男の名を呼ぶ。
「「暗殺王」…ロウガ=ブラスト!」
 世界最強の暗殺者がフィリ達の前に立ち塞がった─────

「何故…ここに…!」
 ロイヤルミストとグランがペコペコから降り、臨戦態勢をとる。
「10万という数にそのまま挑むはずがない…これが一点」
 ロウガが呟くように言った。
「「ギルド攻城戦」で大多数を倒す方法として、敵の大将の首を取るという
手段をお前達が多用していた…これが一点」
 ロウガから凄まじい殺気があふれ出し、周囲の草花が枯れゆく。
「そして川伝いに移動できるこのルート、ジナイ沼に敵を誘い込み、気付か
れずに移動するならこのルートしかありえない。つまりここを押さえることで
サンダルマンへの奇襲を容易に止められる…これが一点」
 フィリがペコペコから降り、杖をかざす。
「そして───俺自身が───久しぶりに血を欲しているということだ!」

 ダダン!!

 凄まじい音を奏でるステップとともに、ロウガが一瞬で間合いを詰めてく
る。ロイヤルミストとグランがそれを迎え撃つ。

 ガキガキガキィィィィィィン!!

 難なく2人相手に斬り結ぶロウガの視線はフィリ=グロリアスに向けられ
ていた。フィリは隙をつくらず、魔法を唱えない。ロウガは狙っているのだ、
詠唱時間にできる一瞬の隙を。
「フン」

 ド!ガン!!

 ロウガの手元から発生した衝撃波「メテオアサルト」でロイヤルミストとグ
ランの身体が吹き飛ぶ。2人は受け身をとるが追撃の斬衝撃波「ソウルブ
レイカー」を喰らい、大地に叩きつけられた。
「く…何て奴だ」
「同じ暗殺者というのにこうまで違うというのか…」
 呻くロイヤルミストとグランには目もくれず、ロウガがゆっくりとフィリ=グロ
リアスへと歩み寄る。ロウガはフィリの首を掴み、吐き捨てるように言った。
「無策か…?オシリスに単騎で挑もうという気概は認めるが、作戦を立てる
者としては無能か」
「…」
 フィリの眼は…死んでいなかった。ロウガはとうの昔に死んだはずの己の
感情が、背筋が凍るという恐怖の感情を何故か感じた。首をひねるだけ、た
だそれだけでフィリの殺害を完遂でき勝利できるというのに動けない。
「──────EMergency Call 」
 突如、フィリが一言、呟いた。

 ロウガがフィリの首を捻るよりも早く──────

 フィリの首にかかった「神器」ブリーシンガメンが眩い光を発した。

 ◆

 女神フレイヤは己が身を「ヴァルキリー」とし、「ラグナロク」で散っていっ
た。だが、フレイヤ自身はアース神族と対になるヴァン神族の女神なのだ。
(トリスタン三世の名、ヴァンはここからとられている) そのフレイヤが所持
していたという炎の首飾り「ブリーシンガメン」。人々を引き寄せる力を持つと
詠われるその神器は、純粋なる王家の血を持つ者が魔力を流し込むことに
より発動する。その力は空間を越え、己が仲間を己が元に引き寄せる。

 遠く離れた地で戦っている仲間達を────己が元に引き寄せる。

 ルーンミッドガッツ王国に伝わる最秘術────

 フィリは絶望的な状況を覆す為、この初戦に投入した────

 ◆

 光の中より最初に飛び出してきたのはイアルだった。
「ロウ…ガァァァァァァァッァ!!」
 自分の兄の名を叫びながらイアルが短剣を、ロウガのそれに突き立てた。
「砕山!!」

 ぱきぃぃぃん!

「…っ!」
 ロウガは自分の武器があっさりと砕かれたことに驚きの表情を浮かべた。
「砕山」、「皇帝の十字架」ナンバー2、ライジング=ボーンドが得意とした武
器破壊の技。ロウガは思わずバックステップで背後に跳ねた────

 それは隙を狙う者が隙を生み出した瞬間──────

 フィリ=グロリアスの詠唱が完了した。
「ホーリーシャイン!!」

 ゴゥ!!

「っ!」
 光の龍の奔流がロウガを襲った。ロウガは超反応でそれを回避、爆発的
なエネルギーの爆発から一瞬で撤退していった。 

 ◆

 ジナイ沼で生き残った者達が光の中から現れた。

 その数は94名。

 半数以上がジナイ沼で命を落とし、仲間にその想いを託した。

 フィリ達3人を加え97名───────

 目の前にそびえるサンダルマン要塞を攻略する。

「犠牲者も多かったけど、初戦は勝利だね…。ブリーシンガメンで他の街に
いる仲間も来ないかと思ったけど甘いか…、世界の空間は「ラグナロク」で
歪んでるしね…」
 ジュニアが疲れた声色で呟いた。ジナイ沼は豪雨の際、土石流が定期的
に流れ込むことによって形成されている。今頃はジナイ沼に侵攻した「古の
眷属」は土石流に飲み込まれていることだろう。さらに、一説には沼の守護
者たる堕竜が存在するとも言われている。堕竜は侵入者たる魔物を許さな
いだろう。だがそれでも生き残った魔物はサンダルマン要塞に一気に引き
返してくるはずだ。

 「古の眷属」はオシリスの魔力で動いている。

 魔軍がサンダルマン要塞に戻るのが早いか──────

 フィリ達がオシリスを倒すのが早いか──────

 サンダルマン要塞にはオシリスが残した精鋭が蠢いているだろう。

 首都より派遣されたウェルガ=サタニックとロウガ=ブラストもいるだろう。

 そして「古の黄金王」オシリスが待ち受けているだろう。

 生き残った97名の決戦がはじまろうとしていた──────

 [続]


〜あとがき〜
「Ocean's Blue」にはしばしば大別して3つの過去が挿入されます。
 一つは神々が存在した北欧神話時代の話。
 一つはルーンミッドガッツ王国の建国王時代の話。
 一つは「トリスタンの悪夢」が起こった20年前、ラクール達の時代の話。
過去からの因縁が収束して現在の話に至ってます。それぞれのキャラが
辿ってきた過去が今を作っています。そのせいで伏線多すぎ俺泣いた。
次回予告、サンダルマン要塞での決戦!ウェルガが、ロウガが、
次々と攻撃を仕掛けてきます。そしてついにオシリスが姿を現すっっっっ!


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット